不自由さから生まれる、奇跡のような新しい風景。「身体の言葉」を信じるチームの運営(APM#08 後篇)

Artpoint Meeting #08 -10年の“こだわり”を浴びる- レポート後篇

それぞれの場所で活動を行う当事者から、これからの社会とアートプロジェクトに向けたヒントをさぐる東京アートポイント計画のトークシリーズ「Artpoint Meeting」。

「10年の“こだわり”を浴びる」をテーマに、鳥取県東伯郡湯梨浜町でゲストハウス「たみ」を運営する蛇谷りえさん(うかぶLLC共同代表)をゲストに迎えました。

トークイベント後半では蛇谷さんが現在考えていることと、「たみ」で大切にしているこだわりを、アートポイント計画のプログラムオフィサー、佐藤李青と嘉原妙が訊きました。

>>レポート前篇

「私らは私らのままでいいんだ」と言うために、身体の言葉を信用する。

佐藤:普段、スタッフとはどのように接していますか?

蛇谷:最近、人の話を聞こうとしていて、スタッフとサシ飲みをしているんです。以前は少し距離を取って接していたのですが、それだと見えないものがある。実際、一人ひとり話してみると、それぞれ日々感じる悩み以前の違和感みたいなものや、思考の癖があるんですよね。相手のなかに入ってその感覚を共有したり、軽く突っ込んで刺激したりしています。

たとえば最近、4年働いたスタッフが卒業したのですが、アイドル好きの彼女とアイドルファンのゲストさんが、「卒業するときはアイドル・コンサートしたい」と話していたことを思い出して、近所の体育館を借り、スタッフが主役のコンサートと運動会を開催しました。(当日の映像を見せながら)こんな感じで、「たみ」ではつねにいろんなことが起きていて、私はそれを日々、後押ししている感じです。

佐藤:卒業するスタッフが自分で企画・プロデュースするのを、蛇谷さんが焚き付けという企画ですよね。みんな歌ってるし、大勢で運動会してるし、この卒業イベント、すごいですね……(笑)。

蛇谷:いますごく大事にしているのは、感情でも頭の言葉でもなく、「身体の言葉を信用する」ことなんです。7年目にもなると、私もみんなも自然と「宿らしさ」に乗っかってしまう。でも、その枠からいかにスライドできるかが重要というか。何かになろうとするのを止めて、「私らは私らのままでいいんだ」と言うために、身体に寄ったオリジナルの言語をつくりたいと思っています。

佐藤:運営が軌道に乗るなかで、やはり一種のスタイルができてしまう?

蛇谷:そうですね。「たみ」にマニュアルはないですが、働くうちにみんな自然と動けるようになるんですよ。でも、新しい人が入ったとき、その振る舞いを安易に言葉にしてしまうととても陳腐になる。いっぽう、言葉がないと共有できないこともあって、そのあたりのバランスが大事だなと。とても難しいことなんですけど……。

佐藤:社長としてはその投げかけをスタッフにしている、と。

蛇谷:ですね。まずは私がそのことを考えないと、「言わなくてもわかるでしょ」みたいになってしまう。もしくは、自然と何かになろうとしてしまう。そこから外れていくための言葉を見つけることが、いまの自分の宿題なんです。

不自由さから生まれる、奇跡のような新しい風景

嘉原:ここからは、会場からいただいた質問を取り上げたいと思います。まず、「シェア疲れしたと言いつつも、人が集う場所をつくっているのはなぜですか?」。

蛇谷:たしかに「かじこ」でシェア疲れはしたんですけど、「誰かといる」ということからは、生きている限り逃れられへん、と思ったときがあったんです。そのとき、仕事であるならば頑張れる、と。そして頑張るなら、自分の考えを押し付けるのではなくて、対話や掛け合いを頑張りたい。

実際、AとBで意見が分かれているのに、話すうちにCが出てくる瞬間を何度も経験していて。その「何%の奇跡」みたいなのが癖になっていますね。私の場合、一人で考えていてもCは出てこなくて、誰かといることで新しい風景が見られるんです。

佐藤:鳥取についての質問も多かったです。活動のなかで、「鳥取だからできた」と感じることはありますか?

