アートプロジェクトの現場から外国ルーツの若者の支援について考える
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わたしたちがコミュニケーションで用いる「言語」。口語や筆記文字のほかにも、視覚身体言語(手話)や触手話、点字、音声ガイドなど多様なコミュニケーションの手段が存在します。身体や感覚、思考の流れが違う世界を抱えながら、それでもともにあろうとするとき、そこにはさまざまな伝え方が発明されていきます。
2020年度に行なった「共在する身体と思考を巡って」を経て、「異なる感覚をもつ他者と、どうしたら新たなコミュニケーションの回路をひらくことができるのだろう?」という問いが生まれました。誰もが誰かの翻訳者であることを意識しながら「関係性のあり方」に着目し、一人ひとりの身体と記憶、言葉と感覚にまつわるディスカッションやワークショップ、リサーチを行います。
ナビゲーターは、手話を第一言語として用いてきた和田夏実(インタープリター)と、岡村成美(デザイナー)です。ゲストの南雲麻衣さん(パフォーマー/アーティスト)、藤本昌宏さん(ことばの研究者)、田畑快仁さん(触覚デザイナー)、太田琢人さん(武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科インテリア研究室 助手)と一緒に、自分自身の身体が何を考え、どのように他者と関係を紡ごうとしたのか。そして想いや思考を届けるためにはどのような方法があるのか、暗黙知をほぐすところからはじめます。
ゲスト:南雲麻衣(パフォーマー/アーティスト)
ゲスト:藤本昌宏(ことばの研究者)
ゲスト:田畑快仁(触覚デザイナー)
ゲスト:太田琢人(武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科インテリア研究室 助手)
ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302[3331 Arts Chiyoda 3F])ほか
一般24,000円/学生16,000円
関わりをほぐす
いつ、誰と、どこで、どんなふうに出会うのか。
日々誰かとすれ違い、出会いや協働の中で、その人らしさに触れ、その場でのわたしがうまれ、関係性の糸を編む。そこに関わりの種がうまれたとき、それを紡いでもいいし、種のままで置いておいてもいい。もしかするといつかどこかで、それは思いもよらない形で芽吹き、また紡がれるかもしれない。
スタディ1では、この「関係性の糸の在り方」に着目し、関係性を編んだり紡いだりするときの、身体や感覚や、そのときに何にあなたを記すのか、ということを考えてみたいと思います。
このスタディのナビゲーターであるわたしと岡村さんは、手話という言語をもちいる両親と、音声言語の社会のあいだで、視覚と音、身体と記号のあいだで、ゆらゆら揺れながら世界をつくってきました。日常の中で、伝え方の応用を繰り返していくことで、いろんな発見がありました。
家の2階にいても、別の部屋にいても、身体で話している家族の空気の揺れがうるさいほどに伝わってくること、手で話しているとき、その人自身がもつ記憶が溢れ出て像として視えること、ティッシュや軽い紙、ぬいぐるみを家族の視界に投げて振り向いてくれたときのつながった嬉しさ。
身体や感覚、思考の流れが違う世界で、共に在ろうとするとき、そこには様々な伝え方の発明がうみだされていきます。
本スタディは、この伝え方の発明を、身体と思考をほぐして、考えながらつくっていくことを目指しています。そのほぐし方のヒントを一緒に探るために、最初のゲストには信頼してやまない3名の方にお願いしました。手話する思考の身体、恋の解体、身体的境界はどこにあるのか。自分とは異なる身体や思考、言葉や触れること、そのまなざし。いつのまにか暗黙知となってしまっていることを、軽やかに崩して、ほぐすことから、共に在るための発明に取り組めたらと思います。
そして、自分にとってしっくりくるメディアや伝え方の発明を、衣服や造形、石や紙、様々な方法で取り組み、拓いていく場がこのスタディ1です。
あなた自身の身体が何を考え、どう他者と関係を紡ごうとしたのか。
そして想いや思考を届けるためには、どんな方法があるのか。
これから出会う皆さんと、共に揺れながら、新しい景色に出会えますように。
聞き手:嘉原妙(スタディマネージャー)
Q1.自己紹介をお願いします。
A1.岡村成美です。デザイナー、ディレクターとして活動しています。2018年に『LOUD AIR』(ラウドエアー)というブランドを立ち上げ、手話を第一言語に、ファッション、オブジェ感覚などを制作。さまざまなジャンルを通して社会実験しています。
Q2.「わたしの、あなたの、関わりをほぐす〜共在・共創する身体と思考を拓く〜」は、自分と異なる認識世界、感覚世界を持つ人々と共在・共創するコミュニケーションを捉え直したり、そのコミュニケーションを促進・拡張していくような方法を探ろうとしたりするスタディです。岡村さんにとって、「異なる感覚を持つ他者」との向き合い方で意識されていることはありますか? また、そのときにどのような難しさやハードルを感じますか?
