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REPORT

「文化に時間をかける「ことば」をひらく―東京アートポイント計画の10年から紐解いてみる―」 第1回レポート

公開日|2019.11.30

第1回 徹底解説!東京アートポイント計画~中間支援の仕組みを分解する

開催日:2019年9月10日
スピーカー:大内伸輔
ナビゲーター:佐藤李青

2019年度で10年を迎えた「東京アートポイント計画」を解剖する、レクチャーシリーズ。東京アートポイント計画として、複数のNPOとアートプロジェクトに伴走してきた立場からその実践を知見として共有したい、と講座を企画しました。大きなテーマは「文化に時間をかけるための言葉」。3回にわたるレクチャーのナビゲーターは佐藤李青が担当します。

写真中央:大内伸輔(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)、写真左:佐藤李青(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)

■公共文化事業における「中間支援」とは何か

第1回は、佐藤と同じプログラムオフィサーでもあり、東京アートポイント計画の立ち上げ時からスタッフとして関わる大内伸輔をスピーカーに迎えました。「中間支援」の役目を担うプログラムオフィサーである大内や佐藤が、中間支援の役割や仕組み、意義を紹介します。副読本は彼らが企画・執筆を担当し、2019年3月に発行した書籍『これからの文化を「10年単位」で語るために―東京アートポイント計画2009-2018』(以下『これからの文化を「10年単位」で語るために』)。第1章の「中間支援の9の条件」から東京アートポイント計画や中間支援を紐解いていきます。「東京アートポイント計画は、どのような仕組みか」「アートプロジェクトの現場では何が起こっているのか」「よりよい現場づくりに必要なこととは何か」をポイントに、実践から見えたことを解説しました。

写真右:『これからの文化を「10年単位」で語るために―東京アートポイント計画2009-2018』

そもそも「東京アートポイント計画」は、どのような事業でしょうか。東京アートポイント計画のパンフレットによると「アートポイント」とは「アートプロジェクトが継続的に動いている場であり、その活動をつくる人々が集まる創造的な拠点のこと。単に場所を指しているのではなく、アーティスト、運営スタッフ、ボランティア、その場を楽しむ来訪者も含めて『アートポイント』を形成しています」と書いてあります。「アートポイントはプラットフォームと言い換えることもできます」と大内。東京にたくさんの「アートポイント」を生み出すため、「東京アートポイント計画」は2009年にスタートしました。
東京アートポイント計画の大きな特徴は、NPOと東京都とアーツカウンシル東京による共催事業であること。そして、東京アートポイント計画を主導し、大内や佐藤が属するアーツカウンシル東京事業調整課が「中間支援」としての組織であることが他の公的な文化事業とは異なる点です。書籍『これからの文化を「10年単位」で語るために』に記載された「設計思想」(p9)には「まち・人・活動をつなぐために、公共文化事業の新しい中間支援システムをつくる」こととあります。この「中間支援」という仕組みを取り入れることで、地道な活動に時間をかけて寄り添うことができます。長期的に見ると、そうした文化事業こそ地域にとって必要な資源となっていくのではないでしょうか。

■協働のかたち/拠点づくり/コミュニティが育つ環境 〜「9の条件」から1〜

ここから「中間支援の9の条件」を読んでいきます。「『条件』とは、この条件がすべてそろったからうまくいくという回答ではなく、こういう要素があるといい、というもの」だと佐藤。このレクチャーでは、9の条件のうち6つが紹介されました。前半のレクチャーは「『協働』のかたちを探る」「『拠点』づくりの要件を考える」「『コミュニティ』が育つ環境をつくる」です。

・「協働」のかたちを探る(『これからの文化を「10年単位」で語るために』、p20)
一つ目の「『協働』のかたちを探る」では、さまざまな共催のパターンや、そのメリットについて話されました。東京アートポイント計画のなかでもとりわけ共催団体数が多いのが「アートアクセスあだち 音まち千住の縁(以下、音まち)」。音まちはアーツカウンシル東京、東京都、NPOのほかに、足立区、東京藝術大学の5者によるプロジェクトです。「人が増えれば増えるほど、意志決定と情報共有にテクニックが必要となりますが、アートプロジェクトは関わりが増えることで進行や広がり方が変わります」と大内。難しい情報共有ですが、2週間に一度の定例会議のほか、メーリングリストを活用しながら連絡や調整をしています。8年ほど続くメーリングリストは、1万2千件以上のやりとりが行われているそうです。

