解決のヒントはおとなりさんがもっている。ジムジム会をひらいてみよう。
執筆者 : 大内伸輔
2021.04.28
ある日突然現れた制約に戸惑いながらも、知恵を出し合い、新たな方法を編み出していく。“特別な夏”と名付けられた2020年夏、各アートプロジェクトの運営チームは、困難を契機にしていく力を少しずつ身に付けています。
熱い熱い8月19日、アートプロジェクトの事務局による事務局のためのジムのような勉強会「ジムジム会」の第4回を開催しました。
実際のプロジェクト現場ではどんなことを考え、どんな実践を重ねているのでしょうか。今回も東京アートポイント計画に関わるプロジェクトチームから実践発表してもらいました。
東京都世田谷区を中心に展開するアートプロジェクト「移動する中心|GAYA」(以下、「GAYA 」)では、人々の記録や記憶にまつわる「楽しみ」と「仕組み」をつくることを目指して活動しています。
これまで「アーカイブ」といえば、専門家や専門の施設が携わるものでした。しかし地域や個人の記録や記憶は、非専門家にとっても大切なものです。そんな考えから、GAYAでは8mmフィルムの映像アーカイブ「世田谷クロニクル1936-83」を利活用し、公募で集まったメンバー「サンデー・インタビュアーズ」とともに映像を鑑賞したり、インタビューを重ねる企画を続けてきました。
そんなGAYAでは現在、対面のインタビュー活動は休止し、オンライン上でアーカイブを楽しみ、仕組み化していくためのワークショップを展開しています。
具体的には、サンデー・インタビュアーズ一人ひとりが「職業」「服装」「匂い」などのテーマを設定し、映像群を鑑賞していきます。その上で映像の「タイムコード」をつくり、何分何秒に何が写っていたのかを記録。さらにはそこから浮かんだ問いをメモしていきます。それらの作業をひとりではじめ、みんなと共有し、そしてまた自分ひとりで深めることがポイント。
人に会えない時間だからこそ、オンラインワークショップを通じ、「何を聞きたいのか、なぜ聞きたいのか、その時代について何を知りたいのか」を丁寧に考えるメンバー。現在のこの状況を、問いや関心を深める時間に使っているとのことでした。
続いて、東京都府中市で活動するアートプロジェクト「Artist Collective Fuchu [ACF]」(以下、「ACF」)からは、準備を進めている新規事業と、工夫しながら続けているラジオ企画についての報告がありました。
ACFは府中市で暮らし、活動する多様な人によって運営されています。例えば、アーティスト、映像作家、教師兼創作アトリエの主宰者、オルタナティブスペースを運営している人やカフェ経営者もメンバーです。
そんなチームで現在進めていることのひとつは、5か年計画で構想している新規事業。府中市内のアーティストや様々な拠点、公共施設等をつなぎ、新たな形の生涯学習やワークショップを展開する「学びの場」をつくろうという企画です。現在は様々な人に会いに行き、議論し、調査し、計画している段階。市役所と市民が協働する「府中市協働事業提案制度」にもエントリーするなど事業化を着々と進めています。まさに、コロナによって立ち止まってしまった今だからこそ考えられることです。
また、昨年度から続けているコミュニティFMでのラジオ番組(Artist Collective Fuchu presents「おとのふね」)は現在も継続中。収録では感染症対策に細心の注意を払いながら、人や地域の話を紡ぐ活動は絶やさないように進めています。
※過去放送内容はこちらからご覧いただけます。
最後の発表は、東京アートポイント計画の手法を使い、東日本大震災の復興支援を目的にスタートした「Art Support Tohoku-Tokyo」(以下、「ASTT」)から。
もともと震災から10年目を迎えたASTT事業では、2020年度を最終年とし、最後の締めとなるようなプログラムを企画していました。ひとつは事業を展開している3県(岩手県、宮城県、福島県)における担い手同士が集い、ネットワークづくりを行うもの。もうひとつは震災の経験を他の出来事と接続し、ひろく発信する大きなフォーラム。しかしそれらの企画は、感染症の拡大とともに諦めざるをえませんでした。
そこで大切にしたのは、目的をずらさずにオンラインにシフトすること。公式ウェブサイトをウェブマガジンにリニューアル(Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021)し、手記や日記、人々の声を集めて掲載する企画をはじめました。また月2回、YouTube Liveをつかったラジオ番組(10年目をきくラジオ モノノーク)も東北のメンバーとともにスタート。
ウェブメディアや特集企画、ラジオ番組などの制作を通し、様々な視点や職能を持つ人々が交流したり、集うという本来の目的はぶれていません。メディアやラジオといったリズムのある活動を行うことで、変化も捉えやすくなったといいます。
担当者が語気を強めるのは「オンラインは代替策ではない」ということ。リアルな場でのイベントやプロジェクトづくりと同様、オンラインも創作の現場です。活動を通して、新たな対話や関係が生まれ、それが豊かな文化を育むことには変わりありません。
以上、3つのプロジェクトからの実践共有でした。
どの活動にも共通しているのは、制約のある状況を創造の機会にしようと工夫を重ねていること。問いや関心を深めたり、新規事業が立ち上がったり、オンラインという新たな現場を手にしたりといった新たな手応えを得ていること。
苦しい状況はまだまだ続きますが、アートプロジェクトらしい歩みの進め方は、かかわる人々の日常にも何かしらの良い変化を生んでいく……かもしれません。
(執筆:きてん企画室)
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