共通: 年度: 2019
誰と暮らす? どう住まう? これからの「家族」のカタチを考える
住まいの空間や暮らしの仕組みをデザインして、家族を「ひらく」
月日を重ねるごとに、家族と「わたし」の関係性も、生じる問題も変わります。さらに家族を取り巻く社会すらも刻一刻と変わっていくなかで、自分たちなりの「家族のカタチ」を探ろうとするとき、どのような家のあり方や地域コミュニティとのかかわり方があるでしょうか。
あらためて「家族」を「一つの共同体」として捉え直そうとすることで、多くの人にとって自分ごとになっていく(あるいは、なっている)育児や介護に、例えば、家族のなかに「他者」を介入させるような、新しい視点を得られるのではないかと考えています。
今回のゲストは、自らの家族に生じた育児・介護の課題から端を発し、兵庫県新長田で介護サービス付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」を運営する首藤義敬さん。そして、人々がゆるやかにつながる空間づくりを手がけ、プライベートでもその視点をいかして家族関係を編み直しているいわさわたかしさんです。「家族のカタチ」という、答えのない状況に向き合うお二人の思考と実践について、アートプロジェクトにおけるコミュニティや拠点形成のあり方と重ねながら話を伺います。
詳細
会場
ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])
参加費
無料
どこまでが「公」? どこまでが「私」? まちを使い、楽しむ暮らしをつくる
建築やグラフィティの視点から、都市空間の「公私」の境界線を探る
アートプロジェクトはまちなかで行うことが多いため、「公共性」について考えさせられる場面に遭遇することがあります。日常生活のなかで「公」的な場所と「私」的な場所は、対比関係にあるものとして捉えがちです。しかし、「公=みんなのもの/場所」として捉えることで、「公」を一人ひとりの「私」が重なり合い、立ち上がっていくものとして考えることができるのではないでしょうか。
今回のゲストは、まちでの一人ひとりの行動や視点に変化を促すことで、都市の印象や公共空間に対する気づきにつなげるユニットmi-ri meter(アーティスト/建築家)と、ブラジルのグラフィテイロに関するフィールドワークを通じて「まちは誰のもの?」という問いをもち、文化人類学的アプローチから「公共性」を考える活動を行なっている阿部航太さん(デザイナー/文化人類学専攻)です。この2組に「公」と「私」との関係性について、それぞれの実践やリサーチについてお伺いします。
「公」と「私」の境界線とは何か。また、公共的な空間と自分との間に、居心地のよい距離感をつくるために必要な思考や身体性とは、どのようなものでしょうか。ゲストの思考と実践から、そのヒントを探ります。
詳細
会場
ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])
参加費
無料
横堀ふみ
佐藤洋一
mi-ri meter(宮口明子+笠置秀紀)
孫大輔
打って出る/NPOの届けかた・つなぎかた
ジムジム会とは、「事務局による事務局のためのジムのような勉強会」のこと。2019年度は「届けかた・つなぎかたの筋トレ」をテーマに掲げ、アートプロジェクトの運営にまつわる考えかたや方法を共催団体と身につけていきます。今回も“ジムジム会の事務局”であるきてん企画室がレポートをお届けします!(前回のレポートはこちら)
■ゲスト:入谷佐知さん(認定NPO法人D×P)
第3回のテーマは、「打って出る/NPOの届けかた・つなぎかた」。ここでの「打って出る」とは、戦略的に届けたり、相手とつながること。その実践者として、認定NPO法人D×P(ディーピー)(以下、「D×P」)の入谷佐知さんをゲストにお迎えしました。
D×Pは一人ひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会を目指しています。これまで関わった生徒数は約4,000名。不登校経験・中退経験、経済的困難などの「生きづらさ」を抱えた10代が多く集まる通信制・定時制高校で、「人とのつながり」をつくったり、進路や就職に関するサポート、「いきるシゴト」を一緒に考える取り組みをしています。
■ 「共感」で集まる寄付とは? NPOの戦略広報・ファンドレイジングを学ぶ
NPO経営におけるD×Pの特徴は、財源の半分以上を寄付収入で構成していること。2018年度の全体収入約8,000万円のうち寄付収入が5,533万円。マンスリーサポーターと呼ばれる定額寄付会員は600名以上。また高校生と対話するボランティアも常時募集しており、現在約400名が登録、その多くがアクティブに活動しています。
公益事業を手掛ける非営利法人にとって、寄付やボランティアの存在は大きな推進力。なぜなら、財源だけの問題ではなく、団体の活動方針や社会的な理念に「共感」してくれる証でもあるからです。目指すべき方向性を明確に打ち出し、きちんと成果を報告し、ステークホルダー一人ひとりと丁寧なコミュニケーションをとれてこそ集まる「共感」のかたち。D×Pのコミュニケーションやファンドレイジングは、いったいどのような考えかたで運営されているのでしょうか?
