評価の準備運動。アートプロジェクトの「評価」ってどうやってやるの?

東京アートポイント計画に参加する複数のプロジェクトの事務局が、定期的に行っている勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2022年7月に実施した第3回の「ジムジム会」では、「ファンタジア!ファンタジア!−生き方がかたちになったまち−」(以下、ファンファン)のディレクター・青木彬さんをむかえ、東京アートポイント計画の大内伸輔の進行のもと、「評価」についてディスカッションしました。

「ファンタジア!ファンタジア!」悩みからスタート

大内伸輔(以下、大内):今年度の東京アートポイント計画では、年度始めに目標を設定し、半期ごとに一緒に事業を振り返る「評価シート」の運用を始めるなど、事業評価のしかたをアップデートしています。その「事業評価」について、「ファンファン」の青木さんから相談がありました。青木さんによると「昨年度末に事業評価をしようとしたら、評価の素材や基準の設定など足りないものがあることに気づいた。今年は事業が終わってからではなく、事業を進めながら評価について考えたい」ということでした。ならばいっそのこと、この課題をジムジム会で共有して考えていけるといいんじゃないかと。それで今日は、事業評価について青木さんの問題意識を中心にみんなで話したいと思います。では青木さん、ファンファンでの事業評価について課題になっていることからお話しください。

青木彬(以下、青木):ファンファンは5年目の事業ですが、年度末に事業報告書を書きながら、自分たちの「ここができなかった」「ここを改善したほうがいいな」など振り返りをしています。ただ毎年同じ課題を引きずっていることに気づき、大内さんに相談しました。年度末に一度振り返るだけだと徐々に忘れてしまう。報告書を書いてすぐに目標をたて、1年を通して取り組むことが重要だと思ったのです。

大内:東京アートポイント計画でつくっている「評価シート」ですが、これまでは年度始めに目標を立ててもらい、年度末にその目標について評価するというサイクルでした。今年度からは評価のタイミングを上半期と下半期の2回にわけたほか、評価のプロセスを共催団体と共有するかたちに変えました。
ファンファンでは自発的に、その評価シートの「目標」の欄に、通常の目標に加えてさらにブレイクダウンした細かな目標を記載しました。こうすることで、より具体的なアクションに通じる内容となっています。なぜブレイクダウンした目標を追加したのですか。

ファンファンの評価シートの一部。赤い部分がブレイクダウンした目標

青木:昨年、非営利団体向けの「事業のロジックモデルをつくろう」という講座に参加したことがきっかけです。事業としてのコンセプトを具体的なアクションや目標に落とし込むワークショップで「このくらい具体的な内容にしないと、次のアクションも漠然としてしまうんだな」と気付いたのです。それまでは、自分たちの活動が「わかりにくい」面があるのも面白いと思っていましたが、もっとわかりやすい言葉に落とし込むのも重要だと痛感しました。

大内:一つの達成目標に対して、さらに複数の達成目標をたてていく方法は、「ロジックモデル」の特徴でもありますよね。前回のジムジム会での「理念」の話にも共通すると思いますが、立ち戻る部分を常に確認しながら事業を進めていけるといいなと思います。このあとみなさんとのディスカッションに入っていきますが、話すポイントをいくつか青木さんにつくってもらいました。

数値でははかれないからこそ、独自の評価方法が生まれていく

青木:今回、ディスカッションしたいなと思うポイントは、おもに「自己評価」「外部評価」「評価の素材の集め方」「10年事業を続けるための姿勢」の4つです。

大内:それでは、各チームにざっくばらんに聞いてみたいと思います。「HAPPY TURN/神津島」(以下、HAPPY TURN)は5年以上続くプロジェクトですが、評価についてどのような悩みを抱えていますか。ディレクターの中村さん、いかがでしょう。

中村圭(HAPPY TURN):島に暮らしていると、日常の面でも「庭の草を刈っているか」「仕事をちゃんとしているのか」など、島の人たちから暮らしの「評価」を日々受けています。一方「HAPPY TURN」のようなアートプロジェクトは、必要性を感じてもらえないこともありますが、なかには理解してくださる方も少しずつ増えています。目先の評価ではなく心に響くかどうかという活動の評価もいただけているんだな、とじわじわ感じています。 

大内:島の人々の暮らしに直結した場所で行っているプロジェクトなので、一つひとつ関係性を丁寧に積み上げていますよね。多摩エリアで活動する「多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting」(以下、多摩の未来の地勢図)の宮下さんはいかがでしょうか。市などの行政とも連携していますので、外部評価も常に意識していると思います。

宮下美穂(多摩の未来の地勢図):お話をききながら我々の「評価軸」はなんだろう、と考えていたところです。我々の法人が以前行っていた事業(小金井アートフル・アクション!)では、小金井市も入れて評価委員会をつくりました。当初は、よくある来場者数など数値をもとにした評価が中心でしたが、最終的には数値化せず、どのように客観性を持たせるかを議論し、長大な報告書をつくりました。さまざまなエピソードを抽出し、教育関係者・文化政策関係者・市民などさまざまなステークホルダーの方からコメントももらいました。

大内:数値ではなく言葉だと膨大なものになりますよね。

青木:アートプロジェクトは参加者数だけで測れない部分が大きいので、エピソードに対しいろんなバックグラウンドの人たちからフィードバックを得るのはいい方法ですね。ファンファンは最近、福祉施設と共催事業をスタートしました。施設の方々に、事前/事後のアンケートを取ろうと思っています。どのように設問を設定するかを考えていたところなので、宮下さんのお話は参考になりました。
「HAPPY TURN」も「多摩の未来の地勢図」も地域性が違うので、活動する場所によっても評価方法は変わっていきますよね。数値に表しにくいからこそ悩みます。

