メディア/レターの届け方 2025→2026

アートプロジェクトの現場では、さまざまなかたちの報告書やドキュメントブックが発行されています。ただし、それらの発行物は、書店販売などの一般流通に乗らないものも多いため、制作だけでなく「届ける」ところまでを設計することが必要です。

多種多様な形態で、それぞれ異なる目的をもつドキュメントブックを、どのように届ければ手に取ってくれたり、効果的に活用したりしてもらえるのか? 資料の流通に適したデザインとは何か? 東京アートポイント計画では、川村格夫さん(デザイナー)とともに各年度に発行した成果物をまとめ、その届け方をデザインするプロジェクトを行っています。受け取る人のことを想像しながら、パッケージデザインや同封するレターを開発します。

2025年度は、今後の連携を見据えて、東京アートポイント計画を担当してきた「事業調整課」が所管する事業「クリエイティブ・ウェルビーイング・トーキョ―」で制作したドキュメントブックやツールもあわせて送付することに。そのため、大容量でもコンパクトに送付できるよう、厚めで弾力のある段ボールを用いたパッケージとなりました。表面には、各ドキュメントから抜き出したさまざまな言葉(WORDS)を印刷し、春をおもわせる桃色のテープで留めてお届けしました。

詳細

進め方

  • 同封する発行物の仕様を確認する
  • 発送する箱の仕様や梱包方法の検討
  • 発送までの作業行程の設計
  • パッケージと同封するレターのデザイン・制作

多摩ニュータウンをスタディする

「暮らしの横道」から、ニュータウンを読み直す

多摩ニュータウンは東京都の多摩・八王子・町田・稲城の4市にまたがる多摩丘陵に計画された日本最大級のニュータウンです。1965年に計画が決定され、1971年に入居がスタートしました。

入居開始から50年以上が経ち、まちも人々の暮らしも少しずつ変化してきました。そうした記憶と営みをつなぎながら、文化的な視点からまちを読み直し、人々の新たな交流を生み出す回路をつくるためのリサーチやディスカッションなど(=スタディ)を行います。

詳細

内容

  • 多摩ニュータウンをリサーチする視点の抽出
  • 歩行者専用道路に沿ったまち歩き
  • 新たなプロジェクトの構想
  • 『多摩ニュータウンガイドマップ』の制作
  • 多摩ニュータウン関係者とのディスカッション

期間

通年

主催

東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

企画制作

スタジオメガネ

多摩ニュータウンガイドマップ

多摩ニュータウンは、東京都の多摩・八王子・町田・稲城の4市にまたがる多摩丘陵に計画された日本最大級のニュータウンです。入居開始から50年以上が経ち、まちも人々の暮らしも少しずつ変化してきました。これまでの記憶と営みをつなぐ、多摩ニュータウンガイドマップです。

多摩ニュータウンを一つのエリアとして捉え直し、まちで生まれゆくこれからの文化を考えるプロジェクト『多摩ニュータウンをスタディする』の一環として制作されました。

巨大な住区を小さな個人単位のスケールに引き寄せて捉え直し、「暮らしの横道」を通して、地域文化をつなぎ合わせていく。そうやって、多摩ニュータウンで新しいコミュニティを育む仕組みをつくっていきたいと考えています。

歴史を自分ごとに引き寄せる年表を作る|「Tokyo Art Research Lab」年表検証ワークショップ(後編)

「年表をつくる 2011年以降のアートプロジェクトを振り返る」は、「新たな航路を切り開く」の一環として進めてきた年表制作のプロジェクトです。P3 art and environment統括ディレクターの芹沢高志さんをナビゲーターに、シリーズ内の各プロジェクトで紹介した実践者たちの視点も組み込みながら、社会にひらかれ、成長を遂げるものとしてアートプロジェクト年表を制作・更新してきました。

この年表の本公開を控えた2026年1月21日、アートプロジェクトに興味を持つ学生のみなさんと「tarl.jpアートプロジェクト年表検証ワークショップ」を実施しました。ワークショップの様子を紹介しながら、年表の機能や可能性についてレポートします。