東京アートポイント計画の参加団体も、多くはNPO法人や一般社団法人などの非営利型組織です。アートプロジェクトや表現をめぐる活動を通して、どのように人と関わり、社会における価値創造につながっていくことができるか。そのヒントを学ぶべく、今回は入谷さんにたっぷりお話を伺いました。
◼︎組織にまつわる思い出のすべてが広報につながる
そんなD×Pの広報・ファンドレイジング部兼経理管理部の部長である入谷さんは、インターン生も含めた仲間に、「広報・ファンドレイジング部は、一方的に伝えるのではなく、双方向のコミュニケーションでD×Pと仲良くなる人をつくるチームです」と伝えているそう。
また入谷さんは、「D×Pにまつわる思い出のすべてで、D×Pは記憶される」と言います。
「広報とは何かを偽ったり取り繕うものではなく、ここにいるスタッフ全員がD×Pをかたちづくるもの。いくら言葉で示しても、実態が伴っていないと意味がない。だから、事務所の雰囲気づくりから日々のコミュニケーションまで、すべてを大切にする必要があるんです。たくさんの方に応援していただくには、地道な実践が欠かせないと思っています」。
◼︎一番多い寄付理由は「お願いされたから」
寄付集めを始めた当初、「どれだけ支援対象がしんどいか、大変かを伝えなければ財布の紐なんて緩むはずがない。身を切られるような思いをさせてこそ、 寄付集めの担当者なんだよ」と知人に言われた入谷さんは、2013年度の活動報告書をシリアスなトーンで制作しました。しかし、「高校生の“かわいそう”を売っていることになるんじゃないか」ともやもやし、次年度からは明るいトーンにデザインを変更。(※最新号、2018年度の報告書ページはこちら)
実際、D×Pの寄付者にヒアリングしたところ、「高校生がかわいそう」と思って寄付した人は少ないことがわかりました。ビジョンへの共感や、寄付をすることへの充足感など理由はさまざま。「知人に寄付をお願いされたから」という理由も多いそうです。
入谷さんも、新しく出会った人や、D×Pについて話した知人に向け、「よかったら寄付をお願いします。断っていただいても大丈夫です」と、声がけすることを心がけているそう。このときのポイントは、寄付を断っても相手との関係性が変わらないように一言添えること。
そして、事業がうまく進んでいなかったり、組織体制が揺らいでいるときには「寄付して」とは言いづらいもの。明るく胸を張って寄付のお願いをするためには、広報だけでなく、実態が伴っていることが大事だと強調されました。
型にとらわれることなく、目の前の人たちの声に耳を傾け、直接対話することで新たな活動につなげる。まさに広報コミュニケーションの基本のきを教わるようなレクチャーでした。
◼︎ワーク:機会損失を洗い出す「ステークホルダー分析」
前半のレクチャーを受け、後半では、ステークホルダー分析図を書くワークを実施。
D×Pでも、組織の周囲にどんな人がどのくらいいるのかを図に書き出すところから広報活動の見直しを行ったと言います。ステークホルダーを洗い出すことは、機会損失に気づき、新たな施策を考えるヒントになります。
◼︎ディスカッション:寄付で関係は変わる?
ジムジム会の最後は、質疑応答とディスカッションの時間です。クラウドファンディングに取り組んでいた団体からは、「『寄付をしなくても関係が変わらないように』とおっしゃってましたが、寄付をしたことで関係性は変わると思いますか」との質問が。
入谷さんは、「変わると思っていますし、変えかたをデザインできるとも思っています。初期は寄付した方に対して『ありがとうございます、ありがとうございます』と何度も頭を下げるような気持ちでしたが、最近では『D×Pのコミュニティにようこそ!』とお出迎えするようなコミュニケーションしています」
D×Pに寄付したことがあるという参加者が、「寄付をしてすぐに報告書が届いたことに驚きました」とコメントすると、「すぐに気持ちは冷めるし、寄付したこと自体忘れてしまうので、D×Pをいかに思い出していただけるかを大事にしています」と話されました。オンライン上で寄付が入金されると、すぐにメール返信、SNSグループへの招待、報告書送付ができるようにしているそう。
また「マンスリーサポーターの月の退会人数やその理由を教えてください」という質問については、「退会者は月1〜3名で、お子さんの進学や退職など、生活の変化のタイミングで寄付をやめられるかたが多い」とのこと。一人ひとりの退会理由もしっかりヒアリングして、たとえネガティブな理由であっても真摯に受け止め、丁寧に対応されているそうです。
終了後のアンケートには、さまざまな刺激を受けた参加者の言葉が。
寄付についてのお話でどんな内容なのかはじめは想像できていなかったが、団体を運営していく上でのビジョンや考えかた、運営方法など、とても参考になりおもしろかったです。活動を理解してもらうためにはやはり何を大切にするのかはっきりさせることがとても重要だと思いました。
内外の関係者との関係づくりをとても細やかに丁寧に設計し実践されているのが印象に残りました。
ステークホルダー分析は、頭のなかでの常にステークホルダーを思いうかべてやっている“つもり”でも、書き出してみるとやっぱりちがいますね!見える化されてスッキリしました
「事業(イベント)」への寄付は集まるが、団体に対してではないので、団体の全体の活動に対してもらえるようにしたい
参考にしたい! すごい! わかりやすい!たしかに!と思うことが多い反面、すごすぎて自分の事業に合わせて何を生かしていくかはゆっくり考えたいと思いました。
次回のジムジム会のテーマは、「手段を選ぶ/SNSのつかいかた・つづけかた」。2020年も事務局のトレーニングはつづきます。よいお年を!
