[資料紹介]アートプロジェクトをもっと知りたい

アートプロジェクトの輪郭を掴む

アートプロジェクトとは、どんなものを指すのだろう?
アートプロジェクトには、どんな事例や議論があるのか? 

そんな疑問を抱いたら、まずは『日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年』がおすすめです。

本書の刊行準備をはじめた2010年当時、アートプロジェクトの全貌について語った書籍は、ほとんどありませんでした。そのため、東京藝術大学教授の熊倉純子さんを中心とした「アートプロジェクト研究会」が各地の実践者や研究者など21名と3年かけて議論を重ねました。

大きな特徴は、アートプロジェクトの歴史をたどり、定義を試みたことにあります。本書の冒頭では、アートプロジェクトを次のように説明しています。

アートプロジェクトとは、現代美術を中心に、1990年代以降日本各地で展開されている共創的芸術活動。作品展示にとどまらず、同時代の社会の中に入りこんで、個別の社会的事象と関わりながら展開される。既存の回路とは異なる接続/接触のきっかけとなることで、新たな芸術的/社会的文脈を創出する活動といえる。

①制作のプロセスを重視し、積極的に開示

②プロジェクトが実施される場やその社会的状況に応じた活動を行う、社会的な文脈としてのサイト・スペシフィック

③さまざまな波及効果を期待する、継続的な展開

④さまざまな属性の人びとが関わるコラボレーションと、それを誘発するコミュニケーション

⑤芸術以外の社会分野への関心や働きかけ 

などの特徴を持つ。
その活動は、美術家たちが廃校・廃屋などで行う展覧会や拠点づくり、野外/まちなかでの作品展示や公演を行う芸術祭、コミュニティの課題を解決するための社会実験的な活動など、幅広い形で現れるものを指すようになりつつある。

この定義からは、アートプロジェクトの現場では、さまざまな属性をもった人たちが、まちなかのあらゆる場所を使い、社会の多様な分野とのアートを介した接点づくりをしている姿が思い描けるかと思います。

本書は、アートプロジェクトの定義や歴史の振り返りからはじまり、ケーススタディとして大学、オルタナティブな場、美術館、まちづくり、スタッフ、社会、企業、アーティスト、⒊11以降の動きといった切り口での議論を収録しています。もくじを眺めるだけでも、その活動の広がりに触れることができます。まずは気になるトピックから、拾い読みをしてみるのもいいかもしれません。

『日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年』
本書の内容をもとにした書籍に熊倉純子監修『アートプロジェクト 芸術と共創する社会』(水曜社、2014年)がある。

『日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年』の発刊後には、その続編として『続・日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年(前編)』と『続・日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年(後編)』の2冊があります。前著と同じトピックを、異なるゲストとともに議論を深めたものです。

『続・日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年(前編)』
『続・日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年(後編)』

この3冊を読めば、アートプロジェクトの輪郭が掴めてくるはずでしょう。ただし、内容が充実している分だけ、量も多いのが難点。まずは議論の全体像を確認しておきたい場合は、要約版を収録した『「日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年」補遺』が役立ちます。

熊倉純子さんの書き下ろし「アートプロジェクトの美的・社会的価値についての考察」、戦後日本の芸術活動を専門とするジャスティン・ジェスティさんの特別寄稿「アートプロジェクト:日本の現代アートにおける新たな公共性の文脈」も収録。これらの論考からは、現代アートの議論におけるアートプロジェクトの論点や、国際的な潮流のなかでの位置づけを確認することができます。

『「日本型アートプロジェクトの歴史と現在 1990年→2012年」補遺』
本書には英語版『An Overview of Art Projects in Japan: A Society That Co-Creates with Art』がある。

実践者から見たアートプロジェクト

実践者は、アートプロジェクトをどう捉えているのでしょうか?

『アートプロジェクトの0123』はArt Center Ongoingの小川希さんの講座を書籍化したものです。0123は「オイッチニーサン」と読みます。アートプロジェクトの運営の準備運動をするための入門書としてつくられたものです。

「まず、アートのプロジェクトなのだから、アートそれ自体の歴史を知らなければお話になりません」。そんな小川さんの言葉に導かれ、第一章は「アートの歴史・アートの概念を学ぶ」ことからはじまります。コンセプチュアル・アートの登場から、映像や絵画表現の現在までの変化といった現代美術の流れや、作品と結びついた社会的なトピックの解説を収録。そして、第二章では、現在活躍するアーティストの作品も紹介されています。

第三章では「文章力」と「コーディネート力」をテーマとしたゲストレクチャーの様子が収録されています。アートプロジェクトの実践において「欠かすことのできないスキル」として「アートを言葉で綴ること」「アートで場を紡ぐこと」のノウハウを学ぶことができます。

第四章は、ディレクター3人の体験談です。そのなかで数々のアートプロジェクトを手掛けたP3 art and environmentの芹沢高志さんはアートプロジェクトを「たった一人ではできない」ものと語っています。これは小川さんが本書の冒頭で「共に走る隣人の声に耳を傾ける姿勢を身につけましょう」と語りかけていることとつながっています。アートプロジェクトにおいては、その運営においても、さまざまな分野や属性の人たちと「ともに」つくり上げていくことが求められていることがわかります。

