問いを抱えて集まる。団体活動について、コロナ禍の企画について、広報や雇用について

2021年1月18日、「つどつど会(都度集うアートマネージャー連絡会議)」第3回をオンラインで開催しました。

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悩みを持ち寄る3

北は秋田から南は大分まで、幅広い現場を手掛ける5名のアートマネージャーが集まり、情報共有や相談を重ねていくつどつど会。今回も「悩みを持ち寄る」をテーマに、メンバーのうち3名が活動を紹介しつつ、悩みを共有するところからはじめました。

*つどつど会#03 悩みの発表者
・蟻川小百合さん(みずつち市民サポーターズ/新潟県)
・大政愛さん(はじまりの美術館/福島県)
・月田尚子さん(NPO法人BEPPU PROJECT/大分県)

投げかけられた現場からの問い

今回の発表と相談会では、性質の異なる団体・事業からさまざまな悩みが持ち込まれ、メンバーに問いが投げかけられました。すぐに答えが出るとは限りませんが、現場の問いを違う立場のメンバーと眺めることで、一歩進むヒントも共有できた様子。

約2時間に渡るつどつど会のなかで、投げかけられた問いの一部をご紹介します。

<市民団体としての問い>
・法人化しないことを決めた市民団体。自主的な活動として継続していくために必要なことは?
・ボランティアベースの活動だからこそ、集まるための拠点が必要ではないか? その場合の維持方法は?
・継続的な市民活動に有効な外部パートナーとの連携や、体制とはどのようなものか?

<コロナ禍のプログラムをめぐる問い>
・交流や体験できる企画を重視してきた美術館がコロナ禍でできることとは?
・デジタルシフトが中心だが、アナログでも体験できるコロナ禍に対応した面白い体験の可能性とは?

<アートプログラムの広報をめぐる問い>
・アート業界は紙文化中心。広報のデジタル化で成功する方法は? また、紙が中心になる理由とは?
・広報リストの管理は煩雑になりがち。他団体ではどのように管理している?

<組織のジェンダーバランス>
・アートの現場は女性が圧倒的に多い。バランスが偏る業界構造的な理由があるとしたら何か?

第3回を終えて。参加メンバーからのコメント(抜粋)

蟻川小百合さん(みずつち市民サポーターズ/新潟県)
「市民団体ならではのポジティブな側面とネガティブな側面の両方がありますが、団体の中だけで悩みを解決する必要などなく、むしろ補い合うパートナーを探すことができるのだということに気づき、前向きになれました。今年、これまでのような芸術祭はありませんが、これから自分たちは誰と何ができるのか、改めて話し合って考えていきたいです。ベップ・アート・マンスの団体と事務局の関係についてのお話も参考になりました。みずつち市民サポーターズは他の団体の情報発信など広報のサポートもしているので、それを口実に団体に集まってもらう場をつくるなど、できそうなことをやってみたいと思いました。
広報のデジタル化については、行政に近いところだとやはり平等性や世代格差の問題もあり、紙のほうがまだ強く残っていることは実感しています。TARLの告知はデジタルで効果が上がったというお話に関連して、私は2018年の東京プロジェクトスタディの説明会の動画をウェブで見て参加を決めたことを思い出しました! 地方にいると、ネットの情報にありがたみを感じることも多いです」

大政愛さん(はじまりの美術館/福島県)
「今回、私からは主にコロナ禍での“体験”の取り組みの事例についてお話を伺いたいと投げかけをさせていただいたのですが、全国のみなさん取り組みを紹介いただき、とても参考になりました。今回のコロナ禍の状況は先も見えず、課題ももちろん多いですが、新しい取り組み・つながりが増えるひとつのきっかけにもなると思いました。場所があるからこそできるアナログなこと、デジタルメディアやテクノロジーを活用してできることなど、今後のプロジェクトや展覧会を構想するきっかけになりました。また、アーツカウンシル東京・佐藤さんからいただいた『(主催者以外に)語ってもらうメディア・素材』というキーワードは、積極的に検討し、考えていきたいなと思いました」