残すことは、難しい。ウェブで「タイムカプセル」を立ち上げるまでの試行錯誤|「東京プロジェクトスタディ アーカイブサイト」制作振り返り座談会(前編)
大切な瞬間が、言葉が、流れてしまう。プロセスを重視するアートプロジェクトにおいて、「記録/アーカイブ」は常に悩ましいテーマです。アーツカウンシル東京の人材育成事業「Tokyo Art Research Lab(TARL)」でも、これまでに記録に関するさまざまな試みを重ねてきました。
その一環で2019年6月に公開された「東京プロジェクトスタディ アーカイブサイト」は、「東京プロジェクトスタディ」の取り組みを残すために制作したウェブサイトです。
創作の現場に伴走するアーカイブとは、どのようにあるべきなのか。どのような形で残せば、記録として役立つのか。アーカイブサイト構築を手掛けた、5名のクリエイターとアーツカウンシル東京の担当者と共に、試行錯誤に満ちた制作過程を振り返りました。
■最終的なアウトプットが見えないプログラムだからこそ、アーカイブサイトが必要
アーツカウンシル東京 坂本有理(以下、坂本):「東京プロジェクトスタディ」は、15~20名規模のチームごとにアートプロジェクトの核をつくるための「スタディ」(勉強、調査、研究、試作)を重ねていく試みです。2018年度は5つのスタディを展開しました。実際に参加できる人数は限られているけれど、公的な文化事業としては、多くの方がこの試みから生まれたものにアクセスできるような道はつくりたい。
そういう意図で、TARLでは情報発信やアーカイブを重視しています。まず東京プロジェクトスタディをどのように残すかを考えました。スタディは、チームごとに初期テーマだけが設定されていて、進め方もやりながら考えるという点が特徴的です。最終的なアウトプットがどんな形になるか分からないんです。なので、冊子やドキュメントブックのような、かっちりまとまった形のアーカイブではなく、更新性や動きのある感じが欲しかった。また、この東京において多種多様な試みが展開されているという状態を可視化したかったんです。
それで、ウェブサイトとして残すのが良いのではと考え、今回の「東京プロジェクトスタディ アーカイブサイト」をみなさんとつくることになりました。
坂本:プロジェクトチームはウェブチーム3名と編集チーム2名。そのなかでも最初にお声がけしたのが、ウェブディレクターの萩原俊矢さんでした。萩原さんには、Tokyo Art Research Labの研究・開発プログラム「旅するリサーチ・ラボラトリー」のウェブサイトを手掛けていただいたことがあって、考え方、つくり方がとても面白かったんです。
ウェブディレクション/プログラミング担当 萩原俊矢(以下、萩原):お声がけいただいたのは、2018年9月のことでしたね。僕はちょうど、福井県の「XSTUDIO」という取り組みにスタジオリーダーとして関わっていて。都市部の若者たちが福井県に集まって、地元の企業とコラボレーションして新しいプロジェクトをつくるプログラムなんですが、その事業と東京プロジェクトスタディがシンクロする部分があるんじゃないかなと思って。プログラムとしても面白そうだし、それをどう残していくのかというテーマも面白そうだなと考えました。
■記録用ツールの導入がうまくいかなかった理由
萩原:それで最初は、記録を残すためのツールとして XSTUDIOでも使っている「Scrapbox」の導入をお勧めしました。みんなでつくるWikipediaみたいな仕組みで、グループ内に自由にページをつくれて、かつそのページにタグ付けもできるサービス。写真も入れられるし、動画サービスなども貼れるし、情報を横断して見られる。ページに「発見」というタグを付けておけば、全メンバーの「発見」リストが見られたりするなど、結構面白いツールです。
それが導入できたら、各スタディ分全部のデータが揃って、そのままウェブサイトにできるかなと思ったんです。気付いたことが時系列でずらっと並んでいたり、一方ではタグによって横断してスタディの状態を見られたりする、リゾーム構造(※)的で直感的なサイトができるかも、と。
※リゾーム(地下茎)構造:整然としたツリー構造ではなく、横断的に錯綜したネットワーク型の構造のこと
坂本:そう、初回の打ち合わせで、XSTUDIOでのScrapbox活用例も見せていただいて、すごくいいなと思いました。直後に東京プロジェクトスタディの各スタディが集まる合同会があったので、さっそくツールを導入してみたのですが……まったくうまくいかなかったんですよね、これが。使い方もレクチャーし、スタディに伴走するアーツカウンシル東京のスタッフ「スタディマネージャー」(以下、「スタマネ」)にも協力してもらったのですが、全然使われなくて。
アーカイブって、やる動機がないと実現しないというか。記録をそういった形で残したいと望んでいるのは、企画運営している私たち、アーツカウンシル東京チームなんですよね。いかに記録用の仕組みを用意しても、当然ながらそこにモチベーションがないと参加者は使ってくれません。そういうことに興味を持ってくれる人がいるんじゃないかなと、ちょっと期待はしていたんですが……。
萩原:僕らが、参加者に向けて、記録の意義や面白さを共有しきれなかったことも原因かなと思います。メモはわざわざ他人に見せるのではなく、自分のノートに書きたいという人がたくさんいるのは当たり前。実際、XSTUDIOの場合は、かなり時間をかけて導入してもらいました。みんなに面白いと思ってもらえるまで、ひたすら自分でScrapboxを使い続けました。
坂本:そういう役割の人が、専任でいないと無理でしたね。私たちも盛り上げ方が分かっていなくて、面白さみたいなものも伝えられなくて。東京プロジェクトスタディの参加者は、スタディのテーマと向き合いたくて、それに時間を使いたい人たち。それでScrapboxの導入は2カ月ぐらいで諦めました。