『アートプロジェクトの0123』
「0123」の続編「アートプロジェクトで789(なやむ)」は『アートプロジェクトの悩み—現場のプロたちはいつも何に直面しているのか』(フィルムアート社、2016年)として刊行された。

小川さんは、中央線沿線を舞台とした「TERATOTERA」のディレクターを務めていました。TERATOTERAは、ボランティアスタッフ「テラッコ/TERACCO」を中心として、プロジェクトを展開したことが特徴でした。10年間の活動をまとめた記録集『TERATOTERA 2010→2020』の副題は「ボランティアが創ったアートプロジェクト」。プロジェクトの記録だけでなく、多数のテラッコの言葉を収録することで、本書を通して躍動感あふれるテラッコたちの動きを知ることができます。さまざまな人たちがかかわるアートプロジェクトにおいて、メンバー同士が、それぞれの役割を超えたフラットな関係を築くことが醍醐味であることがわかることでしょう。

『TERATOTERA 2010→2020 ボランティアが創ったアートプロジェクト』

アーティストは、どのようにアートプロジェクトを捉えているのでしょうか? 

『「思索雑感/Image Trash」2004-2015ー校正用ノート』は、美術家の藤浩志さんが書き留めてきたブログ記事を一冊にまとめた本です。藤さんは各地のアートプロジェクトにアーティストとして参加していますが、自らも含めて表現活動をするときの関心が「70年代『平面と立体」→80年代『空間」→90年代『場」→00年『システム」」と移り変わってきたのではないかということを指摘しています。

僕が大学に入学した70年代後半はまだ「立体と平面」や「具象と抽象」の問題をいじる先輩たちが多く、その問題から「空間」の問題へと興味が移行しつつある時期だったような気がする。

80年代インスタレーション作家が多発し、僕もインスタレーション作家というレッテルを貼られ、それから逃れようともがいた時期もあった。

そのうち、「空間」をいじる延長で「場」の問題が輸入される。それが90年前後。

どちらかというと僕自身も、「場と空間」の認識に翻弄され、違和感に向き合いながら、極めてまじめに動いた結果、見えてきたのが地域社会の「システム」の問題。

同時にコンピュータとインターネットの普及により、OSという概念を含むシステムという考え方が急激に変化したのも90年代半ばで、いろいろなあり方が急激に変化していった時期と重なる……。

僕自身、地域に内在するシステムに関わる表現に興味を持ち始めたのが95、96年ごろであるが、2000年あたりから、「場」というよりは「システムや仕組み」をいじり、地域社会に介入しようとするタイプの表現が見えるようになってきたと思っている。

「056  70年代「平面と立体」→80年代「空間」→90年代「場」→00年「システム」……とか?─ 2009-12-19─23:06」

ここまで見てきたようなアートプロジェクトのありかたと重なっていることがわかると思います。藤さんは、不要になったおもちゃを使ってこどもたちが主体的に遊びをつくる仕組みである「かえっこ/kaekko」を考案するなど、さまざまな人たちが活動を生み出す「OS」づくりを行っています。こうしたアーティストの表現の変化からも、アートプロジェクトが現在の姿になった経緯を見ることができます。

『「思索雑感/Image Trash」2004-2015ー校正用ノート』

2022年以降の最新の動向に触れる

さて、ここまで読めば、アートプロジェクトがどんなものであるかが掴めてきたのではないでしょうか? 

2022年に公開した動画シリーズ「アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点」と「ケーススタディ・ファイル」では、最新のアートプロジェクトについての議論や事例を知ることができます。ぜひ、こちらもご覧になってみてください。

「応答するアートプロジェクト|アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点」
「応答するアートプロジェクト|ケーススタディ・ファイル」

[資料紹介]運営全体をぐるっと確認したい

運営の「共通言語」をつくる

アートプロジェクトの運営をはじめるときには、まずプロセスの全体像を把握することが有効です。どんな作業が発生するのか? その手順を確認するには『アートプロジェクトの運営ガイドライン 運用版』が役立ちます。

本書ではアートプロジェクトの運営を、ブレーンストーミングからはじまり、検証・評価へつながっていく円で表現しています。

さらにそれぞれのプロセスを次の15のステップに分けて説明し、実践に使えるチェックリストやワンポイントの解説が付いています。

  1. ブレーンストーミング
  2. プロジェクトの役割の明確化
  3. 企画
  4. 準備(実施計画策定)
  5. 準備(広報)
  6. 準備(ゲスト)
  7. 準備(人)
  8. 準備(会場)
  9. 準備(資金)
  10. 準備(会計・経理)
  11. 準備(保険)
  12. 実施(事業)
  13. 実施(記録)
  14. 報告
  15. 検証・評価

この15のステップを見通すと「実施」は、わずかに2ステップにすぎないことがわかります。アートプロジェクトの実施を充実したものとするためには、その前後の準備が大事になることを示しています。