岡田千絵さん(公益財団法人墨田区文化振興財団/東京都)
「市民プロジェクトとして始まった『みずつち市民サポーターズ』の展開について伺いながら、私自身がいつもプロジェクトに助成金を出したり、協力をお願いしたりする団体の方の顔が浮かびました。人材育成やプロジェクトに資金的支援をすることの功罪両面について考えさせられるお話でした。
記録のためのアンケートを作って、広報をし、記録を残して、次の広報につなげるという考え方。広報リストを管理することが大事。次のスタートのために、何かを残さなければと思っていたので、これも次年度の目標にします。
あと、前回の勉強会ででた『事業で悩んだら組織図をつくる』というヒントは、私の現場でも参考にしようと思っています。企画を公募していただく団体の方々に組織図から考えていただくことは組織の成長につながりそうですね」

月田尚子さん(NPO法人BEPPU PROJECT/大分県)
「3団体、それぞれの課題が具体的に聞けて新たな発見があり楽しかったです。紙媒体についての投げかけは、たくさんの具体例や意味合いが聞けて参考になりました。アーカイブのための事後広報に対し、告知のための事前広報は紙である必要があるのか?という点は、予算が限られている広報活動でどうやっていくか考えるきっかけになりました」

三富章恵さん(NPO法人アーツセンターあきた/秋田県)
「全部のご意見、共感することばかりでした! 私の場合、アーツセンターあきたの活動にとって、NPOという法人格が適当なのかも悩み時期にきています。現場ではNPOという法人格に対する誤解などがあり、どうしてもボランティア的な活動と受け取られがちなことがひとつの課題です。
また、広報の話。広報リストの管理についてこちらでは『Salesforce』導入の準備を進めています。チーム内での情報共有は、Facebookのビジネス版のWorkplaceを活用していますが、まだまだうまく行っているとは言えない状況です。次年度から事業計画・予算計画や工数管理、予算執行管理、事業評価を連動したスプレッドシートを取り入れて、経理や人事労務のような管理的スタッフと事業・広報で情報共有が図りやすい形をとろうと準備を進めています」

レポート執筆:中田一会(きてん企画室)

マネジメントスキルを筋肉に例えて、ボディビル大会をやってみた。(続・ジムジム会)

東京アートポイント計画に参加する9団体が互いに学び合う「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」から派生した、「続・ジムジム会」。2020年度最後の回では、各事務局がこの1年間で身についたアートプロジェクトの運営スキルを筋肉に見立て、それぞれ披露し合いました!

「ジムジムボディビル大会2021」開催前夜。

ホスト役は、東京アートポイント計画のプログラムオフィサー(PO)と、その呼びかけに賛同してくれた、「アートアクセスあだち 音まち千住の縁(以下、音まち)」の西川汐さん、「ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち―(以下、ファンファン)」の青木彬さん、「東京で(国)境をこえる」の矢野靖人さんという、事業横断型の運営チーム。

年度の締めくくりなので、一年を振り返る企画をしたい。でも、振り返りは反省点が出やすくて、ネガティブになりがち…。どうやったら一年間を楽しく振り返れるだろうか? そんな議論を重ねていたときに出てきたのが、「ボディビル大会のように、各事務局がスキルアップしたことを見せ合う」というアイディアでした。

2019年度に「ジムジム会」がスタートした時、発起人の坂本POはこんな言葉を記していました。

日々の業務とは、ちょっと気分を変えて、トレーニングジムで筋トレをするような感覚で、通える場として仕立てています。
トレーニングジムでは、エクササイズをがんばると、「いい感じですね!よいフォームです」とトレーナーが褒めてくれ、ちょっとさぼると「もう1回やりなおし」と厳しく反応してくれたりして、モチベーションが刺激されますよね。プロジェクト運営でも、反応したり、相談したりできるような仲間がいることで、持続的な活動の支えになるのではと考えました。
(坂本有理「プロジェクト運営の筋トレ!? 「ジムジム会」はじめました―Artpoint Letterより」

