2018年、5つの「東京プロジェクトスタディ」がスタート
Tokyo Art Research Lab「思考と技術と対話の学校」では、今年度の新設プログラムとして「東京プロジェクトスタディ」を開講します。今回は、8月4日(土)、アーツ千代田3331 アーツカウンシル東京ROOM302にて開催した説明会の様子をお届けします。
「東京プロジェクトスタディ」は、ナビゲーターと参加者がチームを組み、“東京で何かを「つくる」としたら”という投げかけのもと、アートプロジェクトを巡る“スタディ”(勉強、調査、研究、試作)に取り組むプログラムです。
説明会では、「思考と技術と対話の学校」校長の森司、ナビゲーターとスタディマネージャーから、いま、なぜこのテーマに取り組むのか、どのように実践していくのか、それぞれのスタディの内容や特徴についてお話しました。
(撮影:川瀬一絵)
「思考と技術と対話の学校」校長メッセージ(森司)
今年度は、これまでの学校のやり方を一新し、「東京プロジェクトスタディ」を始動させます。アーツカウンシル東京(以下ACT)が、アートNPOと共催で展開する「東京アートポイント計画」事業等のつくり手の方々にナビゲーターを担っていただき、現場との連動性をはかることで、より実践的な学びの場を生み出すことを目指します。それぞれのスタディには、ACTのプログラムオフィサーが伴走しスタディを組み立てていきます。
このプログラムでは、キーワードとして「つくる」ということばを掲げています。プロジェクトを「する」のではなくて「つくる」。「する」というのは、プロジェクトのやり方がわかった上で、ゴールに向けて進めていくことだと思います。しかし、ゼロから「つくる」となると、「何をするか」から考えなければなりません。
2020年のオリンピックまで2年ほどとなりました。それは、その先を見据えた東京都の文化事業を考えていく上で残された時間といえます。新たな活動を「つくる」ことがより一層求められるでしょう。そのような状況をふまえ、「つくる」ための筋力を鍛える5つのスタディを立ち上げました。
新しいプログラムなので、参加者のみなさんと意見交換をしながらともにつくっていきたいと思います。積極的なご参加をお待ちしております。
スタディ1 「東京でつくる」ということ―前提を問う、ことばにする、自分の芯に気づく(石神夏希)
スタディテーマについて
石神さんは、神奈川県を拠点に、国内外のさまざまな土地に赴いて作品を制作している劇作家。その場所に蓄積されている、場所や人の物語を触って紡ぎながら、日常の延長に立ち上がってくる演劇の可能性を探っています。
このスタディでは「東京でつくる」ことを入り口に、現在進行形で展開する石神さんの現場をケーススタディとして、つくることをもう一度捉え直していきます。
「この1~2年、東京での仕事が増え、『東京でつくる』ことに戸惑っている」と石神さんは言います。これまで、おもに東京以外の都市で、ローカルな場所性や共同体を素材にしたサイトスペシフィックな作品を手がけ、自分の身体で歩いたり触ったり体感できる大きさの場所を扱ってきました。しかし、「東京」という場所ははかなり漠然としたフィクショナルなもの。もっと小さな地域に分ければ掴むことはできるかもしれないけれど、それでは「東京」という主語で語られ、起こっている事象と対峙できないのではないか。そこで、少し無茶かもしれないが、東京という大きなものを触ることに、参加者のみなさんとチャレンジしたい、と語ります。
スタディ1は、自分の実感とフィクショナルな「東京」のあいだをつなぐ身体性を獲得するための稽古場になるイメージです。
特徴
毎月1回程度行うディスカッションのあと、参加者には必ず作文(エッセイ)を書いてもらいます。自分で考えたことをすぐにことばにするのは難しいかもしれませんが、気づきや違和感を自分から引きはがしてことばにしていく過程を、半年間繰り返します。それによって自分で考えたりつくったりする起点となる芯を見つけます。
また、実際に石神さんのプロジェクトの現場に立ち合い、身体を動かして考えていきます。
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スタディ2 2027年ミュンスターへの旅(佐藤慎也、居間 theater)
スタディテーマについて
建築家の佐藤さんは、これまで美術や演劇の制作やアートプロジェクトの構造設計に携わってきました。ここでいう構造設計とは、アートプロジェクトをどのような仕掛けで進めていくかを考えること。アートプロジェクトは美術館のなかではなく、まちなかなどで行われるため設計が必要です。居間 theaterは、演劇やダンスを背景にもつ4人で構成され、劇場ではできないパフォーマンスのあり方を考えるパフォーマンスプロジェクト。両者はこれまでにも、カフェや区役所などの公共空間にて、ともにプロジェクトをつくり上げてきました。
