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2018年、5つの「東京プロジェクトスタディ」報告会

2019.03.22

執筆者 : 坂本有理

2018年、5つの「東京プロジェクトスタディ」報告会の写真

Tokyo Art Research Lab「思考と技術と対話の学校」にて6か月にわたり展開した「東京プロジェクトスタディ」。今回は、2月24日(日)に開催した報告会の様子をお届けします。

“東京で何かを「つくる」としたら”という投げかけのもと、5組のナビゲーターが参加者と共にチームをつくり、それぞれが向き合うテーマに沿ってスタディ(勉強、調査、研究、試作)を重ねる「東京プロジェクトスタディ」。企画や作品など「かたち」にすることは必須とせず、決められているのは初動のみ。内容や進め方は、活動を展開しながら設定していきました。5組のスタディが、半年間どのような活動を行ってきたのか。プロジェクトがかたちになる前の「種」と向き合った各スタディの変遷や断片にふれる半日となりました。

スタディ1 「東京でつくる」ということ―前提を問う、ことばにする、自分の芯に気づく

ナビゲーター:石神夏希 (劇作家/ペピン結構設計/NPO法人場所と物語 理事長/The CAVE 取締役)、スタディマネージャー:嘉原妙 (アーツカウンシル東京プログラムオフィサー)

会場に投げかけられた東京やつくることにまつわる質問に対して、「Yes」と「No」に分かれて着席し、発言しあっている様子。

スタディ1は、「東京でつくること」を入口に、参加者それぞれが抱えている課題や関心について徹底的に対話し、スタディをへて芽生えた気づきや問いを参加者一人ひとりがエッセイにまとめていきました。毎月ディスカッションと書くことを繰り返しながら、東京でつくるということ、自分とつくることの関係について思考を重ねたこのスタディでは、東京との物理的な距離もさまざまなつくり手をゲストに招き、彼らの活動をケーススタディにディスカッションを展開。ときには言葉を離れ、映像をとおして東京について考えるワークショップも行いました。

報告会では、スタディ1のメンバ―が考えた質問を軸に、会場全体で、東京について、つくることについて、思考を巡らせる時間をもちました。「あなたは東京の一部ですか?」「いまの東京はおもしろいですか、おもしろくないですか?」「あなたにとって東京とつくることとの間には関係がありますか?」などの質問が投げかけられ、Yes/No に分かれて考えを述べあうなど、スタディ1が向き合ってきたものにふれる時間となりました。

スタディ1のメンバ―が考えた「東京でつくる」を巡る問いの一覧。

スタディ2 2027年ミュンスターへの旅

ナビゲーター:佐藤慎也 (建築家、プロジェクト構造設計)、居間 theater (パフォーマンスプロジェクト)、スタディマネージャー:坂本有理 (アーツカウンシル東京プログラムオフィサー)

スタディ2の発表の様子。勉強から実践への展開を表すシーンでは、「ひとつには彫刻という概念とその拡張について、もうひとつにはミュンスターに対しての東京(そしてそこにおける公共空間)について、このふたつをどちらも手放さず生かしながら次の段階へ進もうと思う」
という言葉を背景にパフォーマンスが進む。

1977年よりドイツのミュンスターにて10年に1度開催されている「ミュンスター彫刻プロジェクト」。スタディ2は、次回2027年に同プロジェクトに招聘されることを目指し、勉強やリサーチを重ねました。報告会では、活動のプロセスやエッセンスをパフォーマンス仕立てで紹介。ナビゲーターとミュンスターとの出会いからはじまり、村田真さん(美術ジャーナリスト)、小田原のどかさん(彫刻家)、今和泉隆行さん(空想地図作家)らをゲストに「ミュンスター彫刻プロジェクト」や「彫刻」について学んだこと、彫刻の概念やその拡張など議論したテーマにもふれていきます。

「東京藝術大学美術学部の前身となる東京美術学校が開校した1887年から2027年までの間10年ごとに、東京のまちなかに公共彫刻を設置する『東京彫刻計画』というプロジェクトがおこなわれている」というフィクションをベースに、都内に点在する彫刻をマッピングし、実際に歩いてみてまわった経験をへての気づきや問い、さまざまな文脈で設置された彫刻についてのエピソードも織り交ぜながら、「彫刻とは何か」という問いを巡る思考の変遷を辿りました。

「このスタディは必ずしも一つの答えは導きだしていない。それぞれの参加者の視点から、彫刻に興味をもち、彫刻を媒介として、それぞれが思考しているのです。可能性は無限大。刮目せよ! 旅はまだ始まったばかりなのである。」という台詞でパフォーマンスは締めくくられた。

スタディ3 Music For A Space—東京から聴こえてくる音楽

ナビゲーター:清宮陵一 (音楽レーベルVINYLSOYUZ LLC 代表/NPO法人トッピングイースト 理事長) スタディマネージャー:大内伸輔 (アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

スタディ3のメンバーの「人生で最も影響を受けた曲」を眺めながらふりかえっている様子。

音楽産業と公共空間における音楽のあり方や融合の可能性を探ることを目指し、さまざまな角度から音楽に携わるゲストを招きディスカッションを重ねたスタディ3。「人生で最も影響を受けた曲」を紹介し、エピソードを話し合った初回にならい、まずは会場全体で、人生の一曲を付箋に書いて貼り出すところからはじまりました。ゲストゆかりの場所を訪れながらおこなわれた全11回のスタディについて、「経済活動」「社会活動」「実践」「消費」の4点からなる座標軸をもちいてふりかえりました。

