アートプロジェクトのアーカイブ運用に関するアンケート

「アセンブル3|アート・アーカイブ・オンライン」では、オンライン対応の必要性が高まった現在において、アートプロジェクトの現場では事業資料をどう活用し、何が課題となっているのかを探るため、全国のアートプロジェクト関係団体を対象にアンケートを実施しました。

アンケート概要

実施期間: 2020年11月13日(金)~12月4日(金)
調査内容: アートプロジェクト活動に関わる団体が、コロナ禍の現在おかれている状況、ならびにアートプロジェクト活動のアーカイブに取り組むうえでの課題について
調査対象: 全国のアートプロジェクト実施団体、アートプロジェクト運営に関わる団体
調査方法: Questantフォームによる回答・集計
回答数:52件(有効回答率100%)
運営:特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター

新型コロナウイルス感染拡大の影響について

「新型コロナウイルス感染拡大が活動に影響を受けたか」という質問に対しては、「通常通り」の回答が5.8%だったのに対し、「延期・縮小などの影響(75.0%)」「オンライン開催に切り替え(61.5%)」「中止(予定含む)51.9%」など、多くの団体が影響を受けていました。

また、上記の影響を受けて、「ウェブサイトのコンテンツ拡充(53.1%)」や「活動再開後に向けた準備(44.9%)」、「保管している資料の整理(26.5%)」など、状況に対応しながら活動を行っていたようです。

デジタル環境へのシフトについて

アンケート実施団体は、92.3%が独自のウェブサイトを運用していました。さらにSNSアカウントを活用しているのが88.5%、動画配信を行っているのが48.1%の団体でした。

事業での発行物の公開方法については、ウェブサイトの場合は「全てしている(19.2%)/一部している(53.8%)/していない(23.1%)」。希望者へのデータ配布は「全てしている(7.7%)/一部している(50.0%)/していない(38.5%)」。
印刷版の配布は「全てしている(23.1%)/一部している(51.9%)/していない(5.8%)」と、約半数の団体が発行物をデジタルコンテンツとして活用していることが分かりました。

一方、活動記録に関わるデジタルコンテンツの公開方法について伺うと、「様々な方法で積極的に活用している(46.2%)」「主にSNSで活用している(48.1%)」という実践の一方で、「権利処理に不安がある(26.9%)」「予算や人員に余裕がない(32.7%)」といった課題もあがりました。

~アンケートより抜粋~

「活動の記録をデジタルで保存したり公開することについて、期待していることや課題だと思うことを自由にご記入ください。」

・課題は、デジタル化するための人件費を含む費用をどうやって工面するのか、また、デジタイズしたものが元の書類などの完全な複製となっているのかどうかを確認し、リスト化などするアーカイビング業務量がどの程度のものになるのかを算出しにくく、対費用効果が割り出せないこと。 また、期待することは一度完全にデジタイズすれば、大幅な事務所スペースの削減ができることと、インターネット上での公開や利用が容易になることなど。

・デジタルデータの保存方法や保存メディアが刻一刻と変わる中、どのメディアに保存して、バックアップをどうとるか?

・活動記録のデジタルでの保存は行っていきたいと考えているが、現状人員が不足しており手が回っていない。 公開活用については積極的に考えていきたいが、人員不足の他に、人にどのようにこのプロジェクトの情報が伝わることがコンセプトに適しているかをもう少し議論したいと思っている。事業のコンセプトや雰囲気を伝えるためには単なるPDFでの公開だけでなく、サイトのデザインや構造から検討したく、そのための予算や人員の確保は課題。

・資料の扱いに詳しくない行政職員に公開非公開の判断を委ねにくい。司書のような保管責任者/専門家の不在は課題。全国の活動資料を一括で預けられる受け皿および保存フォーマット・バックアップともなる別の保管先があると助かります。

・デジタル公開した際に画像の無断使用が何度か過去にあったため、公開には少し躊躇している。

資料の整理・保存・共有について

アンケートでは保管している資料の種類や、その方法についても調査しました。

多くの団体が「記録写真・映像・録音(90.4%)」や「発行物(86.5%)」、「報告書(86.5%)」、「会計関連の文書(82.7%)」などを廃棄せずに残していました。
その他、「会場図面」や「アンケート用紙」、「日誌」や「メディアクリッピング」などは団体によって保管の方針にばらつきが見られました。

資料の保管にあたっては、63.5%の団体が事務所で保管しているのに対し、事務所にスペースがなく、担当者が手分けして保管しているケース(7.7%)や、事務所が退去や縮小(予定含む)したケース(5.8%)など、安定した保管場所確保にかかる課題も見えました。

また、「共有棚があり、スタッフ間で共有ができている(57.1%)」、「重要資料や、個人情報を含む資料は保管に注意している(69.0%)」などに取り組めている団体が半数以上の一方で、「保存年限を決めるなど、整理のルール化ができている(28.6%)」は3割ほどにとどまりました。

デジタル資料については、「クラウドに保存(55.8%)」、「共有ハードディスクに保存(55.8%)」が多く、次いで「個人のパソコンに保存(38.5%)」が続きました。
デジタル資料の管理では「フォルダー階層を作っている(57.7%)」、「定期的にデータを整理している(36.5%)」というルールに基づいた運用も見られました。

~アンケートより抜粋~

「資料の整理・保存・共有について、課題だと考えていることを自由にご記入ください。」

・デジタル媒体、物理媒体ともに保存スペースが慢性的に不足している。管理コストも増大するため、保存するものの適切なボリュームと廃棄ルールが課題。必ずルールに組み込めない資料も発生する。 また昨今のデジタル技術の変化は目覚ましく、技術的な更新をどう取り入れていくかも難しい。