著者であるアート・コーディネーターの帆足亜紀さんは、アートプロジェクトの運営は「高い視点から360度をぐるっと見渡しながら、プロジェクトを推進していくことが理想」だと語り、その進行状況を確認する「ルートマップ」として本書をつくりました。付録には「運営ガイドラインマップ」もあります。本書を使いながら、アートプロジェクトの運営をしてみるのもおすすめです。

『アートプロジェクトの運営ガイドライン 運営版』

より具体的に、それぞれの運営プロセスをイメージしてみたい人は『アートプロジェクトの現場で使える27の技術』を手にとってみてください。本書は『アートプロジェクトの運営ガイドライン』に掲載された運営サイクルにのっとりながら、その過程で求められる作業を実例やコツとともに紐解いています。運営の「技術」を学ぶレクチャーから生まれた本であるため、まるで講師の語りを聞くように読み通せるかと思います。

『アートプロジェクトの現場で使える27の技術』

また、アートプロジェクトの運営は、さまざまな役割の人たちと「ともに」動かすものです。忙しい現場では、なかなかプロジェクトメンバー同士で運営について議論がしづらいのも実情だと思います。『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』は、55の「ことば」から、息の長いアートプロジェクトを生み出すためにこころに留めておくべき視点を収録しています。プロジェクトメンバーと一緒に本書のことばを拾いながら、自分たちのプロジェクトの運営について語り合うのもいいのではないでしょうか。

『東京アートポイント計画が、アートプロジェクトを運営する「事務局」と話すときのことば。の本 <増補版>』
動画による解説「アートプロジェクトの運営をひらく、◯◯のことば。」も。

プロジェクト運営を続けるためには?

『アートプロジェクトの運営ガイドライン』に掲載されている運営サイクルの図では、「検証・評価」から伸びた矢印の上に「連続性・持続性」という言葉が書かれています。ひとつのプロジェクトの実施が終わり、検証と評価を行った「出口」は、次のプロジェクトの構想となる「入口」につながっている。図が「円」であったことの理由は、ひとつの実践は、また別の実践へとつながり、その先には活動の継続性という課題が現れてくることを示していました。

この継続性という課題を考えるために『運営ガイドライン』の副読本として、帆足さんは『組織から考える継続する仕組み』を制作しています。帆足さんは、自身の現場であった「プロジェクトの出口に立ったとき、次の入口で渡すはずのバトンがみつからない」という経験から「組織」という問題意識を考えはじめたといいます。

本書には、前述のような帆足さんの経験と日本のアートを取り巻く環境の変化、そして、そこから見出した「思考と実践ノート」、5人の実践者の「継続のための戦略」を収録。すでにアートプロジェクトの運営に携わっている人や、少し長い目でアートプロジェクトの実践を眺めてみたい方におすすめです。

『組織から考える継続する仕組み ”アート”と”社会”が長くつき合うためのインフラづくり働きかた』

アートプロジェクトを続けていくことは、その担い手の「働き方」を考えることでもあります。『働き方の育て方 アートの現場で共通認識をつくる』は、立場やスキル、経験の異なる4名の実践者が「“幸せな現場”を実現するためには何が必要か?」と2年の時間をかけて議論を重ねた成果が収録されています。

ここまで紹介してきた書籍をつくってきた帆足さん、アーティスト/コミュニティ・デザイナーの菊池宏子さん、プロジェクト・コーディネーター/プランナーの若林朋子さん、公認会計士・税理士の山内真理さんが相手やトピックを変えながら話した7つの対話、そして現場を担う人たちの間で「共通認識をつくるための言葉」として15の項目が紹介されています。よりよい実践をつくるための視点や、立場の異なる人たちとコミュニケーションをとるうえで必要となる基本的な知識を学ぶことができる一冊です。

『働き方の育て方 アートの現場で共通認識をつくる』

どんな担い手がいるのか?

アートプロジェクトの運営の現場は、どのような担い手によって支えられているのか? その働き方は多様で、ひとつのロールモデルを描くことが難しい職種でもあります。アートプロジェクトを動かす担い手づくりを目指した「思考と技術の対話の学校」では、現場で働く人たちの経歴や経験、技術について話を聞く「仕事を知る」というシリーズを行っていました。その3年間の講義録では、延べ28人の実践者のレクチャーを読むことができます。もくじに並んだ肩書を眺めるだけでも、その仕事の多様さが理解できるかと思います。それは、いろいろな立場やスキルをもった人たちが、アートプロジェクトの運営にかかわる余地があるということでもあります。

『思考と技術と対話の学校 基礎プログラム「仕事を知る」講義録 2014』
『思考と技術と対話の学校 基礎プログラム「仕事を知る」講義録 2015』
『思考と技術と対話の学校 基礎プログラム1 [思考編]「仕事を知る」講義録 2016』

アートプロジェクトの運営には、必要な作業など全体を俯瞰的にみる視点と、その試みを社会に定着させていくための継続性が求められます。それを実現していくための一助として、ここまで紹介した本を、ぜひ活用してみてください。

