アートプロジェクトの現場から外国ルーツの若者の支援について考える
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わたしたちの社会は、複雑かつ高速に変化し、そして感情的な側面をもっています。この感情的な社会において、実は情念や情動は、真っ向から否定されるべきものではなく、むしろ理性を駆動させるエンジンとして重要です。そしてその情念や情動は、表現を経ることで、より洗練されていきます。表現された情念は、一般的に考えられる狭義の「理性」や「合理性」を、超えていくことすらあるかもしれません。
このプロジェクトのテーマは、生きることの支えとしての「表現」を参加者それぞれが探し出すこと。ゲストアーティストの大西暢夫さん(写真家/映画監督)、花崎攝さん(シアター・プラクティショナー/野口体操講師)、揚妻博之さん(アーティスト)の表現の現場に触れながら、あるいはともに、参加者自らが制作と表現を行います。
ただし、「アーティスト」になることや作品づくりを行うこと、方法を教えることが目的ではありません。ナビゲーターの宮下美穂(NPO法人アートフル・アクション 事務局長)とチューターが活動日以外の学びもサポートしていきます。
このプロジェクトの名前は、かつて、民俗学者の宮本常一が主宰した月刊誌『あるく みる きく』(*)に由来します。出来事や状況を安易に価値化せず、人が世界と向き合うその人自身の目を失わないように、考え、やってみて、また考えてみる。身体全体を使い、潜在する見えにくいものを丁寧に感知する。その手法を丁寧に考える。停滞することを厭わず、何であれ一つ知り得たことが次の動きの標(しるべ)となるように、一人ひとりがじっくりと立ち止まって考え、やってみる。その過程を経験する場をつくることで、日々のたくさんの気づきが表現の礎であることを学びます。
*民俗学者の宮本常一が主宰した近畿日本ツーリスト株式会社・日本観光文化研究所が発行していた月刊誌(1967〜1988年)。
小金井アートスポット シャトー2F(東京都小金井市本町6-5-3 シャトー小金井2階)
一般30,000円/学生20,000円
たとえば、深い暗闇の中で光を探し求めるのか、暗闇のなかで、縮こまらずに心と体を開いて自分をとりまく世界を感知して闇の中を生きてみることを試みるのか? どちらかというと、今回の試みは、後者なのかもしれません。
私は私たちが複雑で速い速度で変化して行く、そして感情的な社会を生きているように感じられます。この感情的な社会において、情念や情動は、否定されるべきものではなく、むしろ理性を駆動させるためのエンジンとして重要だと思います。しかし、その一方で、情念や情動は戦禍や暴力に向けた強力なエンジンともなり得ます。情動と理性のどちらかに優位性があるのではなく、洗練された情動は一般的に考えられる狭義の「理性」や「合理性」よりも、理性的で真の意味で合理性をもつように思えます。
目の前の答えあるいは光に拙速に飛びつくのではなく、闇の中にある濃淡に丁寧に触れ、生きていくことをもちこたえる心と体、そして技(わざ)あるいは術(すべ)について、つくることを通して考えます。
何かをつくろうとする態度をもつことで世界の捉え方は変わる。
アルベルト・ジャコメッティが矢内原伊作をモデルに描こうと試みた苦闘の最中(さなか)。「良い仕事ができた」というジャコメッティの言葉に画面を覗いた矢内原はすべてが消されたタブローを発見する。満足げなジャコメッティに矢内原は驚く。でも、ジャコメッティは肖像を描こうとするなかで矢内原への理解を深め、何かを掴んだのだろう。宮下さんは、そう推察する。好きな逸話なのだと聞いたのは対談シリーズの収録中だった。
このスタディは抽象的なようで、とても具体的な作業の積み重ねになるはずです。身体を動かし、やってみる。だからといって、できあがったもので判断はしない。何かをつくる過程に安心して身を投じられる場が、ここにはあると思います。