「言葉」の文脈を繋ぎ、適切に届けるには?

「つくる」で終わらせない。ドキュメントの「届け方」を、2017年度も研究・開発しました。

近年、日本各地で増加するアートプロジェクトにおいては、その実施プロセスや成果等を可視化し、広く共有する目的で様々な形態の報告書やドキュメントブックなどが発行されています。それらは、書店販売など一般流通に乗らないものも多いため、制作だけでなく「届ける」ところまでを設計することが必要となります。

またそれらのドキュメントには、母体となる団体やプロジェクトの理念や文脈が込められています。複数のプロジェクトを抱える団体において、そこに通底する価値を広く社会に伝えることは重要です。

TARL研究・開発プログラム「アートプロジェクトの「言葉」に関するメディア開発:メディア/レターの届け方(2017)」では、アートプロジェクトから生まれた「言葉」(ドキュメント)の届け方の手法を研究・開発しました。

前年度に引き続き、本年度はアーツカウンシル東京の取り組みから「東京アートポイント計画」「Tokyo Art Research Lab」「Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)」を取り上げ、ドキュメントを届けるためのメディア開発(パッケージ及びレター)を試みました。特に力を入れたのは、冊子を届けるだけでなく、プロジェクトのアウトプットとして発せられた「言葉」を、より広い文脈と接続し、可視化することです。

完成|「Words Binder 2017 / Box+Letter」

先に完成品からご紹介します。本年度発送したのは11点のドキュメント(冊子8点、リーフレット形態のもの3点)です。それらを透明のボックスに納め、レターが見えるような形に仕上げました。また、今回はプロジェクトを横断した「言葉」の紹介や、それぞれの背景を紹介するようなコンテンツ(レター)も制作し、添えています。

表側(冊子が見える)/裏側(レターが読める)。
レター表面。ディレクターメッセージと、各プロジェクトの概況を掲載。
レター裏面。2017年度のプロジェクトから生まれた言葉をピックアップして紹介。
内容物一覧。判型も生まれた背景も異なる11種の印刷物をどう物理的に納め、言葉として届けるかが課題でした。

プロセス|届け方の改善と、臨機応変な対応

さて、完成品を先にご覧いただくと、スッと綺麗な形に仕上がっているように見えますが、その過程には様々な試行錯誤がありました。

「11種類のドキュメントを届ける」だけでも、例えばこんな課題があります。

●各プロジェクトの共催団体がそれぞれ年度末に向けてドキュメントを制作するため、印刷物としての判型やボリューム、タイトル等が発送タイミングの直前までわからない。
→サイズや紹介方法を包括できるようハード面・ソフト面双方で工夫する

●「東京アートポイント計画」「Tokyo Art Research Lab」「Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)」という3つの事業を横断するので、それぞれの背景が複雑。
→説明のためのコンテンツ(レター)の構成を検討する

●アートプロジェクトの「成果」をどう表現するべきか?
→各プロジェクトで「何を行ったか」はドキュメントに記載されているが、それらを俯瞰した伝え方をレター上で検討

●美しく、安全に届けるための適切な設計とは?
→前年度、配送業者側で箱を補強されてしまうアクシデントがあったので、避けたい。

こうした「どうしよう?」を前に、研究・開発チームであるデザイナー・川村格夫さん、編集者・川村庸子さん佐藤恵美さん、アーツカウンシル東京のプログラムオフィサー・佐藤李青中田一会が一つひとつの課題に取り組みました。

2018年1月、前年度の発送物を振り返り、本年度の検討をスタート。
ドキュメントの仕様や基本情報を確認しつつ、ボックスとレターの仕様を決めていく。
プロジェクト成果の見せ方について、様々なアイデアを交わしました。
今回もアーツカウンシル東京・プログラムオフィサーの手作業で発送。作業ラインや工程もデザイナーとともに開発。
300件の制作はなかなか大変。工程上の問題や、外部発注、予算のバランスも適宜調整。

フィードバック|「言葉」は狙いどおり届いた?

こうして2018年3月末、約300件の「Words Binder 2017 / Box+Letter」を全国の文化活動拠点や、研究者、プロジェクトのコラボレーターに向けて発送しました。

「資料として活用します」「この◎◎◎、興味深いですね」といったメッセージをいただきましたが、特に見た目からわかりやすく「ギフト」にしたことで、SNS上でも好評だった様子。また、届いた瞬間から「どういったドキュメントがどういった意図で入っているか」をすぐに理解してもらえ、「どう活用できそうか」のコメントも添えた反応をいただきました。

SNSで投稿いただいた内容を一部ご紹介します。

大分県竹田市の文化拠点「真抄洞 shinshodo」さんの投稿。箱から内容物まで丁寧にご紹介いただきました。全国の拠点で配架していただくのも目的のひとつ。
ドキュメントのひとつを担当いただいた福岡県在住の編集者の方の投稿。各プロジェクトのコラボレーターに他の活動を知っていただくことも大切にしています。
届け方やメッセージの編集方法に注目いただいた投稿も。

