松島湾の大図鑑

「つながる湾プロジェクト」は、宮城県松島湾とその沿岸地域の文化を再発見し、味わい、共有し、表現することで、地域や人・時間のつながりを「陸の文化」とは違った視点で捉え直す試みです。

本書は、2016年度から発行してきた『松島湾のハゼ図鑑』『松島湾の牡蠣図鑑』『松島湾の船図鑑』『松島湾の遺跡図鑑』の4冊をまとめて、加筆した大図鑑です。

いま僕の目には、この海が前より美しく見える。10年前に大きな災害を経験したこともその要因の一つではあるけれど、たぶんそれだけでもない。図鑑制作を通して知ったひとつひとつのことが僕の中で網のようにつながり、あるいは油絵具のように層をなし、景色の見え方が立体的になっているのだと思う。

(「おわりに」より)
もくじ

はじめに

松島湾について
ハゼについて
ハゼに出会う
牡蠣について
牡蠣の養殖
牡蠣を食べる
船について
漁をする船
交易する船
戦う船・守る船
日常の船
遺跡について
縄文の遺跡
古墳・律令時代の遺跡
中世の遺跡
近代の遺跡

おわりに
索引
おもな参考文献

ほやほや通信 第2号

岩手県釜石市にある「かまいしこども園」の活動紹介と、こどもたちへの遊びのきっかけを盛り込んだフリーペーパーです。

「ホヤ」といえば、釜石市民にお馴染みの海産動物を思い浮かべるかもしれませんが、「ほやほや」という言葉には、「でき上がったばかりで、柔らかく湯気の立っているさま」「その状態になったばかりであるさま」「声を出さず、にこやかに笑うさま。ほくほく」といった意味があります。園とこどもたちが生み出す、「ほやほや」な出来事をお召し上がりください。

もくじ

鼎談 | 遊びの環境をつくる実験場
天野珠路(鶴見大学短期大学部教授)×藤原けいと(かまいしこども園)×渡邉梨恵子(谷中のおかって)

じんじんからのお手紙 | きむらとしろうじんじん

あたまにうちゅうじん | 大西健太郎

子どもたちの応援団
かまいしこども園の先生たち/いっしょに読んでみよう!
はなとの出会い/りんめいさんのミックスクッキング/4コマ漫画

活動報告 | 9–11月のプチぐる/プチぐるができるまで

伝える・わかるを考える Interpret○▲□

「手話通訳」の視点で、コミュニケーションを捉え直す

アートプロジェクトの現場では、誰かと何かをはじめようとするとき、考えや視点の違いを理解しながら、互いのイメージを擦り合わせ、つくり方を議論します。そこで起きるコミュニケーションは、「言葉」に限ったものではありません。むしろ、表情やしぐさ、声色、動き、間など身体を用いた非言語の領域が、日々のコミュニケーションに大きな影響を与え、支えています。

そうした観点に立脚し、2020年度に開催したプロジェクト「共在する身体と思考を巡って-東京で他者と出会うために」にて、ナビゲーターを務めた和田夏実(インタープリター)が、「手話通訳」に焦点を当てて、通訳環境の新たな手法開発を試みます。

手話通訳とは、「視覚身体言語」と「音声書記言語」という異なる言語体系とメディア(声や文字、身体など)をもつ言葉を、手話通訳者自身の身体を通して翻訳し、伝達するコミュニケーション技術です。手話通訳者それぞれの身体知を語らうことから、アートプロジェクトへのアクセシビリティや情報保障のあり方について考察を深め、今後のアートプロジェクトの運営に必要な視点を見出します。

TERATOTERA 2010→2020 ボランティアが創ったアートプロジェクト

JR中央線の高円寺・吉祥寺・国分寺という「3つの寺」をつなぐ地域で展開しているアートプロジェクト『TERATOTERA(テラトテラ)』。本書は、10年間の取り組みを、企画の中心を担うボランティアスタッフ「TERACCO(テラッコ)」が中心となり、まとめあげたドキュメントです。事務局やテラッコ、アーティストなど、事業にかかわるさまざまな人々が声を寄せました。