オリジナル年表を作ってみる

ワークショップ後半では、実際にtarl年表を使ってみる時間を設けました。

今回実装した新機能として、気になる出来事をピン留めして、自分のオリジナル年表をつくれるようになりました。オリジナル年表にはタイトルをつけ、URLを発行できるので、SNS等でのシェアも可能です。

そこで、ワークショップのお題は「テーマを設けてオリジナル年表を作ってみる」。

まず、興味関心にあわせて好きなテーマを設定します。たとえば、アートプロジェクトの歴史、芸術祭の歴史、文化芸術環境や法整備の歴史、特定の地域や職域の歴史などがおすすめです。自分のライフイベントに沿って、同じ年に起こった出来事を集めることもできますし、自分の縁のある場所に絞ることもできます。 次に、その目線で年表を見ていき、気になる出来事にピン留めをしていきます。

さっそく各自で作業を始めます。わきあいあいとしながらも、みなさん真剣な表情です。

作業時間のあと、9人の参加者みなさんが作ったオリジナルの年表を発表しました。
以下に、9つのオリジナル年表とコメントを紹介します。

(1)今の自分だったら行ってみたい、過去のプロジェクト

発表者:自分が生まれる前や、アートプロジェクトに関心を寄せる以前に行われていたプロジェクトで、大学で学んでいくうちに「ああ、このプロジェクト行ってみたかったなあ」と思ったものを集めていきました。自分が小学生、中学生だった2010年代に行われたものに関心があることが見えてきました。

人にインタビューやヒアリングをする時に、本をたくさん調べて準備した経験があるので、その時にこの年表があったらよかったなあ……と思いました。

年表には記録しきれない取りこぼされそうな小さな出来事や出会いはたくさんあると思いますが、この年表を見ることによって、個々人にとっての小さな出来事を思い出すきっかけにもなるのではないかと思いました。

(2)ライフイベントとプロジェクト

発表者:自分のライフイベントとプロジェクトを重ねてみました。2004年に生まれて、小学校入学の年、中学校入学の年……など。 あらためて眺めてみると、訪れたことのある美術館や芸術祭が、自分のライフイベントと同じ年に始まっていることに気づきました。生まれた年と金沢21世紀美術館の開館が同じで、小学校入学と瀬戸内国際芸術祭のスタートが同じ年です。

(3)福祉と包摂

発表者:福祉と包摂というテーマで、印象に残っていることや、行ったことのあるプロジェクトなど、自分に関連がある出来事を中心に集めました。 現在は就職活動中で、何に興味があるのか、それはなぜかを掘り下げる作業をしています。オリジナル年表を作ってみると、どのような経験が自分のいまの興味を裏付けているのか、その傾向や骨組みを知るためにも役立つなと感じました。

(4)障害がある人の芸術表現

発表者:パラリンピックの開会式で踊る人を募集していたことをきっかけにダンスを始めた、という人が周りに複数いらっしゃいます。この時期をきっかけに表現の場が増えていると感じていますが、tarl年表にはあまり反映されていないように感じたので、今後の更新を待ちたいと思いました。

アイデアとしては、他の人がどのようなオリジナル年表をつくったかを知りたいので、tarl.jpに特集記事があると面白いと思います。 また、「個人的な出来事」のタグがついている事例でも、その方にとってそれがどのような意味を持っているのかエピソードがすぐに辿れないので、年表内で読めるとより良いと思いました。

(5)中国と日本

発表者:私自身の記憶や経験に関連している中国と日本の社会的な出来事や、自分が中国にいた時期にもしも日本にいたらと仮定し、参加したかったプロジェクトを集めました。

私は大連出身で、東日本大震災のときに日中友好として小学校で募金活動が行われていた記憶があります。

大学では日本学部に所属していました。日本に交換留学をする予定でしたが、COVID-19の影響で実現せず、進路を変えて日本の大学院に入ることにしました。

日本に旅行したり、日本の高校と交換留学をしたりといった経験があるのですが、当時の出来事をtarl年表で見ながら、時間と空間を超えてこのプロジェクトに参加したかったな、この出来事をもし経験していたらどのように受け止めたかな……と思いを巡らせながら作りました。