東京アートポイント計画では、地域社会を担うNPOと都内のさまざまな地域でアートプロジェクトを行っています。ウェブサイトからは、現在進行形で動いている各プロジェクトの情報へアクセスすることができます。また、NPO同士の横のつながりをつくる「事務局による事務局のためのジムのような勉強会」(通称:ジムジム会)では、いまどんなことを悩んでいるのかも垣間見えるかと思います。ご自身の経験を振り返ったり、これから新たな現場に飛びこんでみたりするきっかけに使ってみてください。

[資料紹介]アーカイブについて知りたい

プロジェクトを続けるために

アートプロジェクトを続けるほどに増えていくのが、記録です。最近では、そのほとんどがデジタルデータになり、量も膨大になりました。それをあとから整理するのは大変な作業です。だからこそ、先回りして、早くに取り組んでおきたい。でも、どうやってやればいいのでしょう?

まずは『アート・アーカイブの便利帖』を手に取ってみることをおすすめします。本書は、アートプロジェクトのアーカイブに役立つノウハウをまとめた入門書です。アーカイブをはじめるための準備から「作成→整理・保管→共有」という基本的な作業の流れ、具体的なシーンに合わせたヒントを収録。資料の名前の付け方や、保管方法など自分たちの現場をイメージしたり、実際に使ったりしながらアーカイブづくりができます。

あらためて、アーカイブをするメリットとは何なのでしょうか? 本書では以下の3つを挙げています。

・記録を整理することで業務の「効率化」をはかること

・記録を活用し、「対外効果&対策」に役立て、社会的な信頼性を高める

・記録によって共有知識を蓄積し、「人材育成」に役立てる

いずれも活動を続けていくために必要な要素といえるでしょう。アートプロジェクトの運営で発生する記録をアーカイブ化していくことは、活動の継続性を裏支えするものとなります。

本書のなかで何度も繰り返されているのは、アーカイブはプロジェクトのメンバー「全員」で取り組むことだということです。自分たちにとって何が大事な記録なのか、どのようなルールで残していくか、どのように活用していくのか。アーカイブの作業を通して、議論を重ねることは、プロジェクトの目的や活動を共有していくプロセスにもなることでしょう。

『アート・アーカイブの便利帖 アート・プロジェクトをアーカイブするために知りたいこと』

『アート・アーカイブの便利帖』を読み通したあとに、手を動かすときは『アート・アーカイブ・キット』も役立ちます。どのようなワークフローで進めればいいのか? どのタイミングで、どのような記録が発生するのか? そんな問いかけを自分なりに整理するための見取り図となる進行表や業務分類表などが収められています。

『アート・アーカイブ・キット』

もっとアーカイブのことを深く知りたいと思った人には『アート・アーカイブ・ガイドブック β版』があります。『アート・アーカイブ・キット』や『便利帖』は本書のエッセンスを使いやすく、簡便にまとめていくなかで生まれたものでした。じっくりとアーカイブを考えるために、併せて読んでみるのもいいと思います。

『アート・アーカイブ ガイドブック(β版)』

アーカイブをプロジェクト化する

ここまで見てきたように、アーカイブとは、記録を整理し、さまざまな人が使えるものに変えていくことです。プロジェクトを「実施する」のとは、異なる技術や担い手が必要になります。それは「アーカイブする」ことを、ひとつのプロジェクトへと拡張していくことにもつながっています。

『記録と調査のプロジェクト「船は種」に関する活動記録と検証報告』は、記録や調査を専門とするメンバーが、「種は船」という進行中のアートプロジェクトに伴走した試みをまとめたものです。実施メンバーとは別に、記録に特化したチームがいることでプロジェクトにかかわる多くの人たちの「声」や、さまざまな記録が残されました。

『記録と調査のプロジェクト『船は種』に関する活動記録と検証報告』

『『種は船 in 舞鶴』アーカイブプロジェクト 活動の記録 2012』

「船は種」の翌年には、同様の試みとして『地域におけるアートプロジェクトのインパクトリサーチ 「莇平の事例研究」活動記録と検証報告 概要版』が制作されました。10年にわたって続いてきたプロジェクトの記録を残すことは、プロジェクトの意義や価値を確認する作業につながりました。記録を増やすことは、新たな視点でプロジェクトを評価することにもなっていきます。

『地域におけるアートプロジェクトのインパクトリサーチ 「莇平の事例研究」活動記録と検証報告 概要版』

『三宅島大学誌』は「三宅島大学」というプロジェクトが終わったあとに、活動を「振り返る」ことをプロジェクト化した一冊です。プロジェクトの設計思想、関係者インタビューやクロストークの記録、伊豆三島の比較調査など「三宅島大学」という取り組みの記録と検証が複数の視点からなされています。

『三宅島大学誌 「三宅島大学」とは何だったのか』

アートプロジェクトを企画し、運営していくプロセスにアーカイブを位置づけていくことは大事なことですが、なかなか手が回らないのも事実かと思います。そんなとき、異なるスキルをもった人たちとチームを組んだり、アーカイブそのものをプロジェクトとして立ち上げたりすることも、ひとつの手になると思います。