・「拠点」づくりの要件を考える(同書、p26)
次に「拠点」づくりについてですが、ここでの「拠点」とは文化が生まれる場所を指しています。東京アートポイント計画の主な目的の一つは「文化創造拠点の形成」です。拠点づくりのため、大事なことや必要なこととは何か。1年ごとに、多様な拠点のありかたが模索された豊島区での「としまアートステーション構想」が例にあげられました。「1年目は雑司が谷のある遊休施設の活用、2年目は木賃アパートでの展開、3年目は福祉施設や区役所などさまざまな場所で活動を展開してきました。それらは、多種多様なスペースのありかたを考えたデモンストレーション(実験)でした。この実験が文化の生態系を育むことにつながっていく」と大内。佐藤は「集まれる場所があることは、特別にイベントをやらなくても、自然と何かが生まれることがある」と拠点の重要性を語りました。

・「コミュニティ」が育つ環境をつくる(同書、p32)
3つ目の「コミュニティ」について。JR中央線の吉祥寺駅から高円寺駅周辺で活動するプロジェクト「TERATOTERA(テラトテラ)」が取り上げられました。「TERATOTERA」では、「関わる人が1000人いれば、地域が変わるのではないか」との思いから当初より「テラッコ」という運営チームをつくっています。テラッコは無償の活動ですが、徐々に人数も増え、10年近く迎えた現在は新たな組織「Teraccollective(テラッコレクティブ)」をつくり、自ら有償の仕事をとって動いています。「自ら活動できるよう、チームとして成熟するまで、関わっていく。我々の役割の一つでもあります」(大内)。
また、佐藤は「折に触れて手伝う人」の存在に着目しました。「プロジェクトの年月が重なることで、困ったときに声をかけやすい関係性が生まれます。『広報担当』『施工担当』といったプロジェクトの役割ではなく、『鈴木さんは発信が得意だから』『高橋さんは壁を立てるのが上手だから』と個人の名前から集まりができていくのではないでしょうか」。

■事業予算の適正規模/多様性の保持/評価の仕組みづくり 〜「9の条件」から2〜

後半では、「『事業予算』の適正規模を探る」「『多様性』を保持する」「『評価』の仕組みをつくる」の3つを紹介していきます。

・「事業予算」の適正規模を探る(同書、p40)
後半の最初は、気になる予算の話。東京アートポイント計画では、一つの事業を3〜5年かけて取り組んでいます。ですが予算計画は単年度ごと。その予算の使いかたをNPOと一緒に考えることを大事にしてきました。「大きくわけると、予算の使い道は管理費(人件費)と事業費(プログラム費)の2種類です。予算がたくさんあれば良いというものでもなく、その事業に適正な予算規模があり、その費用の配分をNPOと一緒に計画していきます」と大内。特に、他の文化事業の助成金と比べると、人件費に予算をかけられることが東京アートポイント計画の特徴の一つです。「アートプロジェクトは運営する人がいてはじめて動きます。担い手が育つ環境を整えることも意識しています」と話しました。

・「多様性」を保持する(同書、p46)
「多様性」の保持とは? 東京アートポイント計画では常に10前後のプロジェクトが動いていますが、そのプロジェクトはどれも千差万別。規模もテーマも地域もさまざまです。特に、東京アートポイント計画では今後予想される社会課題に対して取り組んでいます。「社会課題とは、防災、環境、福祉、教育、移民などさまざま。そうした分野と連携しながら活動しています」と大内。例えば、障害やジェンダーなどさまざまな境界線を探る研究型プロジェクト「東京迂回路研究」、多死社会に向けて看取りに取り組んだプロジェクト「東京スープとブランケット紀行」など。こうした社会的なテーマと向き合う多様な活動が同時に走っている状況は、次の項目でもある「評価」においても重要です。「複数のステークホルダーに対して説明責任を果たすために、また未来へ応答する価値を生み出すために、多様なアプローチが必要です」と大内は話します。

・「評価」の仕組みをつくる(同書、p50)
来場者数や経済効果など、数字では計りかねない価値をどのように伝えていけばいいのでしょうか。東京アートポイント計画では、その見えない価値を伝えるために、評価の仕組みを自分たちでつくっています。例えば、NPOと1年間の事業目的を共有するための「はじめのシート」と「おわりのシート」。事業として当初の目標を達成できているか、組織として達成できているか、とさまざまな側面から検証します。「東京アートポイント計画では、新たな組織を育てることが大きな目的の一つです。いかにチームビルディングができているか、適正な規模で活動できているかを常に確認しています」と大内。
「評価がなぜ必要かという理由は3つあります」と佐藤。「『説明責任』が一つ。次に『事業改善』の機能。事業と組織、それぞれの目標を一緒に確認することで対話ができます。3つ目が『価値創造』の機能。これはドキュメントなどにまとめることと関わります」。東京アートポイント計画では、この10年で200冊を越える本を制作しています。冊子やウェブメディアなどで活動を伝えることは、何か価値なのか、をまとめる作業でもあるのです。

