ディスカッション 2020

新たなプロジェクトや問いを立ち上げるためのヒントを探る対話シリーズ「ディスカッション」。2020年度は、新型コロナウイルスの感染対策を考慮し、独自の切り口でさまざまな実践に取り組むゲストをオンラインに招き、3回にわたって議論を交わしました。

第1回は、「嫁入りの庭」のある社会福祉法人ライフの学校の理事長の田中伸弥さんと、庭の設計を担当したtomito architectureの冨永美保さんと林恭正さんをゲストに、庭づくりのプロセスやその背景にある想いについて話を伺いました。

第2回は、「さっぽろ天神山アートスタジオ」でディレクターを務める小田井真美さん、映像エスノグラファーとして人々の移動の経験を研究する大橋香奈さんをゲストに、お二人が取り組んでいる実践から、これからのアートプロジェクトのあり方を探りました。

第3回は、長野県松本市にあるアートセンター「awai art center」の主宰・茂原奈保子さんと、ドイツ・ライプツィヒのNPO「日本の家」の共同創設者・大谷悠さんに、まちなかに拠点を立ち上げたきっかけや、これまでの取り組みについて話を伺いました。

フラットな勉強会をどうつくる? 「ジムジム会」のひらきかた

「レクチャー方式で教わるんじゃなくて、いろいろなアートプロジェクトの事務局メンバーが集まって、お互いの活動から学ぶ点を見つけ合うようなフラットな勉強会が必要な気がするんです」

「それって”ピアラーニング”とか、”互助会”みたいなイメージですね?」

「そう。例えるなら筋トレみたいな感じで。即効性があるわけじゃなくて、コツコツ学んで鍛えることで成果につながるイメージです」

「つまり、事務局力を鍛えるジムですね!!」

……という議論をしていたのは、2018年春先のこと。

そうして当時のひらめきそのままに、ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」と名付けた勉強会シリーズを東京アートポイント計画で立ち上げ、これまでの2年間で10回開催してきました。

なぜジムジム会をはじめたのか? フラットな勉強会とは何か? そして成果やいかに……ということを2年分のまとめとしてお届けします。

”学び合い”の場が必要な理由

突然ですが、「アートプロジェクトの事務局」で働く人に出会ったことはありますか? 「ある」という方は、かなり少数ではないでしょうか。美術館やギャラリーではなく、まちなかを使ってアーティストや市民とともに新しい表現を生み出すアートプロジェクト。日本では1990年代頃から始まったと言われる文化事業の形態(※)ですが、その運営者の存在は意外と知られていません。

しかし、マラソン大会に運営本部が必要なように、文化祭に実行委員会が必要なように、アートプロジェクトにも事務局が必要です。その業務は企画、経理、広報、運営、リスクマネジメント、許可申請、アーティストとの調整、行政との交渉、住民との対話、ボランティアのケア……と多岐に渡り、さまざまな専門性とマネジメント力が求められます。文化の現場を支える重要な役どころですが、いまだにそのスキルアップや問題解消の場は限られています。

私たち「東京アートポイント計画」は、そんなアートプロジェクトの事務局をサポートする事業として展開してきました。そしてジムジム会もまた現場の課題を解きほぐす「中間支援」のひとつのかたちとしてはじまったのです。

※参考文献:『日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年』(2018年、熊倉純子監修)

お互いの広報物を持ち寄って話し合うジムジム会(2019年度)

ジムジム会のひらきかた

「つながって学び合う」というフレーズの聞こえはいいですが、実現するのは簡単ではありません。年間を通して活動するアートプロジェクトの事務局はだいたいいつも忙しく、他のプロジェクトの舞台裏まで見に行ったり、自主的に勉強するタイミングがないからです。

そこでジムジム会の企画運営チームは、いくつかの工夫をしながら進めてきました。その一部を紹介します。

✅ 同じ悩みを持つ人達を集める

大前提ですが、フラットな勉強会を目指すにあたっては、悩みや課題を共有できることが重要です。「ふむふむ、ふーん」と傍観する人ではなく、「そうそれ!」と自分事で参加してくれる人の集まりでなくてはいけません。ジムジム会では「東京アートポイント計画に参加するアートプロジェクト団体の事務局」という基準で声がけをしました。

共通の悩みをテーマにワークやディスカッションを盛りこむ(2019年度)

✅ 定期参加の仕組みをつくる

忙しい人にとって勉強会のような場はなかなか続けがたいもの。そこで「5月〜9月まで毎月1回ずつ年5回」など期間を区切り、リズムよく開催することにしました。また東京アートポイント計画事業としても、ジムジム会参加を「オフィシャルな必修講座」的な位置づけにし、事業の必要業務として出席してもらう形をとりました。その分、業務時間に参加できる仕組みです。

オンライン開催になってから出席率UP(2020年度)

✅ リアルな声に耳をすます

自分事として参加してもらうには、参加者の悩みや課題がどこにあるか、目を凝らし、耳を澄ましつつ、勉強会を企画する必要があります。だからこそ各回テーマは、「リアルな声」を最も大切にました。開催前にアンケートをとったり、寄せられた声を翌月の回で反映したり。毎回のアンケートやフィードバックの収集、それをいかに反映したかという参加者への共有は特に気をつけました。

自由記入のアンケートを毎回最後の時間にとった(2020年度)

✅ マンネリに注意する

学びの大敵はマンネリです。特にアートプロジェクト事務局の面々はイベント運営に慣れているので、勉強会の運営自体がつまらなかったり、形骸化するとモチベーションも下がってしまいます。なので、ジムジム会の企画運営チームでは、毎回かなり工夫を凝らしました。書き初めをする回もあれば、オンラインラジオ形式で届ける回もあり、記録やプレゼンの手法も毎回変えました。勉強会運営自体がひとつの実験。それを一緒に面白がれるのは「事務局の集い」という稀有な場だったからかもしれません。