ジムに通うように互いに刺激し合い、事務力の筋肉(=マネジメント力)を鍛えようとはじまったジムジム会。この1年間では、それぞれどんな筋肉が鍛えられたのでしょうか? 運営面? 広報面?
そんな各事務局の「筋肉自慢」を持ち寄り、ボディビル大会のように披露し合った様子をお届けします。

ナイス筋肉!「原点にかえる筋」「もうひと工夫筋」

前半の司会は、音まちの西川さんと、POの岡野。各事務局に、自分たちがこの1年で鍛えられた筋肉(=スキル)に「○○筋」と名前を付けてもらい、順番に披露していきました。

例えば、「500年のcommonを考えるプロジェクト『YATO』」「原点にかえる筋」。コロナ禍で、例年のように縁日の企画が実施できない状況の中、「プロジェクトにおける企画はイベントなのかセレモニー(儀式)なのか」という“原点”にかえって考えたことが、プロジェクトにとって大事な時間になりました。

「ファンファン」は、「もうひと工夫筋」を披露。“話しづらい”と感じてしまいがちなオンラインでのコミュニケーションをひと工夫し、ラジオ形式での情報共有など、事務局内・参加メンバーがより対話しやすくなるしかけを色々と試すことができました。

そのほかにも続々と、個性豊かな筋肉がエントリー。鍛えられたスキル(と呼べそうな力)をどう切り取り、どう名づけるかに悩んだプロジェクトも多かったようですが、各プロジェクトらしい17つの筋肉が生まれました。

アワードは誰の手に!? 審査会と授賞式も自分たちでやってみました。

後半は、司会をファンファンの青木さん、POの大内にバトンタッチし、前半でエントリーされた筋肉を眺めながら「審査会・授賞式」を実施。ブレイクアウトルーム機能を使い、『コロナ禍でのアクション』『届けること、伝えること』『事務局のレベルアップ』『仲間づくり』『残すこと、継承すること』の5つの部門(グループ)に分かれ、それぞれにふさわしい筋肉を選定しました。選定した筋肉には、グループごとにオリジナルの賞名も考えて名付けました

『コロナ禍でのアクション』部門は「ふきのとう賞」を「宙ぶらりんに耐える筋(東京で(国)境をこえる)」「お楽しみ筋(移動する中心|GAYA)」「アイディア合体筋(500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」)」が受賞。このコロナ禍を冬に例え、地上でもなく、地下でもない雪のなかで耐えて、耐えて、春を待つような様子が評価されました。

「東京で(国)境をこえる」の矢野さんに、たまたま配信スタジオから参加していたメンバーからプレゼント!

『残すこと、継承すること』部門では、「筋肉は裏切らないで賞」「小金井アートフル・アクション!」の事務局が授与。事業開始から10年をむかえるベテランの事務局で、「いままで鍛えた筋肉はダテじゃなかった」と語る言葉が他のチームの心に響きました。

オススメのプロテイン・ダンベル、教えて!

ボディビル大会が一通り終わった後は、西川さん・青木さん・矢野さん・岡野の4人で、「オススメのプロテイン・ダンベル」コーナー。参加者の皆さんから事前に、筋トレ(=事務局のスキルアップ)に役に立つツールや情報を集めておいたものを眺めながらフリートークを行いました。

回の締めくくりでは、2020年度で共催期間が終了する「TERATOTERA」や「小金井アートフル・アクション!」からの卒業メッセージ、「ジムジム会」皆勤賞の発表なども行いました。

新しい筋肉(=スキル)の見つけかた

大きな社会の変化に見舞われたこの1年。日常とほど近いところでアートプロジェクトを展開している「東京アートポイント計画」の各事業にとっても、影響は大きく、プロジェクト運営に必要な情報やスキル、姿勢を見直すことが必要とされた1年でした。プロジェクトを行っていくために試行錯誤し、自然にとってきた判断や選択肢は、「○○術」だったり「○○力」のように、まだ誰にも名づけられていない力なのかもしれません