専任のスタッフがいないと、情報の整理、保存は難しい。ただためているだけの状態。

・資料が増えていくなかで、それを検索・活用できる状態にすること。物理的に保管する場所が限られてくること。活動終了時にそのための時間をさくこと。

今後期待するプログラム

アンケートの最後では、「今後アーカイブに関するノウハウなどを紹介するオンラインプログラムの実施を予定しています。 どのような内容を期待しますか?」という質問をさせていただきました。

~回答例(抜粋)~

・今後の活動の改善に生かせる内容で、人手や予算などが十分でなくても負担感なく取り組める具体的なノウハウ
・団体をまたいで維持されるアーカイブの共有事例など
・情報共有しやすいアーカイブのコツ
・検索のためのタグやキーワード設定について

今回のアンケート調査で浮かび上がった、アートプロジェクトの現場ではアーカイブ運用に関してどのようなノウハウや情報が必要されているのかという点については、Tokyo Art Research Labの今後のプログラムでもいかしてまいります。

アンケートにご協力いただいたみなさま、ありがとうございました。

オンライン報奏会「2019年の報奏 とりわけ伴奏型支援バンド(BSB)編」

2020年がまもなく終わろうとする12月27日(日)に、第2回目のオンライン報奏会が開催されました。今回は、この「報奏会」という造語の「(演)奏」の部分が際立つ内容を企画しました。すなわち、伴奏型支援バンド(BSB)による生演奏です。

伴奏型支援バンドは、福島県いわき市にある復興県営住宅・下神白団地の住民お一人お一人の、かつて住んでいたまちにまつわる思い出の曲(メモリーソング)を聞くコミュニティラジオプロジェクト「ラジオ下神白 あのときあのまちの音楽からいまここへ」から派生したバンドです。
2016年末に、プロジェクトのディレクターであるアサダワタルが初めて団地に訪れて以来、これまで7本のラジオ番組(各60分〜70本)を、住民限定のCDという形でリリースしてきました。住民さんの語りを聞き、ときに住民さんが自ら口ずさむ歌を聞き、その「声」を受け取るという体験は、福島から遠く離れた誰かの心を動かすことになるだろうという確信を持つに至りました。それは、震災や復興支援という事実を伝えるジャーナリズムや、現場の実情を調査しながらこれからの社会のあり方を提言する社会学的なアプローチとも違う、「ここに〇〇さんという人がこうして存在している」ことを「感じる」ための表現活動です。
その表現を受け取った有志が6名(関東在住バンドメンバーと茨城在住現地派遣ピアニスト含む)集まりました。住民さんたちから受け取ったメモリーソングのバック演奏をする、まったく新しいジャンル(!?)のバンド形態、それが伴奏型支援バンド(BSB)です。

伴奏型支援バンド(BSB)メンバー。

さて、第2回のオンライン報奏会では、まず2019年7月に結成されたBSBの活動の軌跡を凝縮したドキュメント映像(撮影/編集:小森はるか)をお届けするところからスタートしました。映像では、都内スタジオにて、まずアサダからメンバーに向けて、住民さんの人となりや背景、そしてメモリーソングについて共有しながら、選曲をし、それらをカバーし、パートを振り分けて実際に演奏していきます。演奏を重ねつつ、再び意見交換し、住民さんにあった演奏のスピードを検討したり、演出についてアイデアを出したりという場面も。
次に現地訪問のシーンです。メンバーを2つに分けて団地を訪れ、実際に住民さんに会いました。これまでラジオの中の登場人物であった住民の「〇〇さん」が立体的に立ち現れ、今後の演奏にその存在を吹き込み、重ね合わせて行く機会となったのではないかと感じています。
関東に戻ったBSBメンバーは、約5か月ほど都内スタジオでの練習を重ねて、2019年12月23日に、下神白団地のお向かいにあるいわき市営永崎団地の集会場をお借りし、「ラジオ下神白プレゼンツ クリスマス歌声喫茶 みなさんの思い出の曲を一緒に歌いましょう」を開催しました。全6曲のメモリーソング、ならびにギター担当の池崎浩士によるオリジナルソングや子ども住民向けの楽曲など合計8曲を演奏。ボーカルは、もちろん住民さんです。映像では、BSBの演奏と住民さんの歌声がしっかり重なり合う様子が記録されています。

スタジオでの練習の様子(2019年)
「ラジオ下神白プレゼンツ クリスマス歌声喫茶 みなさんの思い出の曲を一緒に歌いましょう」の様子(2019年)

このドキュメント映像を配信しながら、改めてアサダはこう感じました。「まさに夢のような時間だった」と。数年間積み上げてきた住民さんとの関係性がぎゅっと凝縮され、バンド仲間たちとこうして住民さんお一人ひとりの歌と記憶を愛で合える場。ともに声を響かせ合う場。それはいまから考えると“三密”の極みであるわけですが、改めてコロナ禍で失ったものの大きさを実感せざるを得ません。
しかし、くよくよしてても始まらない。私たちなりに前に進むためにこのオンライン報奏会だってやっているのだ! というわけで、お次がメインコーナーの紹介です。

いよいよBSBメンバーによるオンライン生演奏。しかも、下神白団地3号棟(主に大熊町出身の方が入居)の小泉いみ子さんとZoomをつなぎ、福島から彼女がボーカル、東京で僕らBSBがバック演奏をするという画期的な取り組みです。現地には、プロジェクトマネージャーの鈴木詩織をはじめとした一般社団法人Tecoチームががっちりサポート。まずは藤山一郎の「青い山脈」(作詞:西條八十 作曲:服部良一/1949)をBSBのインスト演奏でお届けしたのちに、いよいよいみ子さんの登場です。