最終回では、司会者が演奏するサプライズも(2020年度)

✅ 記録と共有は丁寧なほどよい

そして地味ですが大切なのは、勉強会の記録の残し方です。どうしても参加できない人はいるので、継続参加のためにも丁寧な情報共有が欠かせません。レポート記事、当日の動画、リアルタイム議事録、写真、資料……と、毎回細かく、フェイスブックグループ上で共有するようにしました。そのために記録の専任担当者も決めました。

マインドマップから絵手紙風まで様々な記録を試した(2020年度)

✅ ほどよく閉じて「安心」をつくる

最も大切なのは安心感をつくることかもしれません。日々の悩みや課題を真ん中に置いて学び合う場なので、「開示しても大丈夫」という環境を用意することが重要です。勉強会は完全クローズにし、レポート記事だけ確認をとりながらひらき、アンケートなどのフィードバックも全員で分け合うことで、安心感をつくることを心がけました。

各事務局による「ここだけの実践共有」が大事な学びに(2019年度)

✅ 運営者も楽しむ

あとこれはオマケですが、学びの場が楽しくなるかどうかは、オーガナイザーが楽しんでいるかどうかにもかかっています。ということで、ジムジム会企画運営チームは常に「楽しい」ポイントを探ることも忘れないようにしていました。

司会者がどんなトーンで挨拶をするのかも工夫ポイント(2019年度)

気になるジムジム会の効能は…?

以上が、ジムジム会で心がけていたポイントです。そして結果はどうだったかというと、少しずつですがいい変化が起きています。

たとえば、プロジェクト運営で困ったときに「あの事務局にきこう!」という連絡回路ができたり、必要資料やマニュアルの共有ができたり、活動を褒められてモチベーションがあがったり。華やかな企画の裏側で汗をかく人達だからこそ、同じような立場の人からのフィードバックや応援、コメントがとても響くようです。

何より一番うれしい成果は、「ジムジム会を続けたい!」という声が上がり、参加団体による運営持ち回りの勉強会として継続が決まったこと。「つながって学び合う」ことの本質的成果はもしかしたらもっともっと先にあるかもしれませんが、その兆しは見えてきています。

>過去のレポートはこちらから

暮らしに「間(ま)」をどうつくる?

長野県松本市の「awai art center」とドイツ・ライプツィヒの「日本の家」の拠点のひらき方を学ぶ

2020年、コロナ禍によって、わたしたちは「これまでの当たり前」が揺らぐ時間を過ごしてきました。感染症対策にもとづき、リモートでのコミュニケーションが普及し、移動が制限され人が集うことが困難に。働き方や暮らし方が大きく変わった人も少なくありません。

そうした変化のなかで、自分とは異なる考えをもつ人と出会う機会が減りつつあるようにも感じます。どうしたらこれからもさまざまな視点や価値観が同居する場をつくることができるのでしょうか?

今回は、長野県松本市にあるアートセンター「awai art center」の主宰・茂原奈保子さんと、ドイツ・ライプツィヒのNPO「日本の家」の共同創設者・大谷悠さんをお招きし、まちなかに拠点を立ち上げたきっかけや、これまでの取り組みについてオンラインで伺います。

「こうでなければならない」という思考をときほぐし、「さまざまな視点や価値観が同居する場」を立ち上げるプロセスや運営のありようは、これからのアクションを考える手がかりになるのではないでしょうか。異なるもの同士がつながり、重なり合うことで生まれる「あわい」や「隙間」の存在が、地域に新しい展開を生み出すことについて、お二人に語っていただきます。

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参加費

無料

参加方法

Tokyo Art Research LabのYouTubeチャンネルにて配信

記録映像

私たちの移動の経験はどう変わる? 「移動」と「つくる」ことをめぐって

遠隔のアーティスト・イン・レジデンスから、アートプロジェクトのあり方を探る

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、海外への移動にとどまらず、国内の移動も大きく制限せざるを得ない状況を生み出しました。現在は緩和された状況ではあるものの、ステイホームをせざるをえなかった経験は、これまで「移動」する行為を当たり前に享受していたことを実感する機会でもありました。

移動と密接にかかわる現場のひとつに、アーティストが、いつもの活動拠点から離れ、さまざまな土地に滞在して制作するアーティスト・イン・レジデンス(AIR)があります。現在の「移動」に関する先行きが見えづらい状況において、さっぽろ天神山アートスタジオでは、アーティストが札幌に訪れることなく、遠隔のままAIRを行う試みが行われています。滞在を伴わないAIRという形式では、どのような協働のかたちがあるのでしょうか。そもそも「移動」にはどのような効用があり、これからの移動の経験はどのように変わっていくのでしょう。

今回は、同スタジオでディレクターを務める小田井真美さん、映像エスノグラファーとして人々の移動の経験を研究する大橋香奈さんをゲストに、お二人が取り組んでいる実践や研究から、これからのアートプロジェクトのあり方を探ります。

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参加費

無料

記録映像

TERATOTERA祭り2020 アーカイブ映像

中央線沿線で様々なアートイベントを展開するプロジェクト『TERATOTERA(テラトテラ)』は、2020年10月15日から18日の4日間にわたり、東南アジアと日本のアートコレクティブがアート作品、パフォーマンス、演劇などの作品をライブ配信で届ける「TERATOTERA祭り2020 Collective 〜共生の次代〜」をオンラインで開催しました。

TERATOTERAの公式YouTubeチャンネルでは、オンライントークやディスカッションのアーカイブを視聴することができます。

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アーカイブ