アートプロジェクトの30年を「表現」と「仕組みや環境」を軸に振り返り、次の10年を探るゼミ
アートプロジェクトとは何か?
どのように現場はつくられているのか?
いま、どのような方法が可能なのか?
1990年代にはじまり、現在も各地で盛んに展開されているアートプロジェクト。さまざまな担い手による、多彩な約30年を通じて、アートプロジェクトの効用が各所へ浸透しつつあります。そうしたアートプロジェクトの軌跡を、「アートプロジェクト」という単語でひとくくりにせず、トピックの一つひとつを手に取り直して「自らに習う」ことで、次の10年が見えてくるかもしれません。
ナビゲーターは、北澤潤(美術家)と佐藤李青(アーツカウンシル東京プログラムオフィサー)。立場の異なるふたりの対話を通して、「表現」と「仕組みや環境」の視点を軸に、アートプロジェクトのこれまでの歩みを振り返ります。豊富な事例や背後に潜む「つくり手」の問題意識に触れながら、現場の動きを学び、これまでのありようを問い直し、現状を更新する「その先」のつくり方を議論するための土壌を耕します。
また、参加者のみなさんを「自らの学び」へと誘う仕掛けのひとつとして、会場のROOM302に、一時的なスタディルーム(STUDY ROOM)を立ち上げます。ナビゲーターからのインプットをふまえながら、新たな企て(プロジェクト)をつくることも試みます。
詳細
スケジュール
第1回 プロジェクトとコンセプト:はじまり(1990年代以降)
第2回 現場の動き方:国際展・トリエンナーレの時代(2000年代前後)
第3回 プロジェクトを超えて(2010年代以降)
会場
ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda 3F])
参加費
5,000円
ナビゲーターメッセージ(北澤潤)
STUDY ROOM
いつからか、
「アートプロジェクト」という言葉を使うことに躊躇しはじめた。
というか、最近はあまり使わないようにしている。
地域を現場にした新しい企てのはじまりは、
実は、「企て」というほど意図的ではなく、
もう僕らの中では地域で仕掛けることが普通の感覚だった、ように思える。
ただその現場で相対した人びとから求められるのは、
「こちら」の希求とは時にずれた、「明快な意味」だったりした。
その要求に折れず、大切なわからなさを保ったまま、
何かを伝えられる可能性がある言葉として積極的に選択した言葉が
「アートプロジェクト」だったことは間違いがない。
その当時、僕らは「わからなさ」のなかを漂っていた。
それが単純に面白かった。
いまの躊躇をあえてはっきり言うならば、
「アートプロジェクトがわかってしまった」ことが原因だと思う。
それは個々人だけでなく、「社会が」わかってしまっている。
もはや、この単語にこだわる必要はないと思う。
むしろ、言葉と現場、もしくは批評や評価の実践によって
逆に生成されてきた境界線、そのバウンダリーへ
意識を向けるときかもしれない。
越境しうるほどの意味がアートプロジェクトにあったのか、
と自問することからこの10年が別の意味に変わる気もする。
躊躇の向こう側に足が向かいそうな今だからこそ、
あらためて振り返ってみてもいい。
さまざまなアーティストたちの言葉や試み、
マネジメントの現場やプロデュースの手法、
アートの形式の変容と社会の移り気な要請。
そしてアートプロジェクトをつくってきた自分自身の実践。
「自らに習う」
そんな態度が、ときどき必要だ。
だから、思い立ったときに立ち上がる「ひらかれた自習室」
をつくってみることにした。
はじめてみるには悪くないタイミングだと思っている。
ナビゲーターメッセージ(佐藤李青)
この数年で急激に社会が変容しているように感じています。客観的な事実というよりも肌感覚に近いものです。いまは表現のありようを、その動き方から考えていく必要があるのではないかと思っています。もう少し正確にいえば考えるよりも先に何かをしなければならないのではないかという焦燥感すらあります。人は30代から50代の間で「中年の危機」というものを経験するそうです。最近聞いた言葉ですが、どうやら理由はそれだけでもなさそうです。
例えば、同時代を生きる遠くの誰かに会いにいくような感覚で、時間を隔てた他者に、その実践に出会い直すことはできるだろうか。過去のことだと線を引くのではなく、同じ実践の地平に立つ試みとして捉えてみる。そうした「先に行われた」実践から立ち上がる風景を後から追うことは、変貌するいまを捉え、これから先をつくるために十分価値のある作業なのだと思っています。方法的な工夫も少し試みるつもりです。
今回のレクチャーシリーズでは「アートプロジェクト」という言葉をよすがに、まずは過去約30年の実践を振り返ります。この言葉に対する問題意識は、もうひとりのナビゲーターの北澤潤さんのメッセージにしっかりと表現されているので、そちらをぜひご一読ください。
ナビゲーター同士でも徹底的に議論できればと思っています。遠慮はなしです。少し置いてけぼりにしてしまうかもしれません。それでも損はしないと思います。議論に結論は出ないでしょう。それは何らかの実践で取り組むべき回答なのかもしれません。だからこそ、今回のシリーズをきっかけに、これから一緒に何かをはじめることのできる方との出会いも楽しみにしています。