いみ子さんは原町出身で、大熊町出身の農家のもとに嫁いだのち、さまざまなご苦労をされながら、これまでの人生を「歌に支えられてきた」といつも私たちに語ってくれます。下神白団地に入居する前は6か所の仮設住宅を渡り歩き、2015年の春に下神白団地の入居がスタートすると同時に移り住んでこられました。2017年にお連れ合いを亡くされ、一人でいまこの団地に住んでいるいみ子さんがもっとも大切にしているのが「歌うこと」。毎週水曜と金曜の午前に集会場で開催されるカラオケには必ず足を運び、住民の仲間たちに支えられながら生活を続けられています。そんな彼女の十八番は平和勝次とダークホース「宗右衛門町ブルース」(作詞:平和勝次 作曲:山路進一/1972)。今回は、遠く離れた土地をつないでこの曲を披露しました。

いわき(歌)と東京(バック演奏)がオンラインで重なる。

みなさんにはぜひとも、この様子をアーカイブ映像でご覧いただきたいです。とにかくいみ子さんの歌がすごいのです。いみ子さんの歌の特徴は、ものすごく伸びやかな声で、独自のリズム感で歌い上げること。拍という狭い意味でのリズムからすればどんどんズレていってるように聞こえますが、最後にはなぜかちゃんと着地するという技量(センスといった方が正しいニュアンスかもしれません)にいつも感動させられます。
もちろん、それはアサダ自身が「いみ子さんのことを知っている」という背景があることは承知です。しかし、福島の復興住宅に小泉いみ子さんという方がこうして「存在」している事実を、知るのではなく「感じる」には、もうこれ以上にない歌なのではないかと思うのです。

コロナ禍という、人と人とが直接交わり、つながることが難しい状況になり、「そこにいる」ということを伝えることの意味がより増していると感じています。それは「ライブとは何か」という問いでもあります。オンラインでできるライブ表現について、きっと思いを悩ませているミュージシャンや舞台芸術関係者は多いと思いますが、そのあたりの問いに対する回答もこの機会に示したいと考えてきました。そこでひとつ大事にしたいのは、問題なくオンラインでやることよりも、「それでもつながろうとする意思のプロセスを如実に表現できるかどうか」だと思いました。それは、今回の小泉いみ子さんとBSBのあいだで、わずかながらも表現できたのではないかと思っています。

最後のコーナーは、BSBのミュージックビデオ上映。下神白団地2号棟(富岡町出身の方が多く入居)の横山けい子さんと、4号棟(浪江町出身の方が多く入居)の髙原タケ子さんのメモリーソングで、わたしたちのプロジェクトの代表曲となっている「青い山脈」。この曲をBSBの演奏をバックに7名の住民さんが歌い上げた(在宅収録!)ミュージックビデオ(小森はるか・福原悠介 撮影/編集)をお届けし、無事終了いたしました。

最後に、今回は目に見えないところで、とても機微に富んだテクニカルサポートを4名の方に行っていただきました。配信担当の齋藤彰英さん、音響担当の大城真さん、溝口紘美さん(Nancy)、団地での配信・音響担当の福原悠介さんにこの場を借りて厚く御礼を申し上げます。

2月23日(火・祝)に開催予定の最終回になる第3回目のオンライン報奏会は、あの日からまもなく10年を迎える2021年3月11日を目前開催します。ゲストに、震災後に福島の方々との交流を盛んに行ってきた作家/クリエイターのいとうせいこうさんをお招きし、「表現・想像力・支援」というテーマで語り合います。どうぞご期待ください!

(執筆:アサダワタル

■「オンライン報奏会」第2回の記録映像はこちら

アート・アーカイブ・オンライン

コロナ禍のアンケート調査をふまえた、アーカイブに関する映像コンテンツを制作

多くのアートプロジェクトでは、さまざまな人が集い、対話をしながら時間や場所を共有し、つくりあげていく手法がよくとられます。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大状況下で、その継続のあり方が議論され、アーカイブの重要性や、プロジェクトのオンライン対応の必要性が高まってきました。

そこで、アート分野における調査・研究に取り組むNPO法人アート&ソサイエティ研究センターの協力のもと、全国のアートプロジェクトにまつわる52団体に「アーカイブ運用」についてアンケート調査を行います。また、アーカイブに関するノウハウや活用方法の基礎知識をまとめた映像コンテンツ「エイ! エイ! オー!(アート・アーカイブ・オンライン)」を収録し、YouTubeで配信。これまでTokyo Art Research Lab(TARL)で研究してきたアーカイブの知見をいかして、オンラインでのコンテンツづくりを模索します。

詳細

スケジュール

1月29日(土)
第1回 イントロダクション

1月29日(土)
第2回 現状調査

2月12日(金)
第3回 アーカイブのプランニング

2月12日(金)
第4回 目録作成

2月19日(金)
第5回 デジタルデータの保存

4月30日(金)
第6回 オンライン・ヒアリング

会場

ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda 3F])

関連サイト

エイ! エイ! オー! YouTubeページ

こんなとき、どうしてますか? 目標設定から組織、記録までアートマネージャーの悩み相談

2020年12月16日、「つどつど会(都度集うアートマネージャー連絡会議)」第2回をオンラインで開催しました。
第1回レポートはこちら

悩みを持ち寄る

北は秋田から南は大分まで、幅広い現場を手掛ける5名のアートマネージャーが集まり、情報共有や相談を重ねていくつどつど会。今回は「悩みを持ち寄る」をテーマに、メンバーのうち2名が活動を紹介しつつ、悩みを共有するところからはじめました。

*つどつど会#02 悩みの発表者
・三富章恵さん(NPO法人アーツセンターあきた/秋田県)
・岡田千絵さん(公益財団法人墨田区文化振興財団/東京都)