まとめ|イメージを共有しやすい「かたち」を選ぶ

前回よりも受け取った方からの反応が良かった要因のひとつには、今回の「透明なクリアケースで荷物を送る」という「かたち」が通常のギフトの配送方法に近いことが影響しているのだと思います。たとえば、実物のハコが届く以前に、ハコのイメージを説明するときには「化粧品をいれるクリアケースの大きいものです」という言葉を使っていましたが、すでにある「かたち」に手を加えることが今回のハコのデザインのポイントになりました。(前年度の配送時の経験(デザインしたハコにガムテープで補強される……)を教訓に、今回の制作の意図を理解せずとも大切に配送してもらうように、という考えもありました)。

前年度のアクシデント。デザインしたハコが配送業者によって補強されてしまった。2017年度は「わかりやすいパッケージ」を目指すことに。

また、レターの裏面には、同封したドキュメントから抜き出した印象的な言葉を配置しました。当初は、ほかのドキュメントと差異化を図るため、また各プロジェクトに横断的な価値を伝えるための独自のコンテンツをつくる案も検討していました。しかし、結果的には、各ドキュメントの要点となるような言葉を選んでひとつのメディアに配置することで、複数のドキュメントを、ひとつの発送物として送るために機能するレターとなり、かつ今後継続していく「フォーマット」を生み出すことにもつながりました。

レターの裏面に、同封したドキュメントから抜き出した印象的な言葉を配置。

いろいろと検討した結果、シンプルなかたちに落ち着いた。と、言ってしまえば元も子もないですが、この一連のプロセスからは、こうした取り組みの課題となる「コスト」面でも進展がのぞめることが見えてきました。つまり、定型の素材を使うことで調達費用を減らす、フォーマットを開発することで運用のコストを軽くする、という可能性です。そうした「かたち」は受け手にとっても理解しやすいものになるのだと思います(もちろん、きちんとした手間をかけること、議論に時間を費やすことは外せないとして)。

アートプロジェクトの現場の課題の解決や、知見の可視化を目指し、様々な課題に挑むTARLの研究・開発プログラム。今回の検証結果やこれまでの蓄積を活かし、より良い届け方を今後も考え、検証していきます。

アートプロジェクトにおける記録・アーカイブ

最終回となった「技術を深める(第4回)」は、アートプロジェクトにおける記録・アーカイブをテーマに開催しました。アートプロジェクトは、アーティストがつくり上げた作品やそこに関わった地域の人々との関係性など、その場に居合わせるからこそ感じられることがたくさんあります。しかし、プロジェクトの一部始終を残らず記録することはできません。そのプロジェクトの価値や魅力を、当日の現場を経験しなかった人や後世に、どのように残していけばよいのでしょうか。

講座では、映像ディレクターの須藤崇規さん、〈アーカスプロジェクト〉コーディネーターの石井瑞穂さん、〈PARADISE AIR〉エデュケーター/コーディネーターの金巻勲さんを迎え、レクチャーと参加者を交えたディスカッションを行いました。

初心者でもうまく撮るには?

舞台作品のディレクションや映像撮影などを行なっている須藤さんから、「撮るコツ10選」と題し、写真や映像に関する基礎知識や、撮影の具体的なコツを伝授。機材によって苦手とするシーンを理解する、主題はひとつに絞る、撮るときの高さを変えてみるなど、今日から意識できそうなコツがたくさん。熱心にメモをとる参加者の姿が見られました。また、大量に撮ったデータの整理・保存方法についても、日付別に分けるなど具体的な提案が。誰が見てもわかりやすく整理する必要性についても触れられました。

須藤崇規さん。

続いて、コーディネーターの橋本誠が、使える状態になっているもの=アーカイブという、本講座におけるアーカイブについての定義について触れました。またTARLでアーカイブしている全国各地のアートプロジェクトに関する記録集や、参考図書『アート・アーカイブの便利帖』、記録を整理する際に便利なツール『アート・アーカイブ・キット』などについて説明・紹介を行いました。

媒体をうまく使いこなす

〈PARADISE AIR〉の金巻さんは、現代のネット環境と既存のアーカイブの手法をうまく使いこなす事例を紹介。〈PARADISE AIR〉は、2013年から千葉県松戸市を拠点に活動を開始し、これまでに国内外から約100組のアーティストによるアーティスト・イン・レジデンスを受け入れてきました。運営に携わっているメンバーは、〈PARADISE AIR〉以外の仕事にも携わっているため、普段のやりとりはチャット中心。写真など記録データもすべてクラウド上で共有・活用しているそうです。また、写真はメンバー内で共有するだけでなく、instagramなどを通じ一般にも公開。「#p_air」で検索すると、これまでの写真を見ることができます。

〈PARADISE AIR〉は、クラウドやウェブサイト、SNSを活用する一方で、紙媒体の持つ役割も重視していると言います。年度ごとにテーマを決め、アートプロジェクトについてあまり知らない人でも思わず手に取りたくなるような、デザイン性もあり親しみやすいドキュメントブックを発行。中に使われている写真は、プロが撮ったものとスタッフが撮ったものを混ぜているとのこと。すべての記録をプロに頼めない場合でも、考え方によって、写真をうまく使い分ける事例が紹介されました。

