「つくる」ために重ねた試行錯誤。東京プロジェクトスタディから生まれた成果とは
BACKTokyo Art Research Lab「思考と技術と対話の学校」にて、2年目を迎えた「東京プロジェクトスタディ」。2019年度は「ことば」「パフォーマンス」「映像エスノグラフィー」を軸とした3つのスタディを展開しました。
東京プロジェクトスタディでは、スタディごとにチームを結成後、アートプロジェクトの核をつくるための実践を重ねていきます。3つのチームがどのような活動を展開してきたのか、詳細な活動レポートや参考資料などは現在公開中のアーカイブサイトにてぜひご覧ください。
*詳しくはこちら。
ここでは、約半年間にわたる活動のなかでも、スタディ間での横断的なコミュニケーションの場を生み出すことを試みた「合同共有会」についてご紹介します。個々の活動内容だけではなく、成果や悩み、進めていく上で工夫したことやリサーチ状況などを共有することで、次の一歩を進めていく手がかりとなるような場を目指して開催しました。
2019年度に始動した3つのスタディが、約半年間でどのような活動プロセスをたどり、展開したのか。後篇では、「共有会2」(2020年1月19日)の様子に加えて、各スタディの活動成果についてお届けします。
【執筆:前篇/村上愛佳(アーツカウンシル東京)、後篇/染谷めい】
共有会レポート前編はこちら。
*東京プロジェクトスタディについて
東京プロジェクトスタディとは、“東京で何かを「つくる」としたら”という投げかけのもと、関心や属性の異なる「つくり手」であるナビゲーターと参加者がともにチームをつくり、それぞれが向き合うテーマに沿ってスタディ(勉強、調査、研究、試作)を重ねるプログラムです。
実施期間:2019年8月〜2020年2月
スタディ1 「続・東京でつくるということ ―わたしとアートプロジェクトとの距離を記述する」
スタディ1は、参加者同士がお互いを知るためのワークショップの実施や、時にはゲストを招きながら、参加者が「書きたいテーマ・理由・目指すこと」を共有し、ディカッションを重ねてきました。1本のエッセイを書き上げることは共通しているものの、それに対する参加者の姿勢はさまざまだったといいます。毎回異なる文章で多方向から思考を進めていく人もいれば、毎回同じ文章を改稿するかたちで思考を深めていく人も。「『東京でつくる』を巡って、自分自身にとって切実なこと」を仲間とともに向き合うプロセスを経て、活動最終日には「やっと、本当に書きたかったことが書けたね」と涙を流し合う場面もあったそうです。
共有会2では、それぞれが書き上げたエッセイから一節を抜き出し、書き手ではない人が朗読するというかたちで発表が行われました。思考のプロセスの旅を共にしてきた仲間が、それぞれの文章に託された想いを汲みながらことばにする時間に、他のスタディ参加者も真剣に耳を傾けていました。スタディ1のチームが過ごしてきた時間そのものに、その場にいた参加者一同が引き込まれていくような発表となりました。
《2019年度 その後の活動》
参加者全員が一本のエッセイを書き上げたスタディ1。2020年3月には、全10本のエッセイと活動プロセスをまとめた記録集『続・東京でつくるということ わたしとアートプロジェクトとの距離を記述する』を制作・発行しました。「書くこと」をとおして、それぞれが何を掴んだのか。「東京でつくる」ことに真摯に向き合うことで紡がれたことばに、ぜひ触れてみてください。
記録集は、Tokyo Art Research Labウェブサイトにてダウンロードしてご覧いただけます。今回のスタディの前身にあたる『「東京でつくる」ということ エッセイ集』(2018年度)も合わせてご覧ください。
※冊子版をご希望の方は、申し込み希望フォームからお申込みください。
スタディ2 「東京彫刻計画 ―2027年ミュンスターへの旅」
まずナビゲーターの居間 theaterと佐藤慎也から、2019年度の活動プロセスと構想中の作品づくりに向けた進捗を共有しました。それまでの活動での紆余曲折を踏まえ、作品づくりに向けた今後の方向性を「『工事現場』をパフォーマンスとして、さらに『公共』と『彫刻』をつなげるメディアとして捉える」ことを試みているとのこと。共有会時点では、ナビゲーターをはじめ、参加者それぞれの「工事現場」にまつわるリサーチが進行中。見学できる工事現場に出かけ、仮囲いや道具の使いかたについて思考を巡らせた様子や、演劇でも使われることばである「WORK IN PROGRESS」が「工事中」を指すことばとして使われていることなど、パフォーマンスとして工事現場と向き合ってみて生まれた気づきや解釈を共有しました。