A2.よく観察するようにしているかもしれません。必ずしも正しい接し方というものは存在しないですが、自分なりの愛のある向き合い方をこころがけています。
普段、手話という言語で話すことが多いですが、異なる感覚や世界を見ている人にものすごく興味が湧きます。なので、よく相手を観察しますし、会話します。ゲストの藤本昌宏さん(ことばの研究者)と何日か話すことがあったのですが、見えない世界を見ている藤本さんは、人の声をかたちで覚えているとそうで、わたしは「角の取れた少し厚みのある四角」だと教えてくれました。
嬉しくて、帰ってすぐに絵を描きました。自分の知らない視点から自分を見てくれたことに感動したのを覚えています。わたしは、向き合い方の難しさやハードルは感じません。みんな違うのでそれでいいかな、と思います。
Q3.参加申込の際にみなさんにもお尋ねしている質問です。身体とコミュニケーション、言葉と感覚、コミュニケーションメディアに関連することで、いま、岡村さんが考えていることを教えてください。
A3.わたしは普段、衣服やオブジェを制作していますが、わたしのつくる服はよく二度と同じ着方ができないとか、着物のようだと言われることが多いです。自分で着物を着ることがありますが、洋服とは違う頭と身体の使い方をする気がしていて、わたしの服もそれと同じように、完成しても着ることを考える衣服でありたいなと思っています。自分の身体と向き合って着ていく。みんな異なる身体と感覚を持っていること、展示に来ていただいた方に自由にまずは着てもらうと、こちらが気づけることがたくさんあります。制作に他者とのコミュニケーションは欠かせません。
わたしは普段一人で運営をしていますが、制作において様々な職人さんにお願いしています。一着にたくさんの人がかかわっている、着るときに少しでもそう感じられたら大事な一着になるんじゃないかと信じてつくっています。
Q4.スタディのメインビジュアルを見たとき、表裏一体な感じ、メビウスの輪のような不思議な印象を受けました。
今回のメインビジュアルは、もうひとりのナビゲーターの和田夏実さんと一緒に撮影に出かけたとお聞きしました。そのとき、お二人でどのようなことを話しながら撮影されたのですか?
A4.メビウスの輪、いいですね。このビジュアルは、2020SSと2020AWの『LOUDAIR』のコレクションの一部です。どちらも和田さんと一緒に、どのような身体の使い方や映し方にするか話しながら撮影したものです。和田さんには、モデルさんがどんな表情や身体の使い方をするかを、会話のなかで導いてもらっています。身体を柔らかくしたり、切ない心にしたり。
ファッションのルックは服がよく見える写真が多いですが、『LOUDAIR』は結ぶ指先や服から見える足などを捉えた写真をよく撮ります。
和田さんとは、普段から柔らかいところについての会話をしています。おいしそうな夕日、エロい建物、かわいい言葉など。日常のいいなと思うものをクローズアップしていつもわたしたち自身が会話して楽しみながら撮影しています。
Q5.最後に、参加者に向けてメッセージをお願いします。
A5.今回はじめてナビゲーターを務めさせていただくことが決まり、とても光栄です。みなさんとお会いして感じたことを、わたしもわたしなりに最後にかたちにしたいと思っています。さまざまな感覚を持つゲストをお呼びして、リラックスしたり、考えて考えて紡いだり、自分と向き合ったり。たくさん使って最後にかたちにしましょう。
何ごとにも興味を持ち、理解しようと努力できる人、目を見て、向き合って会話できる人に参加していただけたら、最高なものができるのではないでしょうか。
みなさんとご一緒できることを楽しみにしています。