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アートプロジェクトの再始動。新たな日常でどうはじめる?

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2021.01.21

執筆者 : きてん企画室

アートプロジェクトの再始動。新たな日常でどうはじめる?の写真

東京アートポイント計画に参加しているアートプロジェクトにとって、この夏は緊急事態宣言解除後、改めて活動をはじめた時期です。

そんな最中の2020年7月20日、アートプロジェクト事務局による事務局のためのジムのような勉強会「東京アートポイント計画 ジムジム会」の第3回を開催しました。

新たな日常でどうプロジェクトを再始動するべきなのか、今回もそれぞれのチームの具体的な実践を共有し、全員でディスカッションしました。簡単にレポートします!

場が変わり、手段が変わった3か月

例年であれば、各アートプロジェクトの年間活動はじめは4月。6〜7月には最初の大きな企画があり、さらに秋にかけてまた一山、冬から年明けにかけて年間活動のまとめ……というのが通常の流れです。

ところが今年度は、集まることや移動することができない春先からスタートし、夏からの活動も感染拡大を防ぐことが第一の条件。3か月前に計画していた規模・場所・手段ではまず実施できません。

ジムジム会運営チームも会場を配信&収録スタジオ「STUDIO302」に移して開催しましたが、それもまた新たな日常に合わせた変更のひとつです。

では各プロジェクトでは、どんな風に活動を展開しているのでしょうか? 今回は3つの団体に実践内容を共有してもらいました。

「たった一人でもやる」。セレモニーとしてのプログラム

東京都町田市で展開する、500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」では、長い歴史を持つ寺院・簗田寺(りょうでんじ)を拠点に、この先500年続く祭りの形を考えています。

外出自粛の期間中、メンバーで話し合ったのは、「プロジェクトにおける企画はイベントなのかセレモニー(儀式)なのか」ということでした。つまり、人が集まることを目的としているのか、やること自体に意味があるのかという問いです。ディレクターの齋藤紘良さんは、「セレモニーとして自分一人でも縁日(※)をやる意義がある」と考え、無観客でのプログラム開催を決めました。※YATOでは毎年「YATOの縁日」を開催。

ただし、“集まらなくても参加できる方法”も用意しています。たとえば影絵師・音楽家の川村亘平斎さんとの影絵ワークショップは「デリバリー」方式に切り替え、こども達がそれぞれ自宅でつくった影絵を預かり、上演の様子を映像で中継します。また、同じように自宅で土器をつくり、楽器として演奏して収録し、縁日でその音を流すプログラムも開催。

これらの企画は、事務局メンバーがオンライン会議を通じてそれぞれの経験を共有し、そこにアーティストのアイデアを重ねることで自然と出来上がりました。「コロナだからという特別な感じはなくて、YATOは今までもまちの状況に合わせて活動してきました。制約があるといっても去年と変わらないワクワクやドキドキ感がちゃんとあります」と、事務局メンバーの荒生真美さんは言います。

日頃からの関係性やコミュニケーションの上に表現が成り立つ、アートプロジェクトらしい再始動の姿をYATOは描きつつあるようです。

家から参加できる「デリバリー影絵ワークショップ」は公開直後に定員に。急遽、人数を増やして実施することに。

オンラインで「余白」をつくる。対話を進めるための準備

世田谷で展開するアートプロジェクト「東京で(国)境をこえる」では、プログラム始動に向けた準備が進んでいます。

20〜30代の様々な言語や文化、国籍を持つ人とともに見えない境界について考えていくプログラム「kyodo 20_30」では、毎週日曜日の夜にオンラインで準備会を開催。今回の実践共有で、事務局・矢野靖人さんがレポートしてくれたのは、そのユニークなコミュニケーションの工夫でした。

大切なのはどのように「余白」をつくるかということ。たとえば、準備会で毎回開催しているのは「テンミニッツメイド」と名付けたコーナーで、会議の最後に10分間でできるミニ・ワークショップを週替りでメンバーが担当します。また、会議後は誰もいなくなるまでZoom会議室を開きっぱなしにするのも恒例です。毎回24時を過ぎるという開きっぱなしの時間は、なんとなく喋ったり、ご飯を買ってきたりしながら、仲間同士で「帰り道」的感覚を共有する機会だそう。

また、外出自粛要請を受けた時間のことを残そうと始めたのは、メンバー限定Facebookグループでの「自撮り日記」。メンバーが一人ずつ自分の近況や考えていることを5分前後の動画にして、次の人に回すリレー動画は、10人で3周目を迎えました。個人的な記憶や、まちの気配、緊張感や空気感まで共有できることが特徴。

それぞれの課題意識や考えを共有し、対話の土壌を耕すことは、アートプロジェクトにおいて大切な準備のひとつ。制約の多い日常を上手に乗りこなし、余白をつくり出すこともまた、プロジェクトを育てる上手な方法かもしれません。

「テンミニッツメイド」でやってみたミニ・ワークショップのひとつ。Zoom画面上で一本の線をつなぐためにコミュニケーションをとる。

12年分の活動を振り返る、本づくりの時間

2009年から始まって12年目を迎えるプロジェクト「TERATOTERA」。今年度はこれまでの総まとめとして、本の制作に着手しています。

本づくりのプロジェクトを編集長として進めているのは、元・新聞記者で、TERATOTERAにはボランティアとして関わる西岡一正さん。長年、本プロジェクトのドキュメントブック編集を手がけてきました。TERATOTERAの特徴は、そういった形で多種多様な興味関心や背景、特技を持つボランティアが、プロジェクトの企画・運営にしっかり関わっているところにあります。

そこで今回の本づくりでは、ボランティアとして当事者でもある西岡さんを中心に、歴代のボランティアスタッフがオンライン上で対話を重ね、過去一年度ごとの振り返りを進めることに。12年分の活動をまとめるのは、情報量が多く大変です。一方で、振り返りをすることで、離れていたメンバーが喜んで参加してくれたり、企画への愛着が増す点は良い点でもあります。

今年度は予定していたプログラム「TERATOTERA祭り」もオンライン化が決まり、海外ゲストも含めたさまざまな調整が進んでいます。不便な点もひとつひとつみんなでクリアしていくことが、プロジェクトを進める力にもなっていくはずです。

TERATOTERA12周年本のチーム体制(テラッコ=TERATOTERAボランティア)

それぞれの始め方、進め方

緊急事態宣言が解除されたといっても、現在の東京都内における新型コロナウイルスの感染者数は増加の一途を辿っています。人々の安全や安心を考えれば、集まること、移動することを今まで通りの形で再開することはなかなかできません。そしてそれがこの先も続くであろうことは、この数か月をかけてそれぞれが実感し、考えてきたことです。

どんな活動にも「絶対」はなく、常に状況に合わせて動くことがとても大切です。東京アートポイント計画 ジムジム会では引き続き、新たな日常でのアートプロジェクトのあり方を考えていきます。

(執筆:きてん企画室)

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