事例から解決のヒントを探る

寄せられた悩みは、目標、成果、組織、記録などさまざま。

それに対し、他メンバーやアーツカウンシル東京スタッフがそれぞれの現場におけるチャレンジや成功事例・失敗事例を引き合いに出しながら、解決の糸口をともに探りました。

約2時間に渡るつどつど会のなかで、それぞれのエピソードから出たアイデアやヒントを一部ご紹介します。

<目標と成果>

*目標も戦略的に設計する
・ストーリーに合わせた目的・目標設定をする(例:前年度は◎◎だったから今年度は△△△を狙う)
・たとえば行政事業で「文化浸透」が目的の場合、指標が曖昧なので、行政側からオーダーがなくとも組織側で成果数字を決めて計測するようにしている
・成長を大事にする事業では、狙いに対して何割できたかという「達成率」を取り入れた

*測りやすい方法を編みだす
・常に報告書があることを前提にし、全事業でアンケートをしっかりとる
・大量集客ができていたプログラムをツアー形式に変更したとき、「経済波及効果」を指標に取り入れた。参加者の総数は減るが「何泊とまったか」をアンケートにいれて、地域への経済波及効果を示せた。企画変更の時点で指標も変更しておき、指標を一つに絞らないことも重要
・ビジネスの現場でも用いられる「バランス・スコアカード」を採用し、複数の視点で評価するようにしている

<組織と人>

*組織図を描いて組み直す
・組織のことで悩んだらまず「体制図」を描くと課題が見える。全員で体制図つくってみるのいいかも
・アーカイブの議論で大事なのも組織図をつくること。誰が権限を持って何を管理しているかを明らかにする必要がある。ただ、アート組織は図が書きにくいことも
・二人組でチームつくり、その上に事務局長が立って事業を振り分け、問題が起きたら事務局長に戻して解決する仕組みをとる方法をとってみた

*負荷や得意を把握する
・スケジュールが過密にならないように、負荷が偏らないように、チーム編成を工夫して常に計測する
・組織内部でできない内容や量は、外部パートナーと連携してどんどん依頼できる体制をとっている
・スタッフごとの得意なことをしっかり把握して上手に頼む

<業務内容>

*相談事業は手掛ける範囲を決める
・BEPPU PROJECT「CREATIVE PLATFORM OITA 」では、さまざまな経営課題をクリエイティブの力で解決する『クリエイティブ相談室』(以下相談室)を開設している。大分県の企業は相談室に無料で相談できる。相談室は、内容に応じてクリエイターと企業のマッチングをおこない、クリエイターと企業が契約してから実際にプロジェクトが開始する
・相談までは公的事業の無料枠でやるが、技術料はちゃんと明確にすることにしている。費用がわかることで相談者もリアリティを持って判断ができる

*料金表を関係者で共有する
・案件ごとの料金表はつくっているが、少し外側の関係者が人づてに安価で仕事を受けてしまうことも。これからは関係者ともしっかり料金表を共有することに

<成果発信>

*参加団体にヒアリング・発表してもらう
・企業連携の事業においては、参加企業に売上への貢献、就労への貢献など数字を含めた成果をヒアリング。成果発表会を開催しメディアを含め多くの方に成果を公表している

*行政とは「計画」を元につきあう
・市の総合計画は、組織全員でその内容を把握するようにしている。その上で、どうやって自分たちの活動が活動できるか考えようにしている
・行政側の計画書のどこに、それぞれのプログラムが紐付いているかを逐一資料にして明示している。議会対応はマネージャークラスが専任でつき、ノウハウと資料を貯めている
・人事異動などの影響でむしろ行政側が根拠となる計画がわからなくなることも。行政外のアートマネージャーが計画を読み込み、論拠を構築できることが大事

*外部事例を共有する場をつくる
・寄り合い的な場に行政の人を招き、他地域の事例を見てもらうタイミングをつくる

*すぐに出せる資料を常につくる
・公共事業の場合、実施意義や成果についての詳細な問い合わせを受けることもある。そういった際にすぐに数値が提示できる資料や業務報告書をつくっておく習慣が重要

<記録と継続>

*公的機関にゆだねる
・記録を誰かに託すことまで考える。アーツカウンシル東京の場合、国会図書館のデジタルアーカイブ部門にウェブサイトの収集をしてもらっている。サーバーやドメインの契約が切れてもコピーサイトが残る仕組み
・印刷物も国会図書館のような公的アーカイブを上手に使うのはおすすめ。綴じている本は何でも受け付けてくれるし、タイトルに「ジャーナル」とつけると記事ごとに検索できるようになる仕組みも

*プラットフォームにゆだねる
・長期的な視点だと難しいけれど、お金がかからなくて世界からアクセスできる場所としては残りやすいのはSNSアカウント。事業が終了した瞬間にウェブサイトが消えたとしても、かろうじてFacebookページが残っていることで参加者の人に向けたその後の情報発信ができた経験も

第2回を終えて。参加メンバーからのコメント(抜粋)

蟻川小百合さん(みずつち市民サポーターズ/新潟県)
「別府の組織体制を変えた話を聞いて似ているなと思い出しましたが、さいたまトリエンナーレのディレクターチームでは、チームのマネジメントを担当するスタッフがいて、常に全体を見ながら様々な調整をしてくれたので助かっていました。
アーカイブを残すことを誰かに委ねるという発想、いろいろ考えられそうと思います。新潟は市民プロジェクトの記録集をサポーターズが自ら作りました。自主映画をつくるアートプロジェクトを市民プロジェクトで続けていますが、市内の文化芸術活動を伝える一つのメディアになりたいと考え、ドキュメンタリーを撮る活動に力を入れるようになってきています」