■大事な断片が流れていく。「主観的情報」と「客観的情報」をいかに残すか
萩原:ただ、スタディごとに動画や音声、写真、議事録などの基本的なデータは残っていると伺っていたので、参加者と共にツールで共有することは諦めたけれど、ひとまずそのまま記録を溜めていくことにしたんですよね。後半、編集をしっかり入れていく必要はあるだろうな、と思いつつ。
そんなことを考えながら、初めてスタディの現場を見学させてもらったのが11月のことでした。見ていると、車座になり、ゲストも交えて話すなかで、やっぱりみんな一生懸命メモを取っているんですよね。ここにいっぱい気付きとかがあるんだろうなと思って、こういうのがちゃんと可視化されて、つながっていくと本当は情報としてすごく面白いだろうなと思いました。
この一人ひとりのメモをなんとか残したい。メモのような「主観的な情報」と、映像や文字起こしを再編集したテキストのような「客観的な情報」の双方があることをこの時点で意識しはじめました。
ウェブサイトデザイン担当 井山桂一(以下、井山):見学した後、「大切な断片が流れていく、どうしよう!」という話を萩原さんと僕でしましたね。しかもスタディ自体はどんどん進んでいて、その時点で3回目ぐらい。もう始めには戻れない。今ある素材でなんとかするしかない、と。でも同時に、いったい誰が今ある素材の文字起こしや編集をするんだろう?というのも問題で。
■メモは参加者のプライベート。 スタディマネージャーでも集めるのが難しかった
坂本:その時点ではまだ、編集のお二人にお声がけできてなかったですもんね。本来は最初に声がけしないといけないんですが、ボリュームや落としどころが見えなくて。あと東京プロジェクトスタディそのものが初年度で手探りだったので運営だけで手一杯で……。
それで、ひとまず手書きのメモとかを逃してはならないと、各スタディに伴走するスタマネにウェブサイトのためにそういった記録の収集に協力してほしいと伝えました。とはいえ、やはり運営に追われて、なかなか残す余裕がない。あと、参加者との関係性から遠慮したりもして。ということで、それもあまりうまくはいかなかった。
当たり前ですけれど、参加者のメモはプライベートなものだったりするから、その場で「写真を撮らせてください」とは言いづらい。こちらとしては、いい素材なんだけれども、どうアーカイブ化するかは、本当に悩ましかった。
結局、解決の糸口が見つかるというわけではなく、やはり動画、音声、写真を残しておくぐらい。ただ、スタディによって、丁寧な議事録だったり、手書きのメモのようなものがあったりして、各スタディの特徴を感じられそうなものが集まってきました。そうして、遅ればせながら編集として川村さんに声をかけたのが2018年12月のことですね。
■外側から見る編集と、内側から見る編集の両方が大切
坂本:そもそもアーカイブは、過去には遡れず、現在からでないと始められないもの。だから川村さんには最初、「もっと早く声がけしてほしかった」と言われました。
編集担当 川村庸子(以下、川村):そうでしたね(笑)。編集者を入れるなら、ものごとが始まる前から声をかけてもらうのが理想ですから。ひとまずそのときにあった素材を見せてもらって、編集パートナーとして高橋さんに声をかけることにしました。
私の場合は、もともと友人たちがスタディ4のナビゲーターをしていたので、2018年10月に一度現場を見に行っていて、これはスタディごとにまったく異なる動きなんだろうなという体感があったんです。だとしたら、全体を俯瞰することも大事だけど、それぞれのスタディの細部が見えている人がいないと、乱暴な編集になってしまう。
そこで、編集やライティングの技術だけじゃなくて、身体的に活動を理解してくれる人と組みたかったんです。高橋さんの場合は、もともと友人だったし、プロジェクトという運動量のある出来事のレポートを書くのがうまい方だなと思ってみていました。何より、すでにスタディ4の記録メンバーでもあった。彼となら一緒に編集しながら外側から引いて見たり、内側から見たりという行き来ができるんじゃないかと思ったんです。
編集担当 高橋創一(以下、高橋):年末に電話がかかってきたのを覚えていますよ。私が記録と編集担当で参加していたスタディ4では、毎回「ラボ通信」という前回の活動を振り返るペーパーをつくっていたんです。だけど、他のスタディが何をやっているのかは全然知らなかった。そこで川村さんと各スタディの見学に行くところから始めました。
■スタディを“邪魔しない”アーカイブサイトにしたかった
川村:この時期は、「東京プロジェクトスタディ全体の報告会をどうするか」が話題でしたね。締めに入っているというか。印象的だったのは、スタディ2の見学に行ったときのことです。
喧々諤々の議論が行われていて。そのなかで「正直、報告会は余計だよね」みたいな話も出ているわけですよ。「こんなに頻繁に集まって、家に帰って文章を書いたり、メールでもやりとりしているなかで、それをわざわざ外の人のために形を整えて発表する必要があるんだろうか。本筋から外れちゃうよね」みたいな話をしていて。その感覚は真っ当だし、私も、同じことを感じました。
そこでさらに「アーカイブサイトをつくります。これをやってください、あれをやってください」とお願いするのは違うなと。何かものをつくるときは、その組織やプロジェクトに対して制作物がどのように作用するかを考えます。東京プロジェクトスタディの場合は、こんなに現場が充実しているんだから、アーカイブが活動の邪魔をしないことが大事。すでにあるものは何か、それをどのように編集したら中の人、外の人、両者にとって機能するのかを考えはじめました。
■スタディごとの感触、しゃべり方、姿勢、バラバラな感じを確かめる