今回のジムジム会では、自分たちのプロジェクト運営を振り返り、その力を見つけるところからチャレンジしてみました。今回見つかったたくさんの筋肉はきっと、その事務局だからこそ使える得意技。そして、お互いに披露しあったことで、「そんなスキルもあったのか」と気づくきっかけになりました。運営チームから出てきた、「楽しく振り返りをしたい」というアイディアが、これからのプロジェクト運営に必要な「新しい事務局力」を見つける一歩となったように思います。

2021年度も、お互いに励まし合いながら、一層ムキムキを目指していきます!各事業の展開を、どうぞお楽しみにお待ちください。

運営メンバーの皆さん、大変お疲れさまでした!

FIELD RECORDING vol.05 特集:自分のことを話す

『東北の風景をきく FIELD RECORDING』は、変わりゆく震災後の東北のいまと、表現の生態系を定点観測するジャーナルです。

東日本大震災から時が経ったことで、被災の度合いによって「当事者」として語りえなかった人たちが、自分の経験を語り出すタイミングが訪れているように思います。その語りは日常のなかでふと現れ、コロナ禍によって当時のことが呼び覚まされることもあるでしょう。 そこで、これまで東北にこころを寄せてきた人たちに問いかけました。vol.05の特集は「自分のことを話す」。東日本大震災から10 年目、いま何を考えていますか? いまどこにいて、今日はどんな一日でしたか?

「10年」という節目は、日々のなかに流れる時間の区切りとは、必ずしも結びつくものではありません。

(p.02)
もくじ

はじめに

東日本大震災から10 年目、いま何を考えていますか?

10年、そして。 宮地尚子
心の底に降りてあるもの 椹木野衣
津波の木 畠山直哉
「なんのためのアート」基調報告 畠山直哉
カタストロフを書き続ける 関口涼子

2020年リレー日記
(2020年6月1日〜2021年1月17日)

是恒さくら/萩原雄太/岩根 愛/中﨑 透/高橋瑞木/大吹哲也/村上 慧/村上しほり/きむらとしろうじんじん/岡村幸宣/山本唯人/谷山恭子/鈴木 拓/清水裕貴/西村佳哲/遠藤一郎/榎本千賀子/山内宏泰/木村敦子/矢部佳宏/木田修作/北澤 潤/清水チナツ/三澤真也/相澤久美/竹久 侑/中村 茜/安川雄基/西大立目祥子/手塚夏子/森 司/モリテツヤ/照屋勇賢

編集後記 佐藤李青

震災後、地図を片手に歩きはじめる

2011年7月にはじまったArt Support Tohoku-Tokyo(東京都の芸術文化による被災地支援事業)。事業を立ち上げから担当してきたプログラムオフィサーの佐藤李青が、この10年の経験を、11の出来事から振り返ります。

震災からの10年はあっという間に過ぎた。東北の地では、いまも震災後の時間が続いている。そして、いまや世界中が新たな災禍の渦中にある。これからの10年は、どうなるのだろうか?先のことはわからない。それでも、わたしたちはすでに知っていることがある。

(p.171)
もくじ

はじめに

非常時と平時に違いがあるのだろうか?
えずこホール

連携は実践からつくられる
ARC>Tと10-BOX

表現には現れてくるタイミングがある
「福島大風呂敷」と《Like a Rolling Riceball》

地域の文化の種を播く
福島県立博物館

土地の文化をアートで引き継ぐ
『森のはこ舟アートプロジェクト』

人と人が生きるための術すべを見出す
対話工房と女川常夜灯

異なる人たちと「はじまり」をつくる
『つながる湾プロジェクト』

「関係性の被災」を紡ぐ
マイタウンマーケット

民俗芸能は「日常」を取り戻す手立てになる
雄勝法印神楽と鵜鳥神楽

成果を実感するには、時間がかかる
きむらとしろうじんじんの「野点」と「ぐるぐるミックス in 釜石」

記録は人のかかわりから残される
「復興カメラ」と「ランドスケープ|ポートレイト」

終わりに 災禍のなかで語り出すために

松島湾の大図鑑

「つながる湾プロジェクト」は、宮城県松島湾とその沿岸地域の文化を再発見し、味わい、共有し、表現することで、地域や人・時間のつながりを「陸の文化」とは違った視点で捉え直す試みです。