■10年続けてきた成果とは? 〜会場の質問から〜

「中間支援の9の条件」から6つの紹介を終え、最後に会場からいくつかの質問がありました。

東京アートポイント計画で制作した成果物を配布しました。

Q:東京都が直接NPOに支援するのではなく、アーツカウンシル東京を通して支援することのメリットはなんでしょうか。

A:アーツカウンシル東京のなかには複数の部署があり、東京アートポイント計画はそのうちの一つとなります。東京アートポイント計画では、資金的な支援だけではなくスタッフがついて対応したり、他の自治体と共催したりと、複合的な支援を提案していることが特徴です。プロジェクトの実践方法や組織のマネジメント等も含めてその可能性を伸ばすのが東京アートポイント計画の役割と考えています。

Q:長期的なプロジェクトの重要性は、まだまだ理解してもらうのが難しいと感じます。どのように伝えていますか。

A:まさに今日の講座もそうですが、10年続けてきた成果を語ることだと思います。日本では、2000年代の前半からいろいろなアートプロジェクトが動いていますが、「越後妻有アートトリエンナーレ 大地の芸術祭」や「BEPPU PROJECT」など、10〜20年続く先行事例もあります。そうした先行事例からもわかるように、10年以上続けたからこそ見える成果がある。私たちもアプローチの仕方を変えながら、どのように成果を拾うかはこれからも考えていきたいと思います。

Q:ドキュメントやアーカイブを大切にされていますが、その役割分担や予算の比率について教えてください。

A:役割分担についてはケースバイケースです。基本的に、NPOが主体となってつくりますが、残すべき価値やエピソードなどは、私たちのほうで提案することもあります。アーカイブにあてる予算は役割分担にも関わります。一つのドキュメントをつくるときも、デザイナー、ライター、編集者などが関わることもありますし、全体の予算に応じて外注しない場合もあります。特に、現場は実践がベースなので、編集に予算をどのように割くかは議論になります。全体の予算規模や、チームの体力によって変わります。

Q:良い企画とは、どのように定義しているのでしょうか。また既存のプロジェクトに創造性をもたせるために、どのようなアドバイスをされていますか。

A:スタートするときの基準として、創造性や実験性を鑑みています。それが「良い企画」の基準なのかもしれません。スタート時に面談をするのですが、何がチャレンジポイントなのかを必ず聞いています。何を新しくやろうとしているか、そのオリジナリティは何か。例えば、本に収録されたインタビューで語られていますが、NPO法人トッピングイーストのインタビューで、ディレクターの清宮陵一さんが「利き手を封じた時に見える豊かさがある」と語っています。ビジネスの世界で働いていた彼が、あえてその得意分野を封じたからこそできたことがある、と言っていたのです。これまでの経験を生かすことももちろん大事ですが、いかに違う方法でチャレンジできるか。それから面談では、誰と新しいことをはじめますか、という質問もしています。一人の強いリーダーの思いだけではなく、集うメンバーたちが大事だと考えています。

Q:この10年続けて見えた成果はありますか。
A:『これからの文化を「10年単位」で語るために』にまとめた9の条件が一つですが、それは回答ではありませんでした。この「条件」を共有することで、これからさらに増やしていきたいし、「こういう要素があるのではないか」といった議論をしたいと考えています。また、10個目の条件には「時間をかける」があるかもしれません。

最後に佐藤は「『コミュニティ』が育つ環境をつくる」で話が出た「折に触れて手伝う人」についてを例に出しながら、「『折に触れて手伝う』といった弱いつながりが生まれたことが、時間をかけたことの成果かもしれません。小さな関係性や多様な関わりは、事業の成果として見えにくいのですが、それこそが地域や自治にとって重要ものだと思います」と結びました。

執筆:佐藤恵美
撮影:齋藤彰英
運営:NPO法人Art Bridge Institute


本レクチャーで使用した書籍『これからの文化を「10年単位」で語るために ー 東京アートポイント計画 2009-2018 ー』について、こちらのページでご紹介しています。
PDF版は無償公開、印刷版はオンラインや各地の書店様等でのご購入が可能です。

『これからの文化を「10年単位」で語るために ー 東京アートポイント計画 2009-2018 ー』
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