今回のテーマにあるミュンスターとは、ドイツのまちのひとつで、1977年から「ミュンスター彫刻プロジェクト」という芸術祭が10年おきに開催されています。日本でも、2000年頃からさまざまな芸術祭が催されていますが、「ミュンスター彫刻プロジェクト」の影響を受けているのではないかと、佐藤さんは指摘します。
昨年第5回が開催され、ナビゲーターたちは現地を訪れました。そこで、「日本で僕らがやっていることと近いのではないか」、「日本にとどまらず、世界にも挑戦できるのではないか」と感じたそうです。その強い思いから、2027年のミュンスターに居間 theaterがアーティストとして招聘されることを目指すスタディが構想されました。
特徴
「ミュンスター彫刻プロジェクト」を考察すると、10年ごとの時代の変化、美術やパフォーマンスの変遷が見えてきます。国際的な芸術祭に関わる多彩なゲストとともに、そうした歴史や変化を辿ります。また、居間 theaterが出演するプロジェクトの現場に足を運び、フィールドワークも行います。それらの活動をとおして、2027年のミュンスターにふさわしいプロジェクトの構造を設計していきます。さまざまな芸術祭・アートプロジェクトに興味をもっているひと、ユーモアをもって、制作のプロセスを探りたいひと、夢を大きくもちたいひと、ぜひ一緒にミュンスターを目指しましょう。
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スタディ3 Music For A Space―東京から聴こえてくる音楽(清宮陵一)
スタディテーマについて
清宮さんは、音楽の現場やCDをつくるためのプロデューサーを務めています。音楽産業に従事する立場に加え、「東京アートポイント計画」での共催事業「トッピングイースト」のディレクターも担っています。これまで、公共空間や特別な場所でのプロジェクトを手がけてきました。
清宮さんは、音楽産業に携わるなかで、「最近さまざまなストリーミングサービスが出てきたため、CDが全然売れなくなってしまった。音楽がものとして求められていない感じがビシビシする」と語ります。しかし、実は音楽を聴く機会そのものは減っていません。ただ、音楽を買う行為が減るということは、アクティブな部分が少しそぎ落とされているように感じられるそうです。あらたにリスナーをつくっていく、音楽を聴く・触れる機会をもっといろいろな場面で増やすことが必要です。音楽家にとっても、音楽を聴く・触れるポイントをつくることは、ダイレクトなユーザーや、音楽を聴きたいと思っている人たちを、どうやって引っ張り込むかという実験になります。
特徴
音楽家の和田永さんや蓮沼執太さんなど、音楽に関わる専門家をゲストとして多数お招きし、普段の活動や考えていること、実践していることを伺い、議論していきます。また、空間的な音楽体験をしてもらうために、性能のよいスピーカーで音楽を聴いてもらいます。「音楽ってこんなにいい音で聴けるものなんだ」というのを体感してもらいたいと思います。
音楽産業とアートプロジェクトを考えていくので、音楽に携わっている方はもちろん、アートプロジェクトに関わっている方のご参加もお待ちしております。
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スタディ4 部屋しかないところからラボを建てる―知らないだれかの話を聞きに行く、チームで思考する(一般社団法人NOOK)
スタディテーマについて
一般社団法人NOOKは、仙台を拠点に活動している、映像作家や編集者、技術者、アーティストなど7人のメンバーによるチームです。映像や記述による記録、そのための調査や展覧会の企画、イベントや場づくりをしています。
これまで、震災後の東北を拠点に活動し、地域の人たちに話を聞いたり、自分たちの足で歩いて記録やリサーチをしてきたNOOK。「”東京でつくる”といったときに、一体何をすればよいのかという思いはあります。けれども、東京だからこそできる調査のしかたがある気がする」と瀬尾さんは語ります。
東北の経験で気づかされたのは、「小さな社会を細かく見ていけば大きな社会が見えてくる」ということでした。今回は東京という場所で、同時代的に動いているさまざまな問題に触っていける、複数人のチームで行う調査のしかたを考えていきたいそうです。それぞれが調べて得たことを共有するプロセスを経て、ふたたび個人の欲望にかえったりしながら、企画や表現に繋がる調査を重ねていきます。
特徴
