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それぞれの「自分の」アートプロジェクト

2024.03.29

それぞれの「自分の」アートプロジェクトの写真

2011年以降に生まれたアートプロジェクトと、それらを取り巻く社会状況を振り返りながら、これからの時代に応答するアートプロジェクトのかたちを考えるシリーズ「新たな航路を切り開く」では、P3 art and environment統括ディレクターの芹沢高志さんをナビゲーターとして、この10年間の動きを俯瞰する映像プログラムや年表制作のほか、ゼミ形式の演習を実施しています。

演習「自分のアートプロジェクトをつくる」は、アートプロジェクトを立ち上げたい方やディレクションに関心のある方を対象とするもので、2023年度は9月末から翌年1月末までの約4ヶ月にわたって実施しました。

この演習の様子を、3つの記事でレポートします。

ゲスト回や中間発表、ディスカッションの時間を通じて、自分の課題意識や問いを深めながら、「自分のアートプロジェクト」をブラッシュアップしていった受講生たち。活動を想定している現地への訪問など具体的なリサーチを進めていく人もいれば、試行錯誤しながらプロトタイプの映像を制作する人がいたり、また受講生同士で興味関心や自身のテーマに近い活動や場所へヒアリングに行ったりと、演習が進むにつれて一歩一歩探りながら前進していく姿が印象的でした。最終発表では、それぞれの具体的なアートプロジェクトの企画構想が発表されました。講評では、ナビゲーターからだけでなく受講生からもフィードバックや新たな視点やアイデアを共有する時間となりました。

最終発表では、受講生が自分のアートプロジェクトについてプレゼンし、講評と質疑応答の時間をもった。
ナビゲーターや講評ゲスト、受講生からもさまざまな質問が出て議論が深まってゆく。

演習を終えた受講生からは、「自分自身のアートへの向き合い方が更新された」「自分の思いと思考と表現がはじめて重なり、何を大切にしたいかはっきりと掴めた」「それぞれのアプローチは異なるけれど、自分のアートプロジェクトをつくるという同じ志を持つ人々との出会いが心強かった」「企画を実現していけるよう具体的に動いていきたい」などの前向きな声が寄せられました。

最後に、ナビゲーターの芹沢高志さんが、演習を振り返りながら、あらためて受講生のみなさんに寄せられたメッセージをご紹介します。

2023年度「演習|自分のアートプロジェクトをつくる」を終えて

2024年1月27日、28日の両日に渡って最終発表を行い、「新たな航路を切り開く」の2023年度「演習|自分のアートプロジェクトをつくる」、全工程を無事終えることができました。計画の熟度はさまざまですが、受講生の皆さんおひとりおひとりが、たしかに、自分のアートプロジェクトを自分の言葉で、共に学んだみんなや運営スタッフの目の前で発表してくれて、ナビゲーターとして言葉にならないほどの喜びと満足を覚えたものです。

自分の言葉で自分のアートプロジェクトを語る。簡単そうに聞こえるけれど、外から与えられた問題に急いで「正解」を求められていきがちな今日、それは容易なことではないし、勇気のいることでもあります。自分は何を求めているのか?少し立ち止まり、あらためて自分自身に問い直す。この演習はそんな時間を用意したいと願って実行されました。最終発表はもちろん「他者」への発表なわけだけれど、まずもって自分自身への発表になっていたはずです。そして皆さんがそれに真摯に立ち向かっていかれた姿を拝見し、ナビゲーターとして深い喜びを感じていったわけです。

はじめはアートプロジェクトと聞いて、何か大きい、大義のあるものを構想しなければならないと思われていたかもしれませんが、その誤解はすぐにも解けていきました。自分のアートプロジェクトをつくるということは、自分自身のモチベーションを発見し、確認していく過程でもあると思います。そしてそのモチベーションを深く実感しておけば、これから実現に向けて降りかかってくるだろう多くの困難に対しても、立ち向かっていく勇気、退かない勇気が生まれていくはずです。これがこの演習の目的と言ってもよかったと思います。

この演習と並行して、私は「さいたま国際芸術祭2023」のプロデューサーを務めていました。ディレクターは現代アートチーム 目[mé]でしたが、彼らが掲げたテーマは「わたしたち」というものでした。「わたしたち」という言い方は難しいものではないし、よく使われる言葉です。しかし「わたしたち」と言われた時、そこに「わたし」は入れてもらっているのかと、疑問に思うことも増えてきました。現代アートチーム 目[mé]は、あえて今、この「わたしたち」とは何なのか、問いただしてみようと考えたのです。それぞれ違った「わたし」がいます。そんなことは当たり前なわけだけれど、標語としての多様性とかダイバーシティが蔓延していくなかで、他人のことはとやかく言うなという風潮も生まれてきているようにも思います。こんな時は一度「わたし」に立ち戻り、そこからあらためて「わたしたち」とは何なのか、捉え直してみる必要があるでしょう。

初めから「わたしたち」から始めてしまうとおかしなことになりかねません。「わたし」から始めて「わたしたち」とは何なのか、もう一度考え直して行かねばならない。現代とは、そんな時期だと思うのです。そしてもう一度「わたし」に戻るためには、アートは最も適切な手段です。

「自分」の「アートプロジェクト」、しかしそれが独りよがりなものにならず、なるべく多くの他の「わたし」、他者たちも、自分のアートプロジェクトだと実感できるような、琴線に触れるものに育てていくことが重要なのではないでしょうか?そしてそのような姿勢が、今求められている「コモン」という意識の形成につながっていくのではないのかと考えるのです。だからこの演習は、そんな姿勢のレッスンでもあったと思うのです。

受講生の皆さん、そして支えてくれた運営チームの皆さん、本当にありがとうございました。

芹沢高志

2023年9月から約4ヶ月にわたって、自分自身の足元をじっくりと見つめ直し、「自分のアートプロジェクト」への一歩を踏み出した受講生のみなさん。これからの活動を、期待しています。

撮影:齋藤彰英

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