ファシリテーターの橋本誠(左)と、ゲストの金巻勲さん(左)。

歴史的な視点を持ち記録・アーカイブを考える

最後に登壇したのは、〈アーカスプロジェクト〉の石井さん。1994年にプレ事業として始動した〈アーカスプロジェクト〉は、茨城県の主催事業で、守谷市に拠点を置き活動しています。国内外からのアーティスト・イン・レジデンスの受け入れをメイン事業とし、その補足的活動としての記録・保存も実施。時代の移り変わりと共にアーカイブズは増え、記録を保存する媒体も変わっていきます。フロッピーディスクやVHSなど、今ではほとんど使われなくなった媒体に残されている記録も、使いやすい媒体に変換するなどして大切に保存しているそうです。

国内のアーティスト・イン・レジデンスでは先駆け的存在である〈アーカスプロジェクト〉。これらのアーカイブを後世にどのように残し、伝えて行くかも大きな課題です。現在は、過去の記録を整備・調査する事業「アーカスアーカイブプロジェクト」を3カ年計画で実施しています。

石井瑞穂さん。

これからの記録・アーカイブ

ゲストの話を受け、参加者はグループごとに、今、アーカイブで悩んでいることや課題について話し合い、代表者が発表。リサーチをメインにした制作など記録に残しにくいものをどのように扱うか、その場の熱量が映像には残りにくいことへの悩み、著作権や肖像権についての悩みなどが共有されました。

最後に、ゲスト3名からの感想や指摘をいただきました。

須藤さんは、「紙や物に関しては様々な残し方が研究されてきたが、映像は誕生して100年ちょっとしか経っていない。保守的にならず、楽しみながらやっていきたい」と、映像技術の進化するスピードや可能性について言及しました。

金巻さんは「たくさんの記録媒体がある中で、それらをどうつなげていくかを考えるのが大事。アーカイブを日常生活に例えて考えてみると共通項も見つけやすいので、どんどんチャレンジしてほしい」とアドバイス。

石井さんからは「残したものをどう価値づけ、日本の現代美術の歴史の中にどう位置付けるか考える必要がある。アーカイブの専門家がもっと増える世の中になってほしい」という、長年活動してきた拠点にいらっしゃるからこその感想をいただきました。

新しく誕生した滞在制作拠点からの視点や、歴史を持つ滞在制作拠点ならではの話題の提供もあり、そもそも「撮る」とは、「残す」とは、「アーカイブ」とは何なのかを考える良い機会となりました。

<開催概要>
日時::2018年2月21日(水)19:00~21:30(18:45開場)
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)
テーマ:第4回 アートプロジェクトを記録・アーカイブする技術〜写真・映像の記録撮影から保存・活用まで〜
ゲスト:石井瑞穂(アーカスプロジェクト コーディネーター)、須藤崇規(映像ディレクター)、金巻勲(PARADISE AIRエデュケーター/コーディネーター)
ファシリテーター:橋本誠(一般社団法人ノマドプロダクション 代表理事)

アートプロジェクト〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉のリスクマネジメント

アートプロジェクトの心構えや、現場で求められる技術について掘り下げていく全4回の公開講座シリーズ「技術を深める」。第3回は、市民参加型アートプロジェクト〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉事務局長の吉田武司さんをゲストにお迎えしました。さまざまな人がかかわり、まちなかで展開するアートプロジェクトには、どのようなリスクが潜み、どういった仕組みでリスクをマネジメントすることができるのでしょう。吉田さんの知見を共有いただき、実践的なワークを通して考えた講座の模様をレポートします。

アートプロジェクトとってのリスクマネジメントの必要性とは

最初にファシリテーターの橋本誠から、リスクをテーマに講座を開催する理由や、具体的なリスクの洗い出し方についてイントロダクション・レクチャーがありました。アートプロジェクトになぜリスクマネジメントが必要かというと、プロジェクトに関わる人や物事を守るためです。リスクは「法規・社会通念・人や環境に起因するもの」の3つのアプローチ別に洗い出すことができます。こうしたリスクを可能な限り想定し、対策(回避・予防・軽減)を重点的に打つことが必要となります。リスク整理の方法は、ひとつのプロジェクトを時系列に準備段階・実施段階・終了後の3つの時制に分けることも可能です。続いて、ゲストの吉田武司さんから〈アートアクセスあだち 音まち千住の縁〉を事例にお話いただきました。

ファシリテーターの大内伸輔(左)、ゲストの吉田武司さん(右)(撮影:川瀬一絵)。

《Memorial Rebirth 千住》実施体制

アーティスト大巻伸嗣さんによるプロジェクト《Memorial Rebirth 千住》は、無数のシャボン玉で見慣れた景色を幻想的な空間へと変貌させるアートパフォーマンス作品です。千住のまちで7年続くもので、昨年11月に実施された際には、ボランティア含む総勢133名のスタッフが参加し、のべ3,000人以上が来場。スタッフは、年齢や住まい、職業やモチベーション、かかわり方の密度も様々。全スタッフが同レベルで全体把握をするのは困難なため、受付、屋台運営、会場設営など持ち場ごとにチームをふりわけるとともに、チームリーダーを配置。各リーダーが全体の動きを把握し、チームメンバーと情報共有しながら準備を進める体制をとっています。

想定されるリスクは時期によって変化します。運営の核を担う事務局は、隔週で行う進捗確認の中で随時リスクを整理。また共催者や、コアにかかわるメンバーとは月に1度程度ミーティングをし、リスクを確認しているそうです。また、これまでの7年間のノウハウを元に、課題や経験については、できる限りマニュアル化しています。