蛇谷:それはいつも悩む質問ですね。ひとつ言えるのは、やっぱり鳥取では自然の摂理にすごく左右されるんですよ。大雨や雪が降ったら何もできない。また、アクセスの不便さという問題もあります。人がいくら頭の中で、「こうやったら人来るんちゃうか」と考えて期待してやっても、自然環境や立地がそれを覆してしまう場所なんです。

でも、その環境の不便さが、人をクリエイティブにさせるというか。不自由さのなかの自由さを考えることが、私にはとても良いんです。たとえば、「たみ」で何か設備が壊れたときも、あえてそのままにして、「面倒くさいほうがお客さんと喋れるでしょ?」と言っていた時期がありました。それは、さっきの他者との仕事の話にもつながりますよね。

佐藤:一人なら、完結できますからね。面倒くさくない。

蛇谷:そうそう。他者とやると面倒くさいことも多いけど、そのなかにいいものがたくさんあって、それを見つけたときに「ヤバい!」ってなりますね。

佐藤:その不便さを呼び込むために、何かやっていることもあるんですか?

蛇谷:いや、呼び込みたくはないですよ。だって、「面倒くさい」!(笑)

でも、新しい人やものとの出会いがないと、何かが固まっちゃうとは思います。だから、会社でも似たようなことばかり起きていると感じたり、近所のおばちゃんたちとの関係が疎遠気味になったりと、空気が止まりそうになったら、話を聞いてみて、かき混ぜるようなことをしますね。

「このまち」「ここの人」の声を聞き、物事の視点を変えてみる

佐藤:いまの話とも関係すると思いますが、「まったく知らない場所・土地で、自分の場所をつくる方法は?」という質問も来ています。これはいかがですか?

蛇谷:「聞く」ということですかね。「このまち」や「ここの人」を観察すること。

嘉原:鳥取でも、まずは人とつながったり、まちを知ることに時間をかけたそうですね。

蛇谷:ですね。遊びながらも、時間をかけていました。やっぱり、まちにはしきたりみたいなものがあると思う。外から来た人が、お金があるからといってポーンっとオープンするようなやり方は、私らはできない性格ですから。まずは話を聞いて、誰にどうすれば私の話を聞いてもらえるのかをよく観察していました。

佐藤:実際、近所の食堂の方にお話を聞いたとき、「あの子たちは、一個一個ちゃんとクリアしていったんだよね」とおっしゃっていました。

蛇谷:「たみ」をはじめる前に住んでいた小屋も「たみ」も、みんなで少しずつつくったんですよ。そうしたつくるプロセスを見せられたのが、良かったと思う。お客さんも、近所の人たちはお客さんがいきなりドッと来ると驚きますが、少ない感じなのもよかったと思いますね。

佐藤:たしかにその等身大のプロセスを見せることは、「その場所に住む」意思の表明の仕方として説得力がぜんぜん違いますよね。ちなみに蛇谷さんにとって、現在の取り組みはアートにつながるものですか? 「蛇谷さんはいまもアート活動を志向していますか?」という質問も来ています。

蛇谷:いえ、「たみ」は「たみ」という感じですね。「アート活動」という言葉、鳥取のおばちゃんたちに言っても、「何それ?」ってなりますよ。だから、「生きている」というのが近い。でも、私にとってアートは「他者に出会うための媒体」なんです。その意味では現在の活動にも、自分の考えるアートにつながる部分はあると思っています。

これからの10年。経営者として斜め上くらいを攻め続ける

佐藤:最後に、今回のテーマに絡めて、「これからの10年でやりたいことは?」。

蛇谷:私は鳥取で8年目ですけど、住んでいてぜんぜん飽きてないんです。たとえば、おばちゃんたちに話を聞いても知らない歴史がたくさんあって、いまはそれを発掘したいと思っていますね。そこからまた違う景色が見えてくるかもしれない。

だから、まだ鳥取でやりたいことがたくさんある。遠い未来について、考えていることは無くはないですけど、なんせ目の前に問題が山積みなんで。「この問題をどこに置いたら、ちょっとは近づけるかな」という気持ちでやっています。

嘉原:「置いてみる」というのは、状況を変えて眺めてみるということ?

