アートプロジェクトの現場から外国ルーツの若者の支援について考える
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大切だとわかっていても、なかなか容易く行えないのが、「前提を問う」ことではないでしょうか。なぜこうなっているのか、一心に考え、聞き、言葉にする。これを繰り返し他者と共有することは、時間も労力もかかりますが、ものを生み出していく上で、非常に重要な「筋力」です。
このプロジェクトでは、「東京でつくる必然性」を問うためのグループワークを行います。カリキュラムを通じてものごとに向き合い他者と出会うとき、自らの思考の「軸」や「態度」を捉え直すことができるかもしれません。さまざまな背景をもつ参加者の課題や関心をきっかけに、徹底的な対話を進め、それぞれの考えの違いに戸惑い、思考のゆらぎを感じながら、繰り返し議論を進めます。こうした思考実験の場で、参加者の「つくる姿勢」の体幹を鍛えます。
石神夏希(劇作家)をナビゲーターに、ゲストを招いたワークショップ形式のディスカッションや、映像フィールドワークなどを実施します。各回終了後には参加者が自分の意見や所感をエッセイにまとめ、記録として残していきます。実践的な思考の場でありながら、ここでの議論が何年か経ち、それぞれが迷ったときに立ち戻れる道標となることを目指します。
ゲスト:井上知子(俳優)
ゲスト:吉田雄一郎(城崎国際アートセンター(KIAC)プログラムディレクター)
イシワタマリ(山山アートセンター主宰・美術家)
ゲスト:久保田テツ(NPO法人記録と表現とメディアのための組織[remo]メンバー)
ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda 3F])
一般30,000円/学生20,000円
屏風の虎をふんじばる
「東京でつくる」に戸惑っています。
そんな私の戸惑いをケーススタディとして、
参加者の皆さんと共に「東京でつくる」ことの必然性や、
一体何をどうつくればいいのか、
ということを考えるプログラムです。
企画にあたって、スタディマネージャーの嘉原妙さんと話しているとき「東京ってフィクションなのかもしれない」という言葉が出ました。それはさほど新しい発見ではないと思いますが、私は演劇をやっている人間なので、フィクションを身体化することに関心があります。そして身体化されたフィクションつまり「上演」には、制度を相対化する力があります。
いま、東京で芸術文化に関わろうとするとき、このことについてよくよく考えてみる必要があるのではないか、と思います。「いま」は何時で「東京」は何処のことなのか。そんな「屏風の虎」みたいなフィクショナルな何かをふんじばろうとする格闘と、メンバーそれぞれの身体から発したごく個人的な実感とのあいだを行き来しながら、その過程を言葉にしていくことに挑戦したいです。
ゲストとして私がこれまで、あるいは現在進行形で一緒に「つくる」をやってきた人々にも議論に参加してもらいます。彼らはいま、どこで、何をつくっているのか。「東京でつくる」ことをどう思っているのか。ありていに言えば「スタディ」を口実に信頼するつくり手であり友人でもある彼らにこの戸惑いを吐露し、参加者の皆さんの知恵もお借りして、なんとか手がかりを見つけたい、という目論見です。
そう、つまり切実です。切実なだけ、ケーススタディとしては惜しみなく素材をさらけ出します。参加する皆さんにとっても実践的な思考の場になることを、そしてここでの議論が何年か経って、それぞれが迷った時に立ち戻れる道標となることを目指します。
石神さんの戸惑いは、他者の人生(物語)の一端に触れながら演劇に取り組んできたからこそ感じる戸惑いのように思います。日々の営みの延長に積層された時間や風景、何気ないいつもの所作が、「場所と物語」として立ち上がり演劇になる。その可能性を模索し続けている彼女が、いま、東京に腰を据えてつくることに向き合おうとして迷っています。
私は、この戸惑いを無視しない態度こそ、物事に取り組むときに必要な姿勢ではないかと思っています。それは、アーティストのみならずアートに携わる人にとって必要なものです。なぜ、ここで、つくるのか。その必然性を問い、具体的にどうアクションしていくのか。一人の劇作家の切実な想いと取り組みをケーススタディに、逡巡しながらも言葉にすることを諦めず、思考の姿勢を切磋することに挑戦したいと思います。