大内:だからこそ、新しいチャレンジがどんどん出てくるのは面白い点でもあります。

どんな人にも伝わる方法を探る

青木:今年からスタートした3つの事業は、社会課題をテーマとした事業だと思いますが、評価についてどのように考えられているのでしょうか。

大内:「めとてラボ」の和田さんはいかがですか。

和田夏実(めとてラボ):いまは事業をどう説明するかに悩んでいます。さまざまな人を巻き込むときに、はっきり言い切らない余白も大事だけれど、伝わらないのでは意味がないかなと。特に我々が関わっていく、ろうの方や高齢の方に同じ目線で伝えていくことが重要だと感じています。先日ろう学校にリサーチにいきましたが、その学校の先生にじっくりと時間をかけて話をしたら、伝わった実感がありました。ただ、これから事業の発信を進めていくうえで、会ったり直接話したりできない人に伝えるときに、誤解なく自分たちの思いが伝わるか、悩んでいます。

大内:「めとてラボ」は翻訳やコミュニケーションについて考えているチームでもあるので、言語や身体の違いのある人に伝わるよう、慎重になりますよね。ジムジム会は悩みを投げ合う場なので、これからもぜひ悩みをぶつけてください。ちなみに青木さんは活動を始めたとき、地域の人にどのように共有していきましたか。

青木:直接会って話したほうが早いと思ったので、コミュニティのハブになっているカフェにいって、2時間くらいお茶をするなどしました。

大内:メディアをどのようにつくるかも重要ですよね。以前、墨田区で「墨東まち見世」というプロジェクトを実施していたときに、高齢者にどう伝えるかを研究してチラシをつくっていました。文字を大きくして電話番号をバーンと入れて。「HAPPY TURN」でも通信を発行していますが、島の人に親近感をもってもらうために手書きにしていますよね。編集を担当している飯島さんにも、この4つのポイントについてきいてみたいのですが。

飯島知代(HAPPY TURN):『くるとのおしらせ』は1ヶ月に一度発行していて、30号以上つくっています。島に住んでいる方々は屋号を持っていて、年配の方には「君はどこ(の屋号)?」ときかれたりするのですが、最近は「『くると』の者です」というと「ああ、あそこね」といわれることもあり、年配の方たちにも届いているのかなと実感しています。
それから、この4つのポイントのなかでは「自己評価」について、チーム内だけではなく個人単位でやってみてもよいかもと思いました。

エモーショナルな部分をどうやって評価につなげる?

大内:その視点は今回入れていなかったかもしれませんが、運営するスタッフ一人ひとりにとっての目標も大事ですよね。自分の成長がチームの成長につながります。
Zoomのチャットにもコメントがきているので読みますね。「アートプロジェクトは数値ではなくエモーショナルな部分で評価されることが多い印象です。そのエモーショナルな部分をどう評価するかが難しい」と。たしかに、エモーショナルな部分をいかに冷静にみせるかですよね。

青木:評価の手法ではないかもしれませんが、最近は記録を動画に残すようにしています。動画は、現場を体験していない人にもエモーショナルな部分を共有できる素材だと思っていて。場の雰囲気を生のまま伝える方法の一つだと思います。

大内:SNSの隆盛もあり、動画は伝えるツールとしてより身近になりましたよね。紹介ムービーをつくっているプロジェクトも多いですが、たしかにエモーショナルなことを伝えられるメディアだと思います。そろそろ時間ですが、青木さん、何か聞けていないことなどありますか。

青木:聞けていないポイントもありますが、この4つのポイントは全部つながっている課題だと思います。我々「ファンファン」が活動する墨田区では、文化的な活動を長く続けている人が多い地域です。ここで長く残っていくにはどうすればよいか、評価の方法を探りながらこれからも考えていきたいです。

大内:東京アートポイント計画の事業は「10年単位で考える」といったことをキーワードにもしています。まずは10年続けるために、1年目、2年目、3年目と一つひとつステップを踏みながら目標を立て、振り返るようにしていけたらいいなと思います。

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今回のジムジム会は、グループワークやレクチャーなどをせず、「評価」というテーマで悩みや工夫をゆるやかに共有する場となりました。評価を考えることで、事業がどう伝わっているか、どう受け止められているかを抽出していくことは、活動を続けていくうえで重要なプロセスです。1年目の事業から5年以上続く事業まで、それぞれ課題や視点は違いますが、それらを言葉にすることでお互いに気づきの多い会となりました。

(執筆:佐藤恵美

ろう者の感覚を知る、手話を体験する

手話でのコミュニケーションの基礎とろう文化を学ぶ「アートプロジェクトの担い手のための手話講座」。

3ステップある講座のひとつ「ろう者の感覚を知る、手話を体験する。」が2022年7月、3331 Arts Chiyoda 3F ROOM302にて開かれた。

講師は、俳優/手話・身体表現ワークショップ講師の河合祐三子さん、手話通訳は、瀬戸口裕子さん。ステップ1の講座の様子を、実際に講座を体験したライターの視点からお届けする。

「目で見ることに慣れよう」

7月4日、第1回を実施。この日のテーマは「目で見ることに慣れよう」だ。

河合さんが参加者に、自身のサインネーム(特定の人物を簡単な手話で表現した「あだ名」のこと)を共有することからはじまった。

講師の河合祐三子さん。

続いて、参加者それぞれに名前をたずねていく。参加者が音声日本語で伝えた言葉を通訳である瀬戸口さんが手話であらわし、それを河合さんが受け取る。河合さんは、参加者それぞれの名前を手話であらわし、参加者はその手の動きをじっと眺めていた。

「手話は目で見てとらえたものをもとにつくられたものが多い言語なんです」と河合さんは語る。

それをふまえて行ったのが、ボールをまわすワークだ。ルールは、リズム良くボールを回すこと。最初は1つで行ったが、途中からはボールの数や回すものを増やしていった。さまざまな場所からものが受け渡されるので目が忙しい。

河合さんは、このワークのコツを次のように語る。「視野をどのように確保するかがとても大事です。人間はどうしても見える範囲が決まっています。また合図・アイコンタクトも重要。渡す相手が気づいていなかったら合図を出してもいいし、他の人に渡す判断をしてもいいかもしれません」