本書は、2016年度から発行してきた『松島湾のハゼ図鑑』『松島湾の牡蠣図鑑』『松島湾の船図鑑』『松島湾の遺跡図鑑』の4冊をまとめて、加筆した大図鑑です。

いま僕の目には、この海が前より美しく見える。10年前に大きな災害を経験したこともその要因の一つではあるけれど、たぶんそれだけでもない。図鑑制作を通して知ったひとつひとつのことが僕の中で網のようにつながり、あるいは油絵具のように層をなし、景色の見え方が立体的になっているのだと思う。

(「おわりに」より)
もくじ

はじめに

松島湾について
ハゼについて
ハゼに出会う
牡蠣について
牡蠣の養殖
牡蠣を食べる
船について
漁をする船
交易する船
戦う船・守る船
日常の船
遺跡について
縄文の遺跡
古墳・律令時代の遺跡
中世の遺跡
近代の遺跡

おわりに
索引
おもな参考文献

ほやほや通信 第2号

岩手県釜石市にある「かまいしこども園」の活動紹介と、こどもたちへの遊びのきっかけを盛り込んだフリーペーパーです。

「ホヤ」といえば、釜石市民にお馴染みの海産動物を思い浮かべるかもしれませんが、「ほやほや」という言葉には、「でき上がったばかりで、柔らかく湯気の立っているさま」「その状態になったばかりであるさま」「声を出さず、にこやかに笑うさま。ほくほく」といった意味があります。園とこどもたちが生み出す、「ほやほや」な出来事をお召し上がりください。

もくじ

鼎談 | 遊びの環境をつくる実験場
天野珠路(鶴見大学短期大学部教授)×藤原けいと(かまいしこども園)×渡邉梨恵子(谷中のおかって)

じんじんからのお手紙 | きむらとしろうじんじん

あたまにうちゅうじん | 大西健太郎

子どもたちの応援団
かまいしこども園の先生たち/いっしょに読んでみよう!
はなとの出会い/りんめいさんのミックスクッキング/4コマ漫画

活動報告 | 9–11月のプチぐる/プチぐるができるまで

伝える・わかるを考える Interpret○▲□

「手話通訳」の視点で、コミュニケーションを捉え直す

アートプロジェクトの現場では、誰かと何かをはじめようとするとき、考えや視点の違いを理解しながら、互いのイメージを擦り合わせ、つくり方を議論します。そこで起きるコミュニケーションは、「言葉」に限ったものではありません。むしろ、表情やしぐさ、声色、動き、間など身体を用いた非言語の領域が、日々のコミュニケーションに大きな影響を与え、支えています。

そうした観点に立脚し、2020年度に開催したプロジェクト「共在する身体と思考を巡って-東京で他者と出会うために」にて、ナビゲーターを務めた和田夏実(インタープリター)が、「手話通訳」に焦点を当てて、通訳環境の新たな手法開発を試みます。

手話通訳とは、「視覚身体言語」と「音声書記言語」という異なる言語体系とメディア(声や文字、身体など)をもつ言葉を、手話通訳者自身の身体を通して翻訳し、伝達するコミュニケーション技術です。手話通訳者それぞれの身体知を語らうことから、アートプロジェクトへのアクセシビリティや情報保障のあり方について考察を深め、今後のアートプロジェクトの運営に必要な視点を見出します。