大政愛さん(はじまりの美術館/福島県)
「評価、構造化、組織図作り、評価、記録、リソースの認識、本として残すか、ウェブ上に残すか、などなど、様々なトピックが出て、参考になることも多くありました。評価に関しては、最初に指標を決めてもなかなか振り返るタイミングが難しく、模索しております。自分たちのための評価と、協働していくための評価、外にみせていくための評価は、少しずつ異なるのかななどと思いました。
自分の活動では、今日お話がでた議会対応など直接的な行政とのやりとりはないので少し課題や対応は異なってくると思うのですが、法人内やグループ内での説明などにも役立つ部分もあるだろうなと感じました。すぐに解決することが難しい悩みも多いのですが、多様な手段や視座を伺うことができ、『いつかこうしていきたい』というアイデアもいただいています」

岡田千絵さん(公益財団法人墨田区文化振興財団/東京都)
「議会対策って何をすればいいのかわからないと思ってましたが、行政の5ヶ年の基本計画や条例をバイブルにする。と分かっていれば怖くない。色々な地域の行政との話を聞いてそこは常識なのだと実感しました。
報告書や報告会を念頭にアンケートや情報収集の準備をすることは目からウロコでした。でも、確かにそうだと思います。また、組織図を共有する、視覚化するというのは早速やってみます。プロジェクトに参加している団体とそれを共有しながら打ち合わせをすると、団体ごとの事情や特徴が把握しやすそうです。
それから現場が混乱しそうな時はバランス・スコアシートなどを活用して、組織や事業の目標を明確にすることで、組織体制の立て直し、スタッフの疲弊を防ぎたい。。後回しになりがちかもしれないけれど、アートマネージャーのキャリアパスとして、自分の記録やアートマネージャーの仕事をどう発信するかも大事ですよね」

月田尚子さん(NPO法人BEPPU PROJECT/大分県)
「組織運営、スタッフのモチベーション維持・育成、仕事のボリューム、アーカイブの方法などは規模は違えど同じ課題を抱えていたので、とても共感できました」

三富章恵さん(NPO法人アーツセンターあきた/秋田県)
「組織体制の在り方、事業のつくり方、行政とのコミュニケーションの取り方など、他の団体でどう取り組まれているかという参考事例や実践的な助言をいただけて、とても参考になりました。
組織の中で話しているだけでは解決しないことも、ある程度近い状況を経験し・理解いただける方々との会だからこそ、適度な客観性をもって助言いただけるんだなと思います」

レポート執筆:中田一会(きてん企画室)

Art Archive Online(AAO)/エイ!エイ!オー!

アーカイブに関するノウハウや活用方法における基礎知識の紹介や、アーカイブ構築を継続してきたゲストをお招きしてクロストークを行いました。

ゲストは、川俣正さん(アーティスト)、日比野克彦さん(アーティスト)、田口智子さん(東京藝術大学芸術資源保存修復研究センター特任研究員)、小田井真美さん(さっぽろ天神山アートスタジオAIRディレクター)、石井瑞穂さん(アートプロデューサー)、志村春海さん(Reborn-Art Festival 事務局スタッフ)、秋山伸さん(グラフィック・デザイナー)です。次の10年に向けて、アートの現場におけるアーカイブ活動の可能性をともに考えます。

困ったら、お互いに聞いてみる。助け合う場を続けていこう


東京アートポイント計画
に参加する9団体+アーツカウンシル東京で進めてきた「事務局による事務局のためのジムのような勉強会」こと「ジムジム会」。2020年9月22日、無事に今年度の最終回を迎えました。

コロナ禍で身動きがとれないところからスタートし、オンラインを介して悩みや実践を共有してきた全5回の勉強会シリーズ。最後は「お互いに話を聞いてみる」をテーマに場をひらきました。レポートをお届けします!

ポンチ絵でこれまでの回を振り返るところからスタート。

あの事務局から、この事務局へ。お互いに話を聞いてみる。

ジムジム会ではこれまで、オンラインディスカッションやラジオ形式の質問会など、さまざまな方法でネットワーク型の勉強会を重ねてきました。

締めとなる最終回は大変シンプルに、「聞きたいことを聞きたい相手に聞いてみる」方式で進行しました。どんな質問が飛び出したのか、その一部をスクリーンショットで簡単にご紹介します。

*各チームには質問をフリップで用意してもらい、それに答えるチーム以外はミュートで話を聞きながらチャットを盛り上げる……という方法をとりました。

プロジェクトの継続方法はどのプロジェクトにとっても大きな課題。歴史の長いプロジェクトの事務局から同じようなベテラン事務局への質問。継続の方法や考え方は様々なバリエーションがあることがわかりました。
アートプロジェクトの事務局は、必ずしもアート専門のチームとは限りません。もともと地域おこしの活動をしていた事務局が、アートプロジェクトと並行して保育事業を展開する事務局に質問。「アート」をどう捉えるかという深い問いに繋がりました。
お互いの実践を共有していく中で、「あのチームの企画がいつも気になる!」と感じることも。アイデアをどう生み出すか、どんな会話から新しい活動がはじまるのか、活動を振り返りながら話しあいました。
日常と表現の両方を大切にするアートプロジェクトでは、事務局における働き方も重要なテーマです。育児中の女性が多いチームでは、他の事務局の子育てと仕事のバランス、考え方にヒントをもらいました。
表に出てくる活動内容だけではなく、根幹となる考え方が気になるのも事務局らしい視点。特に地域に軸を置くアートプロジェクトでは、地域をどのように見て、関わるかも気になるポイントでした。

問われることで初めて気づくこともある

プロジェクト運営で気になること、困ったことは、同じ立場にいる人同士で話すとヒントも見えてきます。また、問われることで初めて意識が生まれることもあり、発見の多い時間となりました。