アーカイブを続けるために

アーカイブはプロジェクトの持続性を支える大切な活動です。その記録があることで、プロジェクトの価値をより多くの人たちに届ける可能性もひらけることでしょう。アーカイブこそ、続けていくことで意味が生まれてくるもの。だからこそ、自分たちなりに続けていける方法を探していくことも大事になってきます。

『ノコノコスコープ のこすことのあそびかた』では「定点、固定、ズームなし」といった簡単な映像撮影のルールを使うことで、記録を残していく手法を提案しています。

『のこすことのあそびかた ノコノコスコープのイロハ』

また、2022年度からはアーカイブのノウハウや、さまざまな担い手の人たちの取り組みを紹介する動画シリーズ「Art Archive Online(AAO)」も配信しています。

Art Archive Online(YouTubeチャンネル)

ぜひ、ここまで紹介してきたコンテンツを見て、読んで、使って、アーカイブに取り組んでみてください。

[資料紹介]新たな視点を獲得したい

実践からの「気づき」を紡ぐ

いまを生きる社会をどのように捉えればいいのだろうか? アートは、どのようなアプローチがとれるのだろうか? まちなかを活動の起点とするアートプロジェクトは、社会のいろいろな分野や立場の人たちとかかわるなかで、常にこうした問いかけにさらされています。プロジェクトを仕掛け、実践することで社会の変化に応答していくためには、常に自らの視点や思考を更新していくことが必要になります。

『氾濫原のautonomy|自己生成するデザイン』にはNPO法人アートフル・アクション!事務局長の宮下美穂さんが12年にわたる「小金井アートフル・アクション!」の実践で獲得した「気づき」を振り返り、より深めるために交わした5名との対話を収録しています。

「答えの出ないことを、どのように持ちこたえるのか」「結び直すこと、つなぎ直すこと」「日常生活を礼拝にすること 問題は向こう側にはない」「呼応することと、応答する力 作用としての場」「ほどく――緩やかなつながりの中に解体し、飛び火し、更新していくこと、照らし合うことの可能性」。それぞれの対話のタイトルを拾うだけでも、宮下さんが示す問いかけの深さを感じられるかと思います。

最終章は、本書の解題ともなる宮下さんの書き下ろしです。

一人ひとりの中で、あるいは人々の中で何かが生成されてくる過程そのものに内在する、ある種の抜き差しならない必然の回路がデザインで、その中には、それぞれの人の過去や未来も包含されているのではないかと思います。

その回路が機能する時、手先のことというよりも、経験のブリコラージュのようなものとして、複数の人々の中で互いの経験が自治/autonomy的に創発し合う状況が発動し、そして機能することを自己生成のデザインと考えたいと思います。一人ぼっちでもなく、集団、でもなく、一人ひとりの回路の発動が、隣にいるその人とのずれや齟齬を伴いつつ共創するということです。

最終章のこの言葉に行き着くまでに、どのような応答がなされたのか? ぜひ、本書を手に取って読み解いてみてください。

『氾濫原のautonomy|自己生成するデザイン』

その後のNPO法人アートフル・アクションの実践の一部は『わたしの気になること 「多摩の未来の地勢図をともに描く」ワークショップ記録 レクチャー編/フィールドワーク編』で読むことができます。

『わたしの気になること 「多摩の未来の地勢図をともに描く」ワークショップ記録 レクチャー編/フィールドワーク編』

『いま「合奏」は可能か? 心・技・体を整えて広場にのぞむために』は、数々の音楽に関するプロジェクトをディレクションしてきたVINYLSOYUZ LLC/NPO法人トッピングイーストの清宮陵一さんを中心にまとめたインタビュー集です。「公共空間を営みの場所として取り戻すには?」。本書のスタート地点となる問いに答えるために、清宮さんは「音楽、ひいては芸術活動は必要不可欠な要素である」といいます。一方で「音楽という形のないものが公共空間で鳴らされることには不安を招く側面もたしかにありうる」とし、「安全性や健全さを過剰に求める社会においては、一見よくわからない芸術活動は“ノイズ”として真っ先に除去される」ものだと続け、本書の内容を次のように記しています。

本書は、イベント制作者や文化行政担当者など、さまざまな立場で芸術活動を自ら行なったり芸術活動をサポートしていったりする人たちを対象に、その実践の過程でどうすれば心が安らぎ、技が磨かれ、体のバランスを保てるのか―ある種人間の根源的な部分を、法律、まちづくり、医療、宗教、音響といった多分野にわたるスペシャリストにインタビューし、そうした活動のベースを支えうる「提言書」としてまとめたものである。

それぞれのインタビューの冒頭に掲げられた言葉を拾って読むだけでも、本書がどのような「提言」をしているかを垣間見ることができると思います。「“どんな未来をつくるべきか”という“そもそも”の視点で、ルールや仕組みを改善していく」「“トライアル”によって何が起こるのかを可視化してみて、その風景を共通言語に空間を共につくっていく」「相手の心の来歴を知り、自分との関係性の“いま”を把握しながら当事者へと巻き込んでいく」「子どもの頃の音の原体験の中に“よりよく生きる”ための対話の接点を見つけ出していく」「その人に取って、本質的なものとは何か、そのことだけを目的にして音楽にも集中していく」。どれもがこれからの実践を後押しするような具体的で力強い言葉です。その提言は、音楽に限らず、「まち」をフィールドに多様な人が集まる「広場」をつくろうとする活動にとって役立つものとなるでしょう。