年代も立場も異なる様々な人々が集い、それぞれの技能と経験を生かして愉しみつつ協働する。そうした在りようが「放課後」に重なって見えたのです。

(p.161)
もくじ

はじめに Introduction

Ⅰ TERATOTERA 祭り2020  TERATOTERA Festival 2020

Ⅱ はじまりの日々 The First Days

Ⅲ テラッコの熱量 The Passion of TERACCO

Ⅳ テラッコとともに歩んだ11年 Eleven Years with TERACCO

Ⅴ  TERATOTERAを観察する Observing TERATOTERA

Ⅵ テラッコの可能性 The Potential of TERACCO

Ⅶ TERATOTERAと私 TERATOTERA and Me

TERATOTERA全記録 2010→2020/ビジュアルアーカイブ

おわりに Conclusion

編集後記

あってないけど、あっている(BSBの活動レポート・後編)

2020年のBSB

前回のレポートでも少しお知らせしたように、「伴奏型支援バンド(BSB)」(※)の2020年は、思い描いていた活動から変更せざるを得ず、「現地(いわき)には行かずに、東京からいわきに向けて、いまできること」の試行錯誤の積み重ねでした。

※いわき市の復興団地で行われているアートプロジェクト「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」(以下、「ラジオ下神白」)と連動して活動する、住民の方々の「メモリーソング」のバック演奏を行うバンド。2019年度のTokyo Art Research Lab「研究・開発」プログラムによって結成した。

例えば、団地の住民さんに届けるため、みなさんのメモリーソングをレコーディングしたり。

BSB初となる、ミュージックビデオの撮影にも挑戦しました。ミュージックビデオの背景は、団地住民の方からご提供いただいた、思い出の写真のスライドショーになっており、住民さんおよび現地チームである一般社団法人Tecoチームとの協働作品。この映像に団地の住民さんのコーラスが重なり、完成・公開する予定です。

オンライン報奏会|第2回「2019年の報奏 とりわけ伴奏型支援バンド(BSB)編」開催!

夏のレコーディング、秋のミュージックビデオ撮影に続いて行ったのが、「オンライン報奏会」。今年度は、Tokyo Art Research Labのプログラムとして、プロジェクトの様子を伝える報告会シリーズ「オンライン報奏会2020」を展開しています。その第2回目を、BSB特集として、2020年の12月27日(日)に実施しました。

当日は、「ラジオ下神白」ディレクターのアサダワタルさんと、メンバーとがトークを行ったり、バンドが生演奏をしたり。
ハイライトは、オンラインで東京といわきを繋ぎ、東京ではBSBが演奏を、いわきでは団地住民の小泉いみ子さんがボーカルを担当し、カラオケのように重ね合わせるコーナーです。

※当日の詳細については、アサダワタルさんのレポートに記されています。ぜひご覧ください。

経験豊富な配信・音響チームも、“オンラインでのカラオケ”は前代未聞の取り組み。「何のシステムを使うのが良いか」「どう配線をつないだらいいか」「現地でもテクニカルのサポートが必要だ」「互いに音が遅れて届くのを見越して、出力のタイミングを調整しよう」など、
配信直前まで試行錯誤を重ねました。

あってないけど、あっている

いみ子さんの歌と、BSBの演奏は、いわゆる“ぴったり正確な演奏”ではなく、大きくズレたり、リカバリーしたりしながらのセッションですが、「なんだか、あっている」という感覚に陥りました。

それは、全力で歌を歌ういみ子さん、いみ子さんに演奏を届けようとするBSB、という双方向のものすごい歩み寄りが可視化され、画面上で創出できたからではないかと感じます。

あってないけど、あっている。

もともと、オンラインのカラオケをすること自体は目的ではないけれども、そのある種、すごく非効率で、目的的ではない「仕掛け」が新しい体験を生み出し、それが画面の外側の人にも体験を共有するひとつのメディアになっていく…