事務局同士の相談で得たヒントは、かるた型のカードにまとめて共有。

ジムジム会=勉強会の姿をした互助会

はじめの記事でもお届けしましたが、ジムジム会は講座型ではなく「互助会」的な勉強会を目指して2019年より運営しています。

▼ジムジム会2020の運営方針
1. 現場の状況と社会状況を反映し、柔軟にプログラムを組む
2. レクチャー形式ではなく、相互に助け合う「互助会」的な場とする
3. 得た知見や生まれたアイデアは、公共知としてオープンにしていく

まち・ひと・活動が複雑に絡み合い、企画ごとに規模も目的も異なるアートプロジェクトの運営には正解がありません。だからこそ大切なのは、共通したセオリーを学ぶことではなく、様々なプロジェクトの実践から学び合い、それぞれが活動に必要な知見を鍛えていくこと。

そのためには人の繋がりも、お互いの活動を知ることも大切です。全5回を振り返ってみると、勉強会の姿をとりつつも、しっかり「互助会」らしく育ったのでは……と、運営チームも感じています。

ジムジム会は続いていきます!

嬉しいことに2020年度のジムジム会は、「コロナ禍中で情報共有できたことがよかった」「続けてほしい」「出会いがあった」と参加メンバーからも大変好評でした。そこで、今後も各プロジェクト事務局が持ち回りで運営し、「続・ジムジム会」として開催していくことになりました。

困ったらお互いに聞く。相談する。そんな関係性はこれからも続いていきます!

▲最後に下半期の抱負を発表して締めました。

(執筆:きてん企画室)

※ジムジム会についての情報は東京アートポイント計画のnoteアカウントでもお読みいただけます。

今だからできること、わかること。アートプロジェクトの知恵を持ち寄る

ある日突然現れた制約に戸惑いながらも、知恵を出し合い、新たな方法を編み出していく。“特別な夏”と名付けられた2020年夏、各アートプロジェクトの運営チームは、困難を契機にしていく力を少しずつ身に付けています。

熱い熱い8月19日、アートプロジェクトの事務局による事務局のためのジムのような勉強会「ジムジム会」の第4回を開催しました。

少しずつ見えてきた! 各プロジェクトの現場から

実際のプロジェクト現場ではどんなことを考え、どんな実践を重ねているのでしょうか。今回も東京アートポイント計画に関わるプロジェクトチームから実践発表してもらいました。

「会えない時間」を「問いを深める」時間に。小さな記録と記憶に向かうプロジェクト

東京都世田谷区を中心に展開するアートプロジェクト「移動する中心|GAYA」(以下、「GAYA 」)では、人々の記録や記憶にまつわる「楽しみ」と「仕組み」をつくることを目指して活動しています。

これまで「アーカイブ」といえば、専門家や専門の施設が携わるものでした。しかし地域や個人の記録や記憶は、非専門家にとっても大切なものです。そんな考えから、GAYAでは8mmフィルムの映像アーカイブ「世田谷クロニクル1936-83」を利活用し、公募で集まったメンバー「サンデー・インタビュアーズ」とともに映像を鑑賞したり、インタビューを重ねる企画を続けてきました。

2019年度のサンデー・インタビュアーズ活動の様子。

そんなGAYAでは現在、対面のインタビュー活動は休止し、オンライン上でアーカイブを楽しみ、仕組み化していくためのワークショップを展開しています。

具体的には、サンデー・インタビュアーズ一人ひとりが「職業」「服装」「匂い」などのテーマを設定し、映像群を鑑賞していきます。その上で映像の「タイムコード」をつくり、何分何秒に何が写っていたのかを記録。さらにはそこから浮かんだ問いをメモしていきます。それらの作業をひとりではじめ、みんなと共有し、そしてまた自分ひとりで深めることがポイント。

「Scrapbox」を用いて作成・共有している「タイムコード」。

人に会えない時間だからこそ、オンラインワークショップを通じ、「何を聞きたいのか、なぜ聞きたいのか、その時代について何を知りたいのか」を丁寧に考えるメンバー。現在のこの状況を、問いや関心を深める時間に使っているとのことでした。

いまこそ、大きな企みを準備する。地域の拠点や人をつなぎながら進めるプロジェクト

続いて、東京都府中市で活動するアートプロジェクト「Artist Collective Fuchu [ACF]」(以下、「ACF」)からは、準備を進めている新規事業と、工夫しながら続けているラジオ企画についての報告がありました。

ACFは府中市で暮らし、活動する多様な人によって運営されています。例えば、アーティスト、映像作家、教師兼創作アトリエの主宰者、オルタナティブスペースを運営している人やカフェ経営者もメンバーです。

そんなチームで現在進めていることのひとつは、5か年計画で構想している新規事業。府中市内のアーティストや様々な拠点、公共施設等をつなぎ、新たな形の生涯学習やワークショップを展開する「学びの場」をつくろうという企画です。現在は様々な人に会いに行き、議論し、調査し、計画している段階。市役所と市民が協働する「府中市協働事業提案制度」にもエントリーするなど事業化を着々と進めています。まさに、コロナによって立ち止まってしまった今だからこそ考えられることです。

2019年度から地域でサロンを開くプログラムも展開。

また、昨年度から続けているコミュニティFMでのラジオ番組(Artist Collective Fuchu presents「おとのふね」)は現在も継続中。収録では感染症対策に細心の注意を払いながら、人や地域の話を紡ぐ活動は絶やさないように進めています

※過去放送内容はこちらからご覧いただけます。

オンラインシフトでも目的はブレない。つくる現場はどこでも同じ。10年目の震災復興プロジェクト。

最後の発表は、東京アートポイント計画の手法を使い、東日本大震災の復興支援を目的にスタートした「Art Support Tohoku-Tokyo」(以下、「ASTT」)から。