撮影:川瀬一絵

《Memorial Rebirth 千住》プログラム実施までの流れ

実施に向けて、準備段階から実施まで、どのようにリスクマネジメントをしているのでしょうか。プロジェクトが動き出す春の時期。会場を決め、周辺の設備や住民、アクセス、まちのイベントなどをリサーチします。この時点のリスク対策としては、応急手当の講習をスタッフ向けに行い来場者への対応に備えること、さらにボランティア保険の加入によって、関わるスタッフも守ります。個人情報の取扱い方についての指導や、会計講座なども行い、予めルールをスタッフ間で共有しておきます。7〜9月の夏の時期には、作品にまつわる講習やワークショップを通して作品への理解を深めたり、プレ企画を実施して地域住民へ活動の周知と協力を仰ぎながら、本番を想定したリスクを再確認。また、かかわるメンバーとは日々の集まりや決起集会などの交流会を通して、信頼し合える関係づくりを行います。10月以降は広報物を制作し、雨天時の対応や進行表・備品リスト・緊急時マニュアルなどの最終確認を行います。万全の準備をして11月の実施に至りますが、想定外の事態が起きることもあります。そうした場合には主催チームが緊急で集まり、相談して対応します。

アートプロジェクトの特徴のひとつは、さまざまな立場、年齢、モチベーションを持った人たちがかかわることです。このようなプロジェクトのリスクマネジメントにおいて大切なのは、立場や知見が異なる人を活かせる体制づくりと何でも言い合える関係や場をつくること。そのために、「“ちょっとしたこと”の積み重ねが“人”や“こと”を守ることにつながるのではないかと実感しています」と吉田さんはレクチャーを締めくくりました。

撮影:川瀬一絵

グループワーク

講座の後半では、参加者はグループに分かれ実践的なワークショップに取り組みました。架空のプロジェクトの企画書をもとに、準備・実施・終了後、それぞれの段階におけるリスクを想定して、付箋に書き出していきます。書き出したリスクを「影響度と発生確率」で評価しながら、机上の模造紙に分類し、グループメンバーで共有。さらに、影響度と発生確率の高いリスクから順に、予防と発生時の対策方法を検討し、発表しました。

レクチャーやワークショップを通して、参加者たちは、リスクマネジメントへ向き合うための態度と、実践的な技術について学ぶことができたのではないでしょうか。吉田さんのお話の中で、挨拶をすることやともに食事をすることなど、人と人の信頼関係を築くことの大切さに言及されていたことが印象的でした。今回の講座が、参加者それぞれの現場での運営のヒントになっていくことを願っています。

<開催概要>
日時:2018年2月7日(水)19:00〜21:30
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)
テーマ:第3回 アートプロジェクトのリスクに向き合う技術〜関わる人や物事を守るリスクマネジメントとは?〜
ゲスト:吉田武司(アートアクセスあだち 音まち千住の縁 事務局長)
ファシリテーター:大内伸輔(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)、橋本誠(一般社団法人ノマドプロダクション 代表理事)

東京アートポイント計画 2009-2016 実績調査と報告

2009年に始動した東京アートポイント計画。事業実績データや共催団体へのアンケート調査のデータ分析、共催団体に対するヒアリング調査を行い、その結果を検証、考察をすることにより、8か年の事業の結果(アウトプット)、成果(アウトカム)、波及効果(インパクト)を総括するための調査報告書です。

もくじ

はじめに 調査について

第1部 事業実績分析

第2部 アンケート調査

第3部 インタビュー調査
小川 希 (一般社団法人Ongoing)
宮下美穂 (NPO法人アートフル・アクション)
渡邉梨恵子、富塚絵美 (一般社団法人谷中のおかって)
長島 確 (一般社団法人ミクストメディア・プロダクト)
舟橋左斗子、渡辺孝明 (足立区)

第4部 鼎談:結果を踏まえて

思考と技術と対話の学校 2017アニュアルレポート

アートプロジェクトを「紡ぐ力」と「動かす力」を身体化するための思考と技術と対話の学校のアニュアルレポートです。「言葉を紡ぐ」「体験を紡ぐ」「技術を深める」「アートプロジェクトの今を共有する」の講義内容をまとめています。

もくじ

「紡ぐ人」になる 森 司

「思考と技術と対話の学校」とは
アートプロジェクトを紡ぐためのアプローチ
2017年度実施概要

言葉を紡ぐ
講座の流れ
受講生インタビュー

体験を紡ぐ
講座の流れ
受講生インタビュー

技術を深める
アートプロジェクトの今を共有する

紡ぐことへの挑戦 坂本有理
プロフィール一覧
Tokyo Art Research Lab(TARL)とは

Traveling Research Laboratory(WEB)

アーティストのmamoru、下道基行、デザイナーの丸山晶崇が中心となり、2014年に活動を開始。随時、メンバーを更新しながらフィールドワークの手法やアウトプット、リサーチ過程におけるさまざまな要素、ふるまいに関するグループリサーチを行ってきた「旅するリサーチ・ラボラトリー」。

これまでの旅と活動から得たキーワード、考察や観察を「Field Note」に記し、「Archive」には旅やイベントのレポートを兼ねて発行された印刷物などを掲載。旅するリサーチ・ラボラトリーによる4年間の試行錯誤を共有しています。

東京アートポイント計画 2017年度公開報告会(APM#05)

アートプロジェクトの現場から、1年間の成果を発表!