追伸:
今回のレクチャーシリーズは学びの「入り口」づくりとして、さまざまな参考資料を紹介予定です。手はじめに、この数年の拙稿と北澤さんのインタビュー記事を共有します。
・「芸術祭とアートプロジェクトは、新たな制度となりうるか? ――プロジェクトからインスティテューションへ」『文化政策の現在2 拡張する文化政策』東京大学出版会、2018年
・「はじめに|アートプロジェクトを動かす「ことば」を紡ぐ」(実践編「アートプロジェクト」)ネットTAM、2017年
・『アートプロジェクトのつくりかたー「つながり」を「つづける」ためのことば』フィルムアート社、2015年
・「北澤潤――日本でのアートプロジェクト 10年の実践から、インドネシア、その先へ」国際交流基金アジアセンター、2018年
社会とアートの関係性を探るトークイベント
「まち」をフィールドに、人々の営みに寄り添い、アートを介して問いを提示するアートプロジェクトを紐解き、最新のテーマを追求するトークイベント。アートプロジェクトに関心を寄せる人々が集い、社会とアートの関係性を探り、新たな「ことば」を紡ぎます。
2018年度は、アートプロジェクトならではの拠点づくりのアプローチや、創造的なメディアのつかいかたについて議論を深めます。
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スケジュール
2018年7月29日開催
Artpoint Meeting #06 プロジェクトを育てる「活動拠点」のつくりかた
2019年1月26日開催
Artpoint Meeting #07 プロジェクトを拡げる「メディア」のつかいかた
- ゲスト:森若奈、中田一会
- 会場:東京文化会館 4階 大会議室
プログラムオフィサーの中間支援の知見をまとめる
2009年度に始動した「東京アートポイント計画」の10年を振り返る「年史」を制作します。過去の実績を伝えるだけでなく、10年で獲得した中間支援の知見を、どのように広く共有していくのか。自らをケーススタディとして、中間支援の担い手であるプログラムオフィサーの知見を言語化することが目的です。
文化事業が社会に向き合い、体制や仕組みを整え、日常に根づくには時間がかかります。先行事例や過去の資料を検証し、関係者へのインタビューを通して、これからの文化を生み出していく人々が参照できる書籍を目指します。
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進め方
- 目的、現状の課題、目指すことなどの確認
- 広報計画・スケジュールなど整理
- 先行事例調査
- これまでの企画書・議事録などを精読
- 関係者インタビュー
- 企画
- 原稿執筆、編集、デザイン、印刷
- 流通経路の調整
- 広報
事業成果を調査し、複数年にわたる文化事業の成果指標を探る
複数年にわたる文化事業の成果を調査・検証するとき、どのような観点が大切なのでしょうか。今回は、2010年度に始動した人材育成事業「Tokyo Art Research Lab(TARL)」の8年間の取り組みを、事業の結果(アウトプット)、成果(アウトカム)、波及効果(インパクト)の3つを軸に調査検証を行います。
研究メンバーは、調査等を通してアートと社会の橋渡しを行っているNPO法人アートNPOリンクの大澤寅雄さん(ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室/文化生態観察)と吉澤弥生さん(社会学者)です。 この調査を通じて、TARLと同じように複数年にわたる文化事業において定量・定性の両面から成果をどのように捉えるべきなのか、そのあり方を議論します。
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進め方
- Tokyo Art Research Labの事業実績の分析(プロジェクト数、プログラム数、参加者数、ゲスト講師数、発行物数)
- 主な事業関係者8名に対するヒアリング
- 「思考と技術と対話の学校」の受講生に対するアンケート調査
- 調査結果と8か年の成果についての議論
関連資料
『東京アートポイント計画 2009-2016 実績調査と報告』
多種多様なドキュメントブックの「届け方」をデザインする
近年、各地で増加するアートプロジェクトでは、毎回さまざまなかたちの報告書やドキュメントブックが発行されています。ただし、それらの発行物は、書店販売などの一般流通に乗らないものも多いため、制作だけでなく「届ける」ところまでを設計することが必要です。東京アートポイント計画も、毎年度末にその年の事業の成果物をまとめて関係者に送付しています。
多種多様な形態で、それぞれ異なる目的をもつドキュメントブックを、どのように届ければ手に取ってくれたり、効果的に活用したりしてもらえるのか? 資料の流通に適したデザインとは何か?