蛇谷:そうです。視点を変えるというか、ある場所にあったら問題だけど、別の場所に置いてみたら少し何かが変わる。それは、「解決」や「完成」とは違うことなんです。

最近は「失敗をもっとしたほうが良い」と思っていて。税理士さんから、「経営者は斜め上くらいを攻め続けないといけない」と言われたことがあるんです。私の場合、「こうすれば安定して儲かる」なんてことを考えたら、身体が自然に拒否するんですが(笑)。だから私は同じことを続けるんじゃなくて、これからも攻めるような新たな試みをしたいと思っています。

一軒の宿から拡がる町のコミュニティ。鳥取県湯梨浜町のゲストハウス「たみ」の話(APM#08 前篇)

Artpoint Meeting #08 -10年の“こだわり”を浴びる- レポート前篇

それぞれの場所で活動を行う当事者から、これからの社会とアートプロジェクトに向けたヒントをさぐる東京アートポイント計画のトークシリーズ「Artpoint Meeting」。その第8回が7月7日、東京・原宿のTOT STUDIOで開催されました。

今回のテーマは「10年の“こだわり”を浴びる」。「うかぶLLC」の共同代表を三宅航太郎さんとともに務め、鳥取県東伯郡湯梨浜(ゆりはま)町でゲストハウス「たみ」を運営する蛇谷りえさんをゲストに迎えました。2012年にオープンした「たみ」は、「投げ銭宿泊」といったイベントや写真撮影禁止などの実験的な運営で注目されてきた地域拠点。滞在を機に移住する人や近隣で開業する人もいるなど、地域に独自のコミュニティを形成しています。

もともと大阪でアートNPOに勤務し、岡山でゲストハウス型プロジェクト「かじこ」を運営していた蛇谷さんが、ゆかりのない湯梨浜町で「たみ」をはじめ、続けている理由とは? そのこだわりを、2018年に10年目を迎え、同じくひとつの試みに長い時間をかけることの重要性を考えてきたアートポイント計画のプログラムオフィサー、佐藤李青と嘉原妙が訊きました。

(写真右から)聞き手のアーツカウンシル東京・嘉原妙、佐藤李青

はじまりは岡山のプロジェクト

佐藤:今回は、鳥取の湯梨浜町でゲストハウス「たみ」を運営する蛇谷りえさんをお呼びしました。じつはイベントに先立ち、湯梨浜町を訪れたのですが、蛇谷さんから「私のことはまちの人に聞いて」と言われ、放置されてしまって(笑)。しかし、実際にまちを歩くといろんな時間の蓄積が見え、蛇谷さんが「たみ」だけでなく、周囲の経験もつくる活動をしてきたことが感じられたんですね。そこで今日は、そんな「その人がその場所でしかできない活動」について、じっくりお話を聞きたいと考えています。

蛇谷さんは以前、アートNPOに勤められていたそうですが、そもそもアートとの出会いとは?

蛇谷:最初のアート体験は、中学3年のときです。私は比較的絵の上手いこどもだったのですが、ある日、大阪城を下から描く授業があったんです。そのとき、私は画面にどう建物を収めるかと工夫していたのに、ヤンキーの同級生が城の石垣部分で画面が埋まってしまい、「先生、描く場所が無くなったー」と言っていて、「やられた!」と思ったんですね(笑)。実際、その子の絵はパンクでカッコよくて、人によって視点が違うことを感じた体験でした。

そして美術やデザイン専門の高校に行き、卒業後は就職せず、フラフラと各地の芸術祭などを旅していました。でも、消費的にアートに触れている自分に「なんやねん!」という気持ちもあって。そんなとき、「應典院寺町倶楽部」というアートプロジェクトを知り、働きはじめたのですが、ここで私は覚醒しちゃったんです。最初は広報をしていましたが、だんだんコーディネーター的な仕事にも興味を持ち、フリーランスで活動するようになりました。

佐藤:その後、蛇谷さんは岡山県に行かれますね。

蛇谷:2010年の大阪市長選で市長が代わり、文化事業の予算がカットされたことで、仕事がゼロになったんです。このとき、助成金や税金に頼っていた自分をすごく反省しました。それで「もっと社会を見たい」と思ったのですが、私はひねくれ者なので、すでに栄えているような土地には行きたくなかった。そんなとき、岡山県出身のアーティスト・三宅航太郎くんに出会い、当時、瀬戸内国際芸術祭の初回が開催されるタイミングだった岡山で活動をはじめました。

佐藤:岡山では、芸術祭の開催に合わせて、夏季108日間限定のゲストハウス型プロジェクト「かじこ」を運営されました。

蛇谷:「かじこ」では、いわゆるアートスペースじゃない場所をつくりたくて、お客さんが自分でイベントを企画すると素泊まりの価格が1000円引きになる仕組みを入れました。結果的に3カ月半で50ものイベントが開かれ、とても面白かったんです。

当時はTwitterの黎明期。はじめは知り合いだけが訪れていたのが、だんだんその知人の知人という風に広がっていきました。自分の活動に多くの人がつながる、という経験を初めて持ちました。それで期間が終わったあと、一度大阪に戻り、今度は人口300人の湯梨浜町で同じような取り組みを10年やったらどうなるか、と三宅と考えたんです。

鳥取へ。宿をはじめたいと言いつつ、なかなかつくらない日々

嘉原:瀬戸内国際芸術祭の開催もあって、当時、岡山は注目を集めはじめた場所でしたよね。そのまま岡山で「かじこ」的な場所を続けて、宿として流行らせたくはなかったんですか?