1年前のクリスマス会の後のように、実践したことの手応えをじわりと感じたプログラムでした。ディレクターのアサダワタルさんも、レポートの中でこう述べています。

そこでひとつ大事にしたいのは、問題なくオンラインでやることよりも、「それでもつながろうとする意思のプロセスを如実に表現できるかどうか」だと確信しました。それは、今回の小泉いみ子さんとBSBの間でわずかながらも表現できたのではないかと思っています。

オンライン報奏会「2019年の報奏 とりわけ伴奏型支援バンド(BSB)編」

2020年度の最終回となるオンライン報奏会は、2021年2月23日(火・祝)に開催されます。震災からもうすぐ10年ということで、これまで、およびこれからの本プロジェクトを振り返り、今後の展開を考える時期。ゲストには、震災後に福島の方々との交流を盛んに行ってきた作家・クリエイターのいとうせいこうさんをお招きし、本プログラムディレクターのアサダワタルさん(文化活動家)が、「表現・想像力・支援」というテーマで対談を行います。

ぜひ、ご覧ください!


執筆:岡野恵未子(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー/Tokyo Art Research Lab「研究・開発」プログラム担当/BSBメンバー)

「その前」を手がかりに(BSBの活動レポート・前編)

「その前」は、どうだったのだろう。いま、思い出そうとしても、はっきりとは思い出すことができない。いつも、そうだ。
なにか、が起こる。そして、その後、その「なにか」の前はどんなふうに考え、どんなふうに暮らしていたのか、と思うけれど、よく覚えてはいない。いや、記憶はたくさんある。どんなことをしていたのか、どんなことを考えていたのか、どんな出来事があったのか。それら、ひとつひとつの、数えきれないほどの多くの事柄が、僕の前で起こり、一回一回対応してゆきながら、ぼくは生きている。

(高橋源一郎「『たのしい知識』特別編 コロナの時代を生きるには」『週刊朝日別冊 小説トリッパー』2020年夏季号、338頁、朝日新聞出版、2020年)

こんにちは、「伴奏型支援バンド(BSB)」です。BSBは、いわき市の復興団地住民の方々の思い出の曲「メモリーソング」のバック演奏を行うバンド。アートプロジェクト「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」(以下、「ラジオ下神白」)※と連動し、2019年度のTokyo Art Research Lab「研究・開発」プログラムによって結成したチームです。

※福島県いわき市にある県営復興団地・下神白(しもかじろ)団地を中心に実施しているアートプロジェクト。2017年より、団地住民の皆さんにお話を伺い、その当時の馴染み深い音楽をラジオ風にお届けしています。

BSBは、2019年の夏にバンドを結成してから、2019年の秋・冬にかけて練習と現地への訪問を重ねていました。その様子は以前ブログでもご紹介してきました。そして約1年前、2019年12月には、団地で演奏をお披露目しました。その後、メンバーへのインタビューや2020年度に向けたふり返り……などと活動していたのですが、そう、それはちょうど新型コロナウイルス感染症流行の影響がじわりじわりと出てきた歩みと重なります。
社会の変化に伴い、ある時期から「(「今」とは違う)その前」が生まれ、そして気づけば「今」も時間が経つと「その前」になっていく。文化事業も先が見通せない状況が続いたこの1年。そのなかで、BSBの活動をいつ、どう記すべきか、機会を逃したまま、季節が一周してしまいました。

一年前、いわきで

2019年12月23日(月)に行われた演奏のお披露目は、(当時はそんなことばはありませんでしたが)まさに「密」。下神白団地から道路を挟んで向かい側にある永崎団地の集会所で行なわれたクリスマス会にて、団地住民の皆さんの前でメモリーソングを演奏しました。

この日演奏したメモリーソングは全6曲。曲のリクエストをいただいた方を壇上にお招きし、トークを交えながら、演奏に合わせて会場の皆さんとメモリーソングを歌っていきます。