『いま「合奏」は可能か? 心・技・体を整えて広場にのぞむために』

『芸術祭ノート』は、写真家の港千尋さんが、あいちトリエンナーレ2016の芸術監督を務めた経験をもとに執筆した本です。本書にはプロキシミティ、スタイル、マイクロヒストリー、リアセンブリングなど現在の社会のあり方を考えるためのキーワードが語られています。また、次のような実践的なエピソードも紹介されています。

言葉をモノとして作ることは、コミュニケーションの手段でもある。あいちトリエンナーレ2016ではテーマとコンセプトが決まった段階で、冊子を作ってみた。まだアーティストが決まる以前の、キュレーターチームが集まりはじめた段階である。目的は『虹のキャラバンサライーー創造する人間の旅』というテーマをヴィジュアルで伝えるようなツールを作ることだった。記者会見で配布するだけでなく、アーティストやスタッフに配るための、最初の印刷物である。あえて大判にして写真を大きく扱い、そこにテーマにまつわるさまざまな本からの引用を載せた。コンセプトを理屈で説明するよりも、視覚的聴覚的に感じてもらいたいと思った。その時点ではまだディレクション、キュレーション、デザインはほとんど初顔合わせだったが、その編集プロセスを通じてコミュニケーションが頻繁に行われ、短期間で作ることが出来た。紙の媒体は対外的な説明のツールとしてだけでなく、新しいチームの創成のために役立ったように思う。

本書は、港さんからの引き継ぎ書のように、「これから」の実践をつくるための考え方や手法が散りばめられています。読んで、考えて、それを誰かと話してみる。そして、自分だったらどうするかと次の実践を構想する材料として使ってみるのもいいかもしれません。

『芸術祭ノート』

港さんが編集長を務めた機関紙『ART BRIDGE』を併せて読むのもおすすめです。

『ART BRIDGE』は1号から6号まで発行されている。

考を深める、視点をひらく

社会のさまざまな分野とかかわっていくことは、そう容易なことではありません。異なるバックグラウンドをもった人たちと実践をつくるためには、互いのもっているものを出し合うだけでなく、両者を行き来するような言葉をもつことも求められます。

Tokyo Art Research Lab(TARL)での対談シリーズ「思考を深める/想像を広げる」では、アートプロジェクトの実践者と他分野・他領域のゲストが対話を行いました。3年間の活動記録は、3冊の講義録に収められています。

アジア、場所、生と死、公と私、音/音楽、セクシャリティ――毎回、異なるテーマを掲げ、全18回、のべ56名が語り合いました。ゲスト同士は、その場で初めて出会う方も多く、互いに言葉を探しながら議論を重ねた記録にもなっています。どのように議論が進んだのか、というところも読みどころです。そして、対話を読んで気になったゲストの著書や、その後の実践を追ってみるのもおすすめです。

『思考と技術と対話の学校 基礎プログラム「仕事を知る」講義録 2014
『思考と技術と対話の学校 基礎プログラム「仕事を知る」講義録 2015
『思考と技術と対話の学校 基礎プログラム「仕事を知る」講義録 2016

また、TARLのYouTubeチャンネルでは、P3 art and environment統括ディレクターの芹沢高志さんをナビゲーターとした対談シリーズ「アートプロジェクトと社会を紐解く5つの視点」など、アートプロジェクトと社会にかかわる最新の議論を収めた動画もアップしています。

TARLのYouTubeチャンネルではさまざまな動画を公開中!

ここで紹介した本や動画は、このウェブサイトでは「思考の種」というキーワードに入っています。このキーワードから新たなコンテンツに出会うこともできます。こちらからも、ぜひチェックしてみてください。

めとてラボ

誰もが「わたし」を起点にできる共創の場を

視覚言語(日本の手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親をもつ聴者)が主体となり、異なる身体性や感覚世界をもつ人々とともに、自らの感覚や言語を起点にコミュニケーションを創発する場をつくるプロジェクト。手話を通じて育まれてきた文化を見つめ直し、それらを巡る視点や言葉を辿りながら、多様な背景をもつ人々が、それぞれの文化の異なりを認め合うための環境づくりを目指している。

実績

めとてラボでは、誰もが「わたし」を起点にできる共創的な場づくりを目指し、その環境や仕組み、空間設計などを含めた幅広い視点からのリサーチを続けている。また、活動のなかでさまざまな専門家や実践者と出会い、ヒアリングやディスカッションを通して視覚言語やろう文化を複数の視点から捉え直すことで、これからの活動にとって必要な取り組みを発見しながら実験を重ねている。