もともと震災から10年目を迎えたASTT事業では、2020年度を最終年とし、最後の締めとなるようなプログラムを企画していました。ひとつは事業を展開している3県(岩手県、宮城県、福島県)における担い手同士が集い、ネットワークづくりを行うもの。もうひとつは震災の経験を他の出来事と接続し、ひろく発信する大きなフォーラム。しかしそれらの企画は、感染症の拡大とともに諦めざるをえませんでした。

そこで大切にしたのは、目的をずらさずにオンラインにシフトすること。公式ウェブサイトをウェブマガジンにリニューアル(Art Support Tohoku-Tokyo 2011→2021)し、手記や日記、人々の声を集めて掲載する企画をはじめました。また月2回、YouTube Liveをつかったラジオ番組(10年目をきくラジオ モノノーク)も東北のメンバーとともにスタート。

▲ウェブメディアとしてリニューアルした公式サイト

ウェブメディアや特集企画、ラジオ番組などの制作を通し、様々な視点や職能を持つ人々が交流したり、集うという本来の目的はぶれていません。メディアやラジオといったリズムのある活動を行うことで、変化も捉えやすくなったといいます。

担当者が語気を強めるのは「オンラインは代替策ではない」ということ。リアルな場でのイベントやプロジェクトづくりと同様、オンラインも創作の現場です。活動を通して、新たな対話や関係が生まれ、それが豊かな文化を育むことには変わりありません。

いまだからできること、わかること

以上、3つのプロジェクトからの実践共有でした。

どの活動にも共通しているのは、制約のある状況を創造の機会にしようと工夫を重ねていること。問いや関心を深めたり、新規事業が立ち上がったり、オンラインという新たな現場を手にしたりといった新たな手応えを得ていること。

苦しい状況はまだまだ続きますが、アートプロジェクトらしい歩みの進め方は、かかわる人々の日常にも何かしらの良い変化を生んでいく……かもしれません。

(執筆:きてん企画室)

アートプロジェクトの再始動。新たな日常でどうはじめる?

東京アートポイント計画に参加しているアートプロジェクトにとって、この夏は緊急事態宣言解除後、改めて活動をはじめた時期です。

そんな最中の2020年7月20日、アートプロジェクト事務局による事務局のためのジムのような勉強会「東京アートポイント計画 ジムジム会」の第3回を開催しました。

新たな日常でどうプロジェクトを再始動するべきなのか、今回もそれぞれのチームの具体的な実践を共有し、全員でディスカッションしました。簡単にレポートします!

場が変わり、手段が変わった3か月

例年であれば、各アートプロジェクトの年間活動はじめは4月。6〜7月には最初の大きな企画があり、さらに秋にかけてまた一山、冬から年明けにかけて年間活動のまとめ……というのが通常の流れです。

ところが今年度は、集まることや移動することができない春先からスタートし、夏からの活動も感染拡大を防ぐことが第一の条件。3か月前に計画していた規模・場所・手段ではまず実施できません。

ジムジム会運営チームも会場を配信&収録スタジオ「STUDIO302」に移して開催しましたが、それもまた新たな日常に合わせた変更のひとつです。

では各プロジェクトでは、どんな風に活動を展開しているのでしょうか? 今回は3つの団体に実践内容を共有してもらいました。

「たった一人でもやる」。セレモニーとしてのプログラム

東京都町田市で展開する、500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」では、長い歴史を持つ寺院・簗田寺(りょうでんじ)を拠点に、この先500年続く祭りの形を考えています。

外出自粛の期間中、メンバーで話し合ったのは、「プロジェクトにおける企画はイベントなのかセレモニー(儀式)なのか」ということでした。つまり、人が集まることを目的としているのか、やること自体に意味があるのかという問いです。ディレクターの齋藤紘良さんは、「セレモニーとして自分一人でも縁日(※)をやる意義がある」と考え、無観客でのプログラム開催を決めました。※YATOでは毎年「YATOの縁日」を開催。

ただし、“集まらなくても参加できる方法”も用意しています。たとえば影絵師・音楽家の川村亘平斎さんとの影絵ワークショップは「デリバリー」方式に切り替え、こども達がそれぞれ自宅でつくった影絵を預かり、上演の様子を映像で中継します。また、同じように自宅で土器をつくり、楽器として演奏して収録し、縁日でその音を流すプログラムも開催。

これらの企画は、事務局メンバーがオンライン会議を通じてそれぞれの経験を共有し、そこにアーティストのアイデアを重ねることで自然と出来上がりました。「コロナだからという特別な感じはなくて、YATOは今までもまちの状況に合わせて活動してきました。制約があるといっても去年と変わらないワクワクやドキドキ感がちゃんとあります」と、事務局メンバーの荒生真美さんは言います。

日頃からの関係性やコミュニケーションの上に表現が成り立つ、アートプロジェクトらしい再始動の姿をYATOは描きつつあるようです。

家から参加できる「デリバリー影絵ワークショップ」は公開直後に定員に。急遽、人数を増やして実施することに。

オンラインで「余白」をつくる。対話を進めるための準備

世田谷で展開するアートプロジェクト「東京で(国)境をこえる」では、プログラム始動に向けた準備が進んでいます。

20〜30代の様々な言語や文化、国籍を持つ人とともに見えない境界について考えていくプログラム「kyodo 20_30」では、毎週日曜日の夜にオンラインで準備会を開催。今回の実践共有で、事務局・矢野靖人さんがレポートしてくれたのは、そのユニークなコミュニケーションの工夫でした。