(6)災害と表現

発表者:福島県浜通りの工芸産地の継承を調査しているため、震災関連の出来事を中心に見ていきました。個人が感じる年月の感覚と、客観的な年月とを照らし合わせて見直すことで、「この出来事が起こっている間に被災された方はこんな時間を過ごしていたんだな」という年月の厚みをあらためて確認できました。自分のライフヒストリーや衝撃を受けた出来事と、年表上の出来事とを並置することで客観的に見なおせるのだなと思いました。

(7)見たことがある展示やイベント

発表者:見たことがある展示やイベント、それらに関連する出来事を集めました。「ラジオ下神白」に興味があるので、それも追加しました。

アイデアとして、自分の誕生年を入れると、年表に取り上げられている方々と年齢を比較できたり、自分が何歳の時にどんな出来事が起こったのかを見られたりすると、自分ごととして年表を見るための仕掛けになり面白いと思いました。

(8)気になった事例

発表者:年表の一般的なイメージは、大文字の社会的な出来事と個々の事例を照らし合わせて見る、ということだと思います。

一方でこの年表は、出来事のピックアップにあえて個人の視点を入れていること、可変的な年表であるということで、見る人のライフヒストリーと社会的な出来事とが繋がる回路になるように思います。

同時に、見る人が載っていてほしいと期待する出来事が載っていない場合もある。年表の制作が現在進行形で、揺れ動いているので、制作している人の揺れ動きも伝わってきて、これまでの年表を見るのとは違う体験になりました。

(9)表現と制度、ストリート

発表者:ストリートアートやグラフィティ、表現と制度の衝突をテーマにまとめました。反政府デモや民主化運動などの社会運動、助成金関連の項目、六本木クロッシングなどを入れました。また、アール・ブリュットはアートの既存の制度外にある人たちの表現に名前をつけたものだと考えると、表現と制度のせめぎ合いと捉えられるので、それらの事例も入れました。

アイデアとしては、Wikipediaのように、ユーザーが自由に年表項目を追加できる機能があると面白いです。アートの制度の外の目線でも項目を追加していくことで、この年表自体が新たな表現のプラットフォームになるのでは、と感じました。


以上のようにみなさんのオリジナル年表を紹介いただきました。ご自身の研究テーマに引き付けて作られる方、ライフヒストリーとアートプロジェクトの歩みを重ね合わせて作られる方など、ひとつひとつが異なる年表が生まれ、紹介し合うことで互いに発見がありました。

また、機能面や活用のアイデアとして以下のような意見もいただきました。ウェブ上の年表だからこそ、システム面、内容面ともに更新や拡張の可能性がいろいろと考えられそうです。

・エリアごとに活動を見られる機能がほしい。それらがマッピングされているとよりよい

・芹沢さんなど、制作に関わった人が作ったオリジナル年表が見られるとおもしろい

・項目ごとに自分の感想をメモする機能がほしい

・企画ごとに、獲得した助成金やプロジェクト予算も見ることができれば調査に使いやすい

tarl年表そのものがアートプロジェクト

ワークショップのホスト役を務めてくださった小泉元宏教授よりコメントをいただきました。

小泉:学生に論文指導をするときに、自分のテーマと社会的な出来事の年表を作りましょうということを、まず言っています。その時にも活用できるものだと思いました。

また、tarl年表の整備そのものが、歴史と個の見えない関係性をさまざまな形で想像させる点で、やはりアートプロジェクトと言える活動だと感じます。

社会的な「大きな歴史」と、ゆるやかながら芹沢さんを中心とした主観性から立ち上がる「アートプロジェクト史」、そこに、「個」の物語の重なりとズレができていくことを、静かに感じさせるプロジェクトだと思います。