高橋:それと私たちは、現場をたくさん見学して、スタディごとの「感触」を確かめてまわりましたね。見ていたのは、しゃべり方とか姿勢みたいなものです。スタディの活動ってものすごく生々しいので、単純に、第三者の目に触れるよう、左の箱から右の箱に情報を移すということは、難しいんじゃないのかなと。
川村:たとえばスタディ2は、ディスカッションというよりも「チャット」。LINEでは短文でテンポよくやりとりしていて、集まると、円になりながら全員でだらだらしゃべっている。そして急に「あのさ」みたいな感じで、ポーンと話が飛んで、そこから次のヒントが見えたりする。あの部室での会話っぽい雰囲気がすごくいいなと思いました。そういう空気感をどう残すかが課題で。
スタディ5の場合は、いろいろなワークはあるものの、何かを議論や表現しているというよりは、おいしいものを食べながら一緒に時間を過ごして、ときおり言葉を交わし合う。みんな寝転がったり、絵を描いたりしていて、一見話を聞いていないようにも見えるけれど、それぞれが自分に合った方法で思索している。あまりにもどのスタディもバラバラで、アーカイブの形式を揃えるのは難しいなと理解しました。
■「数年後に機能するタイムカプセル」を目指す
坂本:そうやってそれぞれにリサーチや構想を重ねてもらいつつ、ウェブチームと編集チームの双方が顔合わせをしたのが2019年2月の初頭。その後、ミーティングを重ね、チーム全体の目指す方針として、川村さんが基本的な考え方として提案してくださった方針が「タイムカプセル」でした。
川村:東日本大震災以降、SNSがインフラ的な役割になってきて、ウェブサイトの位置付けが大きく変わったと思うんですよ。それまで特徴とされてきた即時性/更新性はSNSが担うようになり、アーカイブ性が高まってきている。では、東京プロジェクトスタディではどのような軸で、何をアーカイブしていくのか。
そこで、参加者にとって、数年後に当時のことを思い出せるタイムカプセルのようなウェブサイトがあったらいいなと。活動の足取りが残せれば、当事者はもちろんのこと、第三者が見たときに「つくるヒント」として価値が発生するかもしれない。現在や来年というよりは、2~5年後ぐらいに機能する素材庫のようなイメージでした。
萩原:このアイデアが出てきたときのことは、よく覚えています。ウェブチーム的にも、もともと考えていたことにも近くて、違和感がなくて。
坂本:とにかく、メモなども含めていろいろぼこぼこ詰め込もうという話は、編集チームが参加する前段でもしていましたからね。
川村:私たちが参加する手前の議論は知らなかったんですが、先ほどみなさんのお話を聞いて、結果的に同じ方向を見ていたんだなと思いました。
リサーチやディスカッションをじっくり重ね、「スタディをスタディらしく残すこと」を考え続けた制作チーム。半年近い構想期間を経て、いよいよサイトづくりにとりかかります。後編では、アーカイブサイトの具体的なつくり方とその設計思想、プロセスについてメンバーが振り返ります。
>東京プロジェクトスタディについてはこちら
>東京プロジェクトスタディ アーカイブサイトはこちら
(撮影:加藤甫)
ウェブでしかできない「過剰」なアプローチも大切に。編集とデザインで施した工夫。|「東京プロジェクトスタディ アーカイブサイト」制作振り返り座談会(後編)
大切な瞬間が、言葉が、流れてしまう。プロセスを重視するアートプロジェクトにおいて、「記録/アーカイブ」は常に悩ましいテーマです。アーツカウンシル東京の人材育成事業「Tokyo Art Research Lab(TARL)」でも、これまでに記録に関するさまざまな試みを重ねてきました。
その一環で2019年6月に公開された「東京プロジェクトスタディ アーカイブサイト」は、「東京プロジェクトスタディ」の取り組みを残すために制作したウェブサイトです。
創作の現場に伴走するアーカイブとは、どのようにあるべきなのか。どのような形で残せば、記録として役立つのか。アーカイブサイト構築を手掛けた、5名のクリエイターとアーツカウンシル東京の担当者と共に、試行錯誤に満ちた制作過程を振り返りました。
前編では、東京プロジェクトスタディというプログラムの独特の進み方と、その記録の難しさ、試行錯誤に触れました。そして辿り着いた「タイムカプセル」という方針。ここからは具体的にアーカイブサイト構築の考え方、つくり方に触れていきます。
■サイトのレイヤーを分けることで、よそ行きの顔と、個人的なことを安心して残せる場所を設計
坂本:2019年2月に東京プロジェクトスタディの1期目が一度完結して、3月からいよいよ具体的にアーカイブサイト制作がはじまりました。議論のなかで、萩原さんの過去事例を参考にしたりしましたね。
萩原:ひとつは、NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で2012年に開催された展覧会「インターネット アート これから」のトークアーカイブの考え方ですよね。あの企画では、トークイベントの議事録をほぼ編集せずに、そのまま掲載しました。そうすれば、それこそ何年後かに誰かが引用したり、リファレンスができるかもしれない。だから、とにかく残すという方針に賛成だ、みたいな話をチームでしましたよね。
坂本:同じく萩原さんが手掛けられた「蔦屋書店のおみやげ」サイトの構造なども、参考にしました。突き進みたかったら、どんどん深く潜っていける情報サイト。そういうレイヤーを分ける考え方を採用しました。
川村:今回のアーカイブサイトで、レイヤーは一番の肝だなと思っていました。些末なやりとりとか、ちょっとした気付き、感情の動きなんかを人に見られるのって、恥ずかしいじゃないですか。ほかの人から見たら宝物だったりするんだけれど。そういったテキストや資料を安全に残してあげたいと思ったときに、レイヤーを潜っていくようなサイト構造が良かったんです。