続いて行ったのは、キャッチボールだ。参加者は2列に分かれ、対面の人にボールを投げる。その際、渡し手・受け手が互いにアイコンタクトをとる。

途中からは、実際のボールは使わず、ボールがあると見立てて、キャッチボールをした。誰に渡すか、どのように投げるかは人それぞれだ。ボールの数も増減し、大きさも変化する。投げる人の動作を細かく見ていないと、どんな大きさのボールが、どのような速度・軌道で向かっているのかをイメージするのが難しい。

続いて、数字の1~5をあらわす手話を教えてもらい、それを活用したワークを実施。手話で数字をあらわし、次の人を指差す、指された人は、次の数字をあらわし、また次の人を指差すというシンプルなものだ。慣れてくると同時多発で行ったり、指差しはせずに表情や目のみで次の人を指定したりするなどのルールが追加された。

河合さん「お互いに視野を広げてアイコンタクトをとる。耳が聴こえない人は、視線や表情、身体でコミュニケーションを取り合っています。お互いに確認をとって『今いいよ』というふうに。合図がないと受け取れなかったり、驚いてしまったりするんです」

次に行ったのは、自分の意図を伝えようとするワークだ。伝え手は2つのカップを持ち、目線、表情、顎で自身の意図を伝えようとする。たとえば、「どちらかを選んでほしい」「片方が美味しい・片方はまずい」などだ。

コップのなかに3つのものが入っていて、そのうちの一つを選ぶワークも実施。どれを示しているのか、もの同士が近いとどれを指しているのかわかりづらいことがあった。

河合さん「相手が違うものを取ろうとしているのであれば、視線をずらしたり、顎を使ったり、首振りしたり、表情を使って伝えましょう。必要以上に大袈裟である必要はありません」

この日、最後に行ったワークは、伝達ゲームだ。お題を受け取った人は、音声を使わず身体で表現したり見立てを使いながら、次の人にお題として指定されたものを渡していく。

相手が渡そうとしているものと、自分が受け取ろうとしているもののイメージがすれ違い、リレーされていくと違うものになってしまう場面もあった。「ホットタオル」を表現していたはずが、リレーによって「活きのいい魚」というイメージに変化していったのだ。

河合さん「今日のワークは、見る・伝え合う・感情を受け止めるをやりました。これは聴こえる人、聴こえない人、関係なく皆さんが日頃やっていることだと思います。腰が痛いとか、ここがかゆいなど、生活のなかで自然とやっている身体表現が人それぞれある。

今日の体験を踏まえて、視野をひろげ、まわりの人がやっている自然な動作を見たり、自分を表現してみたりしてみてください」

ワーク終了後には質疑応答の時間があり、そこでいくつかの質問が河合さんに投げかけられた。

Q. 指差しに抵抗があるが、失礼ではないのか?

河合さん「手話では、指差しで主語をあらわします。指差しをすることで、誰が話をしているのか、誰のことを話しているのか、はっきりと示すことができるので、むしろ大切なんです」

Q. ろう者とのコミュニケーションでやってはいけないことは何か?

河合さん「たくさんあります。たとえば、会話中に目線を逸らすこと。目線を逸らすと、そこで会話が中断してしまうため。目線を外したくなるような気になることがあったら、相手に少し待って、とまず伝える必要があるんです」

「全身を使って伝え合おう」

7月11日、第2回を実施。この日のテーマは「全身を使って伝え合おう」だ。手話での挨拶(片手を額の横で上げるような動き)をひとつ教えてもらい、実際に挨拶してみることからはじまった。

河合さん「同じ挨拶だとしても、年齢が上、同級生など関係性によって、身体のニュアンスが変わりますよね。手話もそうなんです。

違う部分があるのはおじぎです。聴者はおじぎで目線を下げると思います。でもろう者は下げません。目線を合わせてアイコンタクトをして挨拶します」

この日、主に行ったのは身体全身を使って、何かを伝え合おうとするワークだ。

たとえば、実際のボールを使わずに、ボールがあると見立てて渡しあうワーク。ルールは、ボールを渡すとだんだん重くなったり、軽くなったりしていくこと。

河合さん「重いものを受け取ったときと軽いものを実際に受け取ったとき、表情も変わるはずです。肩の動きが変わるかもしれません。重いかな、と予想して受け取って、意外と軽かったみたいなこともあるでしょう。普段の動きを思い出しながら、全身を使って表現してみてください」

続いて行ったのは、出されたお題を身体で表現して伝言リレーするワーク。ルールは、お題とされるものの輪郭をなぞり説明するのではなく、実際に使っているときの動作などで伝えること。

河合さん 「伝えようとして、相手とずれてしまうのは当たり前のことです。ずれていると気づいたときに指差しとか、表情など表現を工夫してみるのが大切です。

また受け手は、相手の手だけではなく、表情、身体全体の動きをみてください。たとえばマグカップの渡し方一つとっても、小指をたてて渡すのと、雑に渡すのでも印象が違いますよね。それも情報になる。指の形によっても違うでしょう。カップといってもいろんな種類があります」

さらに、ものを伝えるのではなく、そこに感情やそのものの状態も含めて伝言するというルールが追加される。たとえば、お茶ではなく「熱いお茶」だ。

河合さん「渡した後の動きにも情報があります。壊れやすいものを手放すときは、そっと手放すかもしれない。あるいは、臭いものと汚いもので微妙に動作が変わる。臭いものは、においから距離をおきたい動作が強いかもしれない。息を止めるかもしれない。そういった身体感覚を思い出してみてください」

ワーク終了後には質疑応答の時間があり、ある質問が河合さんに投げかけられた。

Q. 身体表現はオーバーリアクションの方がいいのか?

河合さん「場所・環境によります。聴こえる人も状況によって、ひそひそ声、大声など自然に変えますよね。手話だと身体が動くので、大きく見えたのかもしれませんが、状況に合わせてコントロールするのがいいと思います。

ひとつ共有したい話があります。スマートフォンの話です。ろう者は使い方に特徴があると思うんです。画面をスクロールしたり、操作するときの指先に手話が混じっていたり、触り方にろう者っぽさを感じるときがあります。

そもそもスマートフォンの使い方は人それぞれの特徴があると思うので、ぜひ観察してみてください。動き・速さ・スピード。電車に乗っていて駅を確認する仕方も、ろう者と聴者は違うんですよ」