2018年3月25日、アーツカウンシル東京にて、「Artpoint Meeting #05 -公開報告会-」を開催しました。東京都内各地でアートプロジェクトを展開してきた東京アートポイント計画の参加団体と担当プログラムオフィサーが、2017年度の活動について公開プレゼンテーション。それぞれのプロジェクトから、どんな出会いと悩みが生まれたのでしょうか?

1年間の活動を振り返りながら、改めて、日常や社会に芸術文化が果たしえる可能性について考え、ことばを紡ぎました。当日の様子をご紹介します。

*各プロジェクトの概要については、イベントページやプロジェクトの公式ウェブサイトをご覧ください。

東京アートポイント計画の1年

報告会の冒頭では、アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー・大内伸輔が、2017年度全体を振り返りました。これまでに45の団体と36のアートプロジェクトを実施してきた東京アートポイント計画。今年度は11のアートプロジェクトをNPOとともに共催しました。そのうち3つのプロジェクトが2017年度で終了し、2つのプロジェクトが新たにスタートしています。

汐入タワープログラム(4年目/2017年度で終了)―一般社団法人 CIAN、荒川区 [南千住地域]

アーツカウンシル東京・大内伸輔

「汐入タワー」の解体が決定し、最後のプログラムを開催して終了したプロジェクト。前身となる「川俣正・東京インプログレス―隅田川からの眺め」から関わってきた、プログラムオフィサーの大内がタワーの解体プロセスを発表しました。
事業紹介ページ
解体プロセスをレポート「さよなら、汐入タワー」(東京アートポイント計画通信)

東京スープとブランケット紀行(4年目/2017年度で終了)―一般社団法人指輪ホテル [江古田地域 ほか]

ディレクター・羊屋白玉さんとプロジェクトメンバー

「看取り」をテーマに展開した4年間。その軌跡をまとめた冊子『東京スープとブランケット紀行』の一部をプロジェクトメンバーで読み上げました。東京とは、看取りとは、そしてアートプロジェクトを「わざわざ」やる意味とは何か。4年間考え続けたことを演劇的な手法で発表しました。
事業紹介ページ
プロジェクト全体を振りかえるディレクター・羊屋白玉さんのインタビュー(東京アートポイント計画通信)

リライトプロジェクト(3年目/2017年度で終了)―NPO法人インビジブル [六本木地域 ほか]

(写真左から)NPO法人インビジブル・林曉甫さん、菊池宏子さん、室内直美さん

宮島達男さんのパブリックアート作品《Counter Void》の再点灯を巡り、立ち上がったリライトプロジェクト。3年間の過程でさまざまな変化を遂げてきました。人材育成、地域の小学校の参加、NPOの活躍の3点でアートプロジェクトとしてのアウトカム(成果)を振り返り、都市型アートプロジェクトの可能性について提示しました。
プロジェクト公式ウェブサイト
社会彫刻家を目指して活動したRelight Committeeそれぞれの「アクション」(リライトプロジェクト)
リライトプロジェクトとNPOの活動を語ったインビジブルのインタビュー(東京アートポイント計画通信)

トッピングイースト(4年目)―NPO法人トッピングイースト [東東京地域]

(写真左から)NPO法人トッピングイースト・西村幸知さん、清宮陵一さん、アーツカウンシル東京・上地里佳、嘉原妙

「東東京」「音」をテーマに据えつつ、全くタイプの異なる3プログラムを展開してきたプロジェクト。プログラムごとにまったく異なる人が、異なる関心を持って参加しています。その多様な展開と関わる人のエピソード、そして今後の展望を語りました。
プロジェクト公式ウェブサイト
音楽家・コムアイ(水曜日のカンパネラ)さんとBLOOMING EASTのリサーチも開始。(CINRA.NET)

Betweens Passport Initiative(2年目)―一般社団法人kuriya [新宿区ほか都内各所]

一般社団法人kuriya・海老原周子さん

2年目を迎え、体制づくりからプログラムづくりへ。『移民』の若者のエンパワメントを目指し、定時制高校での居場所づくり、アーティストと協働したリサーチを開始。近年、文化セクターで注目される「社会包摂」の盛り上がりと、そのことが生み出す問題も共有しました。
プロジェクト公式ウェブサイト

東京ステイ(2年目)―NPO法人場所と物語 [都内各所]

NPO法人場所と物語・石神夏希さん

「住むことと旅人の間の身体性を取り戻す」ことを目指し、豊かな「ステイ(滞在)」の可能性を探るプロジェクト。「フィールドワーク」から「ピルグリム(巡礼)」という手法の発見に至るプロセスを共有しました。2017年度はピルグリムを実践するためのツールブック『日常の巡礼』を発行しました。
プロジェクト公式ウェブサイト

500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」(1年目)―社会福祉法人東香会 [町田市忠生地域]