単一の物語に集約されない、美しさやスマートさを伴った視点からは、芹沢さんやP3らしい詩的な感性を、そして、TARLが取り組んできた思考の共有とアーカイブのエッセンスを感じました。

今後、この年表が次の個々人の物語のつながりやアートプロジェクトに結びついていくことに期待したいです。

最後に、アーツカウンシル東京の森司はこう締めくくりました。

森:振り返ると、足掛け3年tarl年表のプロジェクトに取り組んできました。紙の年表はいちど作ったら変更できませんが、可変的な年表をつくれないか、と芹沢さんに相談を持ちかけたのが始まりでした。

大日本印刷株式会社の文化活動として1995年にスタートした情報サイト「artscape」の立ち上げ時に関わり、今年30周年になります。artscapeにも「Artwords®(アートワード)」という、アートを読み解くための用語辞典が整備されてきました。また、芹沢さんやP3マネージャーの松本さんが取り組まれた「阪神・淡路大震災+クリエイティブタイムライン マッピング プロジェクト」も先行事例として存在します。そのうち、これらのネット上のデータベースが、AIなどによってtarl年表とも接続し、より活用される時代が訪れるかもしれません。

今回の年表が、近い未来に新しいプロジェクトが立ち上がるプラットフォームとして機能することを願っています。ぜひ「思考の道具」としてこれからも活用いただけたら嬉しいです。


以上のとおり、tarl年表の活用可能性がさらに広がるワークショップとなりました。

この年表は、アートと社会の関わりについて考える方、アートプロジェクトを実際に作っていく方々に使っていただきたいという思いで制作を進めてきましたが、実際にユーザー目線で様々な感想やアイデアをいただくのは今回が初めての機会でした。

ワークショップを経て、作り手としての次なるアイデアが膨らみました。ウェブ年表である強みを生かして、ワークショップでいただいた意見のいくつかを反映することもできました。

自分ごととして歴史を振り返り、自身の立ち位置を再確認するツールとして、そして少し先の未来の行動指針を照らす羅針盤として、この年表を活用いただければ幸いです。

(ワークショップ風景撮影・齋藤彰英)


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2011年から現在までのアートプロジェクトと社会の動きを俯瞰する|「tarl.jpアートプロジェクト年表」検証ワークショップ(前編)

「年表をつくる 2011年以降のアートプロジェクトを振り返る」は、「新たな航路を切り開く」の一環として進めてきた年表制作のプロジェクトです。P3 art and environment統括ディレクターの芹沢高志さんをナビゲーターに、シリーズ内の各プロジェクトで紹介した実践者たちの視点も組み込みながら、社会にひらかれ、成長を遂げるものとしてアートプロジェクト年表を制作・更新してきました。

この年表の本公開を控えた2026年1月21日、アートプロジェクトに興味を持つ学生のみなさんと「tarl.jpアートプロジェクト年表検証ワークショップ」を実施しました。ワークショップの様子を紹介しながら、年表の機能や可能性についてレポートします。

「tarl.jpアートプロジェクト年表」の検証

今回のワークショップでは、学生のみなさんに“モニター”として「tarl.jpアートプロジェクト年表」(以下、tarl年表)を使っていただき、機能性、操作性、活用アイデアなど多様なフィードバックをいただきました。

実施にあたってご協力いただいたのは、社会学者で立教大学社会学部現代文化学科教授の小泉元宏さんです。小泉さんは芸術・音楽社会学、文化研究、文化政策研究等を専門分野として、大学での授業のなかでも市民参加型のアートプロジェクトや文化実践の歴史について扱われています。

今回の年表は、これからの時代に応答するアートプロジェクトのかたちを考えるきっかけになることを目指し、作成したものです。やはりまずはアートプロジェクトに興味をもちながら、それぞれの関心を伸ばしている方に使ってみてもらいたいと、小泉さんの協力のもと、ゼミ生を中心に参加者を募集し、学生や卒業生の方々、合計9名にご参加いただきました。