アーカイブサイトを家に例えると、タイムラインがリビング。いろいろな人が出入りするところ。ダイジェストで「いつ、何があったか」が見られる。そして、開催日ごとの記事は個人の部屋のような場所で、ちょっとプライベートなものが載っている感じ。文体がバラバラな個人の記名記事があって、手づくりの資料やメールもごそっと保管されている。だから関心のある人はどんどん奥に進めるけれど、その手前にはひとつドアを挟んで、ノックは必要にする構造というか。
萩原:いい表現ですね。
■個人の資料はできるだけ生々しく。最低限の編集で工夫する
川村:全体像を把握したい人にきちんと情報提供をしつつ、書いた人の私的な感情を守る。それを同時に成立させたのは、このアーカイブサイトの一番の特徴かなと思っています。実は、あのトップのタイムラインにだけ、表記ルールもつくりました。そしてよく見ていくと、なかの記事は結構雑多なんですよ。
高橋:そう、個人に紐づく資料は最低限しか編集していません。なるべく手を入れないようにしました。タイトルとかフォーマットの整理だけして、生々しさとか空気感とか、そういうのをなるべくそのまま缶に詰めて保存するようにしたかったんです。スタディ内で交わされたメールなんかも格納しました。メールのやりとりのなかで交わされている言葉が、後の活動に効いてきたりするので大切な資料だと考えて。
井山:実際のメールを掲載したのは斬新でしたよね。サイト上での見え方も、メールっぽいデザインにちゃんと仕上げました。なるべく生っぽく。
坂本:多種多様な資料や記録を載せようと決めたからこそ、生っぽく残すことと編集の手が入るバランスはとても気を遣いましたね。今回のアーカイブサイトでは、一般的なウェブサイトよりも、「どんな素材があるか」から生み出された特殊なデザインテンプレートの種類が多かったのではないかな、と思います。そのあたりはやっぱり大変でしたか?
井山:大変でしたね。そもそも全体のデザイントーンをすごく考えて。そして、何が重要かというと、読みやすいとか分かりやすいとか、ユーザーにとって親切であるということを大切にするべきだなと考えました。だからなるべくフラットで、親しみやすい色合いでとか、そういうところに気を遣いました。あと、一番苦戦したのは、大中小の3種類ある記事カテゴリのうちの「小記事(つぶやきや気付き)」です。つぶやきのような言葉を収めるフォーマットなんですけど。
坂本:小記事は、かなりデザイン案のバリエーションを出していただきましたよね。なかなか形が決まらなくて。スタディのなかでの個々人の「つぶやき」を見せたかったんですが、それらが並ぶことで連続した「会話」のように見えてしまうのは避けたかったんです。そこのデザインが、表示の仕組みも含めて難しいと言われていましたね。
井山:そういう細かいディテールとかの調整をデザイン側では結構頑張りました。
■ウェブでしかできない「過剰」なアプローチを大切に
坂本:全スタディのタイムラインを縦に並べて全体像を見せつつ、個別のタイムラインにズームしたり、俯瞰したりを行き来できる仕組みもなかなかユニークですよね。あのアイデアはどこから出てきたんですか?
萩原:僕はウェブをつくるときにSNSとも、紙媒体とも違う、ウェブらしいことをしようと心がけています。たとえば、2万字載せたかったら2万字そのまま載せられるのがウェブ。ある種過剰なアプローチを取れるのがウェブのいいところ。だから、今回、すごく長い時間をかけて議論してきた人たちが5チームいるわけで、その情報をそのまま縦に並べちゃえば、長さで表現できるかなと考えて。
アーカイブサイトには、大記事、中記事、小記事という3レベルがあります。定期的な活動日の記録は大記事に、それ以外の派生・関連企画の記録は中記事に、活動のなかでの気付きや個人的なことに関しては小記事に。そうやってそのまま情報をウェブに入れていくと、5色のタイムラインが長さ違いで隣り合わせになって見える。これは雑誌のような媒体ではできない、ウェブらしい情報の表現の仕方かなと考えました。
坂本:あのアイデアを見せてもらったとき、制作チームみんなで「これだ!」となりましたね。5つのスタディが並走しているというところを見せたい、でも個別の活動にも目を向けたい。そのすべてが叶えられたアイデアでした。
川村:そうなんですよね。私はやっぱり編集者だから、ひとつひとつのタイムラインの精度にすごくこだわっていたんです。その上で、複数の時間の流れとそれぞれのスタディの歩み方を同時に見せたい。どうしようかなと思っていたら、萩原さんが魔法のようにバンッと形にしてくれて。
■ウェブには縦軸と横軸、ふたつの導線がある
萩原:ウェブは縦軸、横軸をすごく意識するメディアなんです。たとえば、ツイッターも時系列で並ぶ縦軸のメディアですが、ハッシュタグは横軸の考え方です。ウェブでは、時間を積み重ねていく縦のUI(ユーザーインターフェース)と、文脈を移動する横のハイパーリンクとが必ず存在しているんです。
今回は、スタディごと、普通に5ページに分けてつくっちゃうと、異なるものがただ5個存在している感じになっちゃって、リレーションを感じない。5個の軸がどういうふうに動いていて、どう関係があったのかみたいなものをハイパーリンクではなく、レイアウトと動きそのもので表現できたら、横でつながっている感じは出るのかな、と。キーワードやタグみたいなもので移動をする方法は、もう少し考える余地があったのかもしれないけど。
井山:あれは、萩原さんが「こうしたらいいじゃん」みたいに突発的に生まれたアイデアでしたね。技術的にチャレンジングな部分はあって、実現の課題はありましたけど、とりあえずやってみようみたいな感じで。
坂本:その雰囲気がいいなと思いました。やれるか分からないけれども、ちょっとやってみようというチームプレーで、どんどん組み上がっていく。ウェブチームでの役割分担はどんな感じだったんですか?