蛇谷:岡山はこれから似たような場所が増えることが見えたので、他の土地を探しました。知人から尾道や高野山も紹介されましたが、どこも観光地としてすでに成り立っていて「忙しくなるのは嫌や!」と思いました(笑)。その点、名所の鳥取砂丘からも離れた鳥取の真ん中にある湯梨浜町は、面白そうに感じたんです。

初めて湯梨浜町に訪れた日、近所のおばちゃんたちがごはん会を開いてくれました。私たちが「かじこ」での活動を紹介し、こんな宿をやりたいと伝えると、おばちゃんたちがなにやら話し合って、「ようわからんけど面白そうやな。協力するわ」と言ってくれて。あとで聞いたら、女性の私がペラペラ喋り、三宅くんが寡黙だったのが信用できると思ったみたいです。女がしっかりしていたほうがいい、と(笑)。

そこから、まず住む場所として小屋を紹介してもらい、約1年かけて改装しました。田んぼやお祭りを手伝ったりしながら、家具や廃材が出たらもらって小屋を手入れして。地元のおばちゃんたちからしたら「アンタら、いつ宿やんねん」って話ですが、その姿を見て、「この子たちはモノをつくることができるんだ」と感じてもらうこともできたと思います。その時期は、1カ月の半分を大阪で稼ぎ、残りは鳥取で小屋をつくるという2拠点生活でした。

佐藤:宿をはじめたいと思って行ったのに、なかなかつくらなかったのはなぜですか?

蛇谷:私も三宅くんも、机の上で考えたものをただ実行するのでは、本当のところがジャッジし切れんというか。実際に身体を動かすプロセスが必要でした。宿に向いたいい物件は焦って見つかるものでもないし、それより地域との関係性をつくったほうがいいなと思っていましたね。「たみ」の物件が見つかって、購入する資金集めに、地元の魚屋やスナックでバイトもしましたよ(笑)。

そして、いよいよ元国民宿舎だった建物を手に入れ、「たみ」がオープンしました。「たみ」はゲストハウスであり、シェアハウスやカフェラウンジの機能もあります。

ひとつの特徴として写真撮影を禁止にしたのですが、それは、写真を見たら行った気になるからです。「かじこ」はSNSで情報が拡散したのですが、それゆえ、初めて訪れる人も来る前からいろいろなことを知った気分になっていて。自己紹介する前に名前を呼ばれたりとか。せっかくの旅がSNS写真の確認作業のようになるのはもったいないと思うんです。

佐藤:出会っている感じがないですよね。

蛇谷:そう。だから、着くまで超ドキドキする場所にしたいと思ったんですね。それで、「たみ」は準備段階から写真禁止にしました。

湯梨浜エリアの地図。

ゲストからスタッフに。広がる「たみ」のコミュニティ

佐藤:オープン後、「たみ」の活動はどんな風に広がっていったのでしょう?

蛇谷:「たみ」には、いわゆる閑散期があるんです。その期間を利用して、企画を立てイベントを開催してきました。また、鳥取には民芸作家さんが多いんですが、せっかくならその人たちに話を聞きたいとフリーペーパーをつくり、取材名目で伺って、さらに彼らの展示を開催しました。そうこうするうち、県の方から緊急雇用創出事業として何かやらないかと声をかけていただいて、スタッフを雇うようになりました。

また、鳥取市にも遊びに行くようになったのですが、鳥取市には湯梨浜町とはまた違うカルチャーがあるんです。それで、その人たちを紹介したいと、2016年、ホステルとイベントができるパブを併設した「Y Pub & Hostel」(以下、「Y」)という場所を鳥取市にオープンしました。こうして人が増えていって、いま「うかぶLLC」では15人ほどのスタッフがいます。