本レポートの前編では、tarl年表の取り組みの背景や思想についてのレクチャーを、後半では実際にtarl年表を使ってみた上で感想や活用アイデアを話し合った様子をお伝えします。

レクチャー1:概要と制作の経緯

はじめにプログラムオフィサーの小山より、本シリーズの概要と、年表制作の経緯について紹介しました。

小山: 今回みなさんに検証していただくtarl年表は、Tokyo Art Research Lab(以下、TARL)の一環として2022年からスタートしたシリーズ「新たな航路を切り開く」のなかで制作を進めてきたものです。2025年1月にウェブサイト「tarl.jp」に実装し、その後もデータや機能を追加してきました。今回は2月後半のアップデート完了を前に、まずはみなさんに使ってみていただき、いろいろなご意見を伺えたらと思っています。

「新たな航路を切り開く」とは

「新たな航路を切り開く」は、2011年以降に生まれたアートプロジェクトと、それらを取り巻く社会状況を振り返りながら、これからの時代に応答するアートプロジェクトのかたちを考えるシリーズとしてはじまりました。アートプロジェクト実践者の語りを中心とした映像資料の制作や、ゼミナール形式の演習の実施、そしてこの、アートプロジェクトと社会を軸とした年表づくりという、大きく分けると3つのプログラムが同時に走っています。

この3つのプログラムはそれぞれ関わりあいながら存在しています。まず、2011年以降に発生したアートプロジェクトの変遷とその実践者の語りを映像で記録し、資料として残すプログラムを実施してきました。その映像は演習の中でも受講生の資料として参照されてきました。また演習では、参加者が自分のアートプロジェクトを構想する際に、自分のなかの問いや軸について考えるときの参照事例となるよう、毎年3組のゲストをお招きしてきました。tarl年表にはこうした実践者や演習のゲストの方々の活動の記録や、経緯を情報として入れ込んでいます。このシリーズでとりあげてきた、2011年以降にプロジェクトを実践してきた方の活動を集積することで、見えてくるものがあると考えています。

また、社会とアートプロジェクトとの関わりを可視化するために、ナビゲーターの芹沢高志さんの目線を軸に、2011年以降の「社会的な出来事」を選定し、掲載しています。

tarl年表の構想のはじまり

このシリーズは、アーツカウンシル東京から芹沢さんへ、年表制作のご協力を依頼するところから始まりました。それまで実施していたTARLの企画が一区切りを迎えるころ、次はどういった取り組みをすべきかを検討していたのが2020年から21年。世の中はコロナ禍で先が見えづらい状況です。そういう時だからこそ、これからの社会のことを考え、アートプロジェクトをつくっていく担い手を育成する必要があり、そのための資料が必要なのではないか、その資料のひとつとして、これからを考える人たちが参照できる年表があればと、私たちは考えました。

しかし、アートプロジェクトには規模や期間、やり方やエリアも様々なものがあり、網羅的に把握することは非常に難しい。誰かの軸を中心にして構成しないと、そもそもまとめようがないのではないか……。その際に、芹沢さんの目線を借りたいと考えたのが始まりです。芹沢さんは各地で国際芸術祭のディレクターを務める傍ら、地域をベースとするアートプロジェクトなどもつぶさに見ていらっしゃいます。また、それらの活動を俯瞰し、環境として捉える目線もお持ちだと思い、今回、芹沢さんの目線を軸にした年表づくりをお願いすることになりました。そこから、このシリーズのプログラムの構築が始まりました。