2022年度は、拠点づくりのためのリサーチと、手話通訳環境の整備と技術やツールの開発を目指す「つなぐラボ」を行った。自らの身体や言語を見つめ、それに合う空間を設計していくことは、それらを肯定していくプロセスでもある。拠点づくりでは、“ろう者の身体感覚や手話言語からなる、会話空間を起点とした空間設計があるのではないか”という視点から、アメリカにあるろう者のための大学・ギャローデット大学の取り組みから生まれた「デフ・スペース」に着目。国内にあるデフスペースを再発見すべく、拠点や文化施設、各地域のろうコミュニティのリサーチのため、福島、長野、愛知を訪れた。2023年度には米・ギャローデット大学と筑波技術大学大学院にてデフスペースデザインの研究をしていた福島愛未を招いたイベントを行ったほか、一般社団法人日本ろう芸術協会とともに西日暮里に新たな拠点「5005(ごーまるまるごー)」をオープン。内装や什器の設計においても、デフスペースリサーチで得た知見を取り入れている。
2024年度には「5005開放日」を開始。毎月3日間ほど誰もが来られる日を設定し、ワークショップや勉強会なども同時に行ったほか、年度末には展覧会「DeafSpace Design ろう者の身体×家」を開催。写真や映像の展示、トークなどを通して、空間を見渡せる吹き抜けの構造や、工夫された照明の配置など、「見る」ことを中心にデザインされたデフスペースの特徴を紹介した。

手話は視覚を起点としている言語で、音声言語は聴覚を起点としている。そこには、視覚と聴覚のそれぞれからなる言語体系ゆえのリズムや、対話の重なり方、空間の使い方などさまざまなズレが生じる。このズレを意識しながら、いかに共創へと接続するかを模索していくために、手話通訳の現場においてどのようなルールや条件、進め方のリズムが必要なのかを探究し、技術やツール開発を行う「つなぐラボ」を開始した。異なる文化や感覚の間をどのようにつないでいくのかを検討するため、手話通訳者だけではなく、さまざまな言語間の通訳者、翻訳者にヒアリングを行っている。

また、暮らしのなかにある手話をどのように継承し、保存していくのかという観点から、各地に残る地域特有の手話言語のリサーチや、暮らしのなかにある手話の記憶・記録をアーカイブするための取り組みも実施。ろう者の家庭で撮影されたホームビデオを鑑賞しながら対話を行う「ホームビデオ鑑賞会」では、聴者とろう者がともに集い、ホームビデオを見ながらの対話を通して、ろう者の暮らしのなかにある文化や時代の変遷に考えを巡らせている。2024年度にはホームビデオを一般公募するなど、プログラムの運営やかかわりをひらく取り組みも実施。また、こどもの遊ぶ様子を映像で記録し、遊びが生まれる背景を研究する「アソビバ」プロジェクトもはじまっている。

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誰もが「わたし」から出発できる場をつくるために——めとてラボインタビュー

カロクリサイクル

カロク(禍録)をめぐる表現とネットワーク

各地に蓄積されてきた「過去の災禍の記録=禍録(カロク)」を読み込み、現在に応用するためのプロジェクト。災禍の歴史をたどり、地域の歴史を掘り起こし、それらに向き合う人々と出会い、話し合い、ワークショップや展示を通じて表現を行う場をつくることから、災間期をともに生きるためのネットワークづくりを目指している。

実績

東日本大震災以降、仙台を拠点として、災禍にまつわる記録を活用し、体験を語り継ぐための実践を行ってきた一般社団法人NOOK。2022年から活動拠点を東京に移し、これまで培ってきた知識や技術をいかし、災間期を生きるためのアートプロジェクト「カロクリサイクル」をスタートさせた。

2022年度は、「リサーチ」と「ネットワークの形成」を主軸として、事業発信やワークショップを実施。都内の災禍にまつわる歴史を探るため、東京都慰霊堂や都立第五福竜丸展示館など戦災や震災、水害等に関する施設への訪問やまち歩き、活動関係者へのヒアリングを行い、そこで得た気づきや考えをnote『カロク採訪記』で定期的に発信。ワークショップ参加メンバーも執筆に加わり、さまざまなネットワークが広がりつつある。オンライン番組『テレビノーク』では、各地の災禍のリサーチや記録活動に携わる担い手などさまざまなゲストを迎え、知見や技術を共有し合う場をつくった。

また、過去の記録に触れたり、実際にリサーチや記録したりする活動を通して、新たな表現をつくるワークショップ「記録から表現をつくる」も開催した。絵画やテキストなどの記録物から表現を試みている実践者とフィールドワークを行ったり、参加者が関心のあるテーマを設定し、参加者が関心のあるテーマを掘り下げながらリサーチや制作を進め、記録から生まれる表現を探ったりすることに挑戦。2023年度からは参加者有志が、その成果を発表する展示も行っている。

そのほか、ふたつ以上の土地をオンラインでつなぎ、同時に映像や本などの資料を見て、ディスカッションを行う「カロク・リーディング・クラブ」や他団体と協働しながら江東区を中心とした災禍・防災・まちづくりに関する勉強会も実施しながら、対話を重ねるための場づくりと地域に根ざしたネットワークづくりを試みている。2023年度には東京と名古屋をオンラインでつなぎ関東大震災と伊勢湾台風の記録を読んで対話を行ったほか、「てつがくカフェ」を開催した。