嘉原:「たみ」をきっかけに移住してきた方も多いんですよね。

蛇谷:そうですね。「たみ」には掃除をする代わりにタダで宿泊できるヘルパーという仕組みがあるんですが、普通のゲストとして来たあと、あらためてこの仕組みで滞在したいという人も多くて。そして、そのまま「たみ」で住んだり、働き出す人もいます。

ただ、しばらくして生活が安定すると、「たみ」への不満も出てくる。そしたら「卒業どきですよ」って言うんです。私も「かじこ」のとき、シェア疲れを感じたので気持ちがわかるんですよ。こうして、卒業して近所に暮らしている人もいます。他にも県外から来てカフェや古着屋、古本屋などをはじめる人も含めて、徒歩15分圏内に20人くらい関係者が住んでいます。

嘉原:「たみ」に訪問したとき、そのことにとても驚きました。

蛇谷: 「Y」のほうにも常連のLINEグループがあって、急遽手が必要なときに駆けつけてくれるようなコミュニティがあります。最近では、「たみ」と「Y」でそれぞれもう片方の場所の存在を知って、休暇や仕事帰りに訪れてくれる人たちも増えていますね。

>>レポート後篇へ続く

(撮影:加藤甫)

文化に時間をかける「ことば」をひらく―東京アートポイント計画の10年から紐解いてみる―

中間支援にまつわる言葉を語らい、深める

文化事業には時間が必要です。土地のことを知る。人と人との関係を築く。いろんな方法を試す。そうして、ゆっくりと醸成される価値があります。とはいえ、そこに至るまでの道のりは、さまざまな人と「ことば」を介して事業の意義を共有し、一つひとつの実践を積み重ねていくことが求められます。

2009年に始動した「東京アートポイント計画」は2018年に10年目を迎えました。都内の47のNPOとともに38件のアートプロジェクトを展開してきました。プロジェクトの立ち上げから複数年をかけて、年間を通した持続可能な活動を支援すること。それぞれの活動には、専門スタッフであるプログラムオフィサーが伴走し、個々の事業だけでなく、中間支援の仕組みづくりも行ってきました。

今回は、東京アートポイント計画の10年にわたる試行錯誤をまとめた『これからの文化を「10年単位」で語るために―東京アートポイント計画2009-2018―』に登場する「ことば」について語り合います。ゲストとともに議論を深め、時間をかけて文化事業を育むための新たな「ことば」づくりも試みます。

詳細

スケジュール

2019年9月10日(火)

第1回 徹底解説! 東京アートポイント計画 中間支援の仕組みを分解する

東京アートポイント計画とは何か? アートプロジェクトの現場では何が起こっているのか? よりよい実践につなげるために必要なこととは? これまでの実践から見えてきた、さまざまな「条件」を、約200冊のドキュメントを紹介しながら、共有します。

2019年9月17日(火)

第2回 文化政策の流れを比べてみる 「10年単位」で起こること

文化事業の背景にある文化政策の流れを意識しながら、東京アートポイント計画の10年の歴史を読み解きます。そして、他地域の文化政策の歩みと重ねてみることで時間をかけることで生まれる実践の可能性をディスカッションします。
ゲスト:鬼木和浩(横浜市文化観光局文化振興課 施設担当課長(主任調査員))

2019年9月25日(水)

第3回 アーティストは何をつくっているのか?

アーティストは、一体、何をつくっているのでしょうか? 複数年の時間をかけることで現場では何が起こるのか? 新しい手法や未見の表現を扱う「創造」活動を軸に掲げる文化事業において、どのように「アート」を語っていけばよいのか? 現場の風景から紐解きます。
ゲスト:アサダワタル(文化活動家)

会場

3331 Arts Chiyoda 3F ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302)

参加費

各1,000円

ナビゲーターメッセージ(佐藤李青)

今年の春に『これからの文化を「10年単位」で語るために―東京アートポイント計画2009-2018―』(以下、本書)を発刊しました。わたしたちが2009年から取り組んできた「東京アートポイント計画」の10年の試行錯誤から獲得した知見を収録した一冊です。今回のレクチャーシリーズは本書の「ことば」を使い倒そうという企画です。

本書はわたしたちの軌跡を伝えるだけでなく、それが各地の実践の後押しになることを願ってつくりました。すでに取り組んだ実例として使ってもらうことで、これからの実践に踏み出す足掛かりにしてほしいと思っています。

たとえば、

実践するとこんなこと起こるんです。なので、やってみましょう!
持続的な活動にはこんなものが必要なんです。なので、用意しましょう!
成果が出るには、このくらい時間がかかるんです。なので、続けましょう!