ウェブサイトでの可変的な年表へ

年表の構想を進めるなかで、これから年表をつくるのであれば、ウェブサイト上で展開する可変的な年表を作ってはどうかというアイデアがありました。そこで、さまざまなデータベースやウェブサイト制作を手掛けていらっしゃるウェブディレクターの萩原俊矢さんに入っていただき、ウェブサイトだからこその可能性についても議論しながら、検討を進めてきました。当初は単独のウェブサイトとして制作する選択肢もありましたが、TARLがこれまでに蓄積してきたアーカイブ資料と年表とが相互に結びつけば、これからのアートプロジェクトを担う方々のプラットフォームとしても充実したものになるのではと考え、「tarl.jp」の中に年表を機能として実装することにしました。それが今回の制作のあらましです。

tarl年表は、2025年1月にベータ版としてリリースした後、2011年以降という当初の期間設定からさらに遡り、30年という単位に目を向けることにしました。2022年にICOM(国際博物館会議)が博物館の定義を更新したことに象徴されるように、美術館の黎明期から、ラーニングとして街に出ていく現在までの流れを鑑み、各博物館・美術館を含む東京都歴史文化財団の動き、2011年以前のアートプロジェクトの動きを追加しました。このことで、街場の動き、美術館の動き、社会の動き、と見渡せるようになりました。

とはいえ、まだまだ目下作業中なので、今日はいろいろと触ってみて、楽しんでいただけたら嬉しいです。

レクチャー2:思考の道具のための年表

次にP3 art and environment(P3)の芹沢高志さんより、tarl年表を整備するにあたり重視した、社会状況に応答するアートプロジェクトという視点についてのレクチャーを行いました。

P3の成り立ち

芹沢:私は、もともとはアート専門ではなく、生態学的視点での土地利用計画や地域計画に関わる仕事をしていました。自分の人生が変わったのは、東長寺というお寺が開創400年記念で寺院を新築するプロジェクトでした。これに携わったことは自分にとって事故のようなもので、思いがけずアートプロジェクトに関わっていくことになりました。

かつての寺子屋のように、社会や時代にお寺が開いていくことはできないか、という住職からの依頼があったので、それに応える形で、境内の地下を掘り抜いて構堂を設計しました。ここを拠点に、同時代の芸術文化を社会に紹介していく活動をしてはどうかと提案し、「P3 Alternative Museum, Tokyo」を開設しました(1991年に「P3 art and environment」と改称)。

東長寺の新伽藍(写真:萩原美寛)
「P3 Alternative museum, Tokyo」のオープニング企画「シナジェティック・サーカス バックミンスター・フラーの直観の海」(1989年 写真:萩原美寛)

それから10年くらい経って、東長寺が地下講堂を他の事業に使うことになったため、私たちはそこを離れることになりました。この10年で、さまざまな場所を移動しながら活動していくアーティストと一緒に組むことが多く、彼らの態度に共感していたので、展示拠点は設けず、いろんな場所に出かけていくのがいいのではないかと考えました。

そして、日本における最初期の芸術祭である「とかち国際現代アート展『デメーテル』」(2002年)の総合ディレクター、「横浜トリエンナーレ2005」のキュレーター、「別府現代芸術フェスティバル『混浴温泉世界』」の総合ディレクター(2009年、2012年、2015年)、「さいたまトリエンナーレ2016」のディレクター、「さいたま国際芸術祭」のプロデューサー(2023年、2027年)などを務めていきました。

時代や社会への応答としてのアートプロジェクト

東長寺のP3がオープンしたのは1989年4月です。その後、同年の6月に天安門事件、11月にベルリンの壁崩壊という歴史的出来事が起こりました。

P3を始めてすぐ、天安門事件前後に中国の優秀なアーティストが世界に出ていく流れの中で、日本に留学してきた蔡國強と出会い、一緒に活動していくことになりました。

ある時、万里の長城の西の果てである嘉峪関に行き、導火線に火をつけて爆破させることで、万里の長城を1万メートル延長するというプロジェクトを提案されました。作家の動機としては、万里の長城は現在は観光資源となっているが、そもそもは人と人を隔てる壁にすぎず、光と煙だけでかりそめに1万メートル延長することで、そのことに改めて目を向けさせたいとのことでした。 様々な調整や準備を経て、1993年に「万里の長城を1万メートル延長するプロジェクト」を実現しました。