工事現場をメディアとしてパフォーマンスに発展させていくにあたって、現場で働いている作業員に対して搾取的な態度にならないかという懸念点も受け止めながら、「それでも工事現場には何かがある」と新たな試みに期待が膨らむ時間となりました。
《2019年度 その後の活動》
スタディ2では、リサーチしてきたことをパフォーマンス仕立てのプレゼンテーションでお届けする「東京彫刻計画―2027年ミュンスターへの旅 試演会」を開催(*)。参加者それぞれがリサーチで得た気づきをもとに、参加者全員でのパフォーマンスが繰り広げられました。工事現場を散歩して巡ってみる「ひな散歩」や、工事のワンシーンから妄想解説をする「うらら想像美術館」、工事現場を舞台にしたラジオ小説「黄色いパトランプ」、現場にあふれる仕草で構成された「みんなの工事」など、「ラジオの公開収録」さらながらに進行。それぞれの視点がふんだんに盛り込まれた試演会となりました。
*公開イベントとしての開催を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況を受け、規模を縮小して関係者のみで実施しました。
スタディ3 「‛Home’ in Tokyo ―確かさと不確かさの間で生き抜く」
流動的な東京において、どのように‘Home’という感覚がもたらされ、培われているのかをリサーチし、参加者それぞれが映像作品を制作したスタディ3。共有会では、毎回の活動日で実施していた「チェックイン」を参加者全員で行い、それまでの半年間を振り返りました。「チェックイン」とは、活動日の冒頭での挨拶を兼ねているもので、全員が同じお題に答えていくというもの。回を重ねるごとに参加者の個性やその人の日常が垣間見えるようになり、他者の生活をリサーチする実践の一環として、気づけばスタディ3の名物コーナとなっていたそうです。
共有会での「チェックイン」のお題は、「このスタディに参加していなかったら、やらなかったであろうこと」。どの参加者も、調査協力者との関係性のなかで自分自身を振り返り、自分の居場所をつくりながら ‘Home’についての手がかりを見つけていたことが伺えました。ナビゲーターの大橋香奈は、活動日にゲストとして招いた加藤文俊氏の「ラボラトリーワーク」の考えかたを引用し、「スタディ」には多様な世代が同じテーマに取り組み、同じ立場で学ぶ貴重で面白い場が立ち上がっていた、と振り返りました。
《2019年度 その後の活動》
「‛Home’ in Tokyo」をテーマに、全12本の映像作品が制作されたスタディ3。映像作品の上映会については、今後実施していく予定です。それらの映像作品を補完する役割も兼ねて、これまでの活動と作品制作のプロセスをまとめた記録集『‘Home’ in Tokyo 確かさと不確かさの間で生き抜く』(PDF版)が制作されました。テーマをどのように深めていったのか。映像を撮影・制作していく上で、どのような出会いや課題、試行錯誤があったのか。ぜひご一読ください。
記録集は、Tokyo Art Research Labウェブサイトにてダウンロードしてご覧いただけます。
東京プロジェクトスタディは、オリンピックのその先も見据えたとき、どのように文化を携え、新しい社会や文化を形づくっていくのかを思考し、アクションにつなげていけるか、という思いから始まっています。Tokyo Art Research Labディレクターである森司は、「ひとりひとりの気づきは非常に刺激に満ちたもので、さまざまなヒントがもらえた以上に、勇気づけられた。それぞれのスタディで学んだものは違うが、『ともに学び、思考し、その中で他者と出会い、自らとも出会う』という、まさにスタディをしてきたことが感じられた」と、共有会を振り返りました。スタディとしては一区切りとなるものの、それぞれの学びは続いていく予感とともに、2019年度の東京プロジェクトスタディの共有会は締めくくられました。
*東京プロジェクトスタディ アーカイブサイト
各スタディの活動内容については、アーカイブサイトにてご覧いただけます。活動日のレポートのほか、関連イベントや参考資料なども公開しています。どのような「つくる」プロセスを歩んできたのか、ぜひ追体験してみてください。
東京プロジェクトスタディ アーカイブサイトはこちら
執筆:染谷めい
写真:齋藤 彰英(※撮影者クレジットが入っているもの、記録集写真を除く)