社会福祉法人東香会・齋藤紘良さん

テーマは「これからの500年間、ここが人が集う場所で有り続けるにはどうしたら良いか?」。町田市忠生地域を舞台に、保育園を営む社会福祉法人が、地域に根ざしたリサーチをし、記録し・伝承することに実験的に取り組みはじめました。

HAPPY TURN/神津島(1年目)―NPO法人神津島盛り上げ隊 [神津島]

NPO法人神津島盛り上げ隊・中村圭さん

船で12時間、プロペラ機で40分。伊豆七島のひとつ、神津島でスタートしたアートプロジェクト。「Iターン、Uターン、色々あるけれど、前向きに幸せに島に帰ってくる(=ターンする)機会をつくりたい。島に関わる人が幸せになるような活動にしていきたい」と、想いを語りました。

TERATOTERA(8年目)―一般社団法人Ongoing [JR 高円寺駅ー国分寺駅地域]

一般社団法人Ongoing・高村瑞世さん

まちなかアートフェスティバルや映像祭など、年間4〜5プログラムを展開してきたTERATOTERA。毎年公募で集まる「TERAKKO」が、アーティストの企画制作に関わったり、パフォーマンスに出演したりする点が特徴です。2018年度はさらに「TERAKKO」主導の展開を目指します。
プロジェクト公式ウェブサイト

アートアクセスあだち 音まち千住の縁(7年目)―東京藝術大学音楽学部・大学院国際芸術創造研究科、NPO法人音まち計画、足立区 [千住地域]

NPO法人音まち計画の事務局チーム、足立区担当者の皆さん、プログラムオフィサー・村岡宏太

「ティーンズ楽団」や「タウンレコーダー」、「だじゃれ音楽研究会」など、アーティストプログラムごとにユニークな市民コミュニティが築かれているアートアクセスあだち。近年では出会った仲間とともに新たなプロジェクトを自主的に立ち上げる人も増えるなど、その広がりを共有しました。
プロジェクト公式ウェブサイト

小金井アートフル・アクション!(7年目)―NPO法人アートフル・アクション、小金井市 [小金井市]

(写真左から)NPO法人アートフル・アクション・宮下美穂さん、プログラムオフィサー・佐藤李青、上地里佳

3カ年かけて展開したプログラム「小金井と私 秘かな表現」を中心に振り返りました。プロジェクトを通し「個人はどこまでまちを使い倒していいのか」「個人の意欲や意識がどこまでまちで許容されるのか」を考え続けてきた1年でした。
プロジェクト公式ウェブサイト
今年度実施したプログラム「小金井と私 秘かな表現 想起の遠足」(小金井アートフル・アクション!)

アートプロジェクトが何かを手にするまでの四苦八苦

アーツカウンシル東京・森司

最後に東京アートポイント計画のディレクター・森からご挨拶をして報告会を締めました。

「今回は1年目から8年目のアートプロジェクトについて、一斉に発表してもらいました。そのことによって、プロジェクトの立ち上がりのアクション、5年、10年と続けていった後の“にじみ方”など、継続することで得られる成長や違いをご覧いただけたと思います。どんなプロジェクトも最初数年間は暗中模索が続くものです。でも、その何かを手にするまでの四苦八苦をこえた先に文化事業としての成果がみえてくるはず。今後ともぜひ東京アートポイント計画に関心を持っていただければ幸いです」

11事業それぞれの特色が見えた報告会。2018年度もまたそれぞれのアートプロジェクトで、さまざまな試みが展開されることでしょう。ぜひお楽しみに。

日本の“最涯(さいはて)”から“最先端”の文化を創造する試み<奥能登国際芸術祭>

芸術祭が群雄割拠する日本で、数々の芸術祭のディレクターを務めてきた北川フラムさんが「日本の“最涯(さいはて)”から“最先端”の文化を創造する試み」としての新たな芸術祭を立ち上げました。それが昨年9月に石川県珠洲市で開催された<奥能登国際芸術祭>です。コミュニケーションディレクターとして、「最涯」と称される珠洲(すず)市に7万人を超える来訪者を集めた福田敏也さんは、どのような広報活動に取り組んだのでしょうか。当日行われた講座の様子をレポートいたします。

芸術祭とは何なのかという問い

コミュニケーションディレクターを引き受けた福田さんは、自問自答を続けながら広報プランニングに取り組んでいくことになります。「芸術祭の存在理由とは何なのか?」「珠洲が振り向かれる理由は何なのか?」。歴史をたどれば、かつて大陸交易が盛んだった時代の物流の要衝で、祭りや芸術などの文化があり、美しい儀礼や食文化が今日まで連綿と残されてきた珠洲。しかし、一方で日本の商業機能が江戸に移ったあと、その役割を終え、高度経済経済の恩恵も受けることなくフリーズドライされてしまった珠洲。交通アクセスも悪く、過疎地でもある珠洲での芸術祭開催を決めた北川さんに、「北川フラムにとっての芸術祭とは何なのか?」を今一度問い直す自問自答のドキュメントを書いたといいます。

奥能登国際芸術祭公式写真(撮影Naoki Ishikawa、画像提供:奥能登国際芸術祭実行委員会事務局)