そういう会話が本書を介して生まれてほしい。今回のレクチャーシリーズにかける想いも同様です。

レクチャー第1回は、大内伸輔(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)がスピーカーを務めます。東京アートポイント計画の設立当初から事業を担ってきた大内より、本書のセクション1「中間支援の9の条件」を中心に、普段はなかなか見えにくい東京アートポイント計画の中間支援の仕組みやアートプロジェクトの現場をつくる条件にまつわる「ことば」をひらきます。本書に収まり切らなかった実例も交えてお送りします。

第2回は、ゲストに鬼木和浩さん(横浜市文化観光局文化振興課 施設担当課長(主任調査員))をゲストにお迎えします。本書のセクション2「これまでの歩み2008→2018」を使い、東京アートポイント計画の歩みを文化政策とのつながりから振り返ります。鬼木さんより文化政策の流れや横浜での実例を伺いながら、文化事業と文化政策の影響関係や紐づけるための「ことば」を探ります。

第3回は、アサダワタルさん(文化活動家)をゲストにお迎えし、ご自身が携わるアートプロジェクトを立ち上げ、動かすときに、どのような「ことば」を使っているのかをお伺いします。本書に収録した東京アートポイント計画の現場の「アート」や「アーティスト」にも触れながら、「創造」を軸とした文化事業の語り方を深めます。

各回で募集はしていますが、全回通しで受講いただくのがおすすめです。参加者のみなさんとも「ことば」を交わす時間を取りたいと思っています。ぜひ、ふるってのご参加をお待ちしております!

以下のテキストも活用していく予定です。

2019年、3つの「東京プロジェクトスタディ」がはじまります

Tokyo Art Research Lab「思考と技術と対話の学校」で展開する「東京プロジェクトスタディ」は、“東京で何かを「つくる」としたら”という投げかけのもと、ナビゲーターを担う表現者たちがチームをつくり、アートプロジェクトを巡る“スタディ”(勉強、調査、研究、試作)に取り組むプログラムです。2019年度は、8月より3つのスタディが始動します。
今回は、7月6日にROOM302 (アーツ千代田3331) にて開催された参加者募集説明会の様子をお届けします。

(撮影:川瀬一絵)

東京プロジェクトスタディについて(「思考と技術と対話の学校」校長:坂本有理)

本校では、2018年よりアートプロジェクトをつくる力を養うための実践的な学びの場として「東京プロジェクトスタディ」を展開しています。

アートプロジェクトは突然には生まれません。目の前のプロジェクトに取り組みつつも、これからのプロジェクトを生み出す時間も必要です。スタディは、新たなプロジェクトの核を育てようとする試みです。アートプロジェクトがかたちづくられる以前の段階に目を向け、つくり手たちの問いや、もやもや、衝動などを手がかりに、実験的な活動を重ねます。

スタディの特徴は、やり方・内容をつくりながら展開するところです。はじめに決まっているのはテーマと初動のみ。最終的なゴール地点は設定せず、企画や作品などかたちにすることも必須としていません。
ナビゲーターは、つくりかたを教えてくれる先生ということではなく、つくるプロセスを開く存在。ときにはチームで悩んだり、壁にぶちあたることもあるかもしれません。明確な答えはなく、どうなるかわからない状況に身をおくことも、つくる筋力を鍛えることにつながると考えます。

各スタディの活動に加え、3つのスタディチームが集合し、情報共有する合同会も2回ほど予定しています。また、アーカイブサイトなどを活用し、所属するスタディ以外の取り組みものぞいたりできるようにしたいと考えています。各スタディのテーマを深めるとともに、東京プロジェクトスタディ全体のコミュニティも育んでいけたらと思っています。

スタディ1 続・東京でつくるということ―「わたしとアートプロジェクトとの距離を記述する」(石神夏希)

ナビゲーター:石神夏希(劇作家/右)、スタディマネージャー:嘉原妙(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー/左)。

石神さんは10代の頃より演劇制作に取り組んできました。その後、大学などで建築や都市という他ジャンルと出会い、街なかでの作品づくりを行うようになりました。今では演劇的な手法を用いて都市プロジェクトに関わるなど、領域を横断しながら演劇の可能性を探る活動を展開しています。