プログラミング担当 多田ひと美(以下、多田):私がパーツというか、モジュールごとにプログラミングして、それを萩原さんがまとめていくようなつくり方ですよね。
萩原:レゴブロックの長いブロックとか、ドア付きのブロックとか、ヤシの木のブロックみたいな、ああいうのをひたすらどんどん多田さんにつくっていってもらって、それを僕が工場のように来たやつをまとめていくんです。ダイナミックに組んでいくところはだいたい僕が担当です。もともと多田さん自身も、アーティスト活動をしていて、スタディみたいなことをテーマに制作していたから、今回声がけしました。
多田:そうです。個人的にもそういうアートプロジェクト的なことをやってきたので、すごく面白い取り組みだなと感じて。萩原さんは常に挑戦しようとする方だから、私も新しい刺激やモチベーションをいただきました。
萩原:そういうメンバーだったから、良かったんです。「こんなことをやる必要はあります?」みたいな空気にはもちろんならないし。コンセプトに共感してくれているプログラマとデザイナーなので。
■記録を引き出すタイムラインづくりとヒアリングを重ねた
川村:そんなふうにいい連携ができるウェブチームだったので、今回は編集が全体の舵を取ってやっていくというよりは、基本的な考え方を共有したあとは、編集とデザインを同時に進めて、互いにつくったものを持ち寄って調整するやり方にしました。
坂本:そこからそれぞれのスタディを担当しているスタマネのヒアリングに入りましたね。編集チームとアーツカウンシル東京のメンバーとでヒアリングをして、スタマネにはタイムラインをつくる宿題をやってもらって。
萩原:こういう編集的な動きは、ウェブチームだけではとてもできないので、すごく頼もしいと感じました。
川村:タイムラインづくりは案外大変でしたね。まずは坂本さんがスタマネをされていて、なおかつ記録素材の量と種類が豊富だったスタディ2からつくりはじめました。そして、テキストとアーカイブする資料のサンプルをウェブチームに渡して、フォーマットを組んでもらっている間に残りのスタディの素材を集めるという流れです。
タイムラインの記憶が曖昧で、素材集めに苦労したスタディもありました。そういうときはヒアリングして、「それは面白いですね」「この情報は資料になるんじゃないですか」「じゃあ、誰々に執筆を依頼しましょう」というようにひとつずつ決めていった。そうやって私は全体を見ながらあったらいいなと思うものを掴んでいくんですけど、高橋さんはそれをさらに内側の視点で精査してくれて。たとえば、参加者のプライバシーに配慮して、ご本人の気持ちを損なわない見せ方を提案してくれました。
高橋:3月、4月は、それをひたすら繰り返していましたね。編集としても、このアーカイブサイト全体で必要なデータのトーンが、だんだん分かってきたので、後半はそんなに大変ではなかったです。
坂本:スタマネ側もそうしたやりとりを重ね、何を素材として渡せばいいか、より具体的に掴めてきた感じでした。
川村:もちろん、素材集めにベストは尽くしますが、出来上がってみての情報量はやはり違う。でも、資料がないということも情報であり、価値なんですよね。他のスタディにはあるのに、あるスタディにだけないものがあったとしたら、そこには何かしらの事情があったということ。それは、残しがたい言葉や資料になる手前の何かがあったかもしれないというサイン。運営上の課題が浮かび上がってくる場合もあるでしょう。だから、必ずしも資料や記録がないことがネガティブなことではない。そうしたことも可視化できるデザインになったなと思います。
アーツカウンシル東京 岡野恵未子(以下、岡野):掘り下げていくとディテールが見えるデザインにしたことで、顔として見えているトップのタイムラインページは、どのスタディもほぼ同じ密度で並んで見えますもんね。よく見ていくと、ここだけちょっと資料が少ないというのはあるんですけど、顔の部分をしっかりつくったからその情報量の差を残したまま実現できました。
■データとデザインの両方で調整を重ねていくほうがいい
萩原:そうやって、編集チームが頑張ってくれている間に、ウェブチームではデザインやプログラムをつくり、多田さんに入力の仕組みを全部つくってもらって。
川村:それから素材を入力した状態でデザインを調整してくださった。編集としては、編集し切っていない、いわば“半生”のまま素材を渡せて、手を動かしながら進められたことはとてもありがたかったですね。
萩原:でも、それをしないとやっぱり、いきなりお互いに完璧にはならないと思うんですよ。素材というかデータ側で調整してもらうこともあれば、入らないときはこっちのデザインを調整して……とかをやったほうがいい。この進め方ができて良かったですね。
坂本:そうやって、3月ぐらいから本格的に制作に向けて動き出して、6月にサイト公開だったので、本当にタイトなプロジェクトでした。本来ならもうちょっと時間が欲しいぞというところを、2019年度のプログラムの募集タイミングに合わせてキュキュッとやっていただいたという感じで。