大切なのはどのように「余白」をつくるかということ。たとえば、準備会で毎回開催しているのは「テンミニッツメイド」と名付けたコーナーで、会議の最後に10分間でできるミニ・ワークショップを週替りでメンバーが担当します。また、会議後は誰もいなくなるまでZoom会議室を開きっぱなしにするのも恒例です。毎回24時を過ぎるという開きっぱなしの時間は、なんとなく喋ったり、ご飯を買ってきたりしながら、仲間同士で「帰り道」的感覚を共有する機会だそう。

また、外出自粛要請を受けた時間のことを残そうと始めたのは、メンバー限定Facebookグループでの「自撮り日記」。メンバーが一人ずつ自分の近況や考えていることを5分前後の動画にして、次の人に回すリレー動画は、10人で3周目を迎えました。個人的な記憶や、まちの気配、緊張感や空気感まで共有できることが特徴。

それぞれの課題意識や考えを共有し、対話の土壌を耕すことは、アートプロジェクトにおいて大切な準備のひとつ。制約の多い日常を上手に乗りこなし、余白をつくり出すこともまた、プロジェクトを育てる上手な方法かもしれません。

「テンミニッツメイド」でやってみたミニ・ワークショップのひとつ。Zoom画面上で一本の線をつなぐためにコミュニケーションをとる。

12年分の活動を振り返る、本づくりの時間

2009年から始まって12年目を迎えるプロジェクト「TERATOTERA」。今年度はこれまでの総まとめとして、本の制作に着手しています。

本づくりのプロジェクトを編集長として進めているのは、元・新聞記者で、TERATOTERAにはボランティアとして関わる西岡一正さん。長年、本プロジェクトのドキュメントブック編集を手がけてきました。TERATOTERAの特徴は、そういった形で多種多様な興味関心や背景、特技を持つボランティアが、プロジェクトの企画・運営にしっかり関わっているところにあります。

そこで今回の本づくりでは、ボランティアとして当事者でもある西岡さんを中心に、歴代のボランティアスタッフがオンライン上で対話を重ね、過去一年度ごとの振り返りを進めることに。12年分の活動をまとめるのは、情報量が多く大変です。一方で、振り返りをすることで、離れていたメンバーが喜んで参加してくれたり、企画への愛着が増す点は良い点でもあります。

今年度は予定していたプログラム「TERATOTERA祭り」もオンライン化が決まり、海外ゲストも含めたさまざまな調整が進んでいます。不便な点もひとつひとつみんなでクリアしていくことが、プロジェクトを進める力にもなっていくはずです。

TERATOTERA12周年本のチーム体制(テラッコ=TERATOTERAボランティア)

それぞれの始め方、進め方

緊急事態宣言が解除されたといっても、現在の東京都内における新型コロナウイルスの感染者数は増加の一途を辿っています。人々の安全や安心を考えれば、集まること、移動することを今まで通りの形で再開することはなかなかできません。そしてそれがこの先も続くであろうことは、この数か月をかけてそれぞれが実感し、考えてきたことです。

どんな活動にも「絶対」はなく、常に状況に合わせて動くことがとても大切です。東京アートポイント計画 ジムジム会では引き続き、新たな日常でのアートプロジェクトのあり方を考えていきます。

(執筆:きてん企画室)

ジムジム会2020

事務局ごとの知恵を持ち寄り、現場の悩みを解きほぐすオンライン互助会

アートプロジェクトは、企画や広報、経理などを担当する事務局の人々によって支えられています。しかし現場は人手が不足しており、時間がないなかでやり方を模索し、それぞれが悩みを抱えながら活動しているのが多くの現状です。

そこで、2019年度から同じような悩みを抱える「東京アートポイント計画」に参加する団体が集まり、「事務局による事務局のためのジムのような勉強会(通称:ジムジム会)」をひらき、広報やウェブサイト制作などの実務的な課題について共有してきました。そして、2020年4月の緊急事態宣言以降、アートプロジェクトは活動の大幅な変更を余儀なくされました。事務局も、これまでの課題に加えて、オンラインを前提とした関係者間のコミュニケーションや企画など、新しい課題に直面しています。

今回のテーマは、社会状況に応じたアートプロジェクト運営。会の方針は「現場の状況と社会状況を反映し、柔軟にプログラムを組む」「レクチャー形式ではなく、相互に助け合う互助会的な場とする」「得た知見や生まれたアイデアは、公共知としてオープンにしていく」ことです。それぞれの事務局が抱える課題や実践を共有しながら、コロナ禍以降のアートプロジェクトのあり方や可能性を考えます。

詳細

スケジュール

5月13日(水)
第1回 集えない状況でどう集う? お互いの状況を共有しよう

発表:アートアクセスあだち 音まち千住の縁
ファンタジア!ファンタジア! -生き方がかたちになったまち-

6月17日(水)
第2回 あの手この手でつながるには? コロナ状況下でのアートプロジェクトを考える

発表:小金井アートフル・アクション!
HAPPY TURN/神津島

7月20日(月)
第3回 アートプロジェクトの再始動。新たな日常でどうはじめる?

発表:500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」
東京で(国)境をこえる
TERATOTERA

8月19日(水)
第4回 いまだからできること、わかること。アートプロジェクトの知恵を持ち寄る

発表:移動する中心|GAYA
Artist Collective Fuchu [ACF]
Art Support Tohoku-Tokyo(ASTT)

9月22日(火)
第5回 困ったら、お互いに聞いてみる。助け合う場を続けていこう

 

*プログラム終了後も、プロジェクト事務局が自主的にホスト役をつとめる「続・ジムジム会」が行われました。

続・ジムジム会

第1回 ジムキョクの当たり前を解きほぐす

第2回 聞いて! アートプロジェクトにかかわる人!

第3回 ジムジムボディビル大会2021

 

関連サイト

東京アートポイント計画共催団体