演奏のあいだには、トークだけではなく、その曲の思い出を語った際の音声や、団地を退去された方に現地スタッフが会いに行ったときの映像も流しました。

また、予想していなかった出来事も次々に起こりました。地元のダンスグループが、会場の後ろで踊りはじめたり。ある女性は、「『青い山脈』を聴かせたくて」と、その曲が好きだったという昔のご友人の写真をもってきてくださり、写真と共に壇上へ。直前まで「俺は歌わないよ」と断言していた男性は、マイクを握って熱唱(曲間のセリフもばっちり)。バンドメンバーの池崎浩士さんは、下神白団地をイメージしたオリジナルソングを前夜に書き上げ、本番で披露しました。

そこでは、「わたし」の記憶が「わたしたち」の記憶になっていた

あの時あの場所で集結していた、住民さんの語り、映像、メモリーソングの演奏、コーラス……そんな、さまざまなかたちで登場し、重なり合った「個人の記憶」は、ただその人の記憶というだけではなく、いつしか「皆でこの場を体験した記憶」となっていたように思います。

「自分の記憶と他人の記憶の境界線が曖昧になり、新しい記憶が生まれる」。それは、「立場の異なる住民間、ふるさととの交通を試み」るこのプロジェクトとして、1つステップとなる実践だったのではないか。ある種、確信めいた手ごたえを手に、本番を終えたのでした。

本番後に行われたバンドメンバーとのふり返りでも、メンバーからは、「支援する側/受ける側の関係は一方通行ではないと思った」という発見や、「自分のおばあちゃんとの記憶を思い出した」り、「もともと知っていた曲も、知らなかった曲も、曲を聴くと今回の活動で経験した思い出が浮かんでくる」ようになったり、「下神白団地というひとつの場所に関わったことで、ある種のスタート地点に立った気がした」といった体験が語られました。

今年度のBSB

いざ、その手ごたえを更なる実践に!と考えていた矢先に訪れたコロナ禍。夏ごろには団地に行けるかねえ、秋ごろには、冬には…といううちに気づけば1年が経ちました。

しかし、BSBとしてはただ「行けるようになる」ときを待っていただけではありません。この間も、少しずつ新たな動きに取り組んできました。

例えば、住民さんに届けるためにメモリーソングを改めて収録しなおしたり。それから、ミュージックビデオの制作です。ある住民さんのメモリーソングである「青い山脈」(作詞:西條八十 作曲:服部良一/1949)を、BSBが演奏。その演奏を聞きながら、住民さんがひとりひとり歌った歌声を集め、重ね合わせて構成されています。その演奏・収録の様子に加え、住民さんの思い出の写真や、ドキュメントの記録映像が流れたりする、オリジナルのミュージックビデオです。

高橋源一郎氏は、コロナ禍において流れ去る時間や記憶を喪失しないためには、作家がそれをことばに刻みつけること、つまり「新しい『物語』」が必要だと示唆しました。クリスマス会で体験を共有できた、という手ごたえを元に、いわきの団地と東京で活動するBSBとの関わりを探ることは、手法は違えど、ひとつの「物語」をつくっていくこと、だったようにも思います。

一度も団地の訪問はできなかったけれども、できることをさぐったこの一年。そんなBSBの様子を、2020年度のTARLプログラムである「オンライン報奏会」でお伝えする企画を実施しました。その内容は、後編のレポートでお知らせいたします。


執筆:岡野恵未子(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー/Tokyo Art Research Lab「研究・開発」プログラム担当/BSBメンバー)

アートプロジェクトのアーカイブ運用に関するアンケート

「アセンブル3|アート・アーカイブ・オンライン」では、オンライン対応の必要性が高まった現在において、アートプロジェクトの現場では事業資料をどう活用し、何が課題となっているのかを探るため、全国のアートプロジェクト関係団体を対象にアンケートを実施しました。