総合ディレクター北川フラムさんの答え

北川さんに確認した自問自答ポイントは次のようなものでした。「連続的に持続されていくことを考えよう。過疎はマイナスじゃない。過疎だからこそ奇跡的に守られてきたもの、そこにこそ超プラスがある。地元で守り続けられてきた価値に気づいている人の最先端にいるのがアーティストだとすれば、彼ら・彼女らこそが土地の独自性に想像力を働かせることができるはずだ。これは、ダメなものを上から目線で助ける活動じゃない。守られてきた価値に敬意を払い、素晴らしさに共鳴する活動である。重要なのは気づきの伝染、さらにそこから生まれるコミュニティと未来への引き継ぎなのだ。」

<奥能登国際芸術祭2017>コミュニケーションディレクターの福田敏也さん。

「知らせる」から「評判を拡げる」への転換

北川さんとのすり合わせで疑問が晴れ始めた福田さんは、もう一度珠洲の特異性に目を向けます。忘れ去られた古き良き日本が守られた、貴重な地域価値を再認識してもらうためのきっかけになる芸術祭を、ただ「知らせる」のではなく、その「評判を拡げる」「気づきの連鎖を発生させる」「芸術祭コアファンから動かす」という発想の転換。そこにヒントがありました。残すべき地域価値に気づく人を増やす、気づきのコミュニケーションこそが、地域価値の維持装置としての芸術祭を継続して機能させることになるのではないか。

また、かつて大陸との交易をしてきた珠洲だからこそ、こまめにバイリンガル発信すれば広くアジア諸国まで届くのではないかと福田さんは考えました。そして、アーティストたちが珠洲の地で何を発見して作品制作にいたったのか、というストーリーをアーティストの言葉を通じて知ってもらうことで、芸術祭を開催する意味を珠洲市民に届けることに力点を置いたコンテンツをつくりました。アーティストが発見した珠洲という文脈で発信することで、アートや芸術祭のファンにも評判が拡がる流れを生み出す広報です。

フリーペーパー「おくノート」。

福田さんの考えた広報戦略

実際の広報ツールとしては、珠洲市の食や文化を紹介するフリーペーパー「おくノート」(全4部)と公式ウェブサイトの特集記事として公開されたインタビューシリーズ「珠洲を語る」を中心に据えて展開していきました。そしてその内容を多くの芸術祭ファンに見てもらうためにFacebook広告も活用しました。「おくノート」は、当初の珠洲を紹介するという路線から芸術祭情報提供に移行するなど、進行に合わせたシフトチェンジを経て、珠洲市の各家庭へのポスティング配布も継続的に行ったそうです。「珠洲を語る」では、珠洲の魅力の発見者という視点で、アーティスト、地元サポーターやボランティアスタッフなど異なる層の言葉を等価に扱い、他の芸術祭との差を明確にしながら、「評判を拡げる」コミュニケーション活動に取り組みました。

教頭の坂本有理(左)、コーディネーターの中田一会(中)、ゲストの福田敏也さん(右)。

珠洲の人たちの反応

講座の最後に行われた質疑応答では、地元の賛否についての質問もありました。県民性もあるかもしれませんが、賛成反対にはっきりわかれることはなく、少し遠巻きに見られている印象もある一方で、作品解説やサイト管理の仕事を通じて、作品の面白さを共有したり、珠洲に芸術祭が来たことの誇りを感じてもらえた手応えを福田さんは感じたそうです。北川さんは近隣住民を重要なターゲットと位置づけ、年配の方にも面白がってもらえるような、わかりやすい芸術祭を意識的に設計していたといいますから、その一定の成果はあったのではないでしょうか。

講座のなかで特に印象的だったのは、「都会人論理を疑う」という言葉。冬の北陸のごちそうはカニだから、お店に行けばおいしいカニにありつけるはず、という名産品とお店がパッケージされているという、思い込みはないでしょうか?珠洲の人たちにとってのカニは、市場に買いに行くのではなく、人からもらうもの。それは都会では見かけなくなった、貨幣経済を介さない、豊かなコミュニケーションの現れであると感じました。地域創生が叫ばれ、芸術祭が乱立する現代において、福田さんのお話から芸術祭広報のあり方を見つめ直すヒントがあったのではないでしょうか。

<開催概要>
「技術を深める(第2回)」
日時:2017年11月21日(木)19:00~21:00(18:45開場)
会場:ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda])
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)
テーマ:アートプロジェクトを伝えるための技術~地域と芸術をつなぐ、広報、PR、コミュニケーション・デザインとは?~
ゲスト:福田敏也(博報堂-Chief Creative X Technology Officer/大阪芸術大学デザイン学科教授/777 Creative Strategies代表取締役/FabCafe LLP. Founder & Creative Director)
コーディネーター:中田一会(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー/コミュニケーション・デザイン担当)

アートプロジェクトの運営スキルを身につけよう・事務局ビギナー編

アートプロジェクトを“動かす人”を対象に、ミニレクチャーや実践ワークをとおして運営に必要なスキルを養う公開講座「技術を深める」シリーズ。第1回は事務局ビギナーを対象に開催し、事務局運営に必要な「技術」に迫りました。その様子をレポートいたします。

本講座は、2016年度に「思考と技術と対話の学校」で開催された基礎プログラム2「技術編」の内容をまとめた冊子『アートプロジェクトの現場で使える27の技術』を教材に展開しました。