「質問に答えてみよう」

7月25日、ステップ1の最後である第3回を実施。この日のテーマは「質問に答えてみよう」だ。冒頭に河合さんが次のことを共有する。

河合さん「先週言い忘れたのですが、気づいたことがありました。聴こえる人は、察して動いてしまう人が多いということです。音声言語で共有されたことを1を聴いて、10行動してしまう。たとえば、他の人に出された指示を先読みして、自分が指示される前に動いたり。そんなときわたしたちろう者は待ってほしい、と思います。誰に対して、何をしてほしいのか、先走って行動するのではなく、少し待ってほしい。聴者はハイコンテクスト、ろう者はローコンテクストの文化に馴染みがあり、それぞれにずれがあるように思います」

この日行ったのは、一人がお題を身体であらわし、もう一人が何をあらわしているのか答えるワークだ。答える方法は、空中に指を動かして文字を書く「空書き(そらがき)」か、手のひらに文字を書く「手のひら文字」だ。

河合さん「『空書き』は相手側の向きに合わせなくて大丈夫です。縦書きでも、横書きでも大丈夫ですが、読み手の目線に入る距離、大きさで書くのがおすすめ。自分と相手の視界に入るように書きましょう。

また、お題を表現する側は、できるだけワンアクションで伝えてみましょう」

実際にやってみると、ワンアクションで表現するのは難しい。お題のどの部分を、どの特徴を選ぶか、それをどのように表現すればいいのかを即座に判断しないといけないからだ。

河合さん「『美術館』というお題があったとき、ただ立つだけではなく、考えながら絵を眺める体の動きになるとワンアクションで伝わることもあるかもしれません。お題が『指輪』のときと『結婚式』のときでもあらわし方が違うでしょう。『神社での結婚式』だと、またさらに違います」

河合さん「まずは一発で伝えようとする。そして相手に伝わらなかったら次の情報を伝えていく。最初から一方的に伝えず、相手に確認しながら付け足していく方法もあります」

ここでルールが追加された。お題をあらわすカードに禁止事項が書かれており、それを避けながら伝え手は表現する。受け手は、それを見ながら、ホワイトボードに受け取った情報を書いていく。

河合さん「受け手が受け取ったものを書くとお互いに次のイメージがしやすくなりますよね。最初は、サンドイッチなのかハンバーガーなのかわからないけど、『手で掴んで食べる何かであること』はぼんやりイメージできる。さらにやりとりを重ねて書いていくと、より具体的なイメージができていく。ろう者はこういうやりとりをしています。イメージを連想しながら、答えにたどり着いていく。そんな物事のとらえ方をしているんです。

人のコミュニケーションは、身振り、顔の表情、声の抑揚など非言語の部分が大きな影響を受けていると言われています。つまり、コミュニケーションは言葉の意味のやりとりだけではないんです。非言語コミュニケーションからも受け取っているものが多くある。それを頭の中でイメージして、相手がどういうことを言いたいのか解釈する。聴こえない人もそうやって、日々コミュニケーションしているんです」

ワーク終了後には質疑応答の時間があり、複数の質問が寄せられた。

Q. 空書きをするとき、漢字で書くのがいいのか、ひらがなで書くのがいいのか?

河合さん「いろいろなタイプがいます。漢字がわかっても、読み方がわからない人もいるんです。手のひら文字の場合は、漢字だとありがたいです。空書きは、どっちでもOK。とりあえず漢字で書いて、伝わらなかったらひらがなでもいいかもしれません」

Q. 一方が知らないものを伝えたい場合は、どうするのがいいのか?

河合さん「さまざまな方法で表現する。わからないときは、要素を抽出して、段階的に伝えていくとか。コミュニケーションは年代とかでもズレていく。それは当然なので、やりとりを繰り返しながら伝え合っていく。諦めてしまう人も多いけれど、諦めずやりとりを続けてほしいです」

「『目で見る言語』である手話を体得していくための、柔軟体操のような講座です」ステップ1の紹介文にはこう書かれている。まさに柔軟体操だった。

普段無意識に行っている「見る」という行為を身体を動かしながらほぐす。他者の手の動き、表情、目線、身体全体を見る。伝える行為の最中だけではなく、その前後から見る。受け取ったものを表現し、相手のリアクションを見ながら、ずれを確認する。さまざまな「見る」を体感することで、「見る」からはじまるコミュニケーションと出会い直せた。

この経験をもとに、次のステップである「手話と出会う。」に参加できるのが、今から楽しみでならない。

(執筆:木村和博/編集:嘉原妙/撮影:齋藤彰英)

関連情報

■step2|プラクティス:手話と出会う。 *申込終了
2021年度に公開した「映像プログラム」を教材に、手話でのコミュニケーションの基礎を学ぶオンライン講座です。映像プログラムは、いつどこからでも視聴いただくことができます。

■step3|コミュニケーション:手話を使い会話する。[対面講座(全6回)]  *申込終了
アートプロジェクトの現場のシーンを想定した会話を通して、手話でのリアルなコミュニケーションを実践できる対面講座です。
イベントの受付対応や、展示会場や劇場での座席のご案内、ショップでの商品説明や販売対応災害時の対応、自動販売機やお手洗いのご案内など、いま、参加者が学びたい手話表現やコミュニケーションをロールプレイ形式で身につけます。詳細はこちらから

ケーススタディ・ファイル

2011年以降に生まれた多様なアートプロジェクトを取り上げ、どのようにプロジェクトが発生し続いてきたのか、これからどこへ向かおうとしているのかを、実践者が語ります。

ゲストは、岩井成昭さん(美術家/イミグレーション・ミュージアム・東京 主宰)、滝沢達史さん(美術家)、青木彬さん(インディペンデント・キュレーター/一般社団法人藝と)、アサダワタルさん(文化活動家)、清水チナツさん(インディペンデント・キュレーター/PUMPQUAKES)、中村茜さん(株式会社precog代表取締役)、松本篤さん(NPO法人remoメンバー/AHA!世話人)、キュンチョメ(アートユニット)です。

非営利団体のブランディングとは? 「理念」を整理することからはじめよう!