アンケート概要

実施期間: 2020年11月13日(金)~12月4日(金)
調査内容: アートプロジェクト活動に関わる団体が、コロナ禍の現在おかれている状況、ならびにアートプロジェクト活動のアーカイブに取り組むうえでの課題について
調査対象: 全国のアートプロジェクト実施団体、アートプロジェクト運営に関わる団体
調査方法: Questantフォームによる回答・集計
回答数:52件(有効回答率100%)
運営:特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター

新型コロナウイルス感染拡大の影響について

「新型コロナウイルス感染拡大が活動に影響を受けたか」という質問に対しては、「通常通り」の回答が5.8%だったのに対し、「延期・縮小などの影響(75.0%)」「オンライン開催に切り替え(61.5%)」「中止(予定含む)51.9%」など、多くの団体が影響を受けていました。

また、上記の影響を受けて、「ウェブサイトのコンテンツ拡充(53.1%)」や「活動再開後に向けた準備(44.9%)」、「保管している資料の整理(26.5%)」など、状況に対応しながら活動を行っていたようです。

デジタル環境へのシフトについて

アンケート実施団体は、92.3%が独自のウェブサイトを運用していました。さらにSNSアカウントを活用しているのが88.5%、動画配信を行っているのが48.1%の団体でした。

事業での発行物の公開方法については、ウェブサイトの場合は「全てしている(19.2%)/一部している(53.8%)/していない(23.1%)」。希望者へのデータ配布は「全てしている(7.7%)/一部している(50.0%)/していない(38.5%)」。
印刷版の配布は「全てしている(23.1%)/一部している(51.9%)/していない(5.8%)」と、約半数の団体が発行物をデジタルコンテンツとして活用していることが分かりました。

一方、活動記録に関わるデジタルコンテンツの公開方法について伺うと、「様々な方法で積極的に活用している(46.2%)」「主にSNSで活用している(48.1%)」という実践の一方で、「権利処理に不安がある(26.9%)」「予算や人員に余裕がない(32.7%)」といった課題もあがりました。

~アンケートより抜粋~

「活動の記録をデジタルで保存したり公開することについて、期待していることや課題だと思うことを自由にご記入ください。」

・課題は、デジタル化するための人件費を含む費用をどうやって工面するのか、また、デジタイズしたものが元の書類などの完全な複製となっているのかどうかを確認し、リスト化などするアーカイビング業務量がどの程度のものになるのかを算出しにくく、対費用効果が割り出せないこと。 また、期待することは一度完全にデジタイズすれば、大幅な事務所スペースの削減ができることと、インターネット上での公開や利用が容易になることなど。

・デジタルデータの保存方法や保存メディアが刻一刻と変わる中、どのメディアに保存して、バックアップをどうとるか?

・活動記録のデジタルでの保存は行っていきたいと考えているが、現状人員が不足しており手が回っていない。 公開活用については積極的に考えていきたいが、人員不足の他に、人にどのようにこのプロジェクトの情報が伝わることがコンセプトに適しているかをもう少し議論したいと思っている。事業のコンセプトや雰囲気を伝えるためには単なるPDFでの公開だけでなく、サイトのデザインや構造から検討したく、そのための予算や人員の確保は課題。

・資料の扱いに詳しくない行政職員に公開非公開の判断を委ねにくい。司書のような保管責任者/専門家の不在は課題。全国の活動資料を一括で預けられる受け皿および保存フォーマット・バックアップともなる別の保管先があると助かります。

・デジタル公開した際に画像の無断使用が何度か過去にあったため、公開には少し躊躇している。

資料の整理・保存・共有について

アンケートでは保管している資料の種類や、その方法についても調査しました。

多くの団体が「記録写真・映像・録音(90.4%)」や「発行物(86.5%)」、「報告書(86.5%)」、「会計関連の文書(82.7%)」などを廃棄せずに残していました。
その他、「会場図面」や「アンケート用紙」、「日誌」や「メディアクリッピング」などは団体によって保管の方針にばらつきが見られました。