2023年度からは江東区・大島四丁目団地内に構えた拠点「Studio 04(ぜろよん)」を中心に活動している。「窓」を巡る語りと写真で構成した展覧会「とある窓」では、公募で集まったリサーチャーは地域の人たちに話を聞き、文章にまとめ、展示用の冊子づくりまで行った。
2024年度に実施した展覧会「現代・江東ごみ百鬼夜行」では、区の歴史やごみに関する資料、新たに創作した物語などを展示。家庭のごみを持ち寄り「おばけ」をつくるワークショップを実施すると、会場にはこどもたちが制作した「ごみおばけ」が増えていった。展覧会の様子は江東区のLINEや情報番組などで地域の話題として取り上げられた。開室日には、企画目当ての人だけでなく、近隣のこどもたちや外国籍の住民なども、本棚にある本を読んだり、おしゃべりをしたりするなど、さまざまな過ごし方をしている。

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KINOミーティング

異なる「ルーツ」と出会い、協働の場をつくる

海外に(も)ルーツをもつ人々とともに、都内のさまざまなエリアで映像制作を中心としたワークショップを行うプロジェクト。背景の異なる人々との出会いや対話を軸とした映像制作を通して、新たなコミュニケーションや協働のあり方を発見する場をつくり出す。また、参加者が主体的にかかわれるプログラムの研究・開発も目指している。

実績

団体が過去に実施した映像制作のプロジェクト「Cross Way Tokyo―自己変容を通して、背景が異なる他者と関わる」と「Multicultural Film Making ―ルーツが異なる他者と映画をつくる」にかかわったメンバーが、ワークショップクルーとして参加者をサポートする体制を構築。経験者が継続してプログラムにかかわれるような仕組みづくりに取り組んでいる。

2022年度は、池袋・板橋・大山・要町を対象エリアとしてワークショップを開催。中国や台湾、タイ、ベトナム、アメリカなどにルーツをもつ7名の参加者が集まった。参加者は3人1組のグループとなって、インスタントカメラや録音機、ビデオカメラを活用し、対象エリアにまつわる「思い出」をテーマに、まちなかでの撮影・編集、上映を行った。お互いがもつルーツや経験、まちへの記憶について何度も対話を重ね、それぞれの価値観を反映させた『変身』『ひみつ』『JST(日本標準時)』という3つの作品を完成させた。

2023年度には、まちを歩きながら、写真と映像、インタビュー音声を用いて映像を制作するワークショップとして「シネマポートレイト」を北区と新宿区で開催。新たに、過去の参加者を対象にした「ステップアップワークショップ」も始動した。参加者が互いの日常生活に密着し、対話を重ねる短編ドキュメンタリーや、「再会」をテーマにしたフィクションづくりにも挑戦し、演技やシナリオ制作、カメラオペレーターなど必要な技術と思考を培う場づくりを行った。ワークショップの最終日には上映会を行い、詩人・管啓次郎と漫画家・かつしかけいた、写真研究者の村上由鶴、行動学者・細馬宏通をゲストに迎え、言語も文化も異なる人々が協働し、作品づくりに取り組む場の可能性について言葉を交わした。

2024年度は過去の参加者を対象とした映画制作を通年で実施。15名の参加者とともに、3つの季節を舞台にしたオムニバス映画『オフライン・アワーズ』を制作するワークショップを行った。それぞれの体験をもとにした脚本の執筆をはじめ、演出、美術、技術、俳優といった役割を参加者が交互に担いながら進行。言語や制作意識の違いによるコミュニケーションの課題にぶつかりながらも、表現の可能性と向き合い、対話による他者との協働のあり方を模索した。3月には東京都写真美術館にて試写会を開催。映画と制作のプロセスを収めた「メイキング映像」を上映し、参加者によるトークイベントも実施した。

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メディア/レターの届け方 2022→2023

多種多様なドキュメントブックの「届け方」をデザインする

アートプロジェクトの現場では、さまざまなかたちの報告書やドキュメントブックが発行されています。ただし、それらの発行物は、書店販売などの一般流通に乗らないものも多いため、制作だけでなく「届ける」ところまでを設計することが必要です。

多種多様な形態で、それぞれ異なる目的をもつドキュメントブックを、どのように届ければ手に取ってくれたり、効果的に活用したりしてもらえるのか? 資料の流通に適したデザインとは何か? 東京アートポイント計画では、川村格夫さん(デザイナー)とともに各年度に発行した成果物をまとめ、その届け方をデザインするプロジェクトを行っています。受け取る人のことを想像しながら、パッケージデザインや同封するレターを開発します。

2022年度は10冊の成果物をひと箱に梱包ました。箱には各冊子から抜粋した、アートプロジェクトの現場で生まれた「ことば」を印刷しています。

詳細

進め方

  • 同封する発行物の仕様を確認する
  • 発送する箱の仕様や梱包方法の検討
  • 発送までの作業行程の設計
  • パッケージと同封するレターのデザイン・制作