東京アートポイント計画に参加する複数のプロジェクトの事務局が、定期的に行っている勉強会「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」。2022年6月に行われた第2回では、コミュニケーションデザイナーの柏木輝恵(かしわぎ・きえ)さんを迎え、「非営利団体のブランディング」について考えていきます。

ブランディングに必要なのは「会議」よりも「話し合い」

情熱を持って活動を始めても、日々の多忙な業務のなかで、活動の意義やその成果を振り返ることがあとまわしになりがちなアートプロジェクトの現場。東京アートポイント計画に参加する非営利団体もこうした悩みを抱えています。

今回のジムジム会の目的は「プロジェクト発信のポイントを考えるための想いが伝わるブランディングや理念の考え方、整理の仕方を知る」こと。一見非営利団体には縁がなさそうな「ブランディング」という観点から、レクチャーとグループワークを通して自分のプロジェクトを見つめ直し、言葉にしていきます。

講師は、兵庫県加古川市でコミュニティづくりや組織支援を行うNPO法人シミンズシーズの事務局次長をつとめる柏木輝恵さん。柏木さんは10年以上にわたり非営利団体とのチームづくりやコミュニケーションの場づくりに携わるなかで、たびたび「思いが伝わらない」という現場の悩みに触れてきました。そこで思いを伝えるには、団体の「理念」を軸にしたブランディングが重要だと考え、『NPOのための思いを伝わる言葉にするワークブック』(発行:NPO法人シミンズシーズ)を制作しました。

今回はこの本にあるワークシートを使ってワークショップを行っていきます。

[ジムジム会 第2回の流れ]

  1. 柏木さんによるレクチャー
  2. 事前に記入したワークシートをもとに団体内で話し合う
  3. 2で話し合ったことを、他団体と共有、フィードバックをもらう
  4. 3の内容を、また団体内メンバーで話し合う

「今日は、ためらわず、感じたことを出し合ってください。Zoomを介した話し合いですのでリアクションも3割増しでお願いします」と柏木さん。ブランディングに必要なのは「『会議』よりも『話し合い』」と話します。

「ブランド」とは信用や信頼を得ること

まずは柏木さんのレクチャーから始まりました。私たちの日常生活において「ブランド(Brand)」は身近なもの。その語源をたどるとBurned」という牛を区別する焼印のことだそうです。つまり、自分が飼っている牛がどれかを識別するために入れた印が、品質を保証し、価格差を生んで生む印となっていきました。

誰もが知るブランドを思い浮かべると、その特徴は明確で一貫性があります。その背景には「志」があり、それにともなう行動や表現が一体となり、それが信頼や信用につながっていく。さらにほかとの「差異化」があるのも重要です。

しかし一貫した「志」をどのように伝えると、具体的な参加や関わりにつながっていくのでしょうか。そのポイントは「ゴールデンサークル理論」と呼ばれるものがあります。

ゴールデンサークルとは、中心から「Why(なぜ)」→「How(どうやって)」→「What(何を)」と外側に広がっていく円。その順で伝えることで共感を生みやすいという理論です。人は「なぜそれが生まれたのか」「なぜそれをやっているのか」に心を動かされる。そのストーリーが人を動かし、共感を呼ぶのだそうです。

「Why」というストーリーが共感を呼ぶ

「なぜ(この取り組みをしているのか)」を伝えるには、まずは「自分たちは何者か」、つまりアイデンティティや存在意義につながる「理念」を明らかにする必要があります。

今回のワークショップではその部分を考えていきますが、「理念」は抽象的な言葉でもあるので、具体的なブランディングの用語「ミッション」「ビジョン」「バリュー」「スピリット」「スローガン」にわけて考えるとイメージしやすい、と柏木さん。「ミッション」が日々果たすべき使命であるのに対し、「ビジョン」はその先にどんな社会や地域を描くかという未来のこと、「スピリット」は一人ひとりの大切にすべき精神のことなど、理念と一口にいっても目的によって何を語るかが違ってくるのです。

企業のブランディングとNPOのブランディングの違いについて、「理念を軸にすること自体は変わりません」と柏木さん。ただ、商品を売る場合はマーケティングを行い市場で何か求められているかを基準にすることが多いですが、NPOの場合は、内部から「変えたい」という思いからスタートしているのではないか、と柏木さんは話します。その思いを理念として言葉にしていく。できるだけ短く、コンパクトに伝えていくことが重要です。

「さまざまなプロジェクトを行うなかで、団体として変わる部分と変わらない部分があると思います。そのなかでも変わらない部分が、団体として受け継がれるDNAと考えてみてください。その部分を紐解くことが『自分たちらしさ』のヒントになるでしょう」

エピソードから「自分たちらしさ」を言葉にしていく

ここからはワークショップへと移ります。事前にそれぞれがワークシートに記入した次の2つのことを、団体内で共有していきました。

  1. 喜ばれたエピソード
  2. 私たちの活動の意義と大切にしている行動や価値観

活動6年目の「HAPPY TURN/神津島」(以下、HAPPY TURN)のチームを中心に、どんな話がされたのかを紹介していきます。HAPPY TURNでは、4人のメンバーが参加しました。「信用や信頼につながるブランディングのためには、意図をみんなが共有してパッと答えられるのは重要だと思う。その言葉ができたら、どこかに貼っておくのもいいかも」とメンバー。

HAPPY TURNでは、「くると」というスペースをつくり、週に3回ほど開放しています。「くると」に集う人はワークショップに参加したり、スタッフとして掃除のアルバイトをしたり、ただ来て話して帰ったり、と利用方法はさまざまです。

「1. 喜ばれたエピソード」を一人ひとり紹介するなかで子育てで忙しいお母さんたちに喜んでもらった」経験が複数話されました。「家で子育てをしていると社会から孤立してしまうけれど、『くると』に来ると、社会とつながることができる」と話すメンバーも、自身が子育てをしながら運営に携わります。