「万里の長城を1万メートル延長するプロジェクト」(1993年 写真:森山正信)

このように、偶然の巡り合わせの連続で、世界が激動していく時に立ち会うことになりました。

アーティストは時代や社会への応答としてプロジェクトを立案していく。そのアイデアに対して一緒にやっていこうという人間も出てきて、初めて実現していきます。アートプロジェクトは、時代や、そこに応答する人の刺激の連鎖とも言えると思います。なかば必然的でもあるけれど、偶然と言ってしまうこともできます。

そのうねりの中でアートプロジェクトが力強く立ち上がっていくことに、P3の活動を通して強く興味を持ちました。

時代の空気、反応の連鎖

日本社会にとって忘れられない経験として東日本大震災があります。この出来事をアートプロジェクトの歴史としても区切りとするかどうかは研究者に委ねたいと思いますが、私の実感としては新たな質のプロジェクトが生まれていったと思います。

例えば、当時東京藝術大学にいた濱口竜介が酒井耕を誘って被災地に入り、東北記録映画三部作が生み出されることになったことです。また、小森はるか+瀬尾夏美も、とにかくいても立ってもいられずに陸前高田に入っていき、結果として作品が生み出されていきました。

彼らが強く影響を受けたのが「みやぎ民話の会」の小野和子さんです。彼女は宮城県を中心に東北各地を訪ねて、民話の語り手の方に話を聞く活動を続けてこられた方です。語り手は、「聞く」人がいてはじめて、語ることができます。おじいちゃんおばあちゃんや親に繰り返し聞かされたことで、語り手の頭に入り込んでいるけれど、一人で話し出すわけではないのです。そこに小野さんが「お話を聞かせてください」と出向いて行くと、語り手の方は、記憶を解凍するかのように語りを始めていく。濱口さん、瀬尾さんたちはそんな状況を目の当たりにすることで、自分たちの作品の制作姿勢そのものを編み出していったのだと思います。それは能動でも受動でもない、青山太郎さんが指摘する中動態の姿勢であったといえるかもしれません。

新たな航路を見出すための年表

このような事例を踏まえると、ものごと同士の関係を見ていく手段として、時系列で物事を並べていくことは有効だと感じます。時代の空気ともいえるかもしれないけれど、いろんな人が、ある出来事に出会うことで何かの反応を起こしている。アーティストは自身の反応をキャッチすることで、ひとつの応答としてプロジェクトを起こしていく。そういった姿が浮かび上がってくるのではないでしょうか。

この年表はもちろんアーカイブとしての意味もあると思いますが、網羅的なアーカイブとして捉えすぎない方がいいかもしれません。自分ごとに引き寄せて、活用するのが重要です。

また、紙面ではなくウェブサイトであることも大きな特徴です。思考の道具のための、自由に組み替えられるやわらかい年表が作れるんじゃないか。そんなふうに考えています。

確立した航路に船を漕ぎ出すのではなく、考えもつかないような航路をぜひ見出してほしい。そんなことを発想するための道具としてこの年表を使ってほしいのです。

以上のように、tarl年表の成り立ちの背景や思想について参加者全員で共有する時間を設けました。後編では、実際に年表を使ってみて、活用のアイデアについて話し合います。

レポート後編へ続く

(ワークショップ風景撮影・齋藤彰英)


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めとてラボ パンフレット

視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリー『めとてラボ』の活動を見渡すことができる、4つ折りパンフレットです。
表面では、『めとてラボ』活動する上で大切にしている視点やコンセプトをまとめています。
裏面では、2025年度の取り組みを中心に、4つのプロジェクトを紹介しています。

めとてラボが大切にしているのは、「わたし」を起点にはじめてみること。文化や言語の異なりを認め合いながら、「わたし」を起点に、それぞれがふとした疑問や想像をかたちにし、つくりながら考えたり、記録やかたちを集め、耕していくための方法を考えています。