資料の保管にあたっては、63.5%の団体が事務所で保管しているのに対し、事務所にスペースがなく、担当者が手分けして保管しているケース(7.7%)や、事務所が退去や縮小(予定含む)したケース(5.8%)など、安定した保管場所確保にかかる課題も見えました。

また、「共有棚があり、スタッフ間で共有ができている(57.1%)」、「重要資料や、個人情報を含む資料は保管に注意している(69.0%)」などに取り組めている団体が半数以上の一方で、「保存年限を決めるなど、整理のルール化ができている(28.6%)」は3割ほどにとどまりました。

デジタル資料については、「クラウドに保存(55.8%)」、「共有ハードディスクに保存(55.8%)」が多く、次いで「個人のパソコンに保存(38.5%)」が続きました。
デジタル資料の管理では「フォルダー階層を作っている(57.7%)」、「定期的にデータを整理している(36.5%)」というルールに基づいた運用も見られました。

~アンケートより抜粋~

「資料の整理・保存・共有について、課題だと考えていることを自由にご記入ください。」

・デジタル媒体、物理媒体ともに保存スペースが慢性的に不足している。管理コストも増大するため、保存するものの適切なボリュームと廃棄ルールが課題。必ずルールに組み込めない資料も発生する。 また昨今のデジタル技術の変化は目覚ましく、技術的な更新をどう取り入れていくかも難しい。

専任のスタッフがいないと、情報の整理、保存は難しい。ただためているだけの状態。

・資料が増えていくなかで、それを検索・活用できる状態にすること。物理的に保管する場所が限られてくること。活動終了時にそのための時間をさくこと。

今後期待するプログラム

アンケートの最後では、「今後アーカイブに関するノウハウなどを紹介するオンラインプログラムの実施を予定しています。 どのような内容を期待しますか?」という質問をさせていただきました。

~回答例(抜粋)~

・今後の活動の改善に生かせる内容で、人手や予算などが十分でなくても負担感なく取り組める具体的なノウハウ
・団体をまたいで維持されるアーカイブの共有事例など
・情報共有しやすいアーカイブのコツ
・検索のためのタグやキーワード設定について

今回のアンケート調査で浮かび上がった、アートプロジェクトの現場ではアーカイブ運用に関してどのようなノウハウや情報が必要されているのかという点については、Tokyo Art Research Labの今後のプログラムでもいかしてまいります。

アンケートにご協力いただいたみなさま、ありがとうございました。

オンライン報奏会「2019年の報奏 とりわけ伴奏型支援バンド(BSB)編」

2020年がまもなく終わろうとする12月27日(日)に、第2回目のオンライン報奏会が開催されました。今回は、この「報奏会」という造語の「(演)奏」の部分が際立つ内容を企画しました。すなわち、伴奏型支援バンド(BSB)による生演奏です。

伴奏型支援バンドは、福島県いわき市にある復興県営住宅・下神白団地の住民お一人お一人の、かつて住んでいたまちにまつわる思い出の曲(メモリーソング)を聞くコミュニティラジオプロジェクト「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」から派生したバンドです。
2016年末に、プロジェクトのディレクターであるアサダワタルが初めて団地に訪れて以来、これまで7本のラジオ番組(各60分〜70本)を、住民限定のCDという形でリリースしてきました。住民さんの語りを聞き、ときに住民さんが自ら口ずさむ歌を聞き、その「声」を受け取るという体験は、福島から遠く離れた誰かの心を動かすことになるだろうという確信を持つに至りました。それは、震災や復興支援という事実を伝えるジャーナリズムや、現場の実情を調査しながらこれからの社会のあり方を提言する社会学的なアプローチとも違う、「ここに〇〇さんという人がこうして存在している」ことを「感じる」ための表現活動です。
その表現を受け取った有志が6名(関東在住バンドメンバーと茨城在住現地派遣ピアニスト含む)集まりました。住民さんたちから受け取ったメモリーソングのバック演奏をする、まったく新しいジャンル(!?)のバンド形態、それが伴奏型支援バンド(BSB)です。