またほかのエピソードとして「子供が『ここで友だちができた』と話していたのが印象的。特に、Iターンで移住した家族の子供はなかなか関わりがつくりづらいですが、ここで友だちができた、と。子供たちが両親ではない大人に出会う経験も重要ではないか」と話されました。

次に二つ目の項目である「活動の意義」として「いろんな人がいるなかでいろんな価値観に触れ合える」「やってみたいことが安心してできる」「自分とは違う価値観と向き合える」があがりました。さらに「大切にしていること」は「だれでも来られる場所にしておくこと。自分たちの常識を押し付けるのではなく、見守ったり寄り添ったりすること」などがあがり、HAPPY TURNでのプロジェクトの意義を再確認していきました。

20分ほどメンバー間で話し合ったあと、HAPPY TURNはほかの3団体と合流し、話しあったことを共有していきます。ほかの団体からは「HAPPY TURNは島という地域の特徴が現れているプロジェクトだと思いました。その『島らしさ』が外に発信されるといいですね」などのコメントがありました。

その後、また団体のメンバーのみで話し合っていきます。ここからさらに言葉をしぼっていく作業です。HAPPY TURNも、キーワードがたくさん出ました。「自由」「安心」「楽しい空間づくり」「つながる」「解放」「他者や自分と向き合う」「遊びごころ」「しる」「やってみる」「いきやすさ」「オープンマインド」「ウェルカム」「であう」………。時間内には絞りきれませんでしたが、一人ひとりが活動への思いを言葉にし、共有する経験は貴重な時間となりました。

活動の仲間を増やし、プロジェクトの信頼につなげていくために

最後に、柏木さんから理念を策定していくステップが紹介されました。

理念策定のステップ

  1. 素材をさまざまな角度から洗い出す
  2. 素材を抽出する
  3. (文章にしたり、箇条書きにしたり)抽出した素材を項目ごとにまとめる
  4. 項目間の整合性を確認する
  5. まとめた素材を短く・らしく磨いていく

「今回は限られた時間のなかで1や2を行いましたが、理念をつくりそれを言葉にしてくにはもう少し時間をかけて取り組む必要があります」と柏木さん。

「今日のようにまずは団体のなかで話して、すり合わせていくのが大事です。『何をやるか』も日々も重要なことですが、『何のために』という本質的な部分、どこに自分たちらしさがあるのか、もぜひ心に留めてください。短い言葉で内外にわかる状態にしていくのが行動につながるのではないか、と思っています」

ジムジム会終了後の参加者アンケートからは、各団体の手応えが見受けられます。

「他の団体の方と話しながら考えることで、別の角度から自団体の特色が見えてきました」

「団体としての目的やプロジェクトの意味などなんとなく理解しているつもりでしたが、いざ言語化となると自分の言葉で話すのは難しいな、と感じました。もっと考える力や知識を身につけていきたい」

「理念とミッションがごちゃごちゃになったり、個人軸のスピリットと組織軸のバリューが混ざったりして会話をするからかみ合わないのかもしれないという気づきもあり、再度皆で整理しながら話し合いをしようと思いました」

自分たちの「らしさ」を改めて見つけ、メンバーで共有し、言語化していく。活動の仲間を増やし、プロジェクトの信頼につなげていくための重要なステップとなったようです。

(執筆:佐藤恵美

わたしの気になること 「多摩の未来の地勢図をともに描く」ワークショップ記録 レクチャー編/フィールドワーク編

多摩地域を舞台に、地域の文化的、歴史的特性をふまえつつ、さまざまな人々が協働するネットワークの基盤づくりを進める『多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting』。その活動の一環として2021年度に開催した連続ワークショップの記録集です。

さまざまなフィールドで活動するゲスト6名を招いたレクチャー編と、写真家・豊田有希をゲストアーティストに迎えたフィールドワーク編を収録。別冊附録では、レクチャー編の内容を読み解きました。

首都東京を辺境として外から見ることを試みる、あるいは自分自身に執着する「わたし」を、辺境と定置き外から見ることを試みるとき、辺境としてのそれらを照らす光として、水俣、沖縄、福島、あるいは新潟といった、近現代の日本を支えた地に助けを借りたいと思います。水俣や沖縄、福島に立ち、その地の歴史を持って首都東京を見ること、東京あるいは多摩を相対化し、立脚点をずらし、視点を変えていくことで、これからの私の、私たちの暮らしについて、新しい眼差しを得ることができないか、あるいは、大変に遅まきながらであっても彼の地とのこれまでとは違う、一方的な搾取を超えた何かを紡ぐことができないかという願望に基づいた仮説でもあります。立脚点をずらしていくこと、その回転運動が血流をよくし、あるいは呼吸をしやすくするのではないか? 反転させてみること、あちら側からこちらを見ること、これらを成すために、アートは時に思いもよらない(危ういながらも確たる、そして変わり続ける事を肯定する)足場を提供します。

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もくじ

なぜ、多摩の未来の地勢図をともに描くのか?
宮下美穂(NPO法人アートフル・アクション事務局長)

レクチャー編
第一回 生きてきてくれてありがとう。安心と楽しいを一緒に育む
高橋亜美(社会福祉法人子供の家 ゆずりは所長)

第二回 揺らぎと葛藤を伝える−水俣病患者相談の今
永野三智(一般社団法人水俣病センター相思社職員)

第三回 ハンセン病療養所で描かれた絵画−国立療養所菊池恵楓園・金曜会の作品を見る
木村哲也(国立ハンセン病資料館学芸員、民俗学者)

第四回 分断のなかにつながりを発見する−アートプロジェクト{つながりの家}と「旅地蔵」
高橋伸行(アーティスト、愛知県立芸術大学教授)

第五回 「なりたい自分になる」とは?−「カマボール」の企画・実施に携わって
松本渚(NPO法人釜ヶ崎支援機構職員、釜ヶ崎芸術大学運営チーム・かまぷ〜)

第六回 老い、ボケ、死に向き合うための「演劇」−劇団OiBokkeShiの活動からの提案
菅原直樹(俳優、介護福祉士、劇団「老いと演劇」OiBokkeShi主宰)