そこで、2016年度から川村格夫さん(デザイナー)とともに、さまざまな発行物をまとめる「メディア/レターの届け方」をデザインするプロジェクトを行っています。東京アートポイント計画が取り組む4事業22冊の発行物を、どのように送るのが効果的か。受け取る人のことを想像しながら、パッケージデザインや同封するレターを開発します。
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進め方
- 同封する発行物の仕様を確認する
- 発送する箱の仕様や梱包方法の検討
- 発送までの作業行程の設計
- パッケージと同封するレターのデザイン・制作
“東京で何かを「つくる」としたら”という投げかけのもと、様々な表現者の問題意識や追求したいことを出発点にチームを立ち上げ、議論、リサーチ、試作を重ねてきた「東京プロジェクトスタディ」。2018年度にはじまったこのプログラムでは、5組のナビゲーターとともに5つのスタディに取り組みました。
そのなかのひとつ、参加者12名が「東京とは?」「つくるとは?」という問いと向き合い、他者と自分自身との対話を通してて、逡巡しながらも言葉にすることに挑戦し書き上げたエッセイを一冊にまとめました。一人5本ずつ、それぞれがテーマを設定し、ときにはナビゲーターから投げかけられたテーマを糸口に執筆した全60本のエッセイには、「東京でつくる」ということへの思考の鍛錬とその姿勢が表れています。
*本書の一部に誤りがありました。以下の通り、訂正しお詫び申し上げます。
p.93 3段落3行目 (誤)映画館cinema M → (正)映画館kinema M
もくじ
巻頭エッセイ〔東京ステイ日記〕
東京といつまで他人でいられるのか問題/石神夏希
東京プロジェクトスタディ
エッセイ抜粋集(選び手:石神夏希)
スタディ1「東京でつくる」ということ 開催概要
スタディ1「東京でつくる」ということ エッセイ集
『Betweens Passport Initiative(BPI)』は、「移民」(*)の若者たちを、異なる文化をつなぐ社会的資源と捉え、アートプロジェクトを通じた若者たちのエンパワメントを目的とするプロジェクト。写真家・Gottingham(ゴッティンガム)とのコラボレーションによって生まれた本書は、プロジェクト名に掲げられた「Betweens」についてあらためて考えるツールとして制作されました。
*本事業では、多様な国籍・文化を内包し生活する外国人を「移民」と呼んでいます。
もくじ
本書について
はじめに
Betweensの可能性を未来につなげるために 海老原周子
1章 作品
そこにいる場所―クリシュナ Gottingham
通り道―クリシュナ Gottingham
2章 資料
作品解説
映画『subash』あらすじ/登場人物
3章 ストーリー
映画『subash』と私 Avinash Ghale
若者の壁、家族滞在と閉ざされる進路 角田 仁
ふつうのにほんじんのはなし 佐藤李青
補章 論考
「一瞬」を呼び込む「儀式」としての写真 井高久美子
後記
Betweensとの出会いの終わりに―編集後記に代えて 坂田太郎
作品リスト/プロフィール/謝辞