このスタディでは「人の話を聞く」「それを共有する」ことを重視します。ナビゲーターのほか、ファシリテーター役として小屋竜平さん、記録と編集の担当として高橋創一さんも参加します。
月1回程度、ROOM302に集まり、各自調べたことを共有していきます。いかにして共有する方法をつくるかも重要となります。それぞれの持ち寄った情報を場所にインストールしたり、「ラボ通信」といったメディアをつくることも試みます。
現代はインターネットが発達し、人に触れずに情報を得ることができてしまう時代です。しかし、人にあたってみると、問題の本質が見えてきたり、話を聞くことで情がわいたり、自分の身体も変わっていきます。ここでしかできない実践を一緒に行うメンバーを募集します。
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スタディ5 自分の足で「あるく みる きく」ために―知ること、表現すること、伝えること、そしてまた知ること(=生きること)(宮下美穂)
スタディテーマについて
このスタディはサテライト会場として、武蔵小金井駅から徒歩7分程の「小金井アートスポット シャトー2F」を拠点に展開します。この場所は、普段から宮下さんがNPOアートフル・アクションの活動を行っている場でもあります。
宮下さんは、この数年、世の中が大きく変わったと感じていました。「これが正しくて、目標はこうだ」といった今までの価値観が揺らぎ、身体も心もかなり追い詰められたような状態なのではないかとたびたび感じたそうです。そういうなかで、どのように生きていけばよいのかと考えたときに、ものをつくることや表現すること、あるいはそのために人と出会ってみることが大事だと、宮下さんは考えています。
このスタディは、ゲストアーティスト(揚妻博之さん、大西暢夫さん、花崎攝さん)の活動とともに進んでいきます。この3人を選んだのは、東京をちゃんと外から見られる人、東京や自分をきちんと相対化できる人であることが理由でした。今のすごく厄介な世の中を少しずらして見ることがスタディに必要だと考えたからです。一度身に着けたことを一回はがしてみる。手放すことはとても大事なのですが、それはとても勇気のいることです。それをこのスタディで実践したいと考えているそうです。
特徴
月に2回ほどアーティストに来てもらい、実作をもとにお話してもらう機会を設けます。参加者は、ゲストアーティストの表現や対象の捉え方に触れて、自らも積極的に制作をしていきます。ナビゲーターからお題を出すのではなく、アーティストのワークショップに参加したりアーティストと本気で話したり、インタビューしたり作品を見たりして、自分なりの方法論や表現したいこと、やりたいこと、テーマを見つけてほしいと思います。
時間をかけてじっくり考え、ものをつくりながら、人と出会い、自分自身と出会い直しの機会をつくります。
>スタディ5の詳細はこちら。
ナビゲーターと参加者がともに学び合い、プロジェクトの「核」をつくる実践的な学びの場となる「東京プロジェクトスタディ」。募集締め切りは、2018年8月26日(日)です。みなさんとお会いし、学んでいけることを楽しみにしております!
>お申し込み・詳細はこちら。
*アーツカウンシル東京ブログ「東京アートポイント計画通信」にて、東京アートポイント計画やTARLの情報を掲載しています。ぜひご覧ください。
個別相談を受け付けています!
「東京プロジェクトスタディ」では、随時相談を受け付けています。スタディの内容をもっと詳しく知りたい、どれが自分に合うのかわからず迷っているなど、お気軽にご相談ください。
*申込方法
メールtarl@artscouncil-tokyo.jpまでお申し込みください。件名を「個別相談」とし、本文に以下をご記入ください。
・氏名(よみがな)
・電話番号
・参加人数
・相談希望日(第一希望日、第二希望日)※平日 10:00-18:00
・相談内容(検討しているスタディなど)
*会場
アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)(東京都千代田区九段北4丁目1-28九段ファーストプレイス8階)
※お預かりした個人情報は、本事業の運営およびお知らせのみに使用します。
※参加申込みにあたり、説明会や個別相談への参加は必須ではありません。
説明会記録映像
スタディ1 「東京でつくる」ということ(石神夏希)
スタディ2 2027年ミュンスターへの旅(佐藤慎也、居間 theater)
スタディ3 Music For A Space(清宮陵一)
スタディ4 部屋しかないところからラボを建てる(一般社団法人NOOK)
スタディ5 自分の足で「あるく みる きく」ために(宮下美穂)