千住の1010人 from 2020年 『around SUMIDAGAWA』

「千住の1010人」は、足立区を舞台に活動する『アートアクセスあだち 音まち千住の縁』によるプロジェクトであり、作曲家・野村誠によるプロジェクト「千住だじゃれ音楽祭」の一環として実施しています。1010(せんじゅう)人の参加者が千住(せんじゅ)に集い、さまざまな演奏や表現を繰り広げます。

本映像は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて実現できなかった「船」をつかった実験の一部をまとめた2020年の記録です。

ひとりの悩みをひらいたら、みんなでつくる学び合いの場になった。大事なのはいきおいと、いつでも立ち止まる勇気。(続・ジムジム会)

2021年1月29日、東京アートポイント計画に参加する9団体が互いに学び合う「事務局による事務局のためのジムのような勉強会」こと「ジムジム会」から派生した「続・ジムジム会」の第2回が開催されました。今回のホストは、東京アートポイント計画の「異端児」を自称するHAPPY TURN/神津島の事務局チーム。「聞いて!アートプロジェクトに関わる人!」をテーマに、他の事務局のみなさんに、神津島の事務局チームが今考えていること・知りたいことや悩みを聞いてもらい、一緒に考えてもらっちゃおう!という企画になりました。

「もしも野菜が3種類しか育たない島に移住するなら、何が育つ島に行く?」というちょっとかわったアイスブレイクにはじまり、事務局の飯島さんがフリップで繰り出す悩みや疑問に、参加者がひたすらチャットで答える「チャットで答えて!」や、参加者が次の回答者を指名して次々に発言する「リレーで答えて!」、事前アンケートをもとに、飯島さんがじっくり話を聞きたい参加者と1対1で話す「話して!聞かせて!」など、オンラインのやりとりの設計にさまざまな工夫をすることで、多様なインタラクションが生まれました。コーナーとコーナーの間では、会の間じゅう島の中を移動し続けている事務局の中村さんとテレビの生中継スタイルでつなぎ、神津島のさまざまなスポットを、ひとり寸劇をしたり、ひたすら走ったり、海に飛び込んだり(!)しながら体をはって紹介する「島内やーい!」で小休止。ある参加者から「ジェットコースターのような」と評された、神津島と事務局チームの、いきおいと、個性と、魅力たっぷりの2時間となりました。

自称・東京アートポイント計画の「異端児」

島で暮らしている人はもちろん、かつて島で暮らしていた人、島暮らしに興味をもっている人、島外で島を支援する人……様々な立場から島に関わる人とつながり、それぞれの暮らしや考え方を学び合うことで、「幸せなターン」のかたちを探っていきます。故郷との距離や、異なる地域で生きることについて考え、悩み、良くしようとしている多くの人とともに、これからの生き方のヒントを集めていくことを目指しています。(HAPPY TURN/神津島 プロジェクトステイトメントより)

このステイトメントからもわかる通り、HAPPY TURN/神津島は、一番最初から「アートプロジェクト」を目指してはじまったものではなく、事務局チームの来し方も、鉄道会社社員や教師、専門学校職員などさまざまです。2020年は新型コロナウイルスの影響で本州との行き来がしにくい状況。ジムジム会も全てオンライン開催になったことで、他事業との距離感が広がり、アートプロジェクトの「参照点」に接する機会が少なくなっていました。だから実は「異端児」というのは、引け目みたいな感覚や、自信のなさのような気持ちもまじった、ちょっと複雑な自称でもあったのです。

さて、そんな事務局チームが今回、どうやって「アートプロジェクト事務局の学び合いの場」をつくっていったのか。ホストを担った飯島さん、中村さんたちと同じくらい、いやそれ以上に戸惑いながら制作に伴走する中で気がついた、いくつかのポイントをご紹介します。

point 1:ホストが一番たくさんのことを持ち帰れるようにすべし。

神津島の事務局チームは、ものすごくサービス精神旺盛な人たちです。人を楽しませることや、よろこばせることが上手で、得意で、そのためのアイディアが次から次へと出てきます。