昨年のスタディ1では、近年、東京を舞台にアートプロジェクトや演劇作品を制作する機会が増えたことにより芽生えた石神さんの悩み――東京という大きな存在に対して、作品やプロジェクトをつくるには、どのようにフックをかけていけばよいのか――を参加者と共有してディスカッションを重ね、毎回の活動後には参加者一人ひとりがそれぞれの問いや気づきなどをエッセイにまとめていきました。参加者が執筆したエッセイは、最終的にエッセイ集として一冊の本にまとめられています。

2年目となる今年度のスタディ1でも、「書く(記述すること)」を主軸に、「つくる」ことへの思考を深めます。さらに今回は、石神さんが関わるアートプロジェクトを一つのケーススタディに、プロセスも含む表現への共通認識を持てるようにしたり、参加者が各自でテーマ設定を行い、それを基にリサーチ(観察)を行って、記述しながら思考することを繰り返し重ねていく予定です。

アートプロジェクトというプロセスそのものも作品の一部として提示されることがある活動において、プロセスに立ち合い、観察し、記述する人たちの存在は、きっとそのアートプロジェクト自体に何らかの影響を与えているはず。そこには、まだ触れられていないクリエイティビティの可能性があるのではないか。さらに、観察し記述するという行為自体を作品に大きな影響を持つ行為として捉え、プロジェクトに組み入れることが必要ではないか、という仮説と、期待から今年のスタディ1が構想されました。

このスタディでは、「東京でつくる」ために「東京で暮らす」を始めた石神自身をケースとして提供するほか、参加者自身が興味を持っているアートプロジェクト(ただし東京で2019年秋に観察が可能な対象)を自由に選ぶことができます。

さらに、観察者=不確かな自分をも視野に入れて物事を記述しようとするとき、必然的に、自分自身の背景や思想と改めて向き合うことになります。自分は何者で、なぜこれに取り組むのか。なぜ、つくるのか。「アートプロジェクトを記述する」ことを通して、参加者一人ひとりの根底的な問いと向き合います。文章を書くことが好きな人や、書きながら思考を深めてみたい人、アートプロジェクトを人と共有したい人、そして伝え方を考えたい人におすすめです。

■スタディ1
2019年度 続・東京でつくるということ-「わたしとアートプロジェクトとの距離を記述する」お申し込み・詳細はこちら
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スタディ2 東京彫刻計画―2027年ミュンスターへの旅(居間 theater ・佐藤慎也)

ナビゲーター:右から順に、居間 theater 山崎朋、東彩織、宮武亜季、稲継美保(パフォーマンスプロジェクト)、佐藤慎也(建築家)、スタディマネージャー:坂本有理(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー、「思考と技術と対話の学校」校長)。

スタディ2は、建築が専門の佐藤慎也さんをナビゲーターに迎えると同時に、これまで街なかなどで演劇やパフォーマンスを佐藤さんと数多く行ってきた居間 theater を加えた2組を軸に活動していきます。

そもそも居間 theaterと佐藤さんが2017年のドイツで開催された「ミュンスター彫刻プロジェクト」(1977年から10年に1度開催)を訪れた際、大きな衝撃を受けたことから本スタディは始まっています。彫刻の概念に囚われることなく、映像作品やパフォーマンス作品までもが彫刻という括りの中で展開されている現状を見て、「居間 theater が2027年のミュンスターに招聘されることを目指そう」という野望を抱きました。

そして発足した昨年のスタディでは、彫刻のプロではない居間 theater が、彫刻について学び直すため、彫刻研究者や関係者を招いて勉強会を開催。結果的に更に彫刻そのものの面白さにのめり込んでいきました。
中でも彼女たちが興味をひかれたのが、街なかに点在する公共彫刻でした。裸婦像などの存在がほとんどの人に見過ごされている点に着目し、それ自体が東京の情報過多な現状を示しており、無意識のうちに取捨選択を行って生活しているというリアルな東京人の視点を発見したのです。

東京という巨大過ぎる街を公共彫刻という存在から見直すことで、掌握し、可視化するという視点を活かすため、10年に1度というペースで開催されてきたミュンスター彫刻プロジェクトに対し、「東京彫刻計画」という芸術祭が10年に1度、東京で行われているという「フィクション」を本スタディでは設定しました。その設定を下敷きに東京の公共彫刻をリサーチします。またスタディ2の最終成果として、「東京彫刻計画」の情報をまとめて提示する架空のインフォメーションセンターをつくる(試演する)予定であると発表しました。
ナビゲーターと共に外へ出て、公共彫刻との新たな出会いを楽しみたい方、彫刻を通して東京に向き合ってみたい方、そして10年の時間軸を疑似体験しながら作品を制作してみたい方などにおすすめです。