開催記録

別冊附録 語り合うことで見えてくること−フィールドワーク試論

フィールドワーク編 講師:豊田有希
第1回 黒岩地区で写真を撮るということ−「あめつちのことづて」の制作をめぐって
第2回 黒岩の暮らしのこと−黒岩地区にお住まいの方々と一緒に
第3回 多摩地域での制作①−リサーチを始めて
第4回 多摩地域での制作②−多摩ニュータウンと堀之内
第5回 「REBORN プロジェクト」坂本展①−さかもと復興商店街より
第6回 「REBORN プロジェクト」坂本展②−展示とその後
第7回 コンタクトシートなどについて−フィールドワーク、リサーチでの気づきの残し方

*PDFは、「レクチャー編」と「フィールドワーク編」の2冊と別冊附録をまとめたものです。

2022年のジムジム会スタート! 9つのアートプロジェクト事務局が、オンラインで集う勉強会

「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」は、東京アートポイント計画に参加する複数のアートプロジェクトの事務局が集い、定期的に行っている勉強会です。
2022年度は、9つのプロジェクトによる新たな顔ぶれでスタート。20名以上のメンバーがオンラインで集った、第1回目の「ジムジム会」をレポートします。

東京アートポイント計画、2022年度のポイントは?

2022年5月に行われたジムジム会。プログラムオフィサーらと各事務局のメンバーがZoom上で集合。これまで継続してきた6つのプロジェクトに加え、今年から新たに3つのプロジェクトが参加。各事務局からディレクターや事務局長、会計担当などのメンバーが集いました。

前半では東京アートポイント計画ディレクター・森司の挨拶の後、東京アートポイント計画事業の実施方法である「共催事業」の基本を学びました。

「この2年はコロナ禍で非接触のイベントが続いていましたが、今年度は対面での事業も少しずつ増えていく状況になることを期待しています」とディレクターの森。続けて、「今年度は事業評価のプロセスをひらき、事務局との双方で評価していきます」と述べました。
評価軸はプロジェクトの「運営」と「企画」。この2つの視座は、アートプロジェクトを持続的に行っていくためにどちらも必要なものです。年度の初めに1年間の目標を立て、年度末に双方で評価を行います。

共催って?共催事業、基本の「き」

次に、プログラムオフィサーの大内伸輔より、東京アートポイント計画の「共催事業」とは何かについて、話しました。

アートプロジェクトの拠点づくりやコミュニティの育成を目指しスタートした東京アートポイント計画は、今年で14年目を迎えます。これまで通算で56の団体とプロジェクトを実施。「助成」ではなく、東京都とアーツカウンシル東京、そして各プロジェクトを運営する団体とがパートナーシップを組む「共催事業」で実施していることが特徴です。
共催事業である理由。それは単発のイベントではなく通年のアートプロジェクトの実施を通じて、共催団体が持続可能な活動を行う基盤整備をしていくことを目指しているからです。東京アートポイント計画で事務局を担う共催団体は、スタートしたばかりのNPO法人や一般社団法人が多いのですが、大内をはじめとするアーツカウンシル東京のプログラムオフィサーと一緒に、二人三脚でプロジェクトを進めていきます。これから1年間プロジェクトを運営するにあたり、大内から改めて、年間の計画や、広報のフロー、情報管理のルールなどについての説明がありました。

東京アートポイント計画は、社会に対して新たな価値観や創造的な活動を生み出すための拠点となる「アートポイント」をつくる事業です。東京都・アーツカウンシル東京・NPO*との共催で行っています。当たり前を問い直す、課題をみつける、異なる分野をつなぐ――そうしたアートの特性をいかし、個人が豊かに生きていくためのよりよい関係や仕組み、コミュニティづくりを目指しています。

東京アートポイント計画公式ウェブサイト

9つのプロジェクト始動!各プロジェクト、自己紹介

一度休憩を挟み、各プロジェクトの自己紹介へ。昨年から継続したプロジェクトのなかで、長いものは6年目。新たに加わったのは「めとてラボ」「KINOミーティング」「カロクリサイクル」です。それぞれのプロジェクト事務局から、簡単な自己紹介と、「最近はまっていること」を一人ずつ話していきました。

各団体の事務局のメンバーは、東京アートポイント計画のプロジェクトに関わる以外に、キュレーター、デザイナー、通訳者、ダンサー、文化施設スタッフから、バスの運転手や子育て中のお母さんまでさまざまな仕事やバックグラウンドを持ちます。「最近はまっていること」も千差万別。ベランダ菜園、空き家改修、語学、農業、パワーリフティング、自転車、山登り、社交ダンス、吹き矢、アニメ鑑賞など、今年も多様なメンバーが集まりました。

各プロジェクトの2022年度の企画を紹介します。

HAPPY TURN/神津島

昨年度からの継続事業、神津島村を中心に活動。島での拠点づくりやコミュニティを醸成してきたプロジェクト。今年は拠点「くると」をより開くことを目標に、親子や移住者を対象にしたアートプログラムを展開しています。

・詳細は公式ウェブサイトから

ファンタジア!ファンタジア! ―生き方がかたちになったまち―

昨年度からの継続事業、墨田区を中心に活動。アーティストや研究者と出会い、豊かに生きる想像力を学ぶプロジェクト。今年は福祉施設との協働や、地域アーカイブの活用、日常の当たり前を見直すワークショップなどを開催します。

・詳細は公式ウェブサイトから

Artist Collective Fuchu [ACF]

昨年度からの継続事業、府中市を中心に活動。年齢や職種が多様な人が交流しながら、誰もが表現できるまちをつくることを目指しています。今年度は拠点の開設と、企業との連携により廃棄素材の活用を試みるプロジェクトを昨年から継続して行います。

・詳細は公式ウェブサイトから

移動する中心|GAYA

昨年度からの継続事業、世田谷区を中心に活動。昭和のホームムービーを活用して、記録から現在を見つめ直すコミュニティアーカイブプロジェクト。今年は例年のワークショップに加え、外部団体と連携したプログラムを実施予定です。

・詳細は公式ウェブサイトから

ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)