DeafSpace ――ろう者の身体感覚から考える空間――

「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」をコンセプトに、視覚言語(日本の手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親をもつ聴者)が主体となり活動するプロジェクト『めとてラボ』。本書は、その一環として実施しているプログラム「デフスペースリサーチ」の、これまでの成果をまとめたものです。

DeafSpace(デフスペース)とは、ろう者の感覚、視覚・触覚・嗅覚や独自の行動様式、そしてろう文化などを生かすデザインのこと。「デフスペースリサーチ」では、ろう者の「家」に着目し、ろう者が自らの身体感覚から手探りでつくりあげた空間設計の工夫や知恵を見つめてきました。

本書では、デフスペースの概念を紹介するとともに、リサーチで出会ったさまざまなデフスペースの特長や工夫、めとてラボの実践を、写真やイラストとともに紹介しています。

デフスペースが、従来のバリアフリーやユニバーサルデザインと大きく異なるのは、その出発点にあります。これまでの多くの配慮は、「聞こえないこと」を困難として捉え、その不便さを後から補う考え方に基づいてきました。一方、デフスペースは、ろう者の身体感覚や文化を前提とし、そこから空間を構想します。聞こえる人を基準とした空間に調整を加えるのではなく、異なる身体感覚そのものを中心に据えて考える試みだと言えます。

(p.2)

目次
  • はじめに
  • デフスペースデザインとは
  • めとてラボのデフスペースリサーチ
    • 名づけられる前のデフスペースを探して
    • 公共の場に自分たちのホームをつくる
  • デフスペースを考え、深める
  • おわりに

連携事業をやって、みた 「織物BAR in FUCHU」ができるまで

東京都・府中市芸術文化連携事業として、2024年度は「共生社会を聞いて、みる」、2025年度は「共生社会にふれて、みる 織物BAR in FUCHU」を実施した2年間の取り組みをまとめています。共生社会の実現に力を入れている府中市と地域のNPO法人アーティスト・コレクティヴ・フチュウと何度も議論を重ねて、現場を共に動かしながら、試行錯誤を重ねてきた道のりがすごろくで表現されています。

連携事業をはじめたとき、正直にいえば、最初は戸惑いがありました。でも、ほんとうに協働するって、こういうことなんだなと思いました。(市の担当)

○ZINE -エンジン- ACKT04

アートやデザインの視点を取り入れた拠点づくりやプログラムを通じて、国立市や多摩地域にある潜在的な社会課題にアプローチするプロジェクト『ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)』。このフリーペーパーは、まちに住む人に情報を発信、収集することで、これまでになかった縁がつながり、これからの活動のきっかけとなることを目指しています。

第4号のテーマは「大人たちは砂場遊び。」。ACKTでの活動や日本各地のさまざまな実践を、自由に想像力をはたらかせて砂で世界を作り出す「砂場遊び」のイメージに照らし合わせて、それぞれの「共創」のかたちについて紐解いています。

たとえプロジェクトが砂の城のように明日消えてしまっても、「自分でやった」という確かな手応えは身体に残り、「つくる」マインドは種として人々に継承されていきます。

(p.5)

目次
  • ACKT’s ACTION(文:加藤健介)
  • 埼玉県毛呂山町「新しき村」(文:加藤健介)
  • 沢田マンションの情熱が、背中で私たちに伝えるもの(文:田尾圭一郎)
  • ラジオ屋さんごっこ(文:関口太樹)
  • 都市と異物の即興劇が私たちに伝えるものとは(文:川野歩里)
  • それぞれの「砂場遊び」座談会(文:五十部未来)
  • 編集後記(文:田尾圭一郎)
  • 国立高校「私たち国高新聞部」
  • 堀道広「たまたまブラブラ散歩」
  • 「CAST」vol.5 安藤涼(一般社団法人 ACKT)
  • 「LAND」vol.5 6okken