今回の企画を考える中でも、最初は「どうやって参加者を楽しませるか」という視点で、たくさんのアイディアが出ていました。企画会議はエンターテインメント・コンテンツづくりの方向に突っ走り(もちろん、それはそれで楽しいのですが)、そのたびに「あれ、でもなぜそれをやるんだっけ?」「学び合うってどういうことだろう?」という問いに立ち戻ることを何度か、繰り返しました。

そのやりとりの中で少しずつ共有されていったのは「ホストである自分たちが一番たくさんのことを持ち帰れるようにしよう」という軸。飯島さんは日々の悩みを聞いてもらい、アートプロジェクトをもっと知りたいと思う今の気持ちにこたえてもらおう。中村さんは、得意のパフォーマンスで大好きな神津島を紹介して、神津島いいね!ってみんなに言ってもらおう。そのためにできること・やりたいことを詰め込んで、会の構成がなんとかかたちになったのは1月13日。本番まであと2週間と少しという時でした。

point 2:ホストはできるだけラクをすべし。

次の企画会議には、HAPPY TURN/神津島のプログラムディレクター岩沢兄弟と、続・ジムジム会の発案者で第1回目のホストでもあるファンタジア!ファンタジア!ー生き方がかたちになったまちー(通称:ファンファン)事務局が参加してくれました。このときにファンファンの青木さんが投げかけた「ホストだけががんばるんじゃなくて、参加する人みんながつくる学び合いの場にしたい」ということばが、今回の続・ジムジム会をつくる上での太い柱になりました。

>ファンファンチームがホストを担った「続・ジムジム会#01」。岡野POによるレポートはこちら

事務局チームのやりたいことを詰め込んだプランに岩沢兄弟は、「だいぶ詰め込んだね。それだと本番中、機器の操作や進行のことで頭がいっぱいになって、自分たちが十分に学べないと思う。もっとラクしよう。」と、やりたいことを実現しつつ運営の負荷を減らすための、さまざまな工夫やヒントをくれました。なるほど、ホストはもてなす/提供するほうで、参加者はもてなされる/受け取るほう、というのが一般的な認識。でも、続・ジムジム会のホストと参加者は、そこからはなれた新しい関係を目指したほうがいいんじゃないだろうか。ファンファンチームの投げかけと、それをちがうことばで表現した岩沢兄弟のアドバイスで、もうひとつの大事な軸が見えてきました。1月18日のこと。本番まであと10日、大急ぎでタイムラインをつくり、台本を用意し、準備を進めます。

point 3:違和感に気がついたら、いつでも立ち止まるべし。

準備も佳境の本番2日前、1月27日の朝。別件で飯島さんに電話をしたら、「そういえば今日送るはずの台本、まだできてないんですよ」。昨夜、台本を書こうとしていたらふと「ひょっとしたら自分は、アートプロジェクトを知りたい、わかりたいと思い込もうとしているだけなんじゃないか」という、今回の企画の根本をくつがえしかねない疑問が湧いてきた。そこからぐるぐる悩みはじめて、ひと晩ドツボにはまり、今日は朝から何も手につかないのだ、と。繰り返しますが本番2日前。悩んでしまったことはちょっと横に置いておいて、さらっと本番をこなすこともできなくはない。でも飯島さんは立ち止まって、それをことばにしようとしていました。勇気のいることです。電話口で飯島さんがたぐりよせることばを聞きながら、本番もきっといい時間になるんだろう、と思いました。

point 4:「ついやってしまうこと」のいきおいを大事にすべし。

そのころ中村さんは「島内やーい!」の準備を、まるで8月31日に宿題をやっているみたいな気分で進めていたのではないかと思います。会の途中途中で、島内の5か所からビデオ通話でつなぎ、テレビの生中継のような演出で島の魅力を伝えるこのコーナー。実際には「島の魅力を伝える」なんて月並みなことばでは表現しきれない、中村さんの個性と瞬発力が大爆発した企画だったのですが……。5か所の中継ポイントの場所以外、実は何も知らされていなかった私は、本番冒頭の「中継」で、強い西風が吹きすさぶ中、真冬の海にいきなり飛び込んだ中村さんを見て、画面を拠点「くると」の飯島さんに切り替えるのも忘れ、絶句していました。