昨年度からの継続事業、国立市を中心に活動。多様な人々が交流するプラットフォーム形成から新たな文化や社会課題への視点をつくります。今年度はアーティストとともに行うプログラムや、市内の遊休施設を活用した、活動の拠点づくりを目指します。

・詳細は公式ウェブサイトから

多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting

昨年度からの継続事業、多摩地域を中心に活動。小学校や養護施設と協働しながら、多摩地域の地勢を参加者と探り、暮らしを見つめ直すプログラム。今年度は昨年に引き続き、小学校を拠点に教員や地域のネットワークの形成、多摩の地勢をとらえなおすワークショップなどを行います。

・詳細は公式ウェブサイトから

めとてラボ

今年度からの新規事業、都内各所で活動。異なる身体性、感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会をつくるプロジェクト。拠点形成、実践者や専門家・事例等のリサーチをはじめ、チームづくりや事業成果を可視化するプラットフォームづくりを行います。

・詳細はアーツカウンシル東京ウェブサイトから

KINOミーティング

今年度からの新規事業、都内各所で活動。フィールドワークや映像制作を軸に、海外にルーツを持つ人たちの協働の場をつくるプロジェクト。活動を通し、参加者自身のルーツと、現在生活しているエリアやコミュニティとの関係性を探ります。

・詳細はアーツカウンシル東京ウェブサイトから

カロクリサイクル

今年度からの新規事業、江東区などで活動。これまで東北を中心に被災の経験を記録してきた一般社団法人NOOKが事務局となり、災禍に関わる対話のプラットフォームづくりを目指します。

・詳細は公式ウェブサイトから

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各プロジェクトについて、詳しくは東京アートポイント計画公式noteもご覧ください。

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こうして自己紹介が終了。次回、6月には、「広報」をテーマに開催します。

アーツカウンシル東京の主催で設定したジムジム会は全5回の予定ですが、例年、事務局側が自主的に集まるオフ会のような集まり「ゆるジムジム」なども実施されています。別の地域で活動する団体とも横のつながりが生まれ、それぞれの活動や悩みを共有できる場が、ジムジム会の大きなメリットでもあるのです。

運営裏話〜初めて手話通訳を導入〜

最後に運営側の裏話として、手話通訳についても触れたいと思います。今年度加わった「めとてラボ」にはろう者のメンバーもいるため、今回のジムジム会から手話通訳を導入。ジムジム会では初の取り組みとなりました。

これまでにもジムジム会の情報保障としては、UDトーク(自動文字起こしのサービス)を試したことがあり、今回も導入しましたが、オンラインでの手話通訳は初体験。事前のリハーサルでは「画面共有やスピーカービューだと手話通訳が見えなくなる」という課題を確認し、手話通訳者を「スポットライト表示」で画面に常に表示させたり、通訳の交代は画面のオンオフで行ったりと、細かな調整を行い、本番はスムーズに進行できました。

・参考記事「Zoom ✕ UDトークで、リアルタイム字幕を表示するには? 実験してみました

参加した団体からは「手話の方と一緒にZoomミーティングをしたのは初めてで、とても新鮮でした。自分の話していることが手話になっていることを考えると、自分の話す速度や言葉づかいを意識する瞬間がありました」という感想も。

手話通訳が入ることで、自然と話すスピードや伝わる言葉を意識するようになったようです。各団体にとって、アクセシビリティへの意識やスキル向上のOJTになる可能性も見えた会でした。

(執筆:佐藤恵美

アセンブル1 Multicultural Film Making ―ルーツが異なる他者と映画をつくる Multicultural Film Making Archives

さまざまなルーツをもつ人々が協働し、東京のまちを舞台に1本の映画をつくることを試みた「アセンブル1|Multicultural Film Making ルーツが異なる他者と映画をつくる」。本書は、その活動のプロセスをまとめたものです。

多様なルーツをもつメンバーが対話やリサーチを重ねて、制作に取り組み、上映会を迎えるまでを記録したレポートや、移民や多文化を専門とした研究者2名による論考、運営にかかわったスタッフの座談会などを英訳付きで収録しています。

東京は流動的な大都市です。夢を持ってやってきた人がいて、まだ道を探している人もいて、これから次のまちへ出発する人もいて、もちろん既に他の地に移り、過去東京であった出来事を懐かしむ人もいます。あなたも私も、いつか東京と別れる日が来るかもしれません。時間と距離を置いたら、このまちへの思いが変わって、ここでの出会いは人生の重要な糧だと気づくでしょう。私たちが一緒につくりあげた「 ニュー・トーキョー・ツアー」はまさにその物語です。

このブックでは、そんな映画がどのようにできたのか、活動の記録をお伝えします。このまちで、居場所を探している人、宙ぶらりんな自分で悩んでいる人、ルーツが異なる他者に関心を持つ人にとって変化のきっかけになることを期待しています。

(p.2「はじめに」より)
もくじ

はじめに

レポート#0~3
メンバーコメント A期
レポート#4~6
メンバーコメント B期
レポート#7~9

監督&メンバートーク「まちで見つけた自分と他者」
監督&メンバートーク「映画をつくる前と後 わたしたちの変化」

『ニュー・トーキョー・ツアー』
ーこの「まち」の新しい物語をつむいでいくのは誰か ハン・トンヒョン

わたしたちの「新しいまち」へ
ー多文化チームの協働による映画づくりプロジェクトの可能性ー 徳永智子

運営スタッフ座談会

おわりに

アートプロジェクトの運営をひらく、◯◯のことば。

まちなかを舞台にする「アートプロジェクト」には、日々の運営を支えるさまざまなノウハウや事業設計の方法があります。

この動画シリーズでは、そうしたアートプロジェクトの運営に必要な視点や課題について初歩から学ぶために、書籍『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』からテーマを選び、紹介します。

くるとのおしらせ

神津島を舞台にしたアートプロジェクト『HAPPY TURN/神津島』の企画や、島の伝統、伝承、地域文化などを発信する定期刊行物です。2021年度までに28号を発行しました。活動拠点である「くると」での配布のほか、島内の各世帯へ一斉配布されています。

*クレジットは最新号のものです。