伴奏型支援バンド(BSB)メンバー。

さて、第2回のオンライン報奏会では、まず2019年7月に結成されたBSBの活動の軌跡を凝縮したドキュメント映像(撮影/編集:小森はるか)をお届けするところからスタートしました。映像では、都内スタジオにて、まずアサダからメンバーに向けて、住民さんの人となりや背景、そしてメモリーソングについて共有しながら、選曲をし、それらをカバーし、パートを振り分けて実際に演奏していきます。演奏を重ねつつ、再び意見交換し、住民さんにあった演奏のスピードを検討したり、演出についてアイデアを出したりという場面も。
次に現地訪問のシーンです。メンバーを2つに分けて団地を訪れ、実際に住民さんに会いました。これまでラジオの中の登場人物であった住民の「〇〇さん」が立体的に立ち現れ、今後の演奏にその存在を吹き込み、重ね合わせて行く機会となったのではないかと感じています。
関東に戻ったBSBメンバーは、約5か月ほど都内スタジオでの練習を重ねて、2019年12月23日に、下神白団地のお向かいにあるいわき市営永崎団地の集会場をお借りし、「ラジオ下神白プレゼンツ クリスマス歌声喫茶 みなさんの思い出の曲を一緒に歌いましょう」を開催しました。全6曲のメモリーソング、ならびにギター担当の池崎浩士によるオリジナルソングや子ども住民向けの楽曲など合計8曲を演奏。ボーカルは、もちろん住民さんです。映像では、BSBの演奏と住民さんの歌声がしっかり重なり合う様子が記録されています。

スタジオでの練習の様子(2019年)
「ラジオ下神白プレゼンツ クリスマス歌声喫茶 みなさんの思い出の曲を一緒に歌いましょう」の様子(2019年)

このドキュメント映像を配信しながら、改めてアサダはこう感じました。「まさに夢のような時間だった」と。数年間積み上げてきた住民さんとの関係性がぎゅっと凝縮され、バンド仲間たちとこうして住民さんお一人ひとりの歌と記憶を愛で合える場。ともに声を響かせ合う場。それはいまから考えると“三密”の極みであるわけですが、改めてコロナ禍で失ったものの大きさを実感せざるを得ません。
しかし、くよくよしてても始まらない。私たちなりに前に進むためにこのオンライン報奏会だってやっているのだ! というわけで、お次がメインコーナーの紹介です。

いよいよBSBメンバーによるオンライン生演奏。しかも、下神白団地3号棟(主に大熊町出身の方が入居)の小泉いみ子さんとZoomをつなぎ、福島から彼女がボーカル、東京で僕らBSBがバック演奏をするという画期的な取り組みです。現地には、プロジェクトマネージャーの鈴木詩織をはじめとした一般社団法人Tecoチームががっちりサポート。まずは藤山一郎の「青い山脈」(作詞:西條八十 作曲:服部良一/1949)をBSBのインスト演奏でお届けしたのちに、いよいよいみ子さんの登場です。

いみ子さんは原町出身で、大熊町出身の農家のもとに嫁いだのち、さまざまなご苦労をされながら、これまでの人生を「歌に支えられてきた」といつも私たちに語ってくれます。下神白団地に入居する前は6か所の仮設住宅を渡り歩き、2015年の春に下神白団地の入居がスタートすると同時に移り住んでこられました。2017年にお連れ合いを亡くされ、一人でいまこの団地に住んでいるいみ子さんがもっとも大切にしているのが「歌うこと」。毎週水曜と金曜の午前に集会場で開催されるカラオケには必ず足を運び、住民の仲間たちに支えられながら生活を続けられています。そんな彼女の十八番は平和勝次とダークホース「宗右衛門町ブルース」(作詞:平和勝次 作曲:山路進一/1972)。今回は、遠く離れた土地をつないでこの曲を披露しました。