萩原:準備期間として1年ぐらい議論は重ねてきつつも、結局2月に発表会があって3月の年度末を越えてから、制作キックオフといった感じだったので、開発期間はギューッとしてましたね。
■使われ、残るアーカイブサイトであるために
坂本:本当にお疲れさまでした。この座談会も前半の構想の話が長くて、制作の話が駆け足でしたが、まさにプロジェクトの流れも同じでしたね。最後に、それぞれアーカイブサイト構築の初年度を一度終えてみての感想というか、考えていることを教えていただけますか。
萩原:すべての情報が揃って眺めてみると、もうちょっと文字や、動きが調整できると思うし、消化不良な部分もあります。それは次のリニューアルで改善したいですね。プロジェクトとしては、こういう抽象的に進んでいくプロセスを編集の方と一緒につくれたのが面白かったです。残したいという運営側の気持ちと、どっちでもいいみたいな、どっちかというと残されたくないというプレイヤー側の気持ちと、間をうまく編集していくということはすごく繊細な作業。僕はつい運営側に寄ってしまうし、ご一緒できて良かったです。
そして、本当に3年後とか10年後にタイムカプセル的にこのアーカイブサイトが残っていって、ちゃんとリファレンスされるといいなと思います。ただ、ウェブサイトは意識的に残さないと残らないもの。たとえば予算がないから誰も管理しなくなって、システムもいつか動かなくなって……と、すぐになくなってしまう。継続的に残るような仕組みや管理の所在をしっかりする必要を感じます。
井山:僕も、デザイン面ではもうちょっと調整をしていきたい。経験としては、コンテンツ整理の段階からここまで深く関わっていくというのは初めてのことでした。編集チームの動き方とか提案の仕方、そういうことを知れて面白かったです。勉強になったし、それが一番の収穫でしたね。
多田:楽しかったです。私は美大出身なんですが、学生のときから作家だけ集まって展覧会をやるようなことを重ねてきました。でも、こうやって運営の人がちゃんといたりとか、編集の人とか撮影の人とか執筆者とか、そういういろいろな人と一緒につくるアートプロジェクトに関われたことがいい経験でした。
川村:私は立場上、プロジェクトのリーダーシップを取ることが多いんですが、役割の異なるメンバーと同時にひとつの山を登るような進め方をできたことはありがたかったです。ひとつのことを違う角度から話し合ったり、自分が編集的に悩んでいることを、デザインやプログラミングの視点で解決してもらったり、コレクティブ的につくれたのは面白かった。
紙媒体と違い、ウェブサイトは、未完成のまま走っていくような生き物。次年度以降、どうやって使ってもらえるかがすごく気になっています。欲を言えば、もっと大量に資料が欲しいし、テキストの書き方もいろいろあっていいと思う。現状はあくまで器なので、その器をそれぞれが自由に使ってもらえるような状態になったらいいですよね。そのために、いまアーカイブの心得を記したマニュアルを用意しているところです。
高橋:私自身は、スタディ4のチームにいたから、どこまで公開するかというのは結構難しく感じていました。誰がどういう発言をしたのかをどこまで載せるのかとか。でもそれがこういう形に着地したことで、ひとつの残し方が見えた気がします。
結果、情報量がとっても多いアーカイブサイトになりましたよね。それは最初から意図した「過剰さ」でもあるし、量があることで出てくる質みたいなものとして、見てくださった方が感じてくれれば嬉しいです。
坂本:東京プロジェクトスタディ全体の動きにも重なるのですが、こんなふうに、どう出来上がっていくのかが見えないものと向き合って、人と人とが対話を重ねながら形にしていくということが何よりの価値だと考えています。
だからこのアーカイブサイトを通して、「自分もこんな時間の使い方や、物事との向き合い方をしてみたい」という人が現れたら嬉しいですね。新しい出会いや発見が、このアーカイブサイトを通して起こることに期待しています。それも押し付ける形ではなく、アーカイブを通して空気や雰囲気が伝わっていくような、出会いの入り口になればいいな、と。みなさん、本当にありがとうございました! ひきつづき、よろしくお願いいたします。
前後編にわたりお届けしてきた「東京プロジェクトスタディ アーカイブサイト」の振り返り座談会。創作のプロセスが多様であるように、その創作に伴走する記録やアーカイブの形もまた多様だということを確認した2時間半でした。アーカイブに関わる試行や実験もまた、ひとつの「スタディ」として共有できたなら幸いです。
座談会では、2018年度の東京プロジェクトスタディについて話してきましたが、2019年度もプログラムは続いています。もちろん、2019年度のアーカイブも近々公開される予定ですので、ぜひご覧ください。
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(撮影:加藤甫)