アートプロジェクトの現場にいると、とにかく毎日が目まぐるしく、目の前のことに精一杯になってしまいがち、疲弊して周りが見えなくなってしまいがちです。そんな現場の現状をなんとかしたいという想いから生まれた冊子。アートプロジェクトの事務局長や映像作家、編集者など様々な立場の活動を、「技術」の側面から読み解き、現場の課題と向き合うための手がかりを収録したヒント集です。

今回のファシリテーターは、基礎プログラム2「技術編」で企画運営を担当し、冊子編集にもかかわった坂本有理、坂田太郎 、及位友美の3名。会場には、制作スタッフやコーディネーターなどの仕事を始めて半年〜10年以上という幅広いキャリアをもつ参加者が集まりました。

ファシリテーターを務めた及位友美(左)、坂本有理(中央)、坂田太郎(右)

講座は、冊子の目次「はじめる」「うごかす」「ふかめる」「のこす」の4章に沿って進行。ポイントごとに、受講生に手を動かし考えてもらうワークを行いました。

はじめる

まず自分がどのような立ち位置にいるのかを把握することが大切。どんな立場や距離感で、どのように、なぜかかわるのかひとつひとつ確認し、息切れせず継続的に運営することを目指します。チームづくりや、会議の設計、関係者間のコミュニケーションについて考えてみることも有効です。

ワーク1:自分の現在地をつかむ
10分間で自分とアート、アートプロジェクトとのかかわり方を模造紙に書き出し、グループ内で自己紹介がてら内容を発表します。

ワーク2:体制図をかいてみる
自分がいまかかわっているプロジェクトやチームの体制図を模造紙に書き込み、グループ内で発表。体制ができているのか、不具合は生じていないか、図に落とし込みながら確認していきます。

うごかす

互いの立ち位置が見えチームとしての一体感が出てきたら、いよいよ実行に移していきましょう。ここで重要なのは、社会と企画の関係性を考え、伝える相手の顔を思い浮かべかたちに落とし込んでいくこと。企画書の作成や資金集め、プレゼンテーションなどを行うとき、なぜこの企画・プロジェクトをいまやらなければならないのか? を考え、説明できるようになっている状態が理想的です。

ワーク3:申請書を読み解く
企画提案書や申請書を書く際、相手や目的に合わせ、相手が求めていることは何なのか、応募要項などをよく読み込み、ポイントを端的に説明できるよう準備する必要があります。

実施会場を探すための企画申請書をもとに、なぜこの企画を実現したいのか? 社会性は、独自性はどこにあるのか? を受講生が読み解き、発表を行いました。

ふかめる

実施するには、伝えるためのことばを磨くことはもちろん、感受性を高める、相手に関心を持ち話をよく聞くなどのコミュニケーションの精度を上げることが必要不可欠。また、組織内でディベートを行ったり、プロジェクトを実施する地域に住む人々に開かれた拠点をつくったりするなどの工夫も大切です。

ワーク4:メールニュース原稿に赤入れする
参加者に配られたのは、東京アートポイント計画が発行するメールニュースで実際に配信されたプロジェクト紹介記事の初稿と、最終稿。最初に書かれた原稿は、一番言いたいことが何なのかが見えづらいものでした。ブラッシュアップしていったものが最終稿です。2つの原稿を読み比べていきます。

のこす

アートプロジェクトを動かすときに皆が直面する課題の一つが、どうやって残すか。プロジェクトは多くの人が関わり、常に動き、変化していくものです。それをどのように記録・アーカイブし、伝えていくか頭を悩ませる事務局も多いのではないでしょうか。

冊子には、評価・検証のためにデータを残す事例や、10年後、20年後にそれを参照しプロジェクトに参加した者以外が実践してくれる可能性も考慮しドキュメントにまとめた事例、残す意図を考慮した上でプロに映像撮影を頼む事例などが紹介されています。

まとめ

本講座の参加者からは、「ワークを通し自分のことを振り返りながら受講できただけでなく、他の受講者のことも知ることができた」などの感想をいただきました。

ファシリテーター一同、運営に携わる人々が本書をもとに、普段の活動の中で立ち止まって、思考をしたり新たな一歩を踏み出したりするヒントを受け取る時間になればと願っています。今回の内容が気になった方、実際に事務局運営で壁にぶつかっている方、仕事の進め方に疑問を感じている方、ぜひ今回の講座で使用した『アートプロジェクトの現場で使える27の技術』を手にとってみてはいかがでしょうか。冊子は、ウェブサイトからお申込みいただけるほか、PDFでダウンロードもしていただけます。

【開催概要】
「技術を深める(第1回)」
日時:2017年10月3日(火)19:00〜21:30
会場:3331 Arts Chiyoda ROOM302(千代田区外神田6-11-14 3F)
募集人数:30名(事前申込者優先)
参加費:1,500円(連続講座受講生は1,000円)※冊子つき
テーマ:第1回 アートプロジェクトをはじめるための技術~アートプロジェクトの運営スキルを身につけよう・事務局ビギナー編~
ファシリテーター:坂本有理(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)、坂田太郎(P3 art and environment リサーチャー/サイト・イン・レジデンス) 、及位友美(voids/コーディネーター)