■スタディ2
2019年度 東京彫刻計画-2027年ミュンスターへの旅 お申し込み・詳細はこちら
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スタディ3 ‘Home’ in Tokyo―確かさと不確かさの間で生き抜く(大橋香奈)

▲ナビゲーター:大橋香奈(映像エスノグラファー/右)、スタディマネージャー:上地里佳(アーツカウンシル東京 プログラムオフィサー)。

今年度から新たに発足したスタディ3は、映像エスノグラファーの大橋香奈さんをナビゲーターに迎えて展開していきます。

大橋さんは、以前フィンランドで生活していた時期に、学校外での学びの環境について取材した書籍『フィンランドで見つけた「学びのデザイン」―豊かな人生をかたちにする19の実践』を出版。しかし、協力いただいた方々に報告するにあたり、日本語で書いた本では現地の人々にわからないものになったというもどかしさを経験したことから、言語が異なる人とも成果を共有しやすい映像というメディアに興味を持ったのだそう。そして、「映像エスノグラフィー」という、調査者と調査協力者の協働的な関係のなかで、調査協力者が生きる現実について解釈し、研究作品としての映像を制作する手法を用いて研究を進めてきました。

幼少期から20回もの引っ越しを重ねてきた大橋さんは、根無し草のような感覚があったというご自身の背景から、「移動の経験」と「家族」をテーマにした『移動する「家族」』を制作。この作品では、国境をまたがる「家族」の関係を維持している5人の生活を、それぞれに対して1年間に渡って調査し、多様な「家族」のあり方を描き出しました。現在は、映像作品を各地で上映しながら「家族」にまつわる対話の機会をつくっており、1000人の観客と映像体験を共にすることを目標に活動をしています。

この『移動する「家族」』を制作するなかで、キーワードとして浮かび上がってきたのが、今回のスタディテーマである‘Home’です。ここでの‘Home’とは、特定の場所としての‘Home’ではなく、物や人との関係性も含めた日常的な実践の中で生まれる感覚としての‘Home’を指しています。日本全国の中で最も移動者が多い東京という流動的な都市の中で、‘Home’という感覚は一体どこからもたらされているのか、もたらされていくのか、スタディ3ではその根底を探っていきます。スタディを通して、個人の生活の中で生まれる感覚としての‘Home’を見つめ、描いていくことで、その中に「東京性」という要素も滲み出てくるかもしれません。

スタディ3の前半では社会学や建築、デザインといった様々な分野のゲストをお招きして、それぞれの‘Home’の考え方やリサーチ方法を学び、後半ではフィールドワークを実施し、映像を制作していきます。参加条件として撮影や映像編集技術は問いません。東京という様々な背景をもった人々が暮らす土地で、各々が現在の‘Home’をどのように感じているのか、どのような工夫やスキルを培い生きているのか。自己を見つめ、他者の生活を学び、そして、多様な生き方が描き出され、共有されることを期待しています。

■スタディ3
‘Home’ in Tokyo お申し込み・詳細はこちら

説明会後は、相談窓口にて、来場者の方からの質問を受け付けました。スタディのテーマやそれぞれの関心について対話する時間となりました。

ナビゲーターと参加者が共に学び合い、プロジェクトの「核」をつくる実践的な学びの場となる「東京プロジェクトスタディ」。募集締め切りは、2019年7月21日(日)です。
みなさんと学んでいけることを、ナビゲーター、スタディマネージャー一同楽しみにしております!

お申し込み・詳細はこちら

*アーツカウンシル東京ブログ「東京アートポイント計画通信」にて、東京アートポイント計画やTARLの情報を掲載しています。ぜひご覧ください。

「東京プロジェクトスタディ」アーカイブサイト
2018年度のスタディの様子を記録したアーカイブサイトです。半年間のスタディで、何を、誰と、どのように向き合ったのか。スタディの活動と、同時期に並走するナビゲーターたちの創作活動に目を向け、各活動日のレポート記事や関連資料をはじめ、スタディを進めるなかで出てきたキーワードやつぶやきなども掲載しています。

「アーカイブサイトを楽しむための3つのポイント」はこちら

説明会記録映像

■東京プロジェクトスタディ概要

■スタディ1|続・東京でつくるということ

■スタディ2|東京彫刻計画

■スタディ3|‘Home’ in Tokyo