スタディ3の活動で試行した座標軸。

後半のディスカッションでは、スタディをとおして4つの座標でいまの音楽業界のあり方と向き合ってみたけれど、経済活動と社会活動をいったりきたりしていたりと、どちらか一方だけということではなく、それぞれの座標がクロスしたりまざりあったりしていることもあるのではないかという対話もなされました。参加者からは、自分が知っている音楽の体験はまだまだ狭かった、ステレオタイプだったなど、スタディの感想が話されました。

スタディ4 部屋しかないところからラボを建てる—知らないだれかの話を聞きに行く、チームで思考する

ナビゲーター:瀬尾夏美、小森はるか、礒崎未菜 (一般社団法人NOOK)、スタディマネージャー:佐藤李青 (アーツカウンシル東京プログラムオフィサー)

みなでテーブルを囲み対話を重ねるスタディ4。対話の要素を板書する様子なども含めて普段の活動風景を再現しながら展開した。

スタディ4は、メンバ―それぞれの関心をもちより、いっせいに調べ、それをまた共有し、反応し、価値化する活動をおこなってきました。「聞くという行為にはかならず相手がいます。相手が語ったことを聞く。そこで一度編集が入ります。共有する場で語り直す。そしてまた編集が入る。そのことを恐れるのではなく、編集がかかってしまうことを前提にしたうえで、うまく共有する仕組み自体を考えられたらおもしろいのではないか。それは、チームで思考する態度やあり方を共有することから始められるのではと考えました」とナビゲーターの瀬尾さんは語ります。

思ったよりもできなかったことは「聞く」ことだったといいます。語り手に会いに行く筋道(アポイントメントの取り方)、聞いたあとどうするのか(アウトプット)が未定だったり、親密な相手に聞くことで関係性が変わるのではという恐怖感が先に立ってしまうという状況もおきていたとのこと。「まずはとにかくおしゃべりして、『聞くこと』をはじめるために必要なものを考えていきました。そうしたなかで、活動が公的なものとなるような仕組みをつくろうという方向性も出てきました。」とファシリテーターの小屋さんはいいます。

繰り返し一緒におしゃべりしたことで、だれかの関心事が身体にしみついて、変わっていくといったように、ラボで話したことが徐々に実装されていき「聞こえる身体」になった感覚が芽生えていったようです。互いの言葉を聞き合いながら、いま東京にある問題系や関心事を知り、そこから誰かに話しを聞きにいき、また戻ってきて、共有することを試みながら、その価値を読み深めていく。東京という大きな都市の片隅に、既存の答えを求めるわけではない、余白のような場を立ち上げていく過程が紹介されました。

活動日に話されたことを内部共有用として「ラボ通信」にまとめ、話したことを定着させていった。ふりかえりのためのツールとしても活用された。

スタディ5 自分の足で「あるく みる きく」ために―知ること、表現すること、伝えること、そしてまた知ること(=生きること)

ナビゲーター:宮下美穂(NPO法人アートフル・アクション 事務局長、スタディマネージャー:佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

スタディ5の活動風景を紹介している様子。

3名のゲストアーティスト(揚妻博之さん、大西暢夫さん、花崎攝さん)と直接対話したり、作品制作の過程にふれながら、自分自身の表現やリサーチを深めていったスタディ5。さまざまなワークショップを組み込みながら活動が展開されていきました。たとえば、2人1組でひとりが目隠しをし、パートナーに連れられて音をきいたり、匂いをかいだり、周りが見えない状態で空間を経験する「ブラインドウォーク」。ほぼ初対面なのに身を預けなくてはならず、普段はしない経験だったと参加者は語ります。その他にも、演劇のメソッドをもちいて演じてみたり、ひもや竹の棒などささやかな道具をつかって身体の拡張や人との距離を意識するよう身体を動かしてみたり、詩を書いて朗読したり、他者の呼吸や間合いを意識するようなことも。野宿の経験をエッセイにしたり、身近な人を写真に撮ってくるという宿題が出たこともありました。

その宿題をきっかけに、そんなときに思い浮かぶ「身近な人」がいないと気づく人もいたとのこと。表現をするというのは、こんなにも自分のことをさらけだすんだなと、その辛さがわかったとある参加者はいいます。ときには参加者からの問いかけにアーティストが答えに窮することもあったそうです。そんなときは、次の回でまたそのことについて、アーティストと参加者が対話を重ね、連続して展開されるスタディならではの関係性が育まれて行ったようです。「表現はアウトプットがすべてとは思っておらず、表現することによってまた新しい何かがはじまると思っている。」と宮下さんは語りました。

スタディ5の活動をふりかえりながら各回の様子や感想を述べあっている様子。

報告会の最後には、「この5つのスタディが、新たなプロジェクトにつながっていくのか、そうでないのかはわかりません。そうした明解ではない困難さが、新たなことを生み出そうとするスタディならではなのだと思います。みなさんは、スタディをとおして自分たちの立ち位置を探る。そしてその基点から、さまざまな方向に、表現と向き合う入口を探していくような時間を過ごされたのではないかと感じました」と森校長が締めくくりました。

半年間のスタディをへて生み出されたものとは何だったのか。TARLでは、それぞれの活動の展開を今後も見守っていきたいと思います。

執筆:坂本有理 
撮影:川瀬一絵

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