いわき(歌)と東京(バック演奏)がオンラインで重なる。

みなさんにはぜひとも、この様子をアーカイブ映像でご覧いただきたいです。とにかくいみ子さんの歌がすごいのです。いみ子さんの歌の特徴は、ものすごく伸びやかな声で、独自のリズム感で歌い上げること。拍という狭い意味でのリズムからすればどんどんズレていってるように聞こえますが、最後にはなぜかちゃんと着地するという技量(センスといった方が正しいニュアンスかもしれません)にいつも感動させられます。
もちろん、それはアサダ自身が「いみ子さんのことを知っている」という背景があることは承知です。しかし、福島の復興住宅に小泉いみ子さんという方がこうして「存在」している事実を、知るのではなく「感じる」には、もうこれ以上にない歌なのではないかと思うのです。

コロナ禍という、人と人とが直接交わり、つながることが難しい状況になり、「そこにいる」ということを伝えることの意味がより増していると感じています。それは「ライブとは何か」という問いでもあります。オンラインでできるライブ表現について、きっと思いを悩ませているミュージシャンや舞台芸術関係者は多いと思いますが、そのあたりの問いに対する回答もこの機会に示したいと考えてきました。そこでひとつ大事にしたいのは、問題なくオンラインでやることよりも、「それでもつながろうとする意思のプロセスを如実に表現できるかどうか」だと思いました。それは、今回の小泉いみ子さんとBSBのあいだで、わずかながらも表現できたのではないかと思っています。

最後のコーナーは、BSBのミュージックビデオ上映。下神白団地2号棟(富岡町出身の方が多く入居)の横山けい子さんと、4号棟(浪江町出身の方が多く入居)の髙原タケ子さんのメモリーソングで、わたしたちのプロジェクトの代表曲となっている「青い山脈」。この曲をBSBの演奏をバックに7名の住民さんが歌い上げた(在宅収録!)ミュージックビデオ(小森はるか・福原悠介 撮影/編集)をお届けし、無事終了いたしました。

最後に、今回は目に見えないところで、とても機微に富んだテクニカルサポートを4名の方に行っていただきました。配信担当の齋藤彰英さん、音響担当の大城真さん、溝口紘美さん(Nancy)、団地での配信・音響担当の福原悠介さんにこの場を借りて厚く御礼を申し上げます。

2月23日(火・祝)に開催予定の最終回になる第3回目のオンライン報奏会は、あの日からまもなく10年を迎える2021年3月11日を目前開催します。ゲストに、震災後に福島の方々との交流を盛んに行ってきた作家/クリエイターのいとうせいこうさんをお招きし、「表現・想像力・支援」というテーマで語り合います。どうぞご期待ください!

(執筆:アサダワタル

■「オンライン報奏会」第2回の記録映像はこちら

アート・アーカイブ・オンライン

コロナ禍のアンケート調査をふまえた、アーカイブに関する映像コンテンツを制作

多くのアートプロジェクトでは、さまざまな人が集い、対話をしながら時間や場所を共有し、つくりあげていく手法がよくとられます。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大状況下で、その継続のあり方が議論され、アーカイブの重要性や、プロジェクトのオンライン対応の必要性が高まってきました。

そこで、アート分野における調査・研究に取り組むNPO法人アート&ソサイエティ研究センターの協力のもと、全国のアートプロジェクトにまつわる52団体に「アーカイブ運用」についてアンケート調査を行います。また、アーカイブに関するノウハウや活用方法の基礎知識をまとめた映像コンテンツ「エイ! エイ! オー!(アート・アーカイブ・オンライン)」を収録し、YouTubeで配信。これまでTokyo Art Research Lab(TARL)で研究してきたアーカイブの知見をいかして、オンラインでのコンテンツづくりを模索します。

詳細

スケジュール

1月29日(土)
第1回 イントロダクション

1月29日(土)
第2回 現状調査

2月12日(金)
第3回 アーカイブのプランニング

2月12日(金)
第4回 目録作成

2月19日(金)
第5回 デジタルデータの保存

4月30日(金)
第6回 オンライン・ヒアリング

会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda 3F])

関連サイト

エイ! エイ! オー! YouTubeページ