ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)

まちを舞台に編まれる芸術と文化

国立市文化芸術推進基本計画が掲げる「文化と芸術が香るまちくにたち」の実現に向け、行政と市民、市内外の人々が交流し、新たなまちの価値を生み出していくプロジェクト。アートやデザインの視点を取り入れた拠点づくりやプログラムを通じて、国立市や多摩地域にある潜在的な社会課題にアプローチする。

実績

多様な人々との出会いを通じて、まちとともに成長するプラットフォームをつくるために、国立近郊を拠点とするメンバーが中心となり活動を開始。2021年度は、名古屋や大阪など日本各地の先行事例をリサーチし、文化芸術活動の担い手や活動の生まれ方、その仕組みについてレポートを公開した。

また、市内での遊休地を活用するプロジェクト「遊◯地(ゆうえんち)」をスタートした。まちのなかで当たり前になった風景、使われていない場所などをまちの余白(◯)と見立て、その場所のもともとの機能とは異なるアプローチから場をひらくことにより、新しい光景や交流を生み出すことを目指す。2022年3月には、パイロット企画としてアーティストのmi-ri meter(ミリメーター)とともに『URBANING_U ONLINE』をJR中央線の高架下空間で開催。普段は閉じている工事用フェンスを取り払い、臨時スタジオとして巨大なテントを設置した。高架下からの参加者、オンラインでの遠隔参加者らがそれぞれの拠点やまちなかで「普段通らない場所を通りなさい」「あなたの定点を探しなさい」といった指示にしたがって行動し、日常生活とは異なる都市の見方を体験した。

2022年度にはそれらの経験を活かして、普段なら見逃してしまいそうなまちの隙間にランドマークとなるテントを設置する「・と -TENTO-」を実施。国立駅から続く大通りの緑地帯「大学通り」を会場とし、巨大な地図などを用いながら市内のおもしろい取り組みや、気になっている遊休地、国立の歴史についてヒアリングしたりと、道行く人々とやりとりを交わした。そのほか、まち歩きやメールニュース、フリーペーパー『〇ZINE(エンジン)』の刊行など定期的な情報発信もスタート。2023年度にはアトリエやギャラリー、店舗を巡ってまちを横断するプログラム「Kunitachi Art Center 2023」を16日間にわたって開催。公開制作やまち歩きツアーなども実施し、日常のなかで芸術文化に触れる機会をひらいた。また、アートプロジェクトについて考える場として映画『ラジオ下神白―あのとき あのまちの音楽から いまここへ』の上映会を行い、その後の意見交換会では、地域に向けた広報の工夫や、さまざまな立場を巻き込むプロジェクトの可能性について語り合った。

拠点「さえき洋品●(てん)」のオープンに向けては、DIT(Do it together:「みんなで一緒につくる」という意味)を進め、拠点のお披露目とご挨拶を兼ねて、餅つき大会を開催。ここから何かが動きはじめる予感を地域の人々と一緒に楽しんだ。

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多摩の未来の地勢図 Cleaving Art Meeting

一人ひとりが自分の暮らす足元を見つめ直す

多摩地域の文化的、歴史的特性を踏まえ、その「地勢」を探ることを通して、一人ひとりが自分の暮らす足元を見つめ直すプロジェクト。2011年〜2020年度に東京アートポイント計画と共催したNPO法人アートフル・アクションがその経験とネットワークを生かし、小学校などの教育機関や福祉施設で働く人たち、地域で暮らす人たちとの実践の場づくりを行う。それによって個々人の抱える切実な社会課題に向き合うために人々が協働するネットワークの基盤づくりを進めている。

実績

多摩の未来の地勢図では、「ざいしらべ 図工―技術と素材について考える」「ゆずりはをたずねてみる―社会的養護に関わる人たちとともに」「多摩の未来の地勢図をともに描く」の3つのプログラムを主に行っている。

「ざいしらべ」では、多摩地域の小学校の図工専科教員を対象に、大きな木の根や竹、紅花など個人では手に入れにくい自然素材や大型素材を提供し、伝統的な技術や技法、ICTに関するワークショップなどを通じて、授業での表現や造形の拡張を促すきっかけをつくっている。2021年度には、本プログラムで培ってきた素材や道具を保管するための収蔵庫を東村山市立南台小学校に設置。さらに、多摩地区図画工作研究会とも連携し、技術が持つ広がりや役割、歴史的な背景についても知見を深めている。2023年度には過去最多の14校と連携し、竹や広葉樹といった素材、布の染めや筆づくりの技法に触れる授業を実施。また、アーティスト・五十嵐靖晃が奥多摩町立氷川小学校に滞在し、こどもや住民と交流しながら作品制作を行った。

「ゆずりはをたずねてみる」では、困難を抱えたこどもたちと向き合い、日々の業務に多忙な支援者のケアに取り組んでいる。社会福祉法人二葉むさしが丘学園のグループホームのスタッフを中心に、音楽やダンス、こころと体をほぐすためのエクササイズを通して、肩から力を抜き、隣り合う人々とゆるやかに出会い、日々を重ねる場づくりを実施。2021年度からは出張ワークショップを重ね、施設間の交流プログラム構築の可能性を探り、2023年度には「演劇を通して“ケア”を考える連続ワークショップ」へとプログラムを拡張。支援者、子育て中の親、演劇の手法に関心をもつ参加者などが継続的にコミュニケーションを重ねている。

「多摩の未来の地勢図をともに描く」は、多摩地域の文化的、歴史的特性などをふまえ、参加者一人ひとりが、今自分が住んでいる足元を見つめ直し、現代の暮らしや社会課題に向き合うための方法を模索する連続ワークショップ。2021年度は「辺境としての東京を外から見る」をテーマに、フィールドワークと水俣、ハンセン病に関するレクチャーを開催した。2022年度は「あわいを歩く」をテーマに、参加者が実際にフィールドを歩き、考えることで議論を深めていくワークショップを行った。2023年度には「多摩の未来の地勢図をともに描く2023 ーre.* 生きることの表現」として、「シャトー2F(にーえふ)」を作業場としてひらき、ゲストを招いたワークショップを行うほか、これまでの活動で学んだ技術を応用し、映画の上映会など自主企画を実施した。ほかにも、暮らしのなかでの小さな問いをもちよる「たましらべ」では、スタッフや各プログラムの参加者が入り混じり、定期的に集まったり、大学の研究機関に訪問するなど、意見を交わしながら考えを深める場をひらいている。

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