2023年にリニューアルした「Tokyo Art Research Lab」(以下、TARL)のウェブサイトの企画運営を担当した櫻井は、コロナ禍のはじまった2020年にはフリーランスとしてアートプロジェクトの現場でオンライン対応に携わっていました。当時は社会で急速にオンライン化が求められた時期でしたが、その形式が普及するなかで、近年の配信は「きっちりしがち」とコメントし、それに対して今回の配信では「もう少し実験的に、フランクに、オンラインの可能性について考えてみたい」と、開催に対する思いを語ります。
例えば2020年、足立区で活動する「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」では、千住に1010人が集って演奏する音楽祭を予定していましたが、対面の実施は断念。代わりにオンライン上で「千住の1010人 from 2020年『2020年を作曲する 世界だじゃれ音Line音楽祭』」を開催しました。櫻井は、「配信ならではのズレやハウリングをいかした演奏が行われるなど、オンライン化でむしろフットワークが軽くなった」と振り返ります。
石川県かほく市出身の明貫さんは、筑波大学や国際情報科学芸術アカデミー(現・情報科学芸術大学院大学、IAMAS)で学んだあと、キュレーターとしてSKIPシティ映像ミュージアム(川口)やNTTインターコミュニケーション・センター [ICC](初台)に勤務。その後、文化庁の事業の一環でメディアアートの記録と保存に関する研究を行い、ドナウ大学大学院(オーストリア)にて修士号を取得しました。2013年からはInter Media Art Institute (IMAI、ドイツ)でビデオアートのデジタル化やデータベース作成に携わり、帰国後はキヤノンが1991〜2001年に行った伝説的な文化支援事業「キヤノン・アートラボ」の資料整理に従事。現在はふたたび故郷に近い石川県の加賀市を拠点にしています。
さらに明貫さんは、2022〜2024年、札幌国際芸術祭(SIAF)の関連団体「SIAFラボ」が手がけた分野を超えた研究開発と協働のためのプラットフォーム「S.I.D.E.」で、キュラトリアル・リサーチャーを務めました。このなかで明貫さんや、アーティストの中井悠(なかいゆう)さんたちは、音楽家のデーヴィッド・チュードア、アーティストの中谷芙二子(なかやふじこ)やジャクリーン・マティス・モニエらが、Experiments in Art & Technology (E.A.T.)のサポートを受けて1974年から進めた、島全体を楽器化する《Island Eye Island Ear》という未完の構想に着目。当時の資料を調査しながら、その実現可能性を探りました。
「パートナーシップ」をテーマに、全4回にわたって各プロジェクトの現場を訪ねてきた今年度の「ジムジム会」。そこには、活動における問題意識の共通性に基づくもの(都立第五福竜丸展示館+「カロクリサイクル」)や、まちなかのネットワークを広げるための契機とするもの(「Kunitachi Art Center」×「ACKT」)、既存の制度を考えるための機会をつくろうとするもの(昭島市立光華小学校+「多摩の未来の地勢図」)、そして今回の音まちと足立区のように、NPOと行政の目標の重なりを長い時間をかけて育て、磨き上げたものまで、4者4様のパートナーシップのかたちがありました。
演習「自分のアートプロジェクトをつくる」は、これからの時代に応答するアートプロジェクトのかたちを考えるシリーズ「新たな航路を切り開く」の一環として開催している、ゼミ形式の演習です。ナビゲーターはP3 art and environment統括ディレクターの芹沢高志さん。アートプロジェクトを立ち上げたい方やディレクションに関心のある方を対象としています。
演習「自分のアートプロジェクトをつくる」は、これからの時代に応答するアートプロジェクトのかたちを考えるシリーズ「新たな航路を切り開く」の一環として開催している、ゼミ形式の演習です。ナビゲーターはP3 art and environment統括ディレクターの芹沢高志さん。アートプロジェクトを立ち上げたい方やディレクションに関心のある方を対象としています。
11月9日(土)は、梅田哲也さん(アーティスト)をゲストにお招きしました。建物の構造や周囲の環境から着想を得て、日常で手にする身近な素材や現地にあるものと、音や水、重力などの物理現象や自然環境を組み合わせた作品を多数発表してきた梅田さん。近年では《O回》(さいたま国際芸術祭2020)や「梅田哲也展 wait this is my favorite part 待ってここ好きなとこなんだ」(ワタリウム美術館、2024)など、案内人に連れていかれるようにして観客が会場を回遊し、観客もいつのまにかパフォーマンスの一部になっているといった演劇的な手法も取り入れています。
12月22日(日)は、デザイナーの阿部航太さんをゲストにお迎えしました。阿部さんは現在、高知県土佐市在住。日本で技能実習生として生活する外国人と地域住民との交流づくりを目指す「わくせいプロジェクト in 土佐市」を展開するほか、東京アートポイント計画の共催事業であり、海外に(も)ルーツをもつ人々とともに映像制作を中心としたワークショップを行うプロジェクト「KINOミーティング」を運営しています。阿部さんの肩書きには「文化人類学専攻」の単語が。一見、「デザイナー」との関連性がよくわからないようにも思えますが、お話しを伺ううち、阿部さんの現在に至るまで道のりと指標となる考え方に深く結びついていることがわかってきました。
グラフィティアーティストへの取材や多様な人々が行き交うブラジルの都市で生活するなかで生まれたのが、「どうしたら自分とは異なるバックグラウンドの人と関わっていけるのか?」という疑問でした。ここを起点に阿部さんの活動は、「KINOミーティング」や「わくせいプロジェクト in 土佐市」へと展開していきます。
「わくせいプロジェクト in 土佐市」は、阿部さんが高知県土佐市に地域おこし協力隊として移住しスタートさせました。技能実習生と地域をつなぐこのプロジェクトは、10年計画の想定。あいさつからはじまって、少しずつ距離を縮められる「場」をつくっています。スパイスやハーブなど多国籍食材を扱うスーパーマーケットを入り口に、イベントやワークショップもできるコミュニティスペース、地域の中高生・大学生を対象としたデザインの学校など、多機能スペースとして運営をはじめました。2025年度からは、地域おこし協力隊としての任務は期限を迎え、いよいよフリーランスとしての取り組みがスタートします。