そんな、いまだかつてないエネルギーで始まった本番がどんなようすだったかは、ご想像におまかせします。終了後のアンケートで、参加した他団体の事務局メンバーから寄せられたコメントをいくつか紹介します。

飯島さんと中村さんのバランスといいハッピーターンにしかできない会でした!このままの感じでプログラム作っていってほしい!

全体の構成がすごく良く、勉強になり楽しかったです。
島の名所の中継も素敵で、また行きたくなりました。(中略)またホストやってほしいです。

飯島さんの切実な問いかけから、他のプロジェクトメンバーの回答を聞く会は聞き入ってしまって。それぞれが大事にしている部分を開いてもらった感じでよかったです。濃厚な時間でした!

私もアートプロジェクトに関わり続けている理由を考えるいい機会でした。色んな話を聞いて、飯島さんがどう感じたのか気になる!
島の地理を活かした配信さすがです、、中村劇場お疲れさまでした!!

HAPPY TURNのみなさんおつかれさまでした。とっても楽しかったです、ありがとうございました。みなさんが丁寧に楽しく準備されていたんだなと感じられて感動しました。人の心を動かせるってすごいです。尊敬です。

point 5:「プロセス」を振り返り、たしかな自信にすべし。

会が終わって数日経った頃、飯島さんから「今回の続・ジムジム会がどうやってできたか、その資料を公開したいと思うんですけど、確認してもらえますか」と、大量のデータが送られてきました。打ち合わせ議事録や台本、タイムテーブルをはじめ、当日のチャット記録(飯島さん、中村さんからのお返事つき)や事前アンケートなどが、丁寧に整えられた資料でした。資料の中に、「最後に飯島より みなさんへ」というタイトルの、数ページのテキストがありました。そのテキストには、本番2日前にドツボにはまり何も手につかなくなった日のことと、それに対する飯島さんの暫定的な答え(のようなもの)が書かれ、最後はこうしめくくられていました。

最初はジムジム会のホストだなんてできるわけない!と思っていた、私たちのこの一連の思考や今回のできごとが、どこかで私やHAPPY TURN/神津島だけのものではなく、みなさんのためにもなっていたら嬉しいです。

そういえばその後、神津島の事務局チームから「異端児」ということばを聞かないような気もします。たまたま、かもしれませんが。

もっともっと、ほめあおう。続・ジムジム会#03開催!

さて、3月はいよいよ、第3回目の「続・ジムジム会」が開催されます。東京アートポイント計画の共催9団体が、いろいろあったこの1年、ジムジム会、続・ジムジム会で鍛えた「筋肉」を披露しておたがいに褒めあう「ボディビル大会」のようなものになる予定。「それいいね」「すごいね」というシンプルなことばの滋養を、しみじみ味わう時間になるといいなと思います。

>ジムジム会のnoteはこちら

千住の1010人 from 2020年「2020年を作曲する 世界だじゃれ音Line音楽祭」

「千住の1010人」は、足立区を舞台に活動する『アートアクセスあだち 音まち千住の縁』によるプロジェクトであり、作曲家・野村誠によるプロジェクト「千住だじゃれ音楽祭」の一環として実施しています。1010(せんじゅう)人の参加者が千住(せんじゅ)に集い、さまざまな演奏や表現を繰り広げます。

本映像は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、オンライン参加型企画「世界だじゃれ音Line音楽祭」として方針転換・実施したイベントの記録映像に、1010人の演奏者たちが集うはずだった場所の風景を組み合わせて作曲、